乂阿戦記2 終章 死せるクトゥルフ、ルルイエの館にて、夢見るままに待ちいたり-5 機械神続々参戦!
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獅鳳はロキがイサカの事が好きだったと言うパピリオの言葉を思い出していた。
「まさか、アンタがイサカの事を好きだったなんてな……」
獅鳳の呟きに、ロキは応えない。ただ黙って、遠くを見るような目をしていた。
「アンタが、あの人の《キジーツ》にこだわるのは……やっぱり、生き返らせたいんだろ? イサカを……」
沈黙が落ちた。
ロキの瞳が、わずかに揺れる。
その奥にあるのは、忘れられぬ記憶か、それとも消し去れぬ後悔か。
けれど彼は、感情を言葉にはせず――ただ、ぽつりと呟いた。
「――あれを見ろ」
指差す先。クトゥルフの額に埋め込まれた、奇怪な器官のようなもの。そこに、女がいた。
白髪に褐色の肌。機械仕掛けの半身。イブに似ているが――違う。
それは、かつての“復讐の女神”イサカを模して作られた、新たなボディだった。
「……イサカ? いや、イブ……? 違う、これは……」
「……あれは、イサカの魂を入れるために真狂王たちが用意した新たな器、《ジュエルウィッチボディー》。その完成形が――ネオ・エクリプスだ」
ロキの視線が、アキンドの手元へと移る。
「そこにあるのが、魂の核――《キジーツ》。イサカの記憶と精神の結晶だ」
「げっ、ロックオンされてる!?」
慌てるアキンドの前に、ロキが歩を進める。
「そのキジーツをあの器に埋め込み、魂を覚醒させる。そうすれば……イサカは蘇る。ネオ・エクリプスとして、な」
「待てよ! 本当にそれでいいのかよ!? エクリプスになったイサカは、もうイサカじゃない! ただの破壊の器になるだけだろ!!」
「……関係ない」
ロキは、まるで自分に言い聞かせるように呟いた。
感情の波を抑え込み、ただ冷徹な論理だけで自分を保とうとする声音だった。
「……例え、イサカが邪悪な魔女として蘇ったとしても。どれほどの人間が死のうと――それがどうした?」
「なっ……!?」
「……戦争は、血の海だ。無辜の死など数えきれない。俺が欲しいのは、“彼女”だけじゃない。“力”もだ。エクリプスという最終兵器、軍事の均衡を破る絶対の力――それが、ナイン族の統括者として、俺が手にしなきゃならない宿命だ!」
その眼に宿るのは、狂気ではなかった。
ただ静かに、冷たい焰を湛えた覚悟。
「俺もまた、この戦乱のスラルを生きる“王”の一人。覇を求めるなら、誰かを愛することさえ、道具に変えねばならんのさ」
ロキの前に、イブが立ちはだかった。
その瞳に、哀しみと祈りが宿る。
「それが……貴方の、本当の想いなのですか……ロキ」
「……イブ。君は優しすぎるよ。だが君は――イサカじゃない……イサカじゃないんだ」
「でも、私はイサカでもある。彼女の記憶も感情も、私の中にはあるのです。だから……分かるのです」
「……だったら、止めに来るか」
「はい。私は、ドアダの七将軍として――そして、ひとりの仲間として、貴方を止めなければなりません」
ロキは構える。指輪が深紫に光を帯びる。
「かかってこい、イブ。君の優しさごと、切り捨ててやる」
「ならば――これが、私の答えデス!」
イブが詠唱を始める。
「氷獄より来たれ……汝の名は――機械神!招来に応じ、敵を討て……この世界を凍てつく正義で浄化せん!!」
水色の封魔鎖が雷のように迸り、空間を裂く。現れたのは、蒼き海神の如き巨大な機械神。
だが、そのコックピットに向かう彼女の腕を、誰かが掴んだ。
「……イブさん、待ってくれ!」
――獅鳳だった。
「俺も一緒に戦う。今度こそ、あなたを守りたいんだ!」
「獅鳳……おぼっちゃま……」
「昔、俺は守れなかった。でも今は違う。今の俺には、共に戦う力がある!」
獅鳳はそのまま、強引にモビーディックラーケンに乗り込む。
「……まったく、仕方ない人デスネ」
イブは微笑む。そして、コックピット奥の魔法カプセルに身体を納めた。
「――行きましょう、獅鳳おぼっちゃま!」
「おう、頼むぜイブさん!」
機械神が翠雷色に輝き、獅鳳のドゥラグラグナと共鳴を始める。
天と海が一つになる時、雷鳴が吠え、二人の意志が重なり合った。
――勇魔共鳴、発動。
「これが、俺たちの力だ――受けてみろロキ!!!」
獅鳳の身体が翠雷色に輝く、それと同時にイブのモビーディックラーケンもまた翠雷色の輝きを放つ。
「なんだあれは?」
「まさかドゥラグラグナとモビーディックラーケンが共鳴を果たしたのか?」
ロキとカルマストラ2世は驚きの声をあげる。
「ふん、小賢しい!」
ロキが指を掲げる。
深紫に染まるその指輪が、不気味な光を放った。
「我、汝に乞う……我が鎧となれ。我が武具、我が翼、我が王たる証よ――」
その呪詠とともに、闇を纏う魔法陣が天に現れる。
「機神招来――《ロード・オブ・ザ・リング》!!」
空間が裂けた。
そこに現れたのは、王冠を戴くような頭部を持ち、四枚の巨大な飛行装甲を背にした、威容の巨神。
その全身を紫電と黒炎が包み、まさに“魔王”と呼ぶに相応しい姿であった。
「……獅鳳おぼっちゃま、来マス!」
「ああ――こっちも、全力で応えてやる!」
