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乂阿戦記2 終章 死せるクトゥルフ、ルルイエの館にて、夢見るままに待ちいたり-1 アクアの覚醒

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終章 死せるクトゥルフ、ルルイエの館にて、夢見るままに待ちいたり



ロキの黒い霧の牢獄に囚われているアクアとフレアには、大きな転機が訪れようとしていた。

ロキの黒い霧の牢獄は二人にとって、ある意味安住の地であった。

この激しい戦場に赴く必要がないからだ。

黒の霧の牢獄の中、ただ泡のように光る粒子が浮遊している。

二人の少女は並んで座り、言葉少なに沈黙を共有していた。


「……ここ、あったかいね」

「戦場に比べればな。まあ……地獄よりはマシかもな」

「…………」

「…………」

二人はただ黙っていた。

ロキの牢獄の中は、まるで深海のようだった。

暗闇の中で何も見えないが、時折光る泡のようなモノが二人の周囲を漂う。

「……」

「……」

アクアはふと思った。

「フレア」

「なんだ?」

「なんで私たちがここにいるのかな」

「さあな、ロキの奴の考える事はさっぱりだ。」

「あのさ、フレア」

「うん?」

「私たちって、もう死んだのかな」

「生きてるよ、ばぁ〜か。」

「じゃあさ、ここは天国なのかな」

「さあな」

「フレア」

「なんだよ」

「私、地獄に行きたくないな」

「奇遇だなアクア。アタシも同じこと思ってた」

「フレア」

「さっきからなんだよ?」

「私さ、死んだらきっと母さんに会えるよね」

「おいアクア。何でそこで母さんが出てくる?」

「思い出したんだ。ワタシの母さんも深き者族だったんだ。」

「マジでか?」

「カルマストラ3世事件って知ってる?」

「ああ、確か昔カルマストラ3世率いるタイラント族がジャガ族の非戦闘員を襲った事件だよな?それがどうかしたのか?」

「実はね、その事件の現場にアタシもいたんだ。どうも私達家族は昔はジャガ族のエリアで暮らしてたの」

「えっ、そうなの!?初耳だけど」

「カルマストラ3世の兵士達が私達を襲ったとき、お母さんは深き者族の姿に変身してタイラント族の兵と戦った。でも母さんは軍人じゃなく一般人だったから変身してもタイラントの正規兵には敵わず殺された。そして私は兵士に捕まったけどレイミのお父さんセドゲンスおじさんに助けられて今に至るわけ」

「そんなことがあったなんて知らなかったぜ」

「それでね、その事件のあとに、私はずっと自分の正体を忘れていた。ううん、きっと心の奥底で自分が化け物だってことを隠したかったんだと思う。怖かったんだ。タイラントの兵士達が『化け物め死ね!』と言って母さんを殺した記憶や、ジャガ族の人達が私と母さんを化け物のように見る目が怖くて、自分が深き者族だって事を忘れようとしたんだと思う……」

「そっか」

「フレア」

「なんだよ」

「私のこと嫌いになったでしょ」

「別に」

「フレア」

「今度はなんだよ」

「ごめんなさい」

「謝るなよ、らしくない。お前最近謝ってばかりだぞ。それにさ、お前は悪くないだろ」

「けど私は貴女の新しいお母さんを…イサカさんを奪おうとするところだった……」

「気にすんなって。イサカさんの事は絶対なんとかなる!だってパピリオ師匠もファウスト博士もレッド兄貴もいる!だからイサカさんは大丈夫。もし何かあったとしても、それはその時考えればいい!」

「でもこのまま手をこまねいてられないよね?」

「ああ、なんとかこの霧の牢屋から抜け出してマクンブドゥバの野朗をぶっ殺さないと!」

「そうね。その為にもまずはここから脱出しないと」

「なあ、アクア、お前の魔法でここの壁壊せないかな?あたしの火炎系の魔法はどうも効きが悪いんだ」

「この壁、黒い霧から黒い水になってる。実は水系の魔物生物かもしれない。同系統である私の水系の魔法は多分効きが悪い。一体どうしたら……そうだ、フレア、ちょっと待っててね」

