乂阿戦記2 終章 死せるクトゥルフ、ルルイエの館にて、夢見るままに待ちいたり-7 ロキの最強召喚獣”真フェンリル”
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――その時、天が裂けた。
ナイアの暴走を止めるべく、ナインテイルとモビーディックラーケンが飛翔する。
だが、その進路を塞ぐように“神話の災厄”が地上へと顕現した。
――それは、白銀の終末。
天より舞い降りた吹雪と嵐の象徴。
真フェンリル。
氷嵐を纏った巨狼が空を駆ける。
ただ一歩踏みしめただけで、地が震え、咆哮ひとつで天が裂ける。
その毛並みは魔法すら通さぬ白銀、動きは神速。
それは天災の名を冠する、最上級の狼王。
そして、もう一柱。
真ヨルムンガンド。
空気が一瞬で毒に染まった。
大気の流れが逆転し、空間そのものが波打つ。
異形の蛇神――
世界を喰らう大蛇が、雲を割って姿を現す。
その身は山脈を思わせる巨躯。
視界に入れただけで生理的嫌悪が走る。
吐き出す息は猛毒であり、その存在自体が災厄。
神話に記された“最終災厄”、ついに顕現。
「……これが……ロキの“切り札”か」
ネロが声を漏らす。
「ウソ……あんな巨体が……飛んでる……?」
獅鳳が目を見開き、信じられないものを見るように呟いた。
「ま、まさか伝説にある……神話級モンスター……!」
イブが声を震わせる。
「文献で読んだことがありマス。世界を滅ぼしかけた魔獣……真フェンリルと真ヨルムンガンド! 間違いありません!」
「……真フェンリルはあらゆるものを喰らう災厄の狼。見ての通り、神速の肉体にして、魔法を弾く銀毛の呪いを持ち……」
「そして真ヨルムンガンドは、山のような巨体にして……その毒は神ですら蝕む」
「クソッ……ロキの野郎、どこまで好き放題しやがる……!」
獅鳳が悪態をついたその刹那。
「アオオオオーーーン!!」
白銀の巨狼が咆哮を上げ、世界に牙を剥く。
次の瞬間、地を割るような震動と共に、世界蛇が喉奥で毒を鳴らした。
「うぉおおおおっ!!」
雄叫びと共に、獅鳳が真フェンリルへと駆け出す。
しかし、獅鳳の前に割って入ったのは――
黒雲のように滑空してきた世界蛇、真ヨルムンガンドだった。
「っぶねぇ!! ごほっ……!」
舌打ちしながら避ける獅鳳。その頭上で、世界蛇が唸るように喉を鳴らす。
その毒の気配は、ただ立っているだけで神経を蝕むようだった。
「どけェェェッ!!」
声と共に割って入ったのは――蒼き機械神、封獣機神アーレスタロス!
両腕でヨルムンガンドの顎をがっしりと掴み、獅鳳を守るように立ちはだかる。
「兄貴っ!!」
「待たせたな、獅鳳!」
モニター越しに映るその声には、どこか頼もしさがあった。
「私たちも来たわよ!」
絵里洲の声が響き、アーレスタロスの背に光の紋章が走る。
「俺たちも忘れんなよ!」
雷音の声が割って入り、赤き機体――封獣クトゥグァが滑り込んでくる。
操縦席には雷音と雷華の姿。
「ふぅ……やっと来たか……」
ネロが息をつき、肩から力を抜く。
「また来やがったな、ガキどもが……」
ケルビム・べロスと交戦しながら、ロキが鼻を鳴らす。
そのロキの耳に、通信越しの声が届いた。
『……ロキよ、あの者たちを始末しろ』
カルマストラ二世の命令である。
「はいはいっと!」
ロキが指を鳴らすと、真ヨルムンガンドが口を開いた。
直後――紫色の猛毒ガスがアーレスタロスに向けて放たれる!
