乂阿戦記2 第六章 紫の魔女ナイアルラトホテップと邪神ロキは暗躍の影で嗤う-10 "速射爆拳"鮫島鉄心vs"銀仮面"乂羅漢
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ロキは薄笑いを浮かべながら、戦闘態勢をとる雷音たちを眺めた。
「おやおや、ずいぶん勇ましいね。でも──君たちじゃ僕の相手には、ちょっと荷が重いよ?」
彼が指を軽く鳴らした刹那、足元から浮かび上がるように複数の魔法陣が展開される。
地を這う闇の亀裂、その中心から現れたのは、異形の軍勢。
深き者たちがロキを取り囲むように列をなし、軍楽もないのに戦場の鼓動が高鳴った。
「くっそぉー、こいつら数が多すぎるぞ!?」
倒しても倒してもキリがない。
もう何体目になるだろうか?
倒した敵の中には明らかに雑魚っぽい連中も居たので恐らくコイツらは時間稼ぎの雑兵なのだろう。
その証拠に、殺悪隊らしき猛者達はロキの召喚術発動と共に後ろに下がっている。
このままじゃむざむざクトゥルフ改獣化の儀式が完成してしまう!
雷音達は起死回生を狙い機神招来を行おうと試みる。
だが即座にマクンブドゥバが命令を下す。
「イサカ!メタモルフォーゼキャンセラーを発動させろ!!」
イサカが虚な目で手をかざす。
「ジャミング展開……メタモルフォーゼキャンセラー発動……」
雷音達が持つ封獣の変身の力と機械神召喚の力が無効化される。
ネロが白水晶の方を見て叫ぶ。
「妹機白水晶よ!アンチメタモルフォーゼキャンセラーは使えるか!?」
「使える……当機、姉機イブよりアンチメタモルフォーゼキャンセラーのプログラムを継承済み……けど姉機のメタモルフォーゼキャンセラー出力は莫大……私達二人の出力じゃ相殺は困難……」
「いいからアンチメタモルフォーゼキャンセラーだ!!」
「っ!!……了解、ネロ姉機!!」
ネロの叱咤に白水晶が力強く答える。
二人のアンチメタモルフォーゼキャンセラーの発動で雷音達は機神招来こそ出来ないものの、HERO形態への変身は可能になった。
リリスとセレスティアが隕石魔法と魅了魔法で下級邪神達をよく相手取ってくれている。
他のクラスメイトや地球防衛軍の兵士達も雑魚の深き者共相手に奮戦している。だが、状況ははっきり言ってジリ貧だった。
(クソ!あともうひと推しの戦力が欲しい!)
雷音が心の中でそう愚痴った時だった。
敵の真っ只中に血栓が吹き上がり、2つの銀の影が姿を現した。
「助けに来たぞ雷音!」
「グギャギャギャギャ!盛り上がってるじゃねえかあ?」
「羅漢兄さん!羅刹姉さん!」
神羅が歓喜の声を上げる。
どうやら増援としてやって来たらしい。
「加勢するぜえ!」
そう言って羅刹が飛び蹴りを放つ。
敵は吹っ飛び、地面に倒れる。
そして起き上がろうとしたところを今度は羅漢が踏みつけてとどめをさす。
更に追撃とばかりに近くにいた敵を殴り飛ばす。
それだけで数十メートル吹っ飛ばされ、地面の上を転がる。
そんな様子を横目で見つつ、羅漢が拳を握って気合いを入れる。
「さあ、こっから反撃開始だ!」
「グオオオオオオッ!!!」
雄叫びを上げながら、巨大なダゴンが口から炎を吐く。
巨大な炎が辺り一帯を焼き尽くす。
その様子を見ていた神羅達は思わず顔を引きつらせる。
「流石にこれはヤバいわね……」
「うん、ちょっと厳しいかも」
神羅とミリルが苦い顔をする。
他の面々も同様だ。
そんな中、ひとりだけ余裕の表情を見せる者がいた。
「ふっ、こんなものか」
羅刹だった。
業火の中、悠然と立つその姿は、まるで熱を感じていないかのようだった。
身を包む銀の魔力が、炎すら退けている。
その異様な光景に、マクンブドゥバが震える。
「な、なんだ? この圧倒的な禍々しき魔力は!? こ、これは……最強の魔女ラスヴェードと同じ……い、いや、ありえん! あの魔女は女神ユキルとの一騎打ちで敗れ、死んだはず……!」
狼狽するマクンブドゥバに、羅刹が口元を吊り上げて言う。
「ああ、確かに私はあいつに敗れて、一度は死んださ。けど……」
彼女の身体から、銀のオーラが立ち昇る。
それはまるで月光のような輝き――しかし中には煤けた怨嗟と絶望の色が混じっていた。
「輪廻転生ってやつさ。地獄から這い戻ったんだよ」
その一言が響いた瞬間、場の空気が凍りついた。
まるで世界が息を呑んだかのように、音が消える。
やがて、静寂を裂くように、羅刹の足元に魔法陣が浮かび上がった。
バチバチと火花を散らしながら、空間を歪める異形の陣。
それは、冥府の底から這い出す悪夢の門だった。
火花を散らすように歪んだ魔法陣から、焼け焦げた黒い骨の手が突き出される。
それは地中から這い出る亡者のように、呻き声を上げながらダゴンたちに絡みつき、動きを封じていく。
さらに別の魔法陣からは、朽ちた軍服をまとった黒骨の兵士たちが出現した。
彼らは無言で銃口を構え、腐敗臭をまき散らしながら一斉に掃射を開始する。
ダガガガガガッ!!
