乂阿戦記2 第六章 紫の魔女ナイアルラトホテップと邪神ロキは暗躍の影で嗤う-3 銀河連邦ぶっちぎり最強のHEROフェニックスヘブン
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――黄緑宇宙、西岸遺跡地下、
そこは重力の揺らぎさえ感じさせる異常空間だった。
地表から封じられ、長き沈黙の眠りを続けた《旧支配者の聖域》。
その最深部、名をルルイエ遺跡という。
深き者どもが崇める、恐るべき神の名。
――クトゥルフ。
その巨躯の“心臓”だけが、今なおこの世界の地中で鼓動していた。
ズゥン…… ズゥン…… ズゥン……
生物のそれとは違う。
脈動は空間を撓ませ、重力波を生み、魔力干渉域を数百キロ単位で汚染している。
すでに星辰は半ば揃い、時は迫っている。
――だが。
「まだだ。まだ間に合わん。なぜ終わらぬ。なぜ満ちぬ」
杖を突いた影が、歪な祭壇の中心に立つ。
マクンブドゥバ。
呪いの魔神、狂気と呪術の大祭司。
その白骨のような顔には怒気が満ち、口の端からは呪詛にも似た息が漏れる。
「急げ。すぐに全ての転送陣を完成させろ。封刻の層を破れ。奴らの刃がここに届く前に」
「はっ、仰せのままに!」
部下たちは慌てて散っていく。
だが、その動きには迷いと焦燥が滲んでいた。
一人が口を開く。
「……しかし、魔神様。万が一、これで失敗すれば――」
「失敗?」
マクンブドゥバの声が、空気を凍らせる。
「……愚問だな。既に我らは“選ばれし供物”に過ぎん。生き延びる道など、最初から残されておらん」
「し、しかし……」
「万一の時は――このルルイエごと自爆させる。既にそのように設計してある」
「ッ……!」
部下たちが絶句する。
それは、この空間に集まった深き者族、改獣胎動師、混血の従者ら、すべての死を意味していた。
それでもマクンブドゥバは涼しい顔で言い放つ。
「お前たちに、選択の自由などない。黙って働け。“あの方”の復活を妨げるな。……それが唯一の、存在証明だ」
そう言い捨てると、彼は背を向けた。
――だが。
歩みを止めた瞬間、思考の隙間から、一つの不安がこぼれ出る。
(…… ふん、どいつもこいつも覚悟の無い連中ばかりだ……やはり、“あの御方”を呼ぶしかないか。狂王エンザ様……)
あの狂気の塊にすがることすら選択肢に入る。
それが、今の状況の異常さを何より物語っていた。
彼は舌打ちし、再び魔術陣の中心へ向かう。
彼もまた己の仕事に戻るのだった。
地下迷宮最深部ルルイエ遺跡
巨大な邪神クトゥルフの心臓が脈打っている。
黄緑宇宙の星辰の位置は半ば整い、今まさに大いなるクトゥルフが蘇ろうとしているのだ。
だがそこに近づく影があった。
それが何者かはわからないが明らかに異様な雰囲気を漂わせていた。
そしてその者は心臓に向かって何かを投げつけるとそのまま立ち去ってしまったのである。
一体何が起こったのか誰にもわからなかった。
だが一つだけ確かな事があるとすればこれが後にとんでもない事態を引き起こす事になるという事だけだった……。
――黒の宇宙、火星軌道外縁。
空間に浮かぶ群体の都市。その名を《マーズ・コロニー・ノヴァ》。
そこは人類連合宇宙軍の旗艦基地にして、全銀河最大級の軍港である。
今、そこに集いしは――
総数百隻を超える戦艦群。
前衛艦、補給艦、駆逐艦、重巡、空母――そしてその中にあって、まるで神殿のように威容を放つ一隻があった。
それが、地球防衛軍の切り札《大戦艦アルゴー》である。
全長333メートル。
反物質炉を搭載した重力制御型多用途戦艦。
一撃で惑星表層を蒸発させる《反物質波動砲》を有し、その巨体をものともしない俊敏な加速力を誇る。
まさしく――“星喰い”と渾名される戦艦。
今現在彼らは狭間の世界に向かい、マクンブドゥバが潜伏する西岸の古い遺跡を強襲するべく、こうして集まっているわけなのだが、そんな中一隻の小型艇が接近してきた。
船名は【アヴァロン】、銀河連邦軍所属の超高速艇である。
「おい見ろよあれ……」
「ああ、あの噂のHEROフェニックスヘブンが乗っている船か?」
「若干14歳で他のHEROを押しのけランキング1位の座に着いた銀河連邦最強のHERO……」
「へぇ~、でも確かそいつって元は地球人なんだろ? だったら俺だって一位になれるんじゃないか?」
「おいおい、お前みたいな雑魚HEROがフェニックスヘブンに敵うわけないだろう」
「なんだと!?」
「まぁ落ち着け、それよりも今は作戦に集中しろ」
「チッ、わかったよ」
そう言って二人はそれぞれの持ち場に戻っていった。
だがその時、アヴァロンは突然急加速してあっという間に目の前を通りすぎてしまった。
向かった先は狭間に先行しているタタリ族の戦闘空母バエルスターだった。
どうやら少しでも早くに目的地に到着したいらしい。
何故慌てるようにバエルスターに向かうのだろう?
