表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/448

乂阿戦記1 第ニ章- 青のHERO狗鬼漢児と戦神ベルト アーレスタロス-7 ダメ親父に怒りの鉄拳を

(^^) ブックマークをお願いいたします!


読みやすくなりますよ❤︎



──母ユノを先に帰したあと、漢児は気がつけば父を背負って歩いていた。


その背中にあるのは、道化の仮面をかぶったような男。

ついさっきまで「冗談みてぇな格好で死にかけてたおっさん」が、まさか自分の親父だなんて――。


到底、信じられるわけがない。


……けれど。


背に感じる体温が、やけに馴染む。

古びた酒の匂いすら、不思議と懐かしさを滲ませていた。


「……ここでいい。下ろしてくれ」


不意に、くぐもった声が漢児の耳に届く。

気絶していたはずの男が、静かに目を覚ましていた。


「……気づいてたのかよ。……おい、マジでお前、俺の親父なんか?」


「どうやら、そうらしい」


「……ふわっとした回答すんなよ!」


「殴ってくれて構わん。殺されても文句は言えねぇ。獅鳳の次に、お前には俺を殺す資格がある」


背から降りたヨクラートルは、ふらつきながらも足で立とうとする。

無理にでも立ち上がろうとするその姿に、漢児の胸の奥が少しだけ、軋んだ。


「……ちょっと寄ってけよ。あそこの自販機で麦ジュース買ってくるからよ」


「未成年がビール飲むな、バカ野郎!」


「飲まなきゃやってられっか!」


「十年早えよ、クソガキ!」


「なんだよ説教か? お前が俺の親父か? ……あ、そうだったわ!」


からかうような軽口に、ヨクラートルは不意に吹き出した。


──人気のない公園のベンチに、父と子が並ぶ。


プシュ、と缶が開く音。

夜風が二人の間をそっと撫でていく。


「なあ……この話、どっから話せばいいんだろうな」


「……酒、空く前に頼むわ」


「そうか。じゃあ……あの世界の話からだ」


缶ビールを一口あおり、ヨクラートルは夜の空を見上げた。


「地球じゃない、別の世界の話だ。……俺の故郷は、戦乱の時代にあった“龍麗国”って国だった」


声は淡々としていたが、その語る内容には血の匂いがついていた。


「俺の親父は、その国を立ち上げた建国王だった。王の第二婦人……つまり俺の母親は、欲深な女でな。自分が溺愛していた次男――俺の弟イドゥグを後継者にしようと、陰謀を張り巡らせてた」


「……ありがちな修羅場だな」


漢児がぼそっと呟く。ヨクラートルは続けた。


「だが、それを許さなかったのが正妻の子――俺の腹違いの兄貴、ユドゥグだった。兄貴は権力を握るため、弟イドゥグを殺し、次に俺を排除しようとした。……命を狙われた俺を助けてくれたのが、ユノだった」


そこだけは、言葉に温もりが宿っていた。


「ユノは妹の魔法少女仲間だった。当時の俺は王妃直属の親衛隊長で、リュエルって女と婚約してた。……お前の言うとおり、あれは獅鳳の母さんだ」


ヨクラートルは懐からペンダントを取り出す。

中に収められていたのは、柔らかく笑う女性の写真。


「……ああ、似てる。獅鳳と目元がそっくりだ」


漢児が呟くと、父は静かに頷いた。


挿絵(By みてみん)


「お家騒動で、俺の味方だった身内は皆、兄貴に粛清された。リュエルも死んだと聞かされた。……何もかも、終わったと思った。絶望の底で、俺を支えてくれたのがユノだった」


苦笑いを浮かべながら、ヨクラートルは自嘲気味に言った。


「情けない話だが、俺はユノに甘えた。……俺の感情を全部受け止めてくれる彼女に、つい……」


「それが、俺か」


「……ああ。だがその後、俺はドアダに亡命した。ユノと別れて、リュエルが生きてると聞いて、追いかけて……また逃げて、またユノに助けられて……お前が二歳の頃、俺はようやく“父親だった”ってことに気づいた」


漢児は、ビールを口に含んだまま黙っていた。

目の奥で、言いようのない何かがうごめいていた。


「……お袋は、なんであんたに子供のこと話さなかったんだろうな?」


「それはわからない。けどたぶん俺が全部悪い。子供がいることは知っていたが、まさか俺の子だとは思わなかった……すまなかった。気づくべきだったのに」


父の謝罪に、漢児は頭を押さえて呻く。


(……そういうの、男に言わなきゃダメだろお袋……いや、あんたも悪いわ!)


夜の静寂が二人を包んでいた。

吐く息がわずかに白い。季節の変わり目の冷たさが、皮膚の奥にしみこんでくる。


漢児が黙りこくっていると、ヨクラートルはペンダントを握ったまま、静かに語りだした。


「……俺が死にたがってた理由、話すか」


「……ああ。気になってた。なんで“獅鳳に殺されよう”なんて思ったんだよ。」


ヨクラートルは苦く笑う。


「7年前……俺は、死んだ弟イドゥグの仇を討とうとしていた。あいつを殺した兄、ユドゥグを倒すために……“魔女エクリプス”を復活させようとしたんだ」


漢児の目が鋭くなる。


「おい……エクリプスって、あの?」


「ああ。世界を滅ぼしたとされる災厄の魔女。……だが、あんなものを人間が扱えるはずがなかった」


吐き捨てるように、ヨクラートルは言った。


「蘇生実験の途中、エクリプスが暴走した。俺は殺されかけた。……その時、リュエルが俺を庇って呪いを受けた」


漢児は、口を開けたまま固まっていた。


「呪いは、ゆっくりとリュエルを蝕んでいった。最後は……俺の目の前で、静かに、壊れていった」


「…………」


「死ぬ前、彼女は俺に言ったんだ。『獅鳳が大きくなったら……よろしく頼む』ってな。俺は子守が好きだったし、小さかった獅鳳の面倒をよく見てた。……だから託されたんだろうな。……だが俺は、その期待に応えられなかった」