腐りかけた銃器から吐き出された弾丸は、まるで呪詛そのものだった。
敵を貫き、燃やし、霊気で浸食し、やがて塵に還す――まさに地獄の軍勢。
マクンブドゥバは戦慄した。
目の前にいるのは、ただの強者ではない。
これは災厄だ。
存在するだけで戦場の理を歪め、味方の士気すら削る、死の象徴。
「そ、そんなバカな……お前は一体、何者なのだ……っ!?」
震える声で問いかけたマクンブドゥバに、羅刹は口元を吊り上げて答える。
「……忘れたか? ボケたか~? マクンブドゥバのタコジジイ~?」
一瞬の間。
そして――
「アタシだよ。“灰色の魔女”ラスヴェードさ!」
言い放ったその名は、数多の戦場に恐怖と災厄を刻んだ伝説だった。
「まあ……今のアタシは、もう昔の私じゃないけどね」
不敵に笑いながら、羅刹は手をかざす。
焼け焦げた骨の軍勢が、一斉に弾丸を再装填する。
――まだ終わりではない。これからが“本番”だった。
瞬く間に敵が倒されていき、あらかたの雑魚を消し去ったところで、羅刹はその男を睨みつけた。
「さて、次はお待ちかねのメインディッシュだな」
その言葉にマクンブドゥバはビクリと震える。
その様子を見た後、再び視線を相手に向けて言う。
「お前とは知らぬ仲でも無いがこれも乂族副頭目としての務めだ。悪く思うなよ」
その言葉と共に羅刹が手を振り下ろし骸達が銃弾を掃射する。
しかし、その攻撃が当たる直前で何者かによって阻まれてしまう。
無数の銃弾全てをなんと素手の回し受けで弾き飛ばしたのだ。
その男は背丈は少し低いが恐ろしく筋肉質で鮫の如き面構えだった。
「おお!でかした速射爆拳!!」
マクンブドゥバが援軍に安堵する。
"速射爆拳"鮫島鉄心の横にいた蛙冥刃ヒキガエルが居合の構えをとり、羅刹の方に向かって駆ける。
雷光一閃、稲妻切り!
ガキィン!と甲高い金属音が鳴る。
羅刹は封獣ケルビムべロスを斬魔刀形態に変え蛙冥刃の剣を防いでいた。
「あっしの渾身の居合をあっさり防ぎやすかあ……姐さんいくらなんでも強すぎやしやせん?」
ヒキガエルが引きつった笑みを漏らす。
それに対して羅刹は不敵な笑みを浮かべるだけだった。
「グギャギャギャギャ〜!貴様が殺悪隊副隊長蛙冥刃か〜?いいぞいいぞ〜!その腕前、貴様は私の獲物に相応しい!」
そしてそのまま鍔迫り合いをしていたかと思うと突如後ろに飛び退き距離を取る。
それを見たヒキガエルも警戒したのか追撃を仕掛けようとはしなかった。
その様子を見て羅刹はさらに笑みを深くする。
「グギャギャギャギャ!!どうしたどうしたぁ!?もっとかかってこいよぉ!!」
そう叫びながら刀を構える羅刹に対して、ヒキガエルは冷や汗を流していた。
(なんてこってす、まさかこれほどとは……)
羅刹の殺気の強さに驚愕しつつも、それでも蛙冥刃は冷静に相手の出方を伺っていた。
一方、羅漢の方はと言うと……
「……」
無言で佇んでいた。
一見隙だらけに見えるかもしれないが、実際はそうではない。
その証拠に、対峙者である鮫島鉄心は迂闊に攻め込めないでいた。
「……お見事です羅漢様。その若さでよくぞそこまでの武の格を会得なされた。今は亡き楚項烈館長もさぞやあの世で鼻がお高いでしょう……」
伝説の武神楚項烈の高弟であった鮫島鉄心は、亡き師の息子羅漢に複雑な想いで向かいあっている。
それは羅漢も同じであった。
「何故です兄弟子?…貴方程の武芸者が何故マクンブドゥバごとき悪辣漢の言いなりになっているのです?」
鮫島鉄心はしばし目を伏せ答える。
「……薬がいるのです。娘を深き者から人間に変えてやる為の薬が必要なのです!そして娘を人間にしてやる"人魚姫の薬"は深き者族の長老であるマクンブドゥバ老しか作れない……。どうぞお笑い下さい。この矮小なる人間を…大義も正義もない…私はただ…ただ娘を助けたい! 私はただ娘を助けたいだけの父親に過ぎないのです!!」
鮫島鉄心が両の眼から血の涙を流す。
それでも闘う姿勢に揺らぎはない。
「我が世界は一瞬の拳撃。ただ一瞬一瞬の一撃に全力を込め無我の境地に至らん。邪念を捨て去りただ拳を振るわん!変身解除!速射爆拳参る!!」
速射爆拳鮫島鉄心が正拳突きの構えをとる!
