乂阿戦記2 終章 死せるクトゥルフ、ルルイエの館にて、夢見るままに待ちいたり-10後編 スペシャルシークレットルーム前の難関
\超展開✖️熱血変身バトル✖️ギャグ✖️神殺し/
今話は、狂戦士“乂阿烈”vs邪神ナイアルラトホテップの超次元バトル! 雷音の覚醒、羅漢の変身、兄弟喧嘩の行方は――!?
→ ブックマーク&評価、大歓迎です!
アルゴー号――最深部直前。
神羅たちがたどり着いた先には、重厚な扉がそびえていた。
それはまるで、この先に“真実”と“終焉”が待つことを暗示するかのように、無言の威圧感を放っていた。
「ここが……スーパーシークレットルーム……!」
タット教授が息を呑む。
だが、その目前。
その扉を、まるで門番のように背にして立ち塞がっていたのは――
一人の男だった。
「ようこそ……ここが終着点ってわけだ」
青白き仮面を被り、無骨なコートを羽織った男。
その両腕には、冷たい光を放つ巨大な鉤爪が装着されている。
九闘竜No.6――
《氷霧の処刑者》イタクァ・アルカーム。
彼の声は、冬の吹雪のように冷たく、静かに神羅たちの背筋を凍らせた。
「まさか……コイツが、この部屋の守護者……?」
神羅たちは即座に構える。
アルカームは、仮面の奥で口角を持ち上げた。
「ふふ……お前たちが、この俺様に挑むってわけか。いいぜ、付き合ってやるよ。だが――その前に」
男は一歩、前に出た。
「一つ、面白い話を聞かせてやろうか?」
「……面白い話?」
神羅が訝しげに問い返す。
アルカームは、まるで舞台役者のように両手を広げ、誇らしげに告げた。
「ロキの旦那がなぁ、最後の“切り札”を呼び寄せたんだよ。……ついさっき、ようやく到着したらしいぜぇ〜?」
「援軍……まさか……!」
神羅の顔色が変わる。
だがその時――
「神羅! 危ないッ!!」
タット教授の叫びが響いた瞬間、足元が爆ぜた。
地面を突き破り、地中から現れたのは――巨大なモグラ型の怪物!
その皮膚は硬質の鱗で覆われ、目は退化し、代わりに鼻孔が異様に発達している。
黒い瘴気をまといながら、唸り声と共に突進してきた!
「くっ――!」
咄嗟に跳躍して回避する神羅。
だが怪物はそのまま、口を開いて黒い霧を吐き出した。
瞬く間に視界が覆われ、喉を焼くような毒気が戦場を包み込む。
「視界が……!」
「この毒……魔性由来か……っ!」
霧の中――
異形の気配が複数、這い寄る。
足元から、ねっとりとした感触。
「触手――ッ!?」
闇の中からうねるように伸びてきたそれが、神羅たちの足に絡みついてくる。
そして、霧が晴れたその先にいたのは――
数体どころではない。
無数の、邪悪な怪物たち。
まるで地下から溢れ出た怨霊のように、次々と這い寄り、神羅たちを取り囲んでいく。
「こいつら、どんどん増えてやがる……!」
神羅が叫び、弓を構える。
その手に宿った聖なる魔力が、矢に変わる。
「――光弓・真矢ッ!」
放たれた光の矢が、触手を裂き、怪物の一体を貫いて吹き飛ばす。
断末魔を上げて倒れる化け物。
だが、間髪入れず別の個体が姿を現す。
「終わりが、見えない……!」
「これは……召喚式か!? 地形ごと“魔術陣”が仕込まれている……!」
タット教授が顔を引きつらせながら叫ぶ。
その時――
「きゃっ……!」
背後から伸びた触手が、教授の身体を絡め取り、宙へと持ち上げた!
「タット先生ッ!!」
焦る神羅たち。
だが、その時。
目の前に、アルカームが静かに現れた。
「逃げ場はねぇぞォ……?」
そして、鉤爪が唸りをあげ――容赦なく振り下ろされる――!
「アポート!!」
アキンドが咄嗟に詠唱し、神羅の身体が空間跳躍する。
瞬間転移。
鉤爪は空を裂き、神羅は紙一重で回避に成功した。
だが。
「ぐっ……!」
アルカームは即座に軌道修正し、再度突進!