「ッくそっ! やべえなこれは……!」
装甲がじゅうじゅうと音を立てて溶け始める。
「このままじゃっ……!」
「任せて! 水よ、我が手に集え――清廉なる癒しの水、ヒールウォーター!!」
絵里洲の詠唱が終わると、澄んだ水の奔流が猛毒の霧を打ち消した。
「ナイスフォロー!」
「ありがと!」
「……あーあ、やっちゃったよ……」
ロキが面倒そうに呟いたそのとき。
真ヨルムンガンドが咆哮し、口から巨大な光弾を放つ。
「ぐっ……!」
アーレスタロスが機体を盾にして、十字受けでそれを防ぐ。
圧力で滑走しながらも、足を踏ん張って耐え切る。
「っはああああああ!!」
漢児の咆哮と共に、アーレスタロスが空中に跳躍。
「うぉらあああッ!!」
そのまま真ヨルムンガンドの頭部に飛び乗り、頭上に跨がる。
「シュオオオーーン!!」
ヨルムンガンドが首を振り、振り落とそうとするが、アーレスタロスはしがみついたまま。
「クトゥグァ、ナインテイル、モビーディックラーケンに伝令!
この蛇は俺が抑える、だから――」
通信が走る。
「お前らのうち二機が狼を抑えろ!残り一機はナイアを止めろ!!」
「了解!」
雷音の声が応答する。
「……ナイアは、私たちクトゥグァ機に任せて欲しい」
雷華の声が続く。
「クトゥグァは、ナイアルラトホテップに最も相性がいい。奴の“恐れ”をそのまま焼き尽くす力を持ってるのよ」
「わかった! あとは頼んだ!」
「了解」「了解した」「理解……了解」
ナインテイル、モビーディックラーケンから続々と返答が入る。
二機の封獣が、真フェンリルへと飛翔した。
白い巨狼が、それを待ち構えるように天を仰ぎ、顎を開いた。
咆哮一閃。
超音速の白い弾丸が、封獣たちを切り裂かんと迫る――!
白銀の巨狼――真フェンリルが咆哮する。
その瞬間、空が軋み、風が裂けた。
モビーディックラーケンとナインテイルの二体の封獣機神は、高度を維持しつつ空中で散開する。
「くるわよ……!」
イブの声に応じて、モビーディックラーケンの背部ユニットから巨大な雷剣がせり出す。
雷杖ドゥラグラグナ――
雷を纏い、空気ごと断ち割る封印の剣が、戦場に再臨した。
「撃つぞ! 全砲門展開! ナインテイル、援護射撃!」
ネロの指示に応じて、ナインテイルの白銀の翼が展開される。
そのアークレイ・キャノンが唸りを上げ、連続して閃光を放つ!
「喰らえっ!」
砲撃の雨がフェンリルを貫く――はずだった。
しかし、白い巨体はまるで風そのもの。
巨体とは思えぬ身のこなしで、連射を軽やかに避けていく。
「……なんだと、あの機動力は……!」
「でっかいくせに速すぎ……!」
獅鳳とネロが、同時に呻く。
フェンリルがその機敏な動きのまま、前脚を振りかぶる。
「接近――来ます!!」
巨大な爪が、空を裂いて降りかかった。
だが、それを迎え撃つように――
「こっちは止まらねえ!!」
モビーディックラーケンがドゥラグラグナを真横に振り抜いた!
金属と牙の衝突音。
衝撃で空気が爆ぜ、稲妻が閃く。
「ガウッ!?」
「獅鳳! 今よ!」
ナインテイルが白き長槍を構え、巨狼の死角へと突貫する。
「おおおおおッ!!」
幾度もの連撃。
刺突、回避、反撃、再突入――
その攻防はもはや“舞”であり、“死闘”であった。
だが――
「ッ……!」
突然、フェンリルの動きが止まる。
そして。
「――吹雪、だと……!」
モビーディックラーケンが反応する間もなく、巨狼の口から氷の奔流が放たれる。
氷霧、吹雪、氷柱。
その全てが、破壊と停止の呪いを孕んだ“氷のブレス”だった。
「くっ、避けきれねえ……!」
回避行動が間に合わず、モビーディックラーケンは氷の直撃を受けた。
機体の外殻が一気に凍りつき、推進力を失って急降下する。
「姉機ッ!!」
ナインテイルが叫ぶ。
だが、落下寸前で辛うじて機体が体勢を立て直す。
氷を纏いながらも、獅鳳とイブは内部で操作を続けた。
「……まだやれる!」
「その通りデス……! 来ます!!」
その声の奥に、イブの確信があった。
――もう誰も、見捨てたくない。
――たとえ自分が砕けても、姉として、守り抜く。
真フェンリルが二人を仕留めるべく、一気に距離を詰めてくる。
咆哮一閃――
その白銀の肉体が、モビーディックラーケンに飛びかかる!