そして人の姿を捨て深き者族の姿を取る。
その姿は陸の鮫
おぞましさはない。
恐ろしさはない。
ただわかる。
この漢は圧倒的に強いとただわかる。
その姿はただただ強さを求道した人型の鮫の姿!
「っ!兄弟子!……鉄心さんっっ!!」
乂羅漢が悲しくて叫ぶ!
『ガアアアアアアアッ!!』
瞬間、青黒い塊が一直線に向かってくる。
それはまるで巨大な弾丸のように、 その一撃一撃に全てを込めているかのように、 全てを穿ち貫くように、 ただ真っ直ぐに、 真っ直ぐに向かってきた。
その速さ、その迫力、その威圧感、 その圧力、その威力、 その殺意、その気迫、その敵意、その闘志、その覚悟、 その意思、その決意、その想い、 その信念、その執念、その誇り、 その魂、その心、その意志、その精神、 その生命、 それら全てが込められた必殺のラッシュ!!
しかし、それらを躱す術などあるはずがない。
何故なら相手は絶対的強者なのだから、 その拳の嵐の前に人は無力だから、 ただ死ぬしかないから、 そう、ただ、死 ぬ し か な い!!!
「うおおおおおおっ!!!」
その瞬間、天を衝く雄叫びと共に乂羅漢の姿が変わる。
その姿は白虎
封獣ケルビムべロスの力を解放しヒーロースーツとして纏った、銀の勇者乂羅漢の最強戦闘形態!
「──変!神!《ケルビムべロス》!!」
羅漢が天に拳を突き上げた瞬間、銀の奔流が地を割り天を裂く。
次の瞬間、彼の肉体は勇者の装甲へと包まれ、白銀の鎧がその身を覆った。
生まれ変わったその姿──銀の勇者・乂羅漢。
それは希望の化身、そして絶望を断ち切る光であった。
その姿こそ最高の勇者と名高い銀の勇者・ケルビムベロス!
「うおおおおっ!!!」
鮫と虎が殴り合う。
それぞれの拳から放たれる破壊の余波はただ凄まじいの一言
「ちぃ、コレが鮫のオッさんの本気か!」
狗鬼漢児ことアーレスタロスが地球防衛軍の面々を守るべく中和の障壁をはる。
「ぬうう!コレが音に聞こえしケルビムべロスの虎の実力か!」
レッドキクロプスことロート・ジークフリードが深き者族の兵を守るべく中和の障壁をはる。
虎と鮫の破壊余波の激しさに両HEROは破壊の中和に専念せざるを得ない状況に陥った。
猛烈な殴り合いの中、羅漢が気合と共に右ストレートを放った。
拳の軌道が空を裂き、轟くような衝撃波が巻き起こる。
その一撃は、真正面から鮫島鉄心を打ち据えた。
だが――それだけで終わる相手ではない。
鉄心は直後、まるで獣の反射のようにカウンターを叩き込んできた。
音が消えた。
羅漢の視界がぐにゃりと歪み、風が吹き飛ぶ。
(速い……! しかも、重い!!)
拳を避けるのはもう不可能。
羅漢は咄嗟に判断を変える。避けるのではなく、撃ち抜く覚悟で迎え撃つ。
「……なら、相打ちだッ!!」
自らの体を犠牲に、拳を突き出す。
骨が軋む。筋肉が裂ける。
――それでも、振り抜いた。
鉄心の拳が羅漢の左鎖骨を砕く音が響くと同時に、
羅漢の掌底が鮫島の耳元を撃ち抜いた。
鼓膜が裂け、空間が悲鳴を上げる。
二人の巨体が衝突し、よろめき、血の飛沫が飛んだ。
割れた床に足を取られながらも、どちらも倒れない。
――まだだ、まだ終わらせない。
「ぐうっ……!!」
「があっ……!!」
互いに深手を負い、ゆっくりと距離を取る。
息が荒い。血が滴る。
一瞬でも油断すれば、死が口を開けて待っている。
それでも、二人は拳を下ろさなかった。
闘うことこそが、自らの祈りであり、誇りであり──魂だった。
静かに、拳を構え直す羅漢。
そして、それを正面から受け止める覚悟で立つ鮫島。
互いに語ることはない。
すでに言葉では語れぬ想いが、拳にすべて込められていた。
それは、人と人の“信念”が正面からぶつかり合う、ただ一つの瞬間だった。
↓物語をイメージしたリール動画
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