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乂阿戦記2 第六章 紫の魔女ナイアルラトホテップと邪神ロキは暗躍の影で嗤う-13 蟹の壁と地球最強毒

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読みやすくなりますよ❤︎

激闘の果て、キースと雷音はそれぞれの勝利を手にした。

 しかしその勝利の代償は小さくない。両者とも傷は深く、その場に倒れ伏したまま動けずにいた。


 と、その時。空間が歪み、二人の身体がアポートによって転移される。


「キース!雷音!」


 真っ先に駆け寄ったのは、クラスメイトの絵里洲とレイミだった。

 二人は即座に回復魔法を発動させ、倒れたキースに手をかざす。


「ヒールウォーター!」


 淡い光がキースの身体を包み、傷口がじわりと癒えていく。


「……あ、ああ……大丈夫だ……」


 うっすらと目を開いたキースに、絵里洲とレイミは胸をなでおろす。


 そんな様子を見守っていた、眼鏡をかけたスーツ姿の中年男性――問題児クラスの担任、タット先生が前へと進み出る。


「……ふむ。よくやったな、雷音。キース。お前たち、見事な戦いぶりだった」


 恩師のその一言に、雷音とキースは照れくさそうに顔を背けた。


「へへっ、まあな」


「ちょっとは、見直してくれましたかね?」


 だが、次の瞬間――


「だが、最後の“それ”はいただけんな」


 タットの語気が、ピシャリと鋭くなる。


「は?」


 雷音とキースが顔を見合わせる。


 タットはため息をつき、二人の額を弾いた。


「いってっ!」


「あたっ!?」


「気を抜くな、と言っている。これは戦場だ。試合ではない。勝利の余韻に浸っていた隙を突かれかけたことに気づいていたか?」


 タットの視線が鋭くなる。


「……お前たちの背後には、透明化能力を持つ殺悪隊兵が接近していた。気配を感じ取っていたのはアキンド君だけだった。もし彼のアポートが間に合わなければ、今ここにいないのは君たちの方だったぞ」


 雷音とキースは、言葉を失った。


「……すまん、先生」


「……悪ぃ。調子に乗った」


 タットは静かに頷いた。


「反省するのはいい。だが、命を落とせば次はない。忘れるな」


 場に重苦しい沈黙が流れる。

 だがそれを破ったのは、当の本人――アキンドだった。


「な、なあ!今、俺がチームを救ったってことで……つまり、俺の時代来た!?ついに来ちゃった!アポートだけじゃなくて、ここから俺の隠された力が覚醒して、俺が全員守って、世界救って、学園ハーレムでモテモテ展開になっていくんじゃないかこれーッ!?」


「違う」


 タットが一刀両断。


「お前のアポート能力は確かに必要だ。だが、君の出番はまだ先だ。というか、その中二病をまずなんとかしろ。あと、“ハーレム”という言葉は現実には存在しないと思え。いいな?」


「えええええええええええええッ!?」


 地面に膝をついて崩れ落ちるアキンド。


 その様子に場の空気が少し和み、ピリついた緊張が一時ほぐれた。


 だが次の瞬間、タットの声が再び場を引き締める。


 タットは皆の視線を一身に集めたまま、戦術端末を掲げると、戦場のマップをホログラムで表示した。


「作戦を伝える。この戦いの勝利の鍵は――明人君、君にかかっている」


「……お、俺ぇ!?」


 突如名前を呼ばれたアキンドは、目をまん丸に見開いた。


「やっぱり、ついに来たか……!俺の封印された力が覚醒して、全員を救い、学園一のモテ男になって、伝説のチートスキル“無限ハーレム召喚”が発動する日が……!」


「だ〜か〜ら〜……違うと言ってるだろう! 君の“アポート”が必要なだけだから! あと“無限ハーレム”ってなんだ。無限ハーレムって? そんなもん存在しない。現実を見ろ!」


「うぐぅ〜……!」


 またも地面に崩れ落ちるアキンド。

 だが、タットは構わず言葉を続けた。


「冗談はさておき、状況は極めて深刻だ。先程の透明化能力者――あれはおそらく“D・キロネックス”。地球最凶の毒性を誇るクラゲ型の深き者族。掠り傷でも命取りになる」


 戦況図の一点が赤く点滅し、危険区域であることを示している。


「奴は透明になって背後に回り、確実に仕留める。ひとり、またひとりと消していく暗殺型……それが“D・キロネックス”。明人君がやられれば、この戦線は即座に崩壊する。だからこそ――」


 タットはチームの前線メンバーを指差す。


「ルシル、獅鳳、雷華――君たち三人が前衛に立ち、まずキロネックスをあぶり出し、撃破してくれ」


「了解しました」


「任せてください」


「やるしかないね」


 三者が一斉に頷く。


「そして、リリスとセレスティア。君たちは引き続き、攻撃と魅了魔法での撹乱を続行。特に“透明化”を見破る魔法を使い、キロネックスの位置を炙り出すことが君たちの仕事だ」


