乂阿戦記2 第六章 紫の魔女ナイアルラトホテップと邪神ロキは暗躍の影で嗤う-2前編 戦艦バエルスターの会議
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その巨影は、空を裂いていた。
狭間世界。死と夢の境に浮かぶ人工大陸のすぐ傍。
重力すら拒むかのように宙に浮かぶ、黒鉄の城。
――それが、タタリ族の戦闘空母である。
戦闘という概念を機械と呪術で塗り固めたような構造。
推進機関の鼓動がまるで獣の咆哮のように響き、巨大な魔法陣が船体を包む。
これはただの船ではない。決戦のために用意された、一つの魔法陣である。
内部。作戦会議室。
だがその部屋は、意外なほどに簡素だった。
机と椅子が整然と並ぶ様はまるで教室。
……否、まさに教室だ。ここは、タット教授が特別に改造した“移動式の学級”だった。
決戦の地、蔭洲升町のすぐ側にタタリ族の戦闘空母バエルスターが浮遊している。
タタリ族族長オームが恩師タット教授から助言を受け、有事に備え狭間の世界に戦闘空母を持ち込んでいたのだ。
空母の会議室では皆が集まり決戦に向けて話し合いが始まっていた。
まず議長に魔法学園の名物教師、タット教授こと雷牙尊
そして彼の生徒達。
学生と侮るなかれ。
皆ただならぬ実力と才能を持った異端児ばかり
魔法学園始まって以来の問題児軍団だが、今ここには魔法学園始まって以来の天才、奇才、異才、人格破綻者が揃っている。
魔法学園の問題児たち――乂阿烈の妹弟である神羅と雷音。
タタリ族族長・覇星オーム、そしてドアダ王族の龍獅鳳と狗鬼絵里洲。
ジャガ族の巫女・今宵鵺、ドアダの将軍候補ネロと戦闘員イポス。
銀河連邦のHERO候補生アキンドとキース、さらに最優秀候補生であるルシルとリリス――
彼らが今、ここに集結している。
オリンポス十二神であるセレスティア・ヴィーナスは現在黒い宇宙で邪神達と艦隊戦の真っ最中だ。
それさえ無ければ彼女もきっと集った事だろう。
みんな連れ去られたクラスメイト鮫島アクアと神楽坂レイミの安否を気づかい今回の作戦に集合したのだ。
「ったくもぉ……!」
机をバンバンと叩きながら、リリス・ツェペシュが吠えた。
「なんで今まで黙ってたのよアキンドぉ! アクアとレイミのこと、アンタ知ってたんでしょ!?」
「ぐ、ぐるじぃ……リリスさん、ちょ、ちょっと待って……!」
彼の名はアキンド。別名“浪花明人”。
元関西在住の中学生、現銀河連邦HERO候補生。
……なのだが、今はというと、椅子ごと揺さぶられながらリリスのチョークスリーパーを喰らっている最中である。
「ほら白状しろってのォ!!」
「ちょっ、チョークッ……チョォォーク!!」
酸欠寸前のアキンドが必死にパンパンと手を叩く。
その様子に教室――もとい、会議室に笑いが漏れた。
ルシルが微かに笑みを浮かべながらも、視線はどこか沈んでいる。
「……アクアさんとレイミさん。無事だといいのだけれど」
その呟きに、隣にいた神羅が静かに頷いた。
一方その頃――
教室の一角、唯一“縄付き”で座らされているのがヒキガエル蛙冥刃。
捕虜。
深き者族の将。殺悪隊副隊長。
名前も、顔も、喋り方さえ胡散臭い蛙面の男。
彼は縄で縛られたまま椅子に座らされている。
そんな彼を他の皆が冷ややかな目で見ていた。
だが虜囚の身にも関わらず蛙冥刃の態度は太々しい。
「いやーみなさん仲がおよろしい。これなら安心ですねー。私はもうお役御免ですかねー?」
