乂阿戦記2 終章 死せるクトゥルフ、ルルイエの館にて、夢見るままに待ちいたり-10前編 リーン・アシュレイ参戦!
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戦艦アルゴー号――崩壊寸前の艦内を、神羅たちは最深部へと急いでいた。
天井から垂れる配線、軋む鉄骨、腐臭と熱気の渦。
目指すは“スーパーシークレットルーム”。それだけが、戦場の仲間たちを救う鍵だった――!
その進路を遮るように、突如として現れたのは――エンザゾンビの群れだった。
腐敗した肉体、瞳孔の開いた死んだ目、異様な笑い声。
まるで進行を阻む“悪意”そのもの。
数で圧倒される状況に、神羅の胸を焦燥が締めつける。
(このままでは、間に合わない――!)
その時だった。
「♪きゃは〜! チミ達、偉大なるポクチン様をここまでコケにしてくれたね〜? もう“ハーレム奴隷”どころじゃ済まさないよ? 家畜だ、家畜! チミ達全員、愛玩用に飼ってあげちゃうのだ〜!」
甲高く狂ったような声が響いた。
声の主は、ひときわ異形なゾンビ――“ポクチン”と名乗るエンザゾンビの上位体。
「人間の手足をもいで、“人間牧場”の出来上がり〜☆
夢の愛玩動物王国ぅ〜! ポクチン達をいぢめた罰だよ〜?
うきゃきゃきゃっ! レッツ・エンジョイ&エキサイティング〜☆
それでいいのだ〜♬」
ギャグとも狂気ともつかない咆哮に、神羅たちの動きが止まる。
(くそっ……こんな奴ら相手にしている時間は――!)
だが次の瞬間。
その“群れ”の奥――腐臭漂う死体の海を裂くように、ひとつの白い影が歩いてきた。
「あ……あなたは……!」
先頭にいたミリルが、目を丸くして叫ぶ。
「お、お兄ちゃん!?」
……白銀の光が、腐臭のなかに一筋の風を運んできた。
そこに現れたのは、白衣を翻し、静かに歩くひとりの男。
その歩みに、ゾンビすら一瞬たじろいだ――
リーン・アシュレイ。ミリルの兄にして、連合軍最強の“神子”。
静謐な気配をまとったその姿に、神羅たちの息が止まる。
「なんだチミは〜? なしてここに現れた〜っ?」
ゾンビの一体が警戒を込めて問いかける。
だが、リーンは微笑みすら浮かべず、冷然と告げた。
「私はそこにいるミリルの兄でね。まあ、連合軍の一将として、妹が困っているのを見過ごせなくてな。老婆心ながら、手助けに来たまでだよ」
「へへっ☆ お前が噂に聞く“アシュレイ族の神子”か〜。なるへそ、ポクチン様の次くらいにイケメソじゃ〜ん! オンナノコだったらよかったのに〜!いや!むしろ付いてるのはご褒美!」
「……エンザ君。どうにも君は存在そのものが、ミリルの情操教育に悪影響だ。兄馬鹿と言われても構わない。……検閲削除、させてもらうよ」
「え?なんだって〜? 言っとくけど、ポクチン達全員“大魔法”使えちゃうんだよ!? つおいんだよ〜〜〜!!?」
次の瞬間、数百体のゾンビが一斉に呪文詠唱を始めた。
炎、氷、雷、風、岩塊――
あらゆる属性の攻撃魔法が、嵐のように降り注ぐ。
だが。
リーンは、ただ指先をひとつ、軽く振るっただけだった。
無数の光弾が空間に顕現し、舞う羽根のようにすべての魔法を迎撃した。
炎が弾ける前に掻き消え、雷は放たれる前に断ち切られる。
氷の矢は溶け落ち、風は掻き消え、岩の槍は砕けた。
――まるで、全ての属性が“初期化”されたかのように。
それは、神が世界をリセットする瞬間に似ていた。
「…………はへっっっ!!??」
ポクチンの目が限界まで見開かれる。
