乂阿戦記2 終章 死せるクトゥルフ、ルルイエの館にて、夢見るままに待ちいたり-8後編 死ぬなよ悪友
\超展開✖️熱血変身バトル✖️ギャグ✖️神殺し/
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マグマが煮えたぎる戦場で、銀の機械神ケルビムべロスと対峙するロキの表情が歪んだ。
怒りだ。
それは激情にも似た、冷たい怒りだった。
――キングスマウグが、やられた。
黄金の鱗を誇る最強の改竜が、無様に蹂躙された。
『わ、私の鱗は……いかなる攻撃も弾くはずなのに……っ!な、なのに……なぜ……なぜ私の身体が痛むのだァァアッ!?』
――疑問と絶望に満ちた咆哮。
その問いに、銀仮面の男が静かに答える。
「それは、“浸透発勁”。……表層の装甲など、俺の拳には意味をなさない。まして――生物には、なおさらだ」
その声には冷ややかな決意があった。
羅漢。
静謐なる鉄拳の武神。
『人間風情がァァァア!!』
怒り狂ったキングスマウグが三つの首を振り乱し、ブレスと咬撃の嵐を放つ。
だが――
「無駄だ。そんな子供騙しが通じると思ってるのかい?」
機械神ケルビムべロスを操るもう一人、羅刹が薄笑いを浮かべた。
ガシィィィッ!!
ケルビムべロスの巨腕がキングスマウグの首の一つを鷲掴みにした。
「うわ、がっ……がああああっ!?や、やめっ……!」
ドガッ。ドガァッ。ドガァアッ!
無造作に、大地へ。
容赦なく、顔面から叩きつける。
数度、叩きつけたあと、首はぐったりと弛緩し、泡を吹いて気絶していた。
『……ぐふっ……こ、この私が……!』
残る二つの首が震えながら吠える。
『くっそォ……この魔女め、やりすぎだァ……!』
「悔しいか?だったらもっと、泣け」
「降伏しろ。無駄な殺生は好まぬ」
羅刹は煽り、羅漢は静かに促す。
だが。
ロキは笑っていた。
血の気の失せた唇から、尚も覇気を帯びた声が漏れる。
「やれ、スマウグ。“共鳴”だ」
『了解……指輪王殿下……ッ!!』
次の瞬間――
眩い黄金の共鳴光が戦場を飲み込んだ。
指輪王が舞い降り、キングスマウグの身体と融合を始める。
竜の首が一つ、また一つと、指輪王の肩と背へと吸収されていき、胸部が割れ、指輪王を胴体内部に格納する。
黄金の鱗が脈動し、機体全体が一回り膨れ上がっていく。
「魔竜合体・黄炎竜神――ここに誕生!」
魔王と竜が一つになったその姿は、まさに“災厄の化身”。見る者すべてを威圧する、破滅の巨影だった。
その声と共に、六枚の翼を広げた黄炎の巨神が完成した。
「ふははははっ!!どうだ、これが“魔王と竜”の完全共鳴体だ!!降伏しろ羅漢、羅刹!!命だけは助けてやるッ!!」
――だが、それは“王の命”を代償にした輝きだった。
咳き込みながらも、ロキは嗤う。
その胸元に、血が一筋流れ落ちていた。
――指輪王。
最強の改獣にして、搭乗者の生命力を削り続ける“呪われし覇王の器”。
ロキの肌は蒼白に変わり、呼吸も不規則になっていた。
だが彼の眼差しは、死をも恐れてはいなかった。
⸻
「来いよ、“ケルビムべロス”。見せてみろよ――神の名を冠する機体の真価を」
黄炎竜神が六枚の翼を翻し、宙を舞う。
五つの竜頭が咆哮と共にビームブレスを吐き出し、ケルビムべロスを包囲する。
「ぐっ……!これは……!」
羅漢が歯を食いしばる。
接近戦主体のケルビムべロスにとって、飛翔しながらのビーム攻撃は最も苦手な間合いだった。
だが――
「遊びは終わりだ!」
天より放たれた一条の矢が、黄炎竜神の右首に突き刺さる!
爆炎と共にその首がねじ曲がり、ロキの体勢が崩れる。
「なにっ……!?」
ロキが目を向けた先――
黄衣の魔王ベリアルハスター。
彼の本体であるオームが、黒い雷を纏い、戦場に舞い降りていた。
「ちぃ……オームか……!ルルイエ内部まで侵入されたか……!」
ロキは睨みつけながら、魔王槌を構える。
対するオームは、腕から雷光を纏い、睨み返した。
「ふん、甘いな」
二者が交錯した。
ズン!!