缶が空になった音が、乾いた音を立てる。


「俺のせいで、彼女は死んだ。……そんな俺が、どうしてその子供を前に生きていける。せめて――いつか、ヒーローになった獅鳳に、悪の幹部として殺されよう。そうすべきだと思ったんだ」


沈黙。


夜が深くなっていた。街灯の光が二人の影を地面に延ばす。


やがて、漢児が立ち上がる。


「……おい、さすがに黙ってられねぇ」


ギリ、と歯を食いしばる音がした。

拳を握りしめた漢児の額には、怒りの血管が浮かんでいた。


「なあ……最低一発、殴らせろ。……もう我慢の限界なんだよ!」


ヨクラートルはゆっくりと立ち上がり、無言で頬を差し出す。


「……いくらなんでもお袋に甘えすぎだろ、このクソ親父がッッ!!!」


音が響いた。


骨ごと砕くような凄まじいパンチが、ヨクラートルの顔面を打ち抜く。

その場に崩れ落ち、彼はあっさりと気絶した。


「……ったく……俺だって、お前なんか認めたくねぇのに――」


震える拳を見下ろしながら、漢児は呟く。


「なんでこんな時に、俺のパンチ、真正面から受け止めんだよ……バカ野郎……」


無言のまま、漢児は倒れた父を再び背負い直した。

そして、そのまま病院へと向かった。





数刻後。

病院で父を預けた漢児は、ユノに呼び出されていた。


場所は街の片隅にある、古びた喫茶店。


二人は、向かい合って座っていた。


「……ごめんね。今まで隠してて」


母の声は、申し訳なさそうだったが、どこか凛としていた。


「まぁ、なんだ。……お互い、色々あったしな」


「……うん」


ふいに、気まずい沈黙が流れる。

湯気の立つカップの向こうで、二人の視線が何度か交差して、外れていった。


先に口を開いたのは、母だった。


「私はね、お前も絵里洲も、そして獅鳳も――皆、私の大切な子供だよ。……それだけは、わかっててほしい」


その言葉に、漢児はニッと笑った。


「へっ、そんなもん言われるまでもねぇっての」


「……そっか。よかった」


ふっと、ユノの肩の力が抜ける。


「なあ、お袋……その、聞きたいんだけどさ。あの道化野郎って、昔はどんな男だったんだ?」


「ヨクラートルのこと?」


「そう。……ユキルちゃんの叔父さん? なんだろうな俺。とりあえず、血がつながってるってのは分かったが……今も正直ピンとこねぇ」


窓の外――木々の間を、ひとひらの落ち葉が風に舞った。


その光景をぼんやり眺めながら、ユノはしばし遠い目をしていた。

そして、ぽつりと呟くように語りはじめる。


「……昔のヨドゥグはね、今のあんたにそっくりだったよ」


カップを両手で包み込みながら、静かに微笑んだ。


「情熱的で、野心にあふれていて……でもどこか無鉄砲で、何でも気合と根性で解決しようとする。それでいて、人を惹きつける天性の魅力を持ってた。……子どもの頃から、王族よりサーカスのピエロになりたい、なんて言ってたくらいよ。世界中の子供を笑顔にするヒーローになりたい、ってね」


その表情を見た瞬間、漢児は確信した。


――ああ、この人はまだ、あの道化男に恋をしているんだな。


「……なるほどな。叔父貴があの男を殺そうとしてる理由、ちょっとだけわかった気がするわ」


「え?」


「妹を未婚の母にして、勝手に逃げて、そんで今さら戻ってくるとか……あの人からしたら、ふざけんなって話だろうよ」


「…………」


ユノは、否定しなかった。

ただ、カップの湯気越しに、少しだけ寂しそうに微笑んだ。


漢児はもう、それ以上何も言わなかった。


──この瞬間だけは、母を「ひとりの女」としてそっとしておこうと思ったからだ。



それから、ほんの数日が過ぎた。


漢児たちは、いつもの空き地にいた。


「よし、今日のネタは“勇者と魔法少女の即興変身劇場”だな。視聴者数10万狙っていこうぜ」


「……あのさぁ、なんで私が姫役なのよ?」


「嫌なら俺がやるぞ。魔法姫カンジちゃん、参上ってな!」


「それだけはやめて……!!」


漢児、ユキル、絵里洲、そして獅鳳――

いつものように、バカみたいなやり取りと笑い声が響いていた。


動画撮影用のスマホを三脚にセットし、獅鳳がポーズを決めようとした、そのとき。


突如――


キィイイイン――ッ!!


空気が裂けるような、異音。


そして、地鳴り。


「お、おい……あれ、なんだ……?」


遠くから、暴走したようなトラックが猛スピードで突っ込んでくる。


叫ぶ間もなかった。


視界が、白く弾けた。


衝撃。


沈黙。


……


トラックはあった。

衝突の跡も、轍も、スマホも、三脚も残されていた。


だが――


四人の姿は、どこにもなかった。


死体も、血痕も、悲鳴もない。


まるで最初からそこにいなかったかのように、彼らは“消えた”。


跡形もなく。


地球から――忽然と。

https://www.facebook.com/reel/496324563387798/?s=fb_shorts_tab&stack_idx=0


↑イメージリール動画

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