「アクア?」

「よし、これで行けるはず」

「アクア、何やってんだ?靴とニーソ脱いでどうする気だ?って言うか何パンツまで脱いでるんだよ」

「か、勘違いしないでよ!コレは変身した時に服が破れないよう念の為に脱いだだけなんだから!……フレア、アタシ深き者族の姿に変身する!記憶が正しければ私は電気ウナギタイプのディープワンなの!変身して電撃でこの水を攻撃するつもりなの!」

「マジか!?」

「行くよフレア。変身、解除!」

「ちょ、いきなりすぎ……」

「……うーん、やっぱり上手く行かないなぁ」

「アクア、ダメなのか?」

「これ、魔力を練ったら変身できそうなんだけど、まだ体がそれについていかないの。もっと練習すれば出来るようになるかも」

「そうか」

「ねえ、フレア、貴女の兄貴分レッドさんはどうやってロート・ジークフリードに変身したの?」

「えっと、なんか、頭の中で変身したいって思ったら、いつの間にかって言ってた」

「そう。う~ん、コツとか無いのかしら?」

「そんなの無いよ。頭の中にイメージが湧いたと思ったらもう変身終わってたそうだし」

「そっか……。じゃあ仕方がないわ。とにかくやってみましょう。頭の中で強く願えばいつかは出来る筈だし」

「分かった。頑張ろうぜ」

「あのさ、フレア」

「なんだ?」

「お願いがあるの」

「なんだよ」

「これから先、私がどんな事になっても、絶対に私を嫌いにならないで欲しいの」

「はあ!?なんでだよ。当たり前だろ」

「ありがとう。ごめんなさい。変な事頼んで」

「なんだよ、訳分かんない奴」

アクアは父、鉄心が自分の前で声無き慟哭をあげたとき、深き者族に対する考え方に変化が起きていた。

これまでアクアは深き者族を深き者共という蔑称で呼び、モンスターと同じ人類に仇なす邪悪な存在のようにとらえていた。

実際マクンブドゥバ率いるイハ=ントレイや蔭洲升町の深き者共は野蛮かつ残虐で、繁殖祭でさらった生贄の娘達を陵辱し、人間を殺した数を競い合う恐ろしい所業を行っていた。

しかしアクアは同じ深き者族の父が、涙を流して自分を励ます姿を見て、深き者族に対し今までとは違う考えを持つようになっていた。

「お父さん、きっと今苦しんでる。そして父さんの部下の殺悪隊の人達も悪人には見えなかった……」

そう、鮫島鉄心の部下達はアクアが敬愛する隊長の娘だとわかると、とても親身になってアクアに接してくれた。

鉄砲海老型のプラズマ・ゼット、モンハナシャコ型のシャコ・ハマダ、巨漢蟹型のクラブ・キャンサー、クラゲ型のキロネ・月海

この四人は特にアクアに気をかけてくれた。

皆、自分の父親と同じように誇り高い武人であり、優しい人たちだったのだ。

だから自分が深き者族である事を忌み嫌い恐れることは、とても恥ずべき事だと思い直していた。

「皆さん、ごめんなさい。私ってほんとバカだ。私は何もわかっていなかった」

アクアの覚悟が決まった時、アクアの体が強い光を放ち始めた。

(な、何?一体どうなってるの?)

「な、なにやってんだよ、お前」

「分からない、でも、凄く気分が良い。力が溢れてくる」

アクアが目を瞑ると脳裏に恩師タットから教わった水の錬金術の知識と応用のイメージが浮かぶ。

それはアクアにとって初めて見るはずなのに何故か懐かしさを感じさせるものだった。

(ああ、分かる。これはお父さんが……)

思えば父鮫島鉄心と師雷牙タットは旧知の間柄で、父は先生に私の将来について色々相談していたように思える。

タット先生は私に水系の錬金術を優先的に教授してくれていた。

私の深き者族の力の解放と制御の鍵は水の錬金術にあると見越しての事だろう。

(先生、ありがとうございます。必ずやり遂げて見せます!!)

