乂阿戦記2 第六章 紫の魔女ナイアルラトホテップと邪神ロキは暗躍の影で嗤う-2後編 鮫島アクアの帰還
\超展開✖️熱血変身バトル✖️ギャグ✖️神殺し/
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そして、人質交換の日はやってきた。
静けさは、やがて終わる予兆でしかなかった。
蔭洲升町の外れ――
狭間世界の断崖に浮かぶ、人工競技場跡。
そこが、人質交換の舞台となった。
時代に取り残されたような古びたアリーナ。
スタンドは崩れ、中央の闘技場には苔と砂塵が舞っている。
この静けさの裏に、何かが蠢いている気がした。
そこに、二組の集団が対峙する。
一方――
雷音たち、“魔法学園問題児軍団”。
他方――
殺悪隊。その中に立つのは、鮫島アクアと神楽坂レイミ。
鎖で繋がれた二人。だが、顔に苦悶はなかった。
アクアは静かに、レイミは気丈に、こちらを見つめている。
そして、その間に立つ男。
――ヒキガエル蛙冥刃。
彼は、やけにあっけらかんとした様子で懐から瓶を取り出した。
「へい、これを持ってきやした」
それは、小さな薬瓶だった。透明なガラスに満たされた、紫色の液体。
「……それ、なんだ?」
雷音が眉をひそめて問う。
蛙冥刃はくくっと笑いながら、瓶をひらりと投げ渡した。
「“霊薬”でさあ。……深き者族の“覚醒”を一時的に抑えるためのモンです。まあ、効果は気休め程度。だが、以前はこれでアクア嬢ちゃんも正気を取り戻した」
瓶を受け取った雷音が、液体を透かして見つめる。
「……つまり、アクアがまた化け物になりかけたら……これを使えってことか?」
「そういうことでさぁ。ですが――」
と、蛙冥刃の声音が低くなる。
「この薬を使うと……“記憶”が飛びます。服用者は、自分が何をしたか、何を失ったか、その全てを忘れるそうで」
「なっ……!」
会議室でも緊張を孕んだその話は、ここで一気に現実味を増す。
「使わないに越したことはない。……だが、覚悟だけはしときなせぇ」
雷音がゆっくりと頷く。
「……わかった。もしもの時は、俺が責任取る。アクアは、絶対に守る」
その言葉に蛙冥刃は少しだけ目を細め、どこか寂しげに呟いた。
「……雷音坊ちゃん、あっしの言葉、そんな素直に信じてくれていいんですかい?」
「なに?」
「アンタ、乂族の次世代。幹部候補にもなる若者が、そんな風に無防備でいいんですかい? この戦争、腹に一物ある奴らがわんさかいる。そいつらに担がれて、いいように使われたくないなら……」
蛙冥刃は静かに言った。
「もっと疑え。もっと冷たくなれ。じゃないと……アンタが潰れる」
雷音はしばし沈黙し――
やがて、拳を握りしめた。
「……でもな。信じなきゃ、誰も守れねぇんだよ」
「――いい目をしてやがる」
蛙冥刃はふっと笑った。まるで、誰かの影を重ねるように。
そして歩き出す。
最後にアクアの方をちらりと見て、背中越しに言い残した。
「嬢ちゃん、言っときやすがね。その霊薬、時間稼ぎにしかなりやせん。根本解決じゃない。いずれもっとヤバい波が来やすからね……。それまでに“答え”を見つけておくんだ」
「……うん。ありがとう、副隊長さん。お父さんのこと、よろしくお願いします」
アクアが微笑んで見送る。
「……へい、お任せを。嬢ちゃんの父親は、あっしにとっても“誇り高き上司”でさぁ」
去り際ヒキガエルは若者たちに声をかける。
「ねえお坊ちゃん方、できたら、もう戦争に関わらずこのまま普通の学園生活を送ってくださいな。はっきり言ってこのままクトゥルフが復活したって地球は滅びはしやせん。乂阿烈に黒天ジャムガにドアダにオリンポス、この勢力相手にクトゥルフに勝ち目はないざんしょ…それに復活先も黄緑宇宙になりそうだ。連合軍は皆表向きは地球を守ろうだなんて大義名分を掲げちゃいるが、どの勢力も最終兵器エクリプスを手中に納めたいのが本心だ。……とまあ、戦場の裏には、そういう“汚い事情”が転がってるって話ですぜ」
「事実各陣営クトゥルフの復活先が黄緑宇宙だってわかった途端、戦争継続に日和見になりだした。は〜あ、アッシともあろうものが情でも湧いちまったかねえ?正直アンタら若いのが政治家に踊らされて戦場に出るとこなんざ見たく無いんでさあ。どうか戦いの渦中に巻き込まれないでくだせえまし。それがお互いの身の為ってもんですぜい?戦場じゃあたしゃマクンブドゥバの忠実な猟犬だ。嫌ですぜ?アクア嬢ちゃんの同級生を手にかけるのは……」
そう言い残し、ヒキガエルは競技場の影へと姿を消した。
影が完全に消えたその瞬間――
アクアとレイミは、疲れた笑顔を浮かべながら、ようやく仲間の下へと帰ってきた。
「おかえり!!」
「無事で良かったよ!!」
「お疲れ様、二人とも」
次々と声をかける仲間たちの中で、アクアとレイミが同時に笑った。
「ありがとう、みんな……!」
その笑顔に、誰もが胸を撫で下ろした。
だがこの一時の再会が、戦いの終わりではない。
それは、終焉へと続く扉の前――
彼らに残された、最後の安息の光景だった。
だが誰もがまだ知らなかった。
この再会が、次なる悲劇の引き金になることを――。