狂王ゾンビたちは絶句した。死んだ脳がさらにフリーズするほどの光景だった。
リーンはひとつ息をつき、静かに進み出る。
「無駄なあがきだ。彼等の相手は私が引き受けよう。君たちは先を急ぎなさい」
「ありがとうなのだ、お兄ちゃん!!」
「恩にきるぜ、神子様!」
「さあ、行くわよ! みんな、準備はいい?」
「「「「おう!!」」」」
神羅たちは再び走り出した。
その背後――ゾンビたちの断末魔が、光の奔流に呑まれていく。
「ええ〜!? ちょ、ちょっと待ってよ〜!? ポクチンのカワイイ“ペット”たちに、そんな簡単ににげられるなんて〜……! くそっ、奥の手使うっ!」
ゾンビたちの肉体が融合しはじめる。
血と骨と腐臭が溶け合い――巨大なムカデ型の腐乱死体が形成された。
「キャアアアアア!!」
神羅たちが悲鳴をあげる。
だがその中で、ただ一人、冷静な者がいた。
リーン・アシュレイ。
彼は悠然と怪物を見上げ、ひとこと呟いた。
「……品性がないな」
右腕を掲げ、光を収束させる。
そこに現れたのは、聖なる造形を湛える一本の剣――
神が鍛えし“聖剣”。
彼はそれを、まるで呼吸するかのように、自然に振り下ろした。
斬撃。
天地を断つ閃光が大気を引き裂く。
――瞬間。
ムカデエンザは、塵と化した。
「……ふむ、こんなものか」
神羅たちは、言葉を失った。
(あ、あれ……この人って、もしかして、ものすごく、ものすごく……強いんじゃ?)
ミリルだけが、無邪気に喜んでいた。
「わーい! お兄ちゃん、さっすがなのだ〜っ♩」
ぴょんぴょん跳ねる彼女を見つめて、リーンは目元を緩めた。
その視線の先――
舞い上がる灰と光の残滓のなか、一人の少女が静かに歩み出た。
――鵺。
その双眸に宿るは、確かな“覚悟”。
「みんな、先生と先に行ってて。私は、リーン殿とここでゾンビ達を足止めしておくわ」
その一言に、仲間たちは立ち止まった。
だが、鵺の瞳は、揺るがない。
「……わかった。じゃあ、行ってくるね」
神羅は頷いた。
タット教授の引率で、神羅たちは次なる目的地――
アルゴー号最深部、“スーパーシークレットルーム”へと向かっていった。
――ゾンビの死骸が風に流され、戦場にわずかな静寂が訪れる。
そこに立つのは、ふたりだけ。
鵺と、リーン・アシュレイ。
「……やれやれ、君は何か話があるようだね?」
リーンが鵺を見下ろし、肩を竦める。
その足元では、光の球体がいくつも浮かび、まるで意思を持つかのようにゆらりと動く。
一つ、二つ――
残存していたゾンビの頭部を精密に撃ち抜き、小さな爆発を起こしては灰へと還す。
「……凄まじい精密さ」
鵺は無言でそれを見つめた。
リーンが再び指を軽く振るうと、光球がふわりと空間に顕れ、機械仕掛けのように宙を舞い始める。
まるで“意志ある魔法”。
「君のような少女が、ゾンビ相手に“足止め”を申し出るのは、ただの勇敢さとは違う。そう――用件がある。違うかい?」
「……そうね。用件はあるわ」
鵺が一歩、前に出た。
その瞬間だった。
壁の隙間から、音もなく這い出してくる影。
腐臭とともに現れたのは――第二波、ムカデ型ゾンビ。
無言のまま、音もなく接近し、リーンの肩に食らいつこうとした。
だが。
「……品がない」
低く呟き、彼は手首をひねる。
次の瞬間、肘から繰り出された拳が、空気を裂いてムカデの顎を砕く。
骨と肉が霧散し、脳漿が床に弾けた。
それは“聖騎士”の技ではない。
その拳には――常軌を逸した“フィジカル”が宿っていた。
「……これは一体何の真似? 創造神」
鵺が問いかける。
その目は鋭く、だが声には翳りがない。
