乂阿戦記2 第六章 紫の魔女ナイアルラトホテップと邪神ロキは暗躍の影で嗤う-12 殺悪隊特攻隊長"浜田車虎"
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一方その頃、蛮童熹助ことキースはモンハナシャコの戦士…いや拳闘士と激闘を繰り広げていた。
相手の攻撃を避けつつカウンターを決めるキースだが、いかんせん相手が固すぎる上に防御も固いのでなかなかダメージを与えられないでいた。
(くっそ!こいつ硬えなあ……!ボクシングのピーカブスタイルだったか? 殻も硬えがディフェンスのテクも上手え!そしてなにより!!っ)
ぱあぁん!突如破裂音とともに、、目の前に巨大な拳が現れたかと思うと凄まじい速度で振り抜かれる。
ガシッ!! それを両手で挟み受け止めようとするキース。
だが、その瞬間キースの腕からシャコの拳は消えピーカブスタイルの構えにもどっている。
(ぐっ!?なんてパワーとスピードだ……!!掴めねえ!キチンとパンチの引きの速さが突きと同じ速さでやがる!)
たまらずバックステップで下がるキースだったが、シャコは体を∞の字にゆらし猛烈なラッシュを繰り出してくる。
咄嗟に時計回りに横にかわすがすぐさまに第二波が来た。
(うおお!デンプシーロール!!くそったれぇええ!!!)
上体を反らしてなんとか躱すキースだったが、第三波が襲い掛かってくる。
(冗談じゃねえぞコラァアアア!!!!)
心の中で絶叫しつつ必死に避けるキースだったが、ついに追いつかれてしまう。ゴォオオオン!!! 強烈な一撃が炸裂し、防御ごと吹き飛ばされたキースが地面を転がる。
モンハナシャコのパンチは――わずか0.004秒で時速80km。
その加速は銃弾並み、拳の周囲にキャビテーションを引き起こし、水すら閃光と共に沸騰させる。
パンチ力720トン。 まともに喰らえば、人間はミンチになる。
だが、フィジカルの怪物――蛮童熹助だからこそ、それでも立っていられた。
フィジカルの怪物であるキースだからこそ、そのパンチに耐えられている。
ゴロゴロと転がりようやく止まったところでキースは大きく息を吐き呼吸を整えると立ち上がる。
そんな彼に再び拳を構えたシャコが突撃してくるのが見えた。
それを見てキースも腹をくくる。
(あー、やめだやめ!ウダウダ考えて受けに回るのは性に合わないぜ!獅鳳と戦ったときのように頭空っぽにして暴れるぜ!!)
そう決めた彼は両手を握りゴリラのように胸をドンドンと叩いて叫ぶ。
「いくぜぇえええ!!!」
そしてそのまま全力で突進するのだった。
モンハナシャコの最大の武器は実は目である。
その目は甲殻類最強と呼ばれる程の視力で、10万色を識別できる(人間の10倍敏感)他、赤外線や紫外線なども目視できる。
故にモンハナシャコは世界一視聴電磁波周波が広い動物としてギネスブックに掲載されている。
その最強の目でシャコはキースの攻撃をしっかりと捉えていた。右ストレートからの左フック、アッパー、ジャブ、ワンツー、左右の蹴り上げ、飛び膝蹴りなど次々に放つ技を確実に見極めていく。
さらにそこからのコンビネーションを完璧に捌ききっていた。
しかもそれだけではなく時折わざとガードを下げて攻撃を受けることで相手の動きを誘導していたのである。
つまり完全に手玉に取られていたのである。
(ちくしょう!まるで闘牛士だぜ畜生めぇぇえ!!!)
それでもなお諦めず次々と攻め立てるキースだがことごとく防がれるか避けられるかされてしまう。
やがて疲労から動きが鈍り始めたところにカウンターを叩き込まれてしまい地面に転がる。
キースの闘いを見守るレイミ達に動揺が走る。
しかし、それは絶望ではない。
彼らはその光景に見覚えがあった。
そう、入学早々キースは龍獅鳳に決闘を挑んでは来る日も来る日もボコボコにされ、負けては立ち上がり、挑戦を続け、ついには互角に競り合うまでに進化してみせた。
今のキースの姿は妙にその日々の事を思い起こさせる。
そう思いながら皆はキースに視線を向けた。
ちょうどキースが立ち上がったところだった。
「へっ、なかなかやるじゃねえかよ」
そう言いながらも彼の顔には笑みが浮かんでいる。
どうやらまだまだ体力は余裕のようだ。
タフネスさだけなら神域の武仙の域にあるだろう。
そんな様子にシャコは警戒を強めたのか攻撃の手を休め間合いを取ると様子を窺うようにゆらゆらと揺れ始める。
ボクシングのリズムをとっている。
「おいおい、もう終わりかよ?」
それを見たキースが挑発するように声をかける。
その言葉に反応するようにシャコが再び襲いかかってくる。
先程より速い動きで迫ってくる。
必殺のデンプシーロールだ。
キースは体をギリギリまで引きつけ、紙一重で避けつつ拳を繰り出す。
「おらっ!」
ガツンッと鈍い音が響き渡り、確かな手応えを感じる。
続けて連続してパンチをお見舞いするが、その全てを躱されるどころか受け止められ、いなされ、受け止めきれない分は綺麗に流されてしまう始末であった。
その様子を見ていた同級生達は皆一様に驚きの表情を見せる。
それもそのはず、キースはこれまで全ての攻撃を捌かれてきたにもかかわらず今度はそのパンチが少しずつではあるが当たり出したのである。
無論相手のディフェンステクニックの前に大したダメージは無い。
だが、それでも命中しだしたのだ。
