乂阿戦記2 第六章 紫の魔女ナイアルラトホテップと邪神ロキは暗躍の影で嗤う-4前編 ロキvs鳳天
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それから数分後、アヴァロンは目的地に到着した。
そこには確かに巨大な神殿があった。静謐で荘厳、だがどこか禍々しい空気が漂っている。
中に足を踏み入れると、そこは礼拝堂のような構造だった。
中央の祭壇の前には、一人の女が立っていた――イサカだ。
彼女はゆっくりと振り返る。
その瞳には、一瞬の困惑が浮かぶ。
「誰?……どうやってここに?」
「俺は……」
鳳天はわずかに逡巡し、そしてまっすぐ彼女を見据えた。
「俺は鳳天。アンタを、迎えに来た」
その言葉に、イサカの表情がわずかに緩む。
「……そ、そうなのか。嬉しい……本当に……ありがとう。助けてくれるなんて、思ってなかった……」
そう言って、彼女は深々と頭を下げた。
だが鳳天は、首を横に振る。
「礼はいらねぇ。それより早く――」
「待って。助けには感謝する。でも……ソレには及ばない。私は逃げられないの」
その言葉に、鳳天の目が鋭くなる。
「どういう意味だ?」
と、その瞬間――地鳴り。
ズシンッ……ドゴォォンッ!! ガラガラガラ――!!
神殿全体が震え、天井から瓦礫が崩れ落ちる。
咄嗟に鳳天はイサカの手を掴み、走り出した。
「走れ!! 考えるのは後だ!」
だが、床が割れた。
地底から突き上がるようにして現れたのは――無数の触手だった。
それは粘液にまみれ、まるで生き物のように蠢きながら、二人を宙へと引きずり上げる。
「くっ……!」
全身が絡め取られ、鳳天もイサカも抵抗を封じられる。
ねっとりとした感触が肌を這い、意識を濁らせる。
「……ッぐ……ちくしょう……気色悪ィな……!」
イサカはすでに意識を失っていた。
鳳天の目が、細く鋭くなる。
次の瞬間、重く、腹の底から声を叩き出した。
「――オオオオオ!! オゥラララララララァァッ!!」
放たれた裂帛の連打。
拳が閃き、触手の肉壁をミンチのように粉砕していく。
ドォン!! バキィ!! グシャァァ!!
無数の触手が吹き飛び、崩れ落ち、鳳天は倒れたイサカを抱え起き上がった。
「やれやれ……寝てる暇はねぇぞ、お姫さん」
――その時だった。
背後に、気配。
静かに、確実に、そして――“悪意”を孕んだ何かが鳳天の背後に立つ。
振り返ると、そこにいたのは――ロキ。
にやり、と、いつもの気持ち悪い笑みを浮かべている。
「よう、早い再会だね? 君と僕は運命的なもんだなぁ」
無言で歩き出そうとする鳳天の肩に、手が伸びた。
その瞬間、反射的に裏拳を叩き込む。
だがロキはバク転でそれを躱し、笑いながら着地する。
「オイオイ、無視はないんじゃない?」
――その顔は、怒りと歓喜が混ざり合った、“戦いを欲する者”の顔だった。
ロキは指を鳴らすと魔法陣を展開した。
そこから出てきたのは全長30メートルはあるであろう大蛇だった。
ロキはその大蛇に飛び乗るとこちらに向けて突っ込んできた。
すかさず鳳天は地を蹴り、一閃の回し蹴りを叩き込む。
「ゴッッ!!」という衝撃音と共に、鋼鉄めいた大蛇の首が無惨に吹き飛んだ。
まるで紙細工のように――あっさりと。
「オイオイ、ヨルムンガンドレプリカを一撃で沈めるかよ?本当に馬鹿みたいに強い……いや強すぎるなぁお前」
呆れたように呟くと再び指を鳴らした。
今度は人影が現れる。
そこに現れたのは九闘竜の面々だった。
全員が臨戦態勢に入っている。
それを見て鳳天は小さく舌打ちをした。
面倒臭いことになったな……
そう心の中で呟きながら構えをとるのだった。
九闘竜はロキ、レッドキクロプス、アルカーム、ナイアルラトホテップ、セトアザスの5人が揃っていた。
さらにナイアの側近たるピンク、オレンジ、ライトブルーの上級サキュバス達もいた。
「どうするイルス?多勢に無勢だぜ?」
ロキがほそくえむ。
その表情からは余裕の色が見て取れた。
確かに数では圧倒的に不利だ。
このままでは負けるかもしれない。
だが……
「まあ、なんとかなるだろうさ」
鳳天はニヤリと笑うと一歩踏み出した。
その瞬間地面が大きく陥没しクレーターができる。
それを見たロキ達は戦慄した表情を浮かべた。
特にセトアザスは失禁寸前だった。
(こいつマジか!?ありえへんわ!なんやねんこれ!こんなの勝てるわけないやん……やべぇよやべぇよ……逃げたいわ!……)
わかりやすく恐怖を感じているようだ。
そんな中、1人だけ違った反応を見せる者がいた。