理由はすぐにわかった。
黒の宇宙から狭間の世界へ向かうワープゲートが閉じてしまったからだ。
彼はゲートが閉じる前に狭間の世界に入りたかったのである。
どうも何かしらの外的な力が働き、連合軍の各戦艦が狭間の世界にワープできなくなってしまった。
黒の宇宙から狭間の世界に援軍に向かえたのはフェニックスヘブン一人のみとなったのだ。
しかし、それでもなお諦めることなく、彼は救援に駆けつける。
(クトゥルフ復活は防ぎようがないようだな……やれやれだぜ)
その頃100年前、まだラグナロク大戦が起きる前、女神国では邪神復活による影響が出始めていた。
各地で地震が起き、火山が噴火した。
津波が発生し多くの命を奪った。
竜巻が吹き荒れ、大雨が降った。
人々は恐怖に怯え、邪神の復活を予感していた。
だが、それに対抗する手段を人類は持っていなかった。
誰もが絶望に打ちひしがれていたそのとき、救世主が現れた。
その名も後の女神国の聖王イルス
フェニックス・ヘブンと呼ばれる改獣を敵邪神軍から強奪し、多大な戦果を上げ、のちに最高の聖王とも称えられた男である。
「俺はこれから邪神をブチのめしに行く。ボコボコにブチのめさないと気がすまなくなっちまったんでな……」
そう言うとイルスはフェニックスヘブンを駆り邪神の待つ地へと旅立った。
それからしばらくして、イルスは単身で多くの邪神を打ち倒し女神国を救ったのだそうだ。
そして今、そんな伝説の聖王イルスとよく似た人物が目の前にいた。
いや正確には同一人物と言ってもいいかもしれない。
何故ならその人物鳳天は、輪廻転生をはたした聖王イルス本人だからだ。
狭間の世界。紫の丘。
陽も差さず、風も吹かず、ただ沈黙が全てを支配する死の静寂。
その中心に、二つの影があった。
一つは、2メートル近い巨躯の男。
学ラン調の長衣を身にまとい、帽子を深くかぶり、拳を握りしめてただ黙って佇む。
その名は――鳳天。フェニックスヘブン。銀河連邦の最強HERO。かつての聖王イルスの転生体。
もう一つは、紫のジャケットに身を包んだ細身の青年。
顔には気取った笑み。手にはナイフ。声には毒。
「やあ、久しぶりじゃないか。俺の大好きな聖王サマ?」
邪神ロキ。
混沌の側に属しながら、人類の思考と感情に興味を抱く、狡猾な諜報使い。
鳳天はロキの言葉には応じない。
ただ数秒、帽子の影から鋭い視線を向けた。
「……口を開くな。吐き気がする」
「あっはっは、そりゃご挨拶だなあ! 再会を祝して軽く肩でも抱こうと思ったのに」
ロキが冗談めかして近づこうとする、その瞬間。
ゴッ――!
鳳天の右拳が、空を裂いて飛んだ。
空気がひしゃげ、地面がめくれ、ロキの鼻先をかすめて風が抜ける。
「……冗談を通す“間”もねぇか」
舌打ちと共にロキがステップを踏み、距離をとる。
「いやぁ、君ってほんと昔からそうだったよね。拳でしか語れない。愛も怒りも――」
「語っただろうが。俺は、てめぇを殺すってな」
「……!」
鳳天の殺気に、ロキの頬がピクリと動く。
それは恐怖ではない。
むしろ――喜びに近い感情。
「いいよ、最高だよ。やっぱりそうでなきゃ。君みたいな“化け物”が、本気で僕を殺しにくる。それ以上の快楽って、そうそうないんだ」
にぃ……と笑うロキ。
指をパチンと鳴らすと、指先から伸びるのは紫電の刃。
概念兵装――精神そのものを切り裂く、殺意の具現。
「さあ、始めようか。世界を賭けた、愛と憎しみの一騎打ちを――!!」
ドンッ!