戦いの動きがサマになりつつあったのだ。
そして遂に、それまで避けられ続けていた拳がついにシャコの顔面を、キースの拳が掠めた。
「なっ……!」
バランスを崩し、一歩後退するシャコ。
次の一撃は腹部にクリーンヒット。続くカウンターを狙うが、またしてもキースの拳が顎を打ち抜いた。
吹き飛ばされるシャコ。
(なぜ……避けられない? 見えているはずだ。動きも、拳の軌道も、完璧に……)
視覚が捉えている。それでも当たる。
理由は一つ――**“リズム”**だ。
「いちにの……さーん♪」
キースは鼻歌混じりに、拳を振る。
「いち、にの……さーん!!」
洗練などしていない。型もなければ理論もない。ただ、己の身体に染みついた喧嘩のリズムで――拳を最適なタイミングに当て込む。
そのリズムに、シャコの高度な視覚すらも、一瞬だけ“遅れ”を取った。
「ふっふふーん♪」
キースは構え、シャコは本能的に警戒する。
そして、再び交錯。
キースは何やらブツブツ呟いている。
「いちにのさん…ウムこれだな…いちにのさん!当てるのならこれだ…いちのさん…このリズムだ。このタイミングだ。1、2の3!!…」
シャコの強さのベースは、地道に積み上げたボクシングの練習量からくるもの…
だが目の前の男は、野生動物のように生まれ持ったフィジカルとセンスと野生の本能でひたすら実践の中で強く強く進化している。
日々の地道な練習で強くなったシャコにとって、それは決して認めたくない強さだっだ。
このままではマズイと思ったのか一旦距離を取ると、そこでようやく構えを取り直すことにしたようだ。
そう、デンプシーロールはカウンターを取られやすいことに気づいたのだ。
シャコはトドメを刺すタイミングが訪れるまで、一旦振り子の動きを封印することにした。
対するキースの方も迎え撃つべく静かに身構えていた。
ボクシングとは程遠い喧嘩屋の構え方である。
利き腕を腹の前あたりで軽く握り、利き腕じゃない方を頭付近に持って軽く握り、アゴは軽く引き、少し前傾姿勢で、変な力みを入れずリラックスして立っている。
互いに間合いを詰めると先に動いたのはシャコの方だった。
(速い!)
キースは相手のあまりのスピードに驚きつつも、それでもなんとか目で追うことはできたようで、すぐに反撃に移ることができた。
左ジャブからの右ストレート――避けられた。
次の瞬間、キースの腹に拳が突き刺さる。
ドゴッ!! 鈍い音と共に地面へ沈む。
意識が飛んだか、一瞬、動けない。
「ムーガムガ……フンガーッ!!」
だがキースは――立った。
血を吐き、内臓が悲鳴をあげても、拳を下ろさない。
「ふっふふーん♪」
鼻歌を口ずさみながら、フラつきつつも構えを取る。
その姿は、もう狂気か信念か、境界すら曖昧だった。
ヤケクソの挑発だろうか?
カウンターを取るためのリズムだろうか?
それとも打撃コンビネーションを放つためのイメージの組み立てだろうか?
どちらにせよ、今のキースは隙だらけに見えた。
それを見て取ったシャコは一気に距離を詰め、渾身の一撃を放った!
―――ドゴォッ!!! 拳が腹にめり込み、メキメキと音を立てて内臓を押し潰す。
「ぐぶぉ!?」
口から反吐を吐き苦悶の表情を見せるキース。
地獄の苦しみの悶絶ボディーブロー
だが、それでもなお闘志を失わない目でシャコを睨みつけてくる。
どうやらまだ戦意を失っていないらしい。
ならばと、そのまま追撃を加えるべく拳を握り締め必殺のパンチを放つ。
またもシャコの拳が、キースの腹に突き刺さる。音が、内臓の悲鳴を伝える。
「が……はっ!」
だが、それでも――キースは立ち上がる。
血を流し、立ちくらみながらも、キースは再びファイティングポーズを取る。
その姿に、シャコは思わず一歩引いた。
だが、次の瞬間には――
「いち、にの、さぁああん!!!」
叫びと共に、キースの拳がシャコの顎を打ち抜く!!
「ッ――!?」
脳が揺れ、視界が暗転。膝が崩れる。
シャコが倒れ伏す。
洗練されたボクシングとはほど遠い喧嘩屋のパンチがシャコの顎先を掠め、脳が激しくシェイクされ膝がカクンと落ち前のめりに倒れた。
意識が混濁する中、聞いた言葉は……
「ワン……」
(――立て、すぐだ、まだやれる……!)
「ツー……スリー……」
(こんな奴に負けるなんて……俺は……ボクサーだろうが……!)
「フォー……ファイブ……」
シャコは拳をつき、ぐらつく膝を叩いた。
「シックス……」
(目は見える。動きも読める……なぜ……なぜ当たった!?)
「セブン……エイト……」
起きろ。心が叫ぶ。だが――足が動かない。
「ナイン……」
(くそ……くそっ……立て……頼む……!)
「……テン。」
だが彼はテンカウントを聞いてしまった。
シャコはドサッと鈍い音を立て倒れこんだ。
「俺の勝ちだな!」
ニヤリと笑うキースと対照的に悔しさのあまり涙を流すシャコ。
ボクサーがテンカウントを聞いて立ち上がれなかったのだ。
彼の心はボキリと折れた。
彼はもう戦えない。
勝者はキース
「おおおおおー!俺が最強だあああああああああ!!」
キースは勝利の雄叫びを上げると、満面の笑みで仰向けに倒れ気絶した。
↓物語をイメージしたリール動画
https://www.facebook.com/reel/1063093125837395/?s=fb_shorts_tab&stack_idx=0