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乂阿戦記2 終章 死せるクトゥルフ、ルルイエの館にて、夢見るままに待ちいたり-8前編 狂王エンザ復活!

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読みやすくなりますよ❤︎

彼女は、強い。

――それが、戦場にいる誰もが抱く、ただ一つの実感だった。


ルシル・エンジェル。


齢わずか十二にして、聖なる加護に選ばれた天の騎士。

幾多の修羅場を駆け抜け、神々の加護すら断ち斬った銀の戦乙女。


だがその剣が、今――止まっている。


「くっ……流石ですね、真狂王……!」


氷のような汗が、額を伝う。


立ちはだかるは、狂気のジ・エンド

その正体は、カルマストラ二世――

かつて“狂王戦争”を生き延び、神をも屠った老兵。

死と狂気の象徴として、なおも戦場に君臨する“魔王中の魔王”だった。


「来い、小娘……。貴様の聖剣など、この“死神の鎌”で受けきってみせようぞ」


「……参りますッ!!」


ルシルが踏み込む。

雷鳴のごとく駆け、稲妻のごとく剣を閃かせる。

刃が閃き、空を裂いたその一閃――


「むん」


重い音が鳴った。


――ただ、そこに在るかの如く。

死神の鎌は動揺ひとつなく、その斬撃を受け流す。


「ぐっ……!」


「どうした? その程度か?」


「……いいえ、まだですッ!」


連撃。

三手、五手、十手を超えてもなお、剣の軌跡は舞のように美しい。

だが――


(空虚だ……)


「ふははは……見事な剣舞だが、若いな。年季が違うわ」


ジ・エンドは、微動だにせぬ。

ただ、いなし、守り続ける。

その沈黙の裏に、何かが、蠢いていた。


(……おかしい。なぜ攻めてこない?)


死神の鎌が描くのは、斬撃ではない。

“待機”だ。

背後で渦巻く、魔力の瘴気……いや、魔道そのものの高まり。


(まさか……)


「何を企んでいるのです!? なぜ反撃してこないのですかッ!」


「答える義理はない。だが、教えてやろう。我が魔道は、まもなく完成する」


その瞬間、空気が凍りつく。

世界の色彩が剥がれ、音が消えた。

ジ・エンドの全身から、禍々しき魔力が立ち昇る。


「《黒怨冥葬》――この一撃が、“終末”だ」


「なっ……!」


地面が震え、空間が歪む。

空から、闇が降る。

ジ・エンドの掌が闇を招くと――


「闇よ……我らが骸に、再び“邪悪なる生”を与えよ」


ルシルの視界に、地獄が開いた。


戦場に転がる無数の屍。

それが、一つ、また一つと蠢き立ち上がる。


「っ……まさか……!!」


――六百六十五体。

死したはずの狂王エンザの分身体たち。


その腐敗した骸が、踊るように笑いながら起き上がる。


「起きろ、死せる我が兵共よ。今こそ踊り狂い、ユキルの行く手を阻むのだ――!」


「「「ぽぉ〜う!!」」」


地獄の合唱。

血と腐肉の舞踏会。

“狂気のミュージカル”が幕を開ける。


「な、なんて……」


その光景に、ルシルの手が震えた。

だが――その一瞬の隙を、見逃すわけがない。


「ふっ……その剣筋、甘くなったな」


死神の鎌が、低く唸った。


一閃。

ラ・ピュセルの右肩から胴へ、深く装甲が抉れる。


「ぐあっ……!!」


赤い花が、空中に舞った。

ルシルの身体が地に叩きつけられる。


「く……うぅ……」


立ち上がれない。


それでも――彼女の目は、まだ死んでいなかった。


「私は……終われない……まだ、何も……!」


怒りでも、涙でもない。

それは、絶望の中に灯る希望。

人の子が“まだあがける”という、唯一の証明。


「くっ……この気配……!」


瘴気が戦場を塗り潰す。

死者の魔力が血の匂いと共に満ちていく。


その時、耳に届いたのは――


「……音楽?」


否。音ではない。

“狂気”そのものが、音を伴って現れたのだ。


「ぽぉ〜〜う!!」


「「ヒャッハーーーー!!!」」


「ポップを熱唱している……!? この状況で……ッ!?」


ゾンビが、踊っていた。

呪詛を叫びながら、奇妙なステップを踏み、まるでそれが祝祭であるかのように。

血まみれの顔で、笑いながら。


「ぽ〜〜う! ぽ〜〜う! ヒャ〜ハハハハハ!!」


その不条理な“演出”は、死の悲鳴ではなかった。

――悪意が、笑顔を模した姿だった。


「これが……“黒怨冥葬”……!」


足が、かすかに震える。

剣の柄が手から滑る。

それでも――彼女は剣を握り直した。


(負けるもんか……! 私は、“勇者”だから……!)


