乂阿戦記2 第六章 紫の魔女ナイアルラトホテップと邪神ロキは暗躍の影で嗤う-5 クトゥルフ戦争開戦
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バエルスター内、医務区画の静かな一室。
蒼白な光が窓の外から差し込む中、イサカは目を覚ました。まぶたの裏に残る夢の残滓は消え、代わりに現実の重みがゆっくりと意識へと沈み込んでくる。
「……ここは?」
視線を巡らせた彼女の目に、真っ先に映ったのは、傍らのソファに眠る少年だった。獅鳳。彼女のかつての弟子であり、彼女が裏切った家族。
その名を口にする前に、彼が目を覚ました。
「……イブさん?」
眠気混じりの声に込められた安堵の響き。彼はすぐさま彼女に駆け寄り、涙ぐむような笑顔で言った。
「よかった……! 目を覚ましたんですね!」
そのまま彼は彼女に抱きついた。突然のことにイサカは一瞬身体を強張らせたが、すぐにその腕を、優しく包み込むように抱き返した。
「……ごめんなさい」
それは、誰に対しての謝罪なのか、自分でもわからなかった。
沈黙の後、二人はぽつりぽつりと言葉を交わし始めた。
イサカは語った。アルビノ狩りで家族を失った過去。復讐に身を投じ、魔法女神から『復讐の女神』と呼ばれた哀しき経緯。そして、自らの過ちと後悔を。
「……結局、私は何も為せなかった。ただ多くを失い、多くを巻き込んだだけだ。あなたの大切な乳母まで……」
獅鳳は静かに首を横に振る。そして、言った。
「いいえ。あなたが戻ってきてくれて、僕は……ただそれが、嬉しかったんです」
その言葉に、イサカの目から音もなく涙が零れ落ちた。
彼女は泣きながら、震える声で呟いた。
「……ありがとう。獅鳳。あなたは、いつだって優しすぎる……」
その時、扉が開いた。
「やれやれ……情緒豊かな再会のところ、割り込むのは気が引けるがね」
白銀の髪に海の如き瞳をたたえた初老の男――オリンポス海王神、ノーデンス・ポセイドンであった。
「……ノーデンス……」
イサカの声に、男は静かに微笑む。
「目が覚めたようだな。……気分はどうだ?」
「……悪くない。むしろ、すっきりしている。あなたの顔を見るのも、久しぶりだ。師匠」
その呼称に、ノーデンスの表情が一瞬だけ和らぐ。
「すまなかったな、イサカ。君が眠る間、君の記憶の断片を解析させてもらった。辛い記憶ばかりだった」
「気にするな。もう、向き合わねばならぬ時なのだ」
ノーデンスは小さく頷く。
「君が、“人”に戻ってくれたことを、私は本当に嬉しく思う。かつて、“いらないモノ”と嘯いていた君が……今こうして、自分の存在に意味を見出していることが、何よりだ」
その言葉に、イサカの表情が一瞬だけ揺らいだ。
「……あなたが、そう導いてくれた」
「いや、私は道を示しただけだ。歩くかどうかは、君自身が選んだことだよ」
二人の会話は静かに続いていく。やがて、ノーデンスの表情が険しくなった。
「イサカ。……君は、これからどうするつもりだ?」
その問いに、彼女は迷いなく答えた。
「まだ、終わっていない。私は……私自身の決着をつけねばならない」
ノーデンスは静かに目を閉じ、そして答えた。
「……そうか。君らしい答えだ。だが、気をつけろ。マクンブドゥバの背後には、さらに深い“闇”がある。ガープの報告では、ヨグ=ソトース――いや、“時の神クロノス”に接触したらしい」
「それが……何を意味するのか?」
ノーデンスの声が、低く、重くなる。
「……創造神、アザトースだ。ラグナロクの再来。今、世界はそれに呑まれようとしている」
沈黙。だが、その中でイサカは確かに頷いた。
「ならば、抗おう。私は、すべてを終わらせる。そのために……」