レッドキクロプスである。
彼は好戦的な笑みを浮かべると拳を振り上げ突進してきたのだ。
そこに割り入っくる蒼い影が一つ
レッドキクロプスの拳を受け止め弾き返す。
そして目にも止まらぬ速さで次々と連撃を繰り出していく。
レッドキクロプスはそれを紙一重で避けていく。
まるで両者ダンスを踊っているかのようだ。
やがて攻撃が止むと両者は間合いを取った。
「……貴様もここに来ていたか狗鬼漢児!!!」
漢児は笑みを浮かべ答える。
「この前は助けてくれてありがとよレッド!アンタは一騎打ちで戦うつもりなんだろうが状況的に多勢に無勢だ!このデッカい兄さんに助太刀させてもらうぜ!」
「ふん、そういえば貴様との決着はまだついてなかったな…アーレスタロス!!」
レッドキクロプスは即座に赤黒き魔人ロート・ジークフリードに変身し身構えた。
狗鬼漢児も即座にアーレスタロスに変身する。
「アニキ助太刀するぜ!」
漢児に続いて雷音、獅鳳、キースの三人も姿を現す。
神羅、雷華もいる。
その様子を見て、他の九闘竜たちもそれぞれ戦闘体勢に入った。
対する鳳天とロキもまた互いに睨み合っていた。
先に動いたのはロキの方だった。
ロキが手を振るうと同時に、大量の蠅が出現し鳳天に向かって襲いかかる。
拳銃の弾丸並の殺傷力をもつ魔界の蝿だ。
鳳天はこれを難なく躱すとロキに向かって駆け出す。
ロキはその行く手を阻むように蝿の群れを差し向けた。
しかし鳳天はまるで蝿など存在しないかのように突き進んでいく。
「馬鹿な!?」
驚愕のあまりロキの動きが一瞬止まった瞬間を狙って鳳天が蹴りを放つ。
咄嗟にガードするも勢いを殺しきれず後退させられるロキ。
そこへすかさず追撃を加えるべく鳳天が飛び掛かる。
ストレートパンチの一撃を胸に受け、そのまま吹き飛ばされ壁に激突した。
ロキはそのままズルズルと崩れ落ちるとピクリとも動かなくなる。
それを見ていたナイアは愕然としていた。
(あのロキが一瞬でやられただと?そんなバカなことが!?)
だが倒れたと思われたロキは指に嵌めていた指輪をいじりながら、何やら呪文らしきものを唱えていた。
崩れ落ちたロキの体は、まるで骸のように動かない。だが次の瞬間、その左手が、ゆるりと、しかし確かな意志を持って動き出した。
指に嵌められた古代の王冠――“指輪王”の紋章が静かに煌めく。
「……俺がさ。何でこの指輪を捨てられなかったか、教えてやろうか……?」
伏せられた顔の奥で、ロキの口角がわずかに持ち上がる。
その表情は、憎悪と熱情と――一縷の未練すら孕んでいた。
「イサカ……君が、“イルス”と心を交わしたあの日。俺は気づいたんだ。あの笑顔はもう、俺に向けられることはないって……それだけで、俺の中の何かが音を立てて壊れたんだ」
彼は指輪に口づけるように囁く。
「――この呪いが俺を変える。愛が、俺を怪物に変えたんだよ」
地を裂くような魔力の奔流が、ルルイエ遺跡の空間を暴力的に揺らす。
「我、汝に乞う……我が身に纏え、我が武具、我が鎧、我が翼!」
その言葉とともに、魔法陣が虚空に顕現し、空間が裂ける。
ロキの体が闇に包まれ、紫の火花が疾走する。
「――『指輪王・改獣解放』。変・神――《ロード・オブ・ザ・リング》!!!」
眩い閃光。
紫炎を纏った魔神が、その場に降り立った。
漆黒と紫で構成された重厚な鎧、蝙蝠と鷲の融合のような四枚の翼。右手には断罪の鉄鎚、左手には虚無を遮る鏡盾。王冠を思わせる兜の下、ロキの瞳は業火のごとく燃えている。
その姿は、まさに“堕ちた神”の成れの果て――
愛を喰らい、激情に呑まれ、怪物へと変貌した男の末路。
「ふははははっ!!見ろよイルス!お前が愛して、俺が壊れた女のために――ここまでやってやったんだよッ!!」
ロキは嘲るように吼えた。
「見ろよ、イルス……これが俺の、本気の“愛”ってヤツだッ!!
愛した女のために、俺は堕ちた。
だが、お前は“正義”を選んだ――女を見捨ててな。
……そんなもん、俺には到底、理解できねぇよ!!!」
その咆哮は、かつて共に戦った者への慟哭であり、
同時に、――血の叫びだった。
その言葉と共に指輪が眩い光を放ち、次の瞬間にはそこには紫の輝きを纏った戦士が立っていた。
↓物語をイメージしたリール動画
https://www.facebook.com/reel/910237091186217/?s=fb_shorts_tab&stack_idx=0
https://www.facebook.com/reel/1386894958960210/?s=fb_shorts_tab&stack_idx=0