ルシルの足が、かすかに震える。

剣の柄を握る手が、汗ばみ、滑った。


それでも彼女は、前を見据えた。

戦場の中心で、“何か”が起きていた。


「な、なんだこれは……!」


艦内を走る神羅たちの前に、地獄が現れた。


――戦艦アルゴー号・艦内通路。


そこに、逃げ道などなかった。


「ぽぉ〜う!!」


「「ヒャッハーーーーーー!!」」


異様な音圧と共に、地獄の舞台は幕を開けていた。


665体のゾンビ・エンザ――

死してなお狂王の名を名乗る亡骸たちが、通路一面を埋め尽くす。


踊る。

叫ぶ。

笑う。

ポップソングのリズムに乗って、腐った四肢を揺らし、ステップを踏みながら迫ってくる。


「歌うなぁあああッ!! うるさいいいぃ!!」


アクアの絶叫が空しく響く。


「ぽぉ〜う♡」「ぽぉ〜う☆」「ポゥ〜ウ!」


その応答もまた、まるでコンサート会場の熱狂のようだった。


タット教授が叫ぶ。


「結界を――! 張り直せ!!」


「無理ッ! 魔法バリアが……削られていくっ!」


削られているのは、魔力ではない。

魂だ。


ゾンビたちの吐く呪詛――

それは、単なる攻撃魔法ではなかった。

怨念、嫉妬、嘲笑、憎悪、そして狂喜。

混ざり合い、腐り果てた感情そのものが、魔法という“形”になって襲いかかってくる。


「ぐっ……!」


「う、ううぅ……!」


「きゃああああっ!」


神羅、アクア、リリス、セレスティア、鵺、レイミ、ミリル――

誰もが魔法で応戦するも、数が多すぎる。


665対7。


しかも相手は、“死してなお呪う存在”。


「これ、マジでやばいわよ……!」


リリスが舌打ちしながら毒霧を放つも、ゾンビたちは笑って喰らう。


「くくくくっ……ポップ最高~~~♡」


「踊れ、踊れ! 命の果てまで~~~!!」


血と火花と狂気のリズム。


戦艦アルゴー号は、いまや“カーニバル地獄”と化していた。



艦外。


ルシル・エンジェルはその“地獄の実況”を耳にしていた。


外部魔法拡声器――

それはゾンビたちの合唱を、戦場中に届けるための悪意の増幅装置。


「ヒャヒャヒャヒャッ! ルシルたそ〜〜、聞こえてるぅ〜〜〜♡?」


ルシルの耳に届く、甲高い狂声。


「チミのお友達ぅ、めっっっっちゃくちゃ良い声で悲鳴上げてるよぉぉ〜〜〜ん☆」


【みてみんメンテナンス中のため画像は表示されません】


その言葉が、ルシルの胸に突き刺さる。


(――ダメだ、遅れてる。私は、間に合わなかった……!)


「黙れぇえええええええ!!!!!」


怒声が戦場を震わせる。

怒りが剣に宿り、ルシルは駆け出した。


その刹那。


「おっと、行かせはせぬぞ、小娘ェ」


――再び、立ちはだかるのは、真狂王ジ・エンド。


ただの鎌を手にした老人。

だが、その笑みは、神をも惑わす悪意の微笑みだった。


「邪魔、しないでください……ッ!」


「ふむ、悪いな。ワシにも“目的”があってのう……。

戦艦ユグドラシルにあるアレを起動させるわけにはいかぬのでなぁ……」


「うるさい……! どけぇええええッ!!」


咆哮と共に、斬撃。


だが――剣筋が荒れていた。


「ほれほれ、どうした? その程度か? 剣に、迷いが見えるぞ?」


「……っ!」


焦りが、重みを生み、

怒りが、精度を奪う。


(……早く倒さないと……みんなが!)


だがその思考さえ、狂王の前では隙に過ぎない。


「くくくくく、やはり青いな。仲間を思うか……うむ、誇るべきことだ。だがな、小娘」


――鎌が、唸る。


「戦場では、それが命取りになるのだよ」


一閃。


ルシルの装甲が、煙を上げる。

再び、血が舞い、地に叩きつけられる。


「くっ、ああああっ!!」


その身を貫くのは、痛みだけではない。


“無力”という、言葉にできぬ刃。


「私は……止めなきゃ、いけないのに……!」


(どうして、どうして私は、まだ……届かない!?)


傷だらけの身体を引きずりながら、剣を支えに立ち上がる。


目に涙はない。

その代わり、宿っていたのは――決意の光。


「行かせてください……!」


「まだ言うか……。ふははは! ならば、これで王手だ!小娘えええ!!」



カルマストラ二世が嘲笑う。

イット・ジ・エンドの死神の鎌がラ・ピュセルをとらえ、右肩から胴にかけて大きく装甲を切り裂いた。

「うあああああ!」

空中で戦っていたラ・ピュセルは地面に叩きつけられる。

その鎌が振り下ろされる寸前、まるで“運命”さえ刃を止めるのを待っているかのように、時間が凍りついた。

↓物語をイメージしたリール動画


https://www.facebook.com/reel/420774963787812

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