彼女の声には、決意が宿っていた。
「……それで、創造神の正体は一体何者なんだ?」
「……わからん。直接見たはずのガープ殿が覚えていない。記憶改竄の可能性がある。“白痴の魔法”に触れたのやもしれぬ。だが、クトゥルフ復活に異様な執着を見せている以上、何か“鍵”があるはずだ」
その言葉を聞き、彼女は頷くと答えた。
「マクンブドゥバを止めよう、そしてクトゥルフの復活を阻止してみせる。その為にはまず奴らを倒さねばならないな。力を貸してくれるか、師父ノーデンスよ」
その言葉に、ノーデンスは力強く頷いた。
――蠢動する深淵
それは、呪詛のような呟きから始まった。
ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ るるいえ うが=なぐる ふたぐん。
詠唱が終わった瞬間、大地が咆哮した。
西海岸を中心に発生した地殻の激震は、天地を割るかのような爆音と共に地平を引き裂き、
──それは現実の皮を剥ぎ取るようにして、それは現れた。
「な、なんだアレは……!? 空に……島が……!」
誰かの絶叫が、震えるように戦場に響いた。
空に浮かび上がったのは、常識では測れぬほど巨大な石造建築群。
まるで海底より引きずり出された亡霊の墓標。
いや──それこそが、ルルイエ。
旧きものが眠る、忘却と狂気の都。
クトゥルフ神話の原点にして終焉。
そしてその頂より、男の咆哮が降り注いだ。
「グ〜ッグッグッグ〜!!ついに!ついに蘇るぞ大いなるクトゥルフが!!」
歯の浮くような歓喜の声。
狂気を煮詰めて鍋からぶちまけたような気配。
その中心でフードを脱ぎ捨て、満面の笑みを浮かべたのは――マクンブドゥバ。
呪いの魔神。クトゥルー教団の司祭。
そして今や、大いなる存在と同化せし狂気の具現者。
「そして今、4大霊クトゥルフの力が私の手の中にある!!ついにワシは神の力を手に入れた。何者も抗えぬ究極の力を手に入れたのはこのワシだ!!呪いの魔神マクンブドゥバだっ!!さあ、我が前に傅け!平伏せよ! 脆弱な! 人間どもよ!!跪き許しを請うがいい!!」
彼が呪文を唱えると、地面から這い出た巨大な肉塊が蠢き彼にかしづく。
それは無数の触腕を生やしたタコのような頭部を持ち、全身からは触手が生えていた。
その姿はまるで、旧支配者と呼ばれる存在に酷似していた。
クトゥルフ配下の邪神ヒュドラとハイドラである。
その姿を見た人々は、恐怖のあまり動けなくなる。
誰もが、この男に逆らえば、自分達は生きては帰れないと悟っていた。
しかし、そんな状況にもかかわらず、勇敢な者たちが立ちふさがった。
ドアダ軍旗艦パープルサキュバス号より紫のカラーリングの20メートル級ロボットが150台、銀河連邦軍旗艦エスカリボルグより白色ロボが50台、地球防衛軍戦艦アルゴー号より黒いロボが10台、オリンポスの旗艦テスモポロスからオレンジ色のロボが80体出撃した。
さらに、その他の宇宙艦艇もクトゥルフが復活したポイントに向け一斉に向かってきてるという。
その中には、地球の平和を守る為に、自ら志願した者たちもいた。
20メートル級ロボの大隊が人類を守るため、世界を守るために、大いなる敵に挑む。
大いなるクトゥルフと人類連合軍との最後の戦いが始まる。
その戦いは、まさに世界の命運をかける戦いだった。
互いに、一歩も譲らぬ攻防が繰り広げられていく。
ロボ軍団から放たれるミサイルにビーム兵器に魔法弾
下級巨大邪神らが放つブレスに暗黒魔法に蠢く触手達
激しい閃光が走り、轟音が鳴り響く。
その激しさは、狭間の世界を揺るがすほどであった。
連合軍のロボット兵団の中に水色の機体が一体混じっていた。