「いや、オッさんまだ人質交換終わってないから、なにサラリとドサクサに紛れ逃げようとしてんの?」
雷音が蛙冥刃の太々しさに呆れ突っ込む。
「いや、君にも大事な役割がある。君はこれから重要な証言者になってもらうのだから、ちゃんと協力してくれ給えよ」
タット教授の言葉に、
「ゲヒヒヒ……もちろん、協力させていただきますとも。なにせ私もね、こう見えて――この騒動を終わらせたい立場でしてね」
「オイ」
唐突に詰め寄ったのはアキンド。
両手で襟首を掴み、鼻先がぶつかるほど顔を近づける。
「深き者どもって今、繁殖祭とかやってる時期だろ? アクアちゃんとレイミちゃんが苗床にされてるとか、そんな地獄オチじゃないだろうなぁッ!?」
鬼気迫る勢いで怒鳴る。
蛙冥刃は、にやりと笑って返した。
「ゲヘヘへ、ないないない。それは断じてナッシング。ウチの隊長、そういうの大嫌いなんでさ。ゲヒヒヒ! なにより……」
と、彼はわざとらしく声を潜めた。
「鮫島アクア嬢ちゃん――あの子、我が隊長の生き別れの娘さんなんでさ」
「……え?」
会議室が静まり返る。
「預けられていた神楽坂嬢ちゃんも、ウチの隊長にとっちゃ恩人。だからこそ、奴は命に換えてでも二人を守ってますよ。ほら、町に入ったとき見たでしょう? 深き者族の死体の山。あれ、繁殖祭で不埒な真似をしようとした連中を隊長がブチ殺したんでさ」
静寂。
全員の思考が、言葉を追い越した。
そして、ワンテンポ遅れて――
「えええええええええええええええええええええ!?」
悲鳴のような驚きが、教室中を揺らした。
「おいおいおいおい!! アクアちゃんのお父さんが、“あの”兄貴と互角の達人!? それマジかよ!?」
獅鳳が椅子を蹴飛ばして立ち上がる。
神羅が眉を寄せながら呟いた。
「……空手の型に見せかけてたけど、あれ……大武神流・楚家拳。私の父の流派だった」
蛙冥刃がニヤニヤと補足する。
「そうそう、お嬢さんのお察しの通り。我が隊長は、大武神流・楚家拳の免許皆伝者でしてね」
「――ああ、思い出した!」
雷音が叫ぶ。
「羅漢兄ちゃんが尊敬してた大武神流三本柱の一人、“速射爆拳”鮫島鉄心!! そりゃ強ぇはずだわ!!」
「……というわけで、アキンドさん」
蛙冥刃が絞め跡の残った首を指差しながら言う。
「苦しいんで、そろそろ解放してくれやせんかね?」
絞められてわざとらしく苦しそうな声で懇願する蛙冥刃に、
「・・・まあ、よかろう」
と、渋々ながら手を離すアキンドだった。
そんなアキンドをキースがバンバンと背を叩く。
「わはははは!アキンドは根性あるなあ!この居合のオッちゃん多分アクアの父ちゃんと同じ位の強さだぞ?」
キースの説明にアキンドが凍りつく
「……………え"? マジで?」
と聞き返すと、
「ああ、先日の兄貴と鮫島さんの戦いに割って入ってきた来たときの抜刀術、あれは恐ろしいものだった!」
獅鳳が思い返して冷や汗をかいている。
「悔しけど俺も獅鳳もキースも、あの斬撃にまるで反応出来なかった…」
雷音が悔しそうにつぶやく。
「このオッチャンの相手したら俺と獅鳳と雷音が3人がかりで挑んでも果たして勝てるかどうか……」
キースがヒューと口笛を吹く。
「ちょ、調子こいてすいませんでした
ーーー!!」
アキンドはヒキガエルに土下座して謝った。
「うわ、ダサ!!」と絵里洲が吐き捨てた瞬間――
会議室が笑いの渦に包まれた。
笑いは去り、会議室には再び、戦場前夜の静けさが戻った。
タット教授が咳払いを一つ