「創造神? ……さて、なんのことかな。“黒の女神”ルキユ」
即座に返される。
互いの正体を暗に示しながら、同時に否定する。
その言葉はまるで、鏡合わせ。
互いに探り合いながら、互いの核心に近づいていた。
「ならばこうしよう。お互い、“リーン”と“鵺”という立場で話を進めようじゃないか」
「……それで?」
「鵺君。私と“取り引き”をしないか?」
鵺の眉がわずかに動く。
「取り引き? 何のつもり?」
警戒はしている。だが、恐れてはいない。
リーンは笑みさえ浮かべず、淡々と続けた。
「君の正体について、私は他言しない。君が黙っている限り、私もまた口を噤む。それだけの話だ」
「……対等な契約。公平ね」
「そうだとも。私は君の“敵”ではない。現時点では、ね」
一瞬の間。
そして、鵺は頷いた。
「……いいわ。受けるわ、その契約」
(この男……危険すぎる。でも、今の私には都合がいい)
「ふふ……それでは、君の用件を聞こう」
「ええ。……でも、その前に、私の方から一つ言わせてもらえるかしら?」
――その瞬間。
「ピギャ〜〜〜!? お前らぁ! ポクチンを無視するなあああああッ!!!」
唐突に響く狂気の叫び。
だが、ふたりは微動だにしなかった。
リーンが指を鳴らす。
数百の光弾が空間に一斉生成されると、迷いなく、すべてのゾンビたちへと向けて発射された。
「ギエエエ!? なにコイツ!? 何コイツ何コイツ何コイツ~~~~~!!?」
ゾンビたちは絶叫しながら次々に焼き尽くされ、残されたのは、わずか一体。
それもすでに、震えていた。
(――この男。まるで会話の“ついで”に、世界を滅ぼしてる)
鵺は、ぞくりと震えた。
「さて、改めて。君の目的を聞こう」
リーンが問い直す。
鵺は一息吸い――告げた。
「私の願いは、あなたに“戦って”欲しいということ」
「戦う? 何のために?」
「“ユキル”を救うため」
「……ユキルを? “世界”じゃなくて?」
「ええ。私は、あの子を……ただ、救いたいだけ」
リーンは、しばし黙する。
それから、静かに言葉を返した。
「仮に私が断ったら?」
「その時は――その時よ」
鵺の瞳に揺らぎはなかった。
リーンは、それを見つめて頷いた。
「なるほど。どうやら本気のようだ」
そして、微笑む。
「……わかった。話を聞こう」
その言葉に、鵺の顔が――ほんの一瞬、やわらいだ。
だがすぐに、それを消す。
リーンが続ける。
「君の目的は、“エクリプスの呪い”を打ち消す女神の歌を、もう一度ユキルに歌わせること……そうだろう?」
「ええ。そして、私はあなたの目的も理解しているつもりよ。……ロキを、救いたいのでしょう?」
「……」
「そのためには、私の“封獣”――エリゴスの力が必要なんでしょう?」
静かに交錯する、ふたつの意志。
リーン・アシュレイと鵺。
どちらも、ただの“人間”ではない。
だが今、この瞬間だけは、共に戦う“同盟者”だった。
「……交渉成立、だね」
リーンが言い、鵺が頷く。
その背後――ポクチンの魂が、光に焼かれて完全に霧散する。
「ああああああんまりだああああ~~~!! こんなついでに殺されるなんて、あああんまりだあああああ!!」
……ゾンビの断末魔が掻き消え、再び静寂が満ちた。
交わされたのは、未来への“仮契約”。
世界の運命を変える、“同盟者”たちの密約である。
――だが、彼らの“裏切り”と“代償”は、まだ誰も知らない。
↓イメージリール動画
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