アクアは両手を天に掲げると呪文を唱え始める。

『母なる海の神よ、我が呼びかけに応え給え』

アクアの手のひらが青白く発光すると地面に光の線が走り魔法陣が形成される。

その魔法陣はアクアの身長程の大きさで地面に浮かび上がると強烈な光が放たれ辺り一面を包み込んだ。

その光景を目にしたフレアは驚きの声をあげる。

「な、なんだこれ?」

「すごい魔力を感じる。まるで世界が震えてるみたい」

「こ、これがアクアの力なのか!?」


アクアの全身から、水と光が融け合うような輝きが溢れ出す。

蒼き波紋が床を滑り、まるで海そのものが彼女を祝福しているかのようだった。


そして、姿は変わる。

一本の尾、青白き鱗、透きとおる膜翼――

それは、邪悪でも異形でもない。海が生んだ“理”そのものの姿。


光が消えたとき、アクアの姿は深き者族の姿になっていた。

その姿はイハ=ントレイや蔭洲升町の深き者族達とは違う、悍ましさや恐ろしさとは無縁の美しい姿だった。

2本の足が一本に融合し長い一本の人魚の尾の様になっている。

上半身は胸元が露出しており、背中に半透明で透けた羽が生えており、下半身は魚そのものだが美しい鱗に覆われ、青いヒレが生えている。

まるで人魚姫だった。

挿絵(By みてみん)

「お、おいアクア。それって」

「うん、見ての通りだよ。コレがあたしの深き者族としての姿みたい……」

「お、おまえ。怖くないのか」

「怖いわよ、でも大丈夫。今の私はこの姿を受け入れられる気がするもの」

「そっか、なら安心だな」

「フレア、あなたはどうするの」

「もちろん行くぜ、マクンブドゥバをぶっちめる!ここまで来て引き下がれねぇ!」

「分かった、じゃあ行くわよ」

「おう」

アクアが魔法ではない、電気魚としての発電攻撃を黒い水の牢獄に叩き込む。

黒い水が振動し霧状に霧散しだす。

「今よフレア!!」

「任せなっ」

フレア炎を纏った槍を構え、黒い霧に撃ち込んでいく。

「これで終わりだと思うなよぉ」

フレアは火炎魔法弾を撃ち込むと、魔法弾は魔法障壁に当たって反射する。

「おっと、あぶね」

「フレア、伏せなさい」

黒い霧から高圧水流の刃がフレアの背後から襲い掛かる。

フレアはギリギリのところで避けたが、その攻撃の余波は魔法陣の外に飛びでて、ルルイエ神殿内の周囲の壁に亀裂が入った。

「ちょ、ちょっと待てよ。威力高すぎだろ」

「大丈夫!こいつにこれ以上反撃をさせない!次で決めてしまえばいい!」

「へいへい」

「さっきので大分弱まったはず、一気に決めるわよ」

「了解」

二人は再び攻撃を開始する。

「喰らえぇ」

「行くわよ」

二人の放った炎と雷が黒い水を焼き尽くしていく。

そしてついに黒い水は完全に蒸発した。


「やったか……?」

一瞬の静寂。だが、空気が、異様な“粘り”を帯びてうねりだす。

「いえ……まだ、終わってない」

「マジかよ……!」


「フレア、下がって」

アクアは魔法陣を展開する。

すると黒い液体が溢れだし、魔法陣の中心に集まっていき、巨大なタコの様な人形に変化する。

『キシャアアアアアア』

「なんつー声出しやがる」

「あれが本体」

「そう言う事だ。さぁ来やがれ、お前の最後だ」

フレアが構えるとタコの人型が言葉を発する。

「調子に乗るなよ小娘共……」

その声を聞きアクアとフレアが硬直する。

何故ならばその声の主は此度の戦争の元凶たる、呪いの魔神マクンブドゥバの声に他ならなかったからだ。

闇が蠢き、波紋が走る。巨大な黒き影が魔法陣の中心から浮かび上がる。


闇が脈動し、空間がねじれる。魔法陣の中心が深淵と化す。

冷たい何かが、背骨を撫でるように這い上がってきた。

「……我は呪いの魔神マクンブドゥバ。夢より来たりて、汝らの魂を喰らおう……」


二人の少女の前に、ついに戦いの元凶が姿を現した。


↓物語をイメージしたリール動画


https://www.facebook.com/reel/1047949432958603


https://www.facebook.com/reel/1767239947111398

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