雷と魔槌の衝突。
瞬間、地面が炸裂し、火柱が吹き上がる。
ロキは舌打ちと共に後退し、喘ぐ。
「……さすがに手強いな」
「そっちもな。だが――」
オームが不敵に言い放つ。
「貴様は、いつまで耐えられる?」
「何だと……?」
次の瞬間、地が轟いた。
ドゴォォォン!!
ケルビムべロスの脚が高々と振り上げられ、そして大地を踏み抜く――!
「爆散震脚!!」
その一撃が地を揺るがし、地面が裂け、マグマが噴き出す。
大地が裂け、マグマが滝のように吹き上がる。熱風が空を焼き、戦場が赤く染まる。
ゴゴゴゴゴ……ドバァァアッ!!
爆風とマグマが襲い、周囲の敵兵は焼け散り、吹き飛ぶ。
ロキは咄嗟に防御結界を展開するも、装甲の継ぎ目から蒸気が漏れ出した。
「くっ……!」
そこへ畳み掛けるように、ケルビムべロスの剣が振り下ろされた。
「喰らえぃ!」
指輪王は槌で受け止めるが――
ズガァンッ!!!
力の差は歴然だった。
黄炎竜神の巨体が地面に叩きつけられ、衝撃が広がる。
さらに追撃。
オームの放つ風の魔法が、斬撃の如く突き刺さり――
グシャッ!
黄炎竜神の右肩、竜の首が切断される!
『ぐっ、ぐあああああッ!!』
ロキの血が、口から溢れた。
戦場の熱に沈む艦の中――
その機内で、血まみれの男が笑っていた。
ロキ。
“指輪王”と呼ばれた男。
そして今は、“呪われし覇王の器”と一体化した、命を削る戦士。
その喉から、血が一筋、唇を伝い落ちている。
皮膚は青白く、視界の端は滲んでいた。
それでも、彼の声は、澄んでいた。
「……レッド、聞こえるか?」
通信越しに映るのは、九闘竜No.5――レッドキクロプス。
眼差しは怒りに燃えていた。
『ロキ! もう無理だ、今すぐ退け!このままだと――!』
「待て。動くな」
ロキの声は、異様なほど静かだった。
だが、その静けさが逆に、レッドの心を冷やす。
「……作戦を、忘れたか?」
レッドの目が揺れた。
「何度、イサカと打ち合わせた……?」
「お前の出番は、まだ先だ。変身を解除させたのも、そのためだ」
ロキは目を細めた。
まるで、すべてを見通すかのように。
「お前には……“生きて果たす”べき役目がある」
『……ロキ……』
「命令だよ、レッド。これは“ブレイン”としての判断だ」
その一言には、隠しようのない――死の匂いが滲んでいた。
そしてロキは、笑った。
――唇の端を、ほんのわずかだけ吊り上げて。
「……なあ、レッド。今さらだがさ……俺がこういう役回りになるの、驚きか?」
レッドは、沈黙した。
やがて、拳を握りしめ、苦しげに吐き出す。
「……了解したよ、ロキ。だが……だがな、お前はよくわからない胡散臭い奴だが、それでも死なれると気分が悪くなる」
「ははっ。今さらかよ。じゃあこう言ってくれよ――“死ぬなよ、親友”ってさ」
その言葉に、レッドは目を細め、通信の先へと呟く。
「……死ぬなよ、悪友」
「――まいったな。今ので、もうちょい生きる理由が増えたよ」
ロキは通信を切った。
端末から響く電子音が消え、戦場の喧騒だけが戻ってくる。
それでも、レッドはその場に立ち尽くし、沈黙の中で拳を震わせていた。
「……勝手に死ぬなよ、ロキ」
その声は、誰にも届かない。
その言葉に応える声は、もうどこにもなかった。
しかし、それは間違いなく、友を呼ぶ声だった。
そして、ロキは再び前を向いた。
たとえ命を蝕まれていようとも、
たとえ血を吐いて立っていようとも――
「――僕は、“王”だ。退く気は、ない」
燃える竜神の如く、黄炎竜神は再び翼を広げた。
次の一撃が、決戦の幕を切り裂こうとしていた。