「オラァァァッ!!」
咄嗟にドゥラグラグナを突き上げ、懐へ滑り込む。
だが――
「ガウッ!!」
巨狼は、雷剣を顎で咥えたままモビーディックラーケンを投げ飛ばした。
「うわっ――!!」
重力と衝撃が機体を襲う。
落下と同時に、右肩部の装甲がもげ、システムが警告を発する。
「ぐはっ……!」
「姉機ッ!!」
「だ、大丈夫デス……まだ動けマス……!」
しかし、そのダメージは決して小さくなかった。
フェンリルは機体の隙を逃さず――
再び口を大きく開いた。
その口は、光も熱も存在も――すべてを噛みちぎる“不可視の顎”。
「インビジブル・ファング……!」
その技名を知るのは、ネロただ一人だった。
「やばい……ッ!! ナインテイル、回避っ!」
その直感に従い、ナインテイルはモビーディックラーケンを真横に吹き飛ばす。
直後――
バクン!!
空間そのものが噛み砕かれた。
ナインテイルの両脚部が、霧散するように喰われていた。
「――あああああああああ!!」
「ネ、ネロさん!? 白水晶さん、脚が――!?」
獅鳳が叫ぶ。その視線の先で、ナインテイルの両脚部が虚空に喰われ、残骸も残さず霧散していた。
それでも、ナインテイルはふらりともせず、宙に浮いていた。
「……問題ない。足など……ただの飾りだ」
「…………!?」
「同意……現在でもナインテイルの戦闘機能は、95%以上健在……推力は外骨格で補完可能」
ネロと白水晶が、堂々とした態度で即答する。
その凄みに、獅鳳は開いた口が塞がらなかった。
「いや、どっからどう見ても戦闘継続不能だろ!? 何その謎のメンタル!?」
「ふん、ナインテイルは“槍と翼”が本体……脚などは、見た目のバランスでついていただけだ」
「戦術上、無駄な部位は切り捨てる。合理的判断……当然の帰結」
「合理的すぎるわッ!!」
モビーディックラーケンが反応に困る中、フェンリルは静かに顎を開き、二度目の見えざる咆哮を構えていた。
「また来る……!」
「今度は避けられないッ!」
そのとき。
「ハァァァッ!!」
イブの叫びと共に、モビーディックラーケンが突進。
目にも止まらぬ速度で接近し、インビジブル・ファング発動寸前のフェンリルに飛びかかる。
「ぐおおおおおッ!」
巨狼が反射的に咆哮し、牙で迎撃しようとする。
が、モビーディックラーケンはその顎を紙一重で回避。
空中で身体を捻り――雷剣ドゥラグラグナを突き出す!
「これで……!」
鋼の雷がフェンリルの喉元に迫る――
「ガウッ!」
直後、フェンリルがその巨体を反転させ、反対方向から機体へと飛びかかってきた。
顎が、頭部に喰らいつく。
「っく……うあああああっ!」
ガリガリと装甲を噛み砕く音が響く。
「姉機ッ!!」
「イブ姉さん!!」
悲鳴が飛ぶ中、フェンリルの牙が頭部を穿ち、メインカメラが破壊される。
「……っ!」
一瞬、モニターがブラックアウトする。
「だ、大丈夫なのか!?」
「たかが……メインカメラをやられただけデス……!」
「全然大丈夫じゃねぇよそれ!!」
ネロのツッコミが場を裂く。
だが、その一瞬の隙を突くように、フェンリルがさらに口を大きく開いた。
八つ裂き光輪――!