「了解、魅了と魔法で暴いてやるわ」


「うふふ……女の武器は万能よ?」


 二人はいつもの調子で、軽くも頼もしく答える。


「後方支援――絵里洲、レイミ、ミリル、および神羅と鵺。君たちは万一に備えて回復と解毒に専念。前線に異変が起きた場合は即座に援護へ向かってくれ」


「はい!」


 タットの指示に、全員が真剣な眼差しで頷く。

 作戦は単純、だが危険。キロネックスのような暗殺型の敵に、真正面からぶつかるのは並の勇気ではできない。


「よし、作戦開始だ。ルシル、獅鳳、雷華――頼んだぞ!」


「了解!」


その言葉を合図に獅鳳、ルシル、雷華達はディープワン・キロネックスの討伐に向かった。


濃霧のような魔力の中、獅鳳・雷華・ルシルの三人は、緊張を孕んだ静寂を進んでいた。


 突如、空間が揺れる――敵が姿を現す合図だ。


 それは、まるで岩山のような巨体。

 砲台のような両腕に鋭利な鋏を携えた、蟹型の深き者族だった。


「来たか……!」


 獅鳳が雷杖ドゥラグラグナを両手剣に変形させる。


「これは“囮”かもしれません。本命であるキロネックスは別に――」


挿絵(By みてみん)

「やはりな」

その光景を目にしたタットはそう呟くと全員に指示を出した。

「全員、打ち合わせ通りに動くんだ!」

その言葉に頷いたメンバー達はそれぞれの役目を果たすべく動き出す。

まずは、透明化を見破る力を持つリリスとセレスティアが同時に魔法を放った。

『暴きの光よ!!』

2人の魔法使いの放つ聖なる光が周囲の闇を払う。

すると目の前にいたはずの敵が姿を現した。

しかし、敵の反応速度は速く、一瞬でその場から飛び退き距離を取る。

あくまで背後から回り込み暗殺の動きで毒を叩き込むつもりだ。

その素早さに驚く一行だったがすぐに気を取り直して武器を構える。

そんな中、ルシルだけは冷静に相手の動きを観察していた。

(あれが噂に聞いた透明化の能力か、厄介ですね……でも私には通じません!)