モビーディックラーケンの背部装甲が展開し、巨大な飛行外骨格が形成される。
水の紋章が閃き、雷の波動が交錯する。
翠雷と蒼氷が交わるその姿は、まさしく“雷神と海神の共鳴”。
「行くぞ! 全砲門、魔力チャージ開始! モビーディックラーケン――雷撃光線、斉射!!」
海蛇のような触腕砲門が展開し、無数の雷光を帯びたビームが紫の巨体を貫かんと放たれた。
「ふっ――甘いな」
《ロード・オブ・ザ・リング》の左腕が動く。
装備された巨大な指輪型の盾が、雷撃をすべて受け止めた。
雷が砕け、空が焼ける。
「くそっ、やっぱり一筋縄じゃいかねぇな……!」
「来るわ、次――!」
次の瞬間、紫の巨体が空を切った。
「――武装展開」
両腕のミサイルポッドが開放され、百発を超える爆薬がモビーディックラーケンを包囲するように放たれる。
「魔法障壁、最大展開ッ!!」
蒼いドームが展開され、直後に爆炎が襲いかかった。
空が焼ける。衝撃波が周囲を吹き飛ばす。
だが――
「耐えた……ッ!」
爆煙の中から現れたモビーディックラーケンは、なおも健在。
「ふむ……防ぐか」
ロキの声には、わずかな驚きが混じっていた。
「だが――これはどうかな」
紫の巨体が両手を突き出す。
そこから放たれたのは、闇の奔流。
黒紫の波動が、重力を歪め、空間を裂くほどの圧力で放たれる。
「くっ、避けられない――!!」
魔法障壁が砕けた。
モビーディックラーケンの装甲が軋み、片膝をつく。
「がっ……ぁ……!」
「イブさん!? 大丈夫か!?」
「……大丈夫デス。ですが、次を受けたら危険かも……」
「くそっ、まだ足りない……。俺たちの共鳴力が……!」
モビーディックラーケンの苦戦を目の当たりにした白水晶が、姉機イブの苦戦に居ても立っても居られず姉機ネロに協力を申し出る。
「姉機ネロ……白の勇者として進捗……封獣ナインテイル起動の協力を要請……当機と共に白面神槍ナインテイル巨神形態に同時搭乗を願います」
「うむ、我らジュエルウィッチ姉妹で勇魔共鳴・裏モードを果たそうというわけか!それは名案だ!」
「……それでは承認儀式を開始します。状況分析の結果……現在の戦力では、機神の防御突破は困難と推定……」
「フム、あのロード・オブ・ザ・リングを倒すには、機械神ナインテイルも繰り出すしかないってわけか……!」
冷静な声が響く。
その声の主は、短い白髪を揺らす無表情の少女――白水晶。
彼女は並び立つ姉機に視線を向けた。
「……姉機ネロ。確認再送信。貴女の協力によって、《ナインテイル巨神形態》を最大戦闘モードへ――そのためには、今すぐ貴女のキスが必要」
「き、キスって……えええっ!?!?」
ネロの声が裏返る。視線の先には、すでに彼女に向かって歩み寄る白水晶。
「ま、待て待て待て待て白水晶!! なにマジ顔で距離詰めてきてる!? ちょっ……お前、本当にやる気か!?」
「接吻行為は、当機と貴機との同調回路接続における最短最効率手段。躊躇は非合理的と判定」
「非合理とか言う前にこっちは心の準備が――」
だが、少女は躊躇わなかった。
「――同期、開始」
白水晶は一瞬でネロの唇を奪った。
その瞬間、戦場が凍りついた。
「「「……あ゛?」」」
時間が止まったかのような静寂。
そして――
「おおおぉおおおおおお!? と、尊い――ッ!!」
「百合だァァァ! 百合来たぞぉぉぉ!!」
「くっ……こんな時にッ、尊さに鼻血がッ!!」
男子陣全員がまとめて爆死寸前。
リリス、セレスティア、ミリルも真っ赤な顔で大絶叫。
「きゃー! ネロってばそっちの人だったの!?」
「百合だったのね!? やっぱり百合だったのね!?」
「くっ……姉妹で、姉妹で勇魔共鳴なんて……眼福!!」
ネロは天を仰いで絶叫した。
「ちっがああああああああああああああああああああううううう!!!!!白水晶!! お前、後で全員に誤解解けよ!? アタシはノーマルなんだ!? ノーマルだからな!?」
――だがその叫びが届く前に、ナインテイルは白銀の閃光となって空へ飛翔していた。
……誰も、訂正のチャンスを与えてはくれなかった。
「現状は戦闘優先。後のことは後で」
「ちょ、おまーー!!」
そんな悲鳴を他所に、白水晶の瞳が鋭く光を放つ。
「――承認完了。封獣、巨神形態へ移行」
空に白銀の魔法陣が咲き、無数のデータ粒子が渦を巻く。
その中心から、巨大な神獣の如き機体が姿を現した。
九つの尾を持つ、白銀の超巨大機神。
その神々しい姿は、まさしく“神槍の乙女”にふさわしい威容であった。
「これが……白の機械神……!」
獅鳳が息を呑む。
「ナインテイル、出撃。目標――指輪王、ロード・オブ・ザ・リング。目標の魔力炉心、撃滅」
「うおおおっ!? ちょっ、お前、いきなり突っ込むなっ、まだ心の準備が――」
「強制起動。愛とは戦場で語るものです、姉機」
「いや待て!? それどんなポエム!? 誰の入れ知恵!?」
ネロの絶叫を乗せたナインテイルは、まばゆい白光を身にまとい、指輪王に向かって突撃した。
その一撃が戦場に新たな均衡をもたらすことを、誰もが確信していた。
↓物語をイメージしたリール動画
https://www.facebook.com/reel/917228323185930