回転しながら突撃する白銀の斬撃が、モビーディックラーケンの右腕を粉砕し、地面に叩きつける。
「ぐはぁあっ!」
「くそっ、この……ッ!」
イブの呻きと共に、機体が損傷を受けながらも立ち上がる。
だが。
「――来るぞ、奴が!」
ナインテイルのセンサーが、空間の“ひずみ”を感知する。
ズン、と空気が重くなる。
そして――
炎の弾丸が、モビーディックラーケンに向けて放たれた。
「魔法攻撃!? 後方から!?」
「ちっ……バレてたか!」
空中に浮かび現れたのは、禍々しい機械神――パズスフィンクス。
そしてその機体に搭乗しているのは、あの邪悪なる魔女、ナイア。
「……あらあら、せっかく狼さんががんばってるのにぃ、邪魔するなんて……ほんとウザいのよねぇぇ!!」
ナイアがイラついたように火炎を連射してくる。
「ナイア、テメェ!!」
雷音が激昂し、赤き機械神クトゥグァが出撃する。
「――くらえッ! クトゥグァ・バードチェンジ!!!」
コアから炎が噴き上がり、クトゥグァが火の鳥の如く鳳凰形態へと変形。
高温の翼を広げて、パズスフィンクスの周囲を周回する!
「小癪な……!」
ナイアが回避を余儀なくされる。
「邪魔よ! 邪魔! もう!!」
「うるせぇ! この鬱陶しさがてめぇへの報いだよッ!!」
雷音とナイア、宿命の因縁が再び交差する―
空を裂く白銀の軌跡――
真フェンリルが、旋回しながら冷気を纏い再突撃を開始する。
咆哮とともに起動する必殺技――
**八つ裂き光輪**が再び展開された。
白い巨狼が回転しながら突っ込んでくる姿は、まるで天から降り注ぐ処刑の円刃。
その軌跡の先にいたのは、機体損傷著しいモビーディックラーケン。
「まずいッ! 回避が――!」
フェンリルの爪が機体の背部装甲を鋭く切り裂く。
内部回路がスパークを起こし、警告灯が真っ赤に点滅する。
「アアッ!!」
「姉機ッ!!」
「……まだだ! まだ……終わらせない!!」
イブが必死に操縦桿を握るが、応答しない部位が増えていた。
「……なんて化け物……!」
ネロが呻く。
フェンリルが迫る――
鋭い牙が、獲物を引き裂かんと顎を開き、コックピットへ肉薄する。
牙がコックピット周囲の装甲を噛み千切り、内部が剥き出しになる。
「だ、ダメッ! あのままじゃ――!」
「くっ、避けられな――」
その時だった。
「姉機ッ!!」
ナインテイルが、脚を失った機体の推進力を最大限までブーストさせ――
全身を盾に、フェンリルへと突撃した。
「ハアァァァァッ!!」
体当たり。
白と銀の機械神が、牙を開いた狼を弾き飛ばす。
「――っ!」
フェンリルは空中で一回転し、地面に着地。
尻尾を叩きつけて体勢を立て直すと、静かに、忌々しそうに唸る。
「ハルルルルルルル……!」
眼前に立ちふさがるのは、傷だらけの二機の封獣機神。
脚を失い、肩を砕かれ、それでもなお剣と槍を構える姿は、まるで――
**“神に挑む騎士たち”**そのものだった。
「……これが、俺たちの“盾”だ。受けてみろよ、神話の野郎……!」
「解析完了……次の一撃で反撃可能です……ネロ、指示を」
「よし……一発で決めるぞ。白水晶、全演算コア集中!」
フェンリルが吠える。
ナインテイルが応える。
モビーディックラーケンが雷を帯びる。
そして空で――雷音とナイアが激突する炎の鳥と蛇の舞が、空を赤く染めていた。
世界は今、再び神話と化そうとしている。
↓物語をイメージしたリール動画
https://www.facebook.com/reel/1446400932939879