ルシルは眼を瞑り聖剣ラ・ピュセルを構える。

龍獅鳳は雷杖ドゥラグラグナを両手剣状態に変形させる。

そして雷華は魔剣クトゥグァを大太刀形態に変形させ構えを取った。

三者は示し合わせたかのように一斉に動いた。

雷華の魔剣クトゥグァの一閃で透明な敵を切り裂く。

続いてルシルの聖剣ラ・ピュセルの剣撃が見えない相手を捉える。

更に魔剣クトゥグァの炎撃で焼き尽くす。

最後に獅鳳が電撃を浴びせかけた。

敵は為す術もなく黒焦げになり崩れ落ちる。

「やった!」

雷華は喜びの声を上げる。

だが、その喜びは長くは続かなかった。

なんと、倒れ伏した敵の身体がみるみるうちに再生していくではないか。

「そん……な……」

雷華は驚きを隠せない。

「これがヤツらの恐ろしさです」

ルシルは淡々と言葉を紡ぐ。

雷華が尋ねる。

「不死身ってこと?」

「いえ、さっき倒したと見せかけたのは空蝉、触手を伸ばし人型に見せかけた偽物。本体は別にいます!」

ルシルは首を横に振る。

「ただ、これだけは言えます」

「何?」

「このままではジリ貧だということです」

巨漢の蟹の戦士が鋏を振りかぶって叩きつけてくる。

獅鳳はそれを受け止めた。

「くっ!重い!!」

なんとか押し返そうとするも、そのまま地面に押し付けられてしまう。

「獅鳳!!くそっ離せっ!!!」

雷華は怒りに任せて切りつけるも拘束を解くことはできない。

「雷華さん!危ない!!」

ルシルが叫んだ。

「え?あっ!?」

気づいたときには遅かった。

もう一つの巨大な鋏が雷華を捕らえたのだ。

「しまった!!」

雷華は慌てて逃れようとするも抜け出せない。

「うわぁあああああああああ」

悲鳴を上げながら振り回される。

「二人共今助けます!」

ルシルは急いで駆け寄る。

「真空斬!」

ルシルが虚空に素振りを振ると、真空の刃が放たれ蟹の戦士の両手の鋏を切り落とす。

間接部を上手く狙い抜いたのだ。

蟹の戦士”クラブキャンサー”はすぐ様後ろに飛び退き両手に力を込める。

両手の鋏がすぐさま新しく生え替わる。

しかも先程よりも大きく鋭い。

「そんな……」

雷華の顔が絶望に染まった。

「危ない」

ルシルが聖剣を構え雷華の後ろに回り込む。

ギィイインと刃がぶつかり合う音がした。

ルシルは透明化したD・キロネックスが雷華を切りつけるのを咄嗟に防いだのだ。

「おのれ!」

獅鳳がD・キロネックスに切り掛かる。

今度はクラブキャンサーが割り込み獅鳳の雷剣を受け止める。

透明のD・キロネックスは後に下がり毒針触手をお見舞いする機会を伺いだした。

「く!厄介なコンビネーションだな!」

「見える巨漢が囮と壁役を兼ね、見えないキロネックスが背後を狙う……手強いですね!」

ルシルは雷華の元へ急ぐ。

「大丈夫ですか?」

雷華は起き上がり答える。

「あ、ああ、ありがとう。……獅鳳、このままじゃ私達ルシルさんの足手纏いだ。私達も勇魔共鳴を発動しよう!じゃないとこの強敵には勝てない!」

「分かった!」

獅鳳は雷杖ドゥラグラグナを天に掲げ叫ぶ。

「「我ら勇者の誓いの元に集い、絆の力発動せん!我らは我が絆人の半身となりていざ共に闘わん!勇者合身!!勇魔共鳴!」」

二人の身体を光が包み込みやがてそれは一体となる。

獅鳳は雷と炎を纏う翠の鎧を纏い、右手に雷剣ドゥラグラグナを左手に魔剣クトゥグァを持っていた。

背には炎の翼を生やした半透明の雷華が、獅鳳を守護するように浮かんでいた。

ルシルは勇魔共鳴を知らなかったが、これが勇者の秘儀なのだと理解できた。

勇者の力が飛躍的に増すのを感じたからだ。

「これは凄い力です。これならいけるかもしれません」

「ええ、いきましょう」

「おう」

獅鳳の掛け声と共に2人はクラブキャンサーに斬りかかる。

「「「はぁー!!」」」

「シャー!」

クラブキャンサーは甲殻を切り裂かれていく。

「「「今だ!」」」

「シャァアアアアアアアーッ!」

クラブキャンサーは猛烈な勢いで鋏を繰り出す。

「「うわっ!?」」

「危ない!」

ルシルは二人を庇うように前に出る。

「シャアッ!」

巨大蟹の戦士とルシルの刃が鍔迫り合いをする。

聖剣から放たれる風圧がルシルの剣を後押しし、体格で勝るクラブキャンサーと五分の力比べに持ち込んでいる。

だがそれはルシルが硬直して動けない状態でもある。

それを見逃すD・キロネックスではなかった。

「シュウァアアーッ!」

無数の数の透明な猛毒触手が四方八方からルシルを襲う。

だがその触手を二刀流の獅鳳が嵐の様な連撃で叩き落とす。


「紅流鳳凰飛翔剣舞!!」

雷華と共鳴している獅鳳は、雷華の奥義をもって触手達を切り落としていく。

「シュアアアアアア!!!」

攻撃の激しさにたまらず後退するD・キロネックス。


一拍置くように、獅鳳は剣を構え直し、ルシルの援護へと向かう。


「はあああっ」

「シャア!?」

ルシルは剣の風圧を強め押し返す。

小柄なその体躯で2メートル以上の巨漢の戦士を押し返そうとする。

「はあああああああああっ」

クラブキャンサーも負けじと少女を押し潰そうと力をこめる。


聖剣を構えたその姿に、誰もが息を呑む。

雷音、キース、獅鳳ですらかつて一度も勝てなかった、学園最強の少女。

フェニックスヘブンに次ぐHEROランキング第2位――それが、彼女の“本当の姿”だった。


挿絵(By みてみん)

そんな彼女の必殺技が今まさに放たれようとしていた。

「はああぁ……」

ルシルは身体中に聖なる光を集めていた。

それはまるで太陽の如き輝きを放ち始めていた。

「シャァアアアアアアアアアアアア!!!」

クラブキャンサーも負けじと二対の豪腕にありったけの力を込める。

だがそれより先にルシルの集めた光が剣に宿り奥義として発動する。

ルシルの全身全霊を込めた一撃がクラブキャンサーに炸裂する。

「聖光剣エグゼクティブセイバーーーーー!!!!」

「シャアアアアアア」

猛烈な光の奔流がクラブキャンサーを吹き飛ばす。

「アアアアアアアア!!!」

ルシルの奥義を受けたクラブキャンサーは断末魔の叫び声をあげながら、何十メートルも吹っ飛びKOされた。

「ふぅ……」


ルシルは額の汗を拭うと、静かに剣を鞘に納めた。

それは、どんな拍手よりも静かな勝者の儀式だった。

↓物語をイメージしたリール動画


https://www.facebook.com/reel/1352055578717971

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