瞬間、戦場が炸裂した。
鳳天の拳が、大気をえぐる。
ロキのナイフが、空間を切り裂く。
拳と刃が交差するたび、衝撃波が丘を吹き飛ばす。
だが、どちらも本気ではない。
鳳天は己の怒りを制し、冷徹に打点を探る。
ロキは冗談めかしつつ、鳳天の動きを観察し、罠を張る。
(やれやれ……)
鳳天は帽子を目深にかぶり直すと、低く呟いた。
「てめぇに言葉は要らねえ。ぶっ倒して、あの女を取り返す。それだけだ」
「イサカ……か」
その名を聞いた瞬間、ロキの笑みが一瞬だけ消えた。
「……あの子は、君にはもう戻らないよ。だって、彼女は“完成した”んだ。夢の中で、クトゥルフと繋がった。もう元には――」
ゴッ!!
その瞬間、地面ごと抉れる拳が放たれた。
ロキの姿が掻き消え、丘が崩れる。
数秒後、ロキが遠くの岩陰に現れる。
「ひっどいなぁ……。あのね、君さ、女一人救いたいなら、もう少し慎重に動きなよ? 無策で殴っても、誰も救えない」
「無策でいい。拳が俺の言葉だ。痛みを通せば、女は戻る」
「――まったく、昭和のラブコメかよ」
ロキは肩をすくめながら、懐から小さな黒い球体を取り出した。
「じゃあ、一つだけ答えをやるよ。キジーツ……あれはね、マクンブドゥバの胸の奥に埋め込まれてる。彼の命そのものになってるのさ」
「……そうか」
「さあどうする? キジーツを壊すってことは、マクンブドゥバを殺すってことだ。それがなければイサカは壊れたままだ。だがそれを壊せば、もう……戻らないかもしれない」
「――決まってる」
鳳天が言う。
帽子の影から覗く瞳には、迷いはない。
「イサカを壊す奴は全員潰す。マクンブドゥバも、てめぇも、そのクソ神もな」
その言葉に、ロキが乾いた笑いを零す。
「……ほんと、君って……変わらないね。そういうとこ、嫌いじゃないよ」
「なら死ね」
再び拳が唸りを上げた。
鳳天が拳を握り締めると、そのまま渾身の一撃を繰り出した。
しかし、それは空振りに終わった。
なんと、ロキが瞬間移動で回避したのだ。
「おっと危ないなぁ~もう」
「……避けたか」
「ふふ、それじゃあ今度はこっちの番だね」
そういうと、ロキは人差し指と中指を合わせ突き出し、拳銃に見立てた指先からビームを発射した。
「バァン!」
その威力は凄まじく、辺り一面が焼け野原になってしまった。
鳳天は紙一重でそれを躱わす。
「…………」
「さあ、どんどんいくぞぉ~!」
ロキは次の瞬間、懐から数本のナイフを抜き放つ。
虚空を裂いて放たれる黒い閃光。その一つひとつが精神を穿つ“ナイトフォール・ナイフ”。
だが鳳天は、わずかな手の動きだけでそれを弾く。指の先まで研ぎ澄まされた動作。
全て見切っている――そんな風にすら見えた。
ロキは舌打ちし、距離を詰めた。
肩越しから連続で斬撃を叩き込む。足さばき、体捌き、膝蹴り、肘打ち――
あらゆる殺傷手段を駆使して畳みかける。
「くそっ、ちょこまかと……! 動きやがって! 当たれよ、いい加減ッ!!」
叫ぶロキの顔には、いつもの余裕など微塵もなかった。
苛立ち。焦り。そして――恐怖。
対する鳳天の眼差しは変わらない。
一切の感情を映さぬまま、淡々と動きの隙を計っていた。
そして。
「オラァ!!」
鳳天の拳が、地を穿った。
それは、完璧なカウンターだった。
正確な軌道。破壊に特化した軌跡。まさしく、“断罪の右”。
「ぐはっ――!」
ロキの身体が、空を裂いて吹き飛ぶ。
胴体に直撃したその一撃は、全身の骨を軋ませ、岩盤に叩きつけた。
ごうん――と、地響き。
土煙の向こうに、呻き声を漏らしながら崩れ落ちるロキの姿があった。
鳳天は歩み寄り、その胸倉を無言で掴み上げる。
「……イサカはどこだ?」
「ふはは……いいだろう教えてやる。彼女は今、西岸の古い遺跡にいる――だが言っておく、そこは罠だ。地獄のような、な……。君一人で抜けられるかどうか、俺にもわからないよ」
……罠など知ったことか。
鳳天は憎悪と使命感を胸に押し込め、冷静さを取り戻す。
駆るはアヴァロン、目指すは西岸の旧聖域。
救うべきはただ一人。愛しき、彼女――イサカ。
彼は超高速艇アヴァロンに乗り込み、マクンブドゥバが潜伏してるとの情報もある西岸の古い遺跡を目指した。
「ち、行っちまいやがった。イルスめ、前世で愛した女に今だご執心とはな……妬けるぜ。まあいいさ、どうせすぐ会うだろうしな……」
ロキはニヤリと笑うと姿を消した。
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