「皆さん、援護をお願いします!!」
神羅が叫びながら走る。
セレスティアが弓を引き、リリスが呪文詠唱に入る。
次々に放たれる矢と魔法――
だが、アルカームは仮面越しに冷たく笑った。
「冷たいなァ……俺様の空気ってのはよォ!!」
次の瞬間――
周囲の温度が急激に低下。
魔法の軌跡が凍りつき、矢が氷結し、砕け散る。
「効かねえよ。そんな攻撃、俺様にはなァ……」
肩をすくめるアルカーム。
「今の俺様は、“旧支配者”イタクァと融合してるんだ。……人間風情が、俺様に勝てるワケねーだろォがァ!!」
かつて“風の支配域”と呼ばれた外なる存在――神々ですら恐れた“無形の氷霧”が、今は俺の中にいる。
――その叫びと共に、氷嵐が吹き荒れた。
「うあああああッ!!」
神羅たちがまとめて吹き飛び、壁に叩きつけられる。
タット教授が駆け寄り、呻く仲間たちの傷を見て息を呑む。
「……ダメだ、勝てない……!」
そして次の瞬間――
神羅が、ふっと膝を折った。
「か、神羅……!? しっかりして!」
リリスが駆け寄る。
神羅の足首には、紫色に変色した痕が刻まれていた。
「……これは、毒!? ヨルムンガンドの牙……!」
世界蛇の眷属――
猛毒の一撃が、神羅の体を蝕んでいたのだ。
「解毒魔法を! レイミ、急いで!!」
「はいっ!」
レイミがすぐさま回復魔法を詠唱し、神羅の身体を光が包む。
その顔色が、わずかに戻り始める。
だが――状況は、最悪だった。
アルカームは、仮面越しににじり寄る。
「終わりだ……!」
次の鉤爪が、神羅たちを襲わんとした、その瞬間――!
「――おいコラァァァ!!」
凄まじい怒声が、戦場の空気をぶち壊した。
「そこの笑い仮面!! さっきから何だよその強者ムーヴ! ヒーロー漫画のテンプレ通り、いっちょ前にかっこつけやがって……!」
叫んだのは、アキンドだった。
「その“ラスボス演出”、どーせこのあと負けるヤツのテンプレじゃねーか!!」
一同が唖然とする中、アルカームの動きがピタリと止まった。
その仮面の奥に、ゆらりと禍々しい気配が広がる。
アキンドが反射的に背筋をのけぞらせた――
「あ、やば……」
その場の温度が一瞬で下がる。
「……テメェ、今、俺様に……何つった……?」
仮面がギリ、と軋む。
「おいそこの“弱っちい雑魚”ォ……今……お前、俺様に調子こいたこと言ったよなァ……?」
氷のような怒声が、空気を凍らせた。
「弱っちい奴が、立場を……わきまえろよなぁァァァ!! 立場ァァァ!!」
「ひええ! ご、ごめんなさーいっ!!」
アキンドが青ざめて手を振る。
だが時すでに遅く、アルカームの鉤爪が伸縮するように唸りをあげ、アキンドに向かって一気に射出された。
「しまった――!」
だがその瞬間。
「俺をアポートしろ、アキンド!!」
声と共に、アキンド自身が一瞬で転移させられ、間一髪で回避。
だが――
風を裂く音が鋭く響いた。
「……うわっ!」
ほんのわずか、髪が舞った。
刹那、視界を遮るように立ちはだかったのは――キースだった。
「間に合ったな」
軽く息をつきながら、キースがアキンドの前に立つ。
その腕には、先ほどの一撃の衝撃がまだ残っていた。
「キース……助かった!」
「礼はあとにしろ。今はこいつの相手が先だ」
そう言いながら、キースが拳を構える。
「このデカブツがぁ……! なに俺様の“殺し”の邪魔してくれてんだよォ!!」
アルカームの怒りは頂点に達し、氷嵐と共に襲いかかる。
衝撃波が空間ごと揺らし、壁をえぐる。
その直撃――キースは寸前で回避しつつ、アキンドと神羅をかばう。
「くそっ……! こいつ、殺意が本気だ!」
アキンドの声が震える。
(キースがいなきゃ、あの一撃で俺は死んでた……)
アルカームの力は、もはやゾンビや魔獣とは“格”が違う。
もはや、単なる物理戦闘や魔法攻撃では、歯が立たない領域だった。
「いったいどうすりゃ……っ!?」
その時だった――。
「……あれ?」
セレスティアが小さく声を漏らす。
倒れていた神羅の指が、かすかに動いたのだ。
「神羅!? 生きてるの!?」
リリスが駆け寄り、すぐさま顔色を見る。
「レイミ、もう一度だけ! 回復魔法を!!」
「はいっ!」
レイミが再び治癒の詠唱に入り、魔力の光が神羅を包み込む。
その身体が、かすかに震え始めた。
そして、雷鳴にも似た“脈動”が、神羅の胸から微かに響き出した――。
「もう少し……もう少しで戻ってくる……!」
その時――
「グワアアアアアアアアアアアア!!」
猛然とアルカームが突進してきた。
その鉤爪が、再び神羅たちに迫る――!
「させるかよォ!!」
キースが咆哮をあげ、拳を構え直す。
「テメェみたいなヤツはな、ゴチャゴチャうるせぇ前に黙って倒れろやぁぁああああッ!!」
音速の拳が唸りをあげる。
そして――!
爆ぜる氷風、火花、咆哮、そして覚醒の予感――
戦場の空気が、一気に転がり始めていた。
英雄が再び目を開くその時まで、あと少し――。