封獣モビーディックラーケン
水色の初代魔法女神イサカが駆る機械仕掛けの神
モビーディックラーケンを操縦し、戦場の真っ只中を駆け巡るイサカは、思わずつぶやいた。
「これが、私の最後の決戦になるのだな……」
イサカの目には涙が浮かんでいた。
操縦席のイサカの手には封獣モビディックラーケンをコントロールする封魔鎖が握られている。
封魔鎖を握りしめたイサカは、決意を新たにすると、敵総大将の本陣へと赴いていった。
モビーディックラーケンは飛行外骨格を纏い空を飛び、マクンブドゥバが潜んでいるであろう空飛ぶルルイエに特攻をかける。
イサカは、封魔鎖を見つめつつ、こう思った。
(私は、今までずっと、この封魔鎖と共に戦ってきたんだ)
イサカの脳裏に、これまでの記憶が蘇ってくる。
イサカの目から、一筋の涙が流れた。
イサカが感傷に浸っていると、突如ルルイエの城壁に巨大な邪神の像が迫り上がって来た。
邪神像の頭の上にオレンジ色のローブを纏った男がいる。
男はゆっくりとイサカが駆るモビーディックラーケンを見やる。
その男マクンブドゥバは、フードを脱ぐとニヤリと笑った。
その瞬間、マクンブドゥバの顔が変形していき、やがて蛸のような深き者どもの姿になった。
それを見たイサカは即座に臨戦態勢に入った。
「おいおいイサカよ、ワシの体にはお前の脳のキジーツが埋め込まれ融合しておるのだぞ?ワシを殺せばお前は消える。忘れたわけではあるまい?」
「もちろん知っている……だがそれはお前を殺さないことの理由にはならない!お前がここでやっていることは許されない事だ!」
「……ふんっ!ワシを殺したところで無駄だぞ……クトゥルフ復活はもはや秒読み段階に入った!お前らごときではどうにも出来んわ!この出来損ないの姪が!!」
「ぬかせマクンブドゥバ!」
イサカが吠えモビーディックラーケンの武装を展開する。
「武装展開、殲滅兵器起動…対邪神専用戦闘兵器飛行外骨格バーストエラー起動…自動追尾型ホーミングミサイル発射準備完了……」
モビーディックラーケンの背中が大きく開きそこから現れた魔法陣のようなモノから無数の機械の羽が現れた。
その羽にはそれぞれ銃火器が装備されている。
「目標補足・照準固定・オールロックオン・カウントダウン開始……3秒前・2・1・ファイア!」
一斉に放たれた弾丸が一斉に敵をめざし撃ち放たれていく。
だがその弾丸がマクンブドゥバに当たることはなかった。
マクンブドゥバの前に現れたフードをかぶった男が巨大ロボから放たれる砲撃をすべて刀で叩き落したからだ!
「……だめよイサカ、いまこの男を殺せば貴方は消えてしまうのよ……」
「パピリオ!」
目深にかぶったフードで顔は見えないがその声は九闘竜No3パピリオの声だった。
「イサカー!貴様姪の分際でよくも叔父であるワシを攻撃しおったなあああ!」
激高したマクンブドゥバが両手を振り回しながら暴れ回り、異次元から触手の怪物を次々と召喚してきた。
その数は優に50を超えており、どれもこれも強力な力を有しているようだ。
触手の怪物たちはモビーディックラーケンに迫ったが、イサカの応援に駆けつけてきた援軍ロボがそれを食い止めた。
「お、お前たち!?」
援軍に駆けつけたのは雷音と雷華がのる真紅の機械神クトゥグァ
オームとエドナが乗る黄色い魔王の機械神ベリアルハスター
蒼のHERO狗鬼漢児とその妹絵里洲が乗るアーレスタロス
桜の魔法少女神羅と龍獅鳳が乗る赤紫の機体ユグドシラル
そして聖王の転生体鳳天がのる改獣フェニックスヘブンだった。
↓物語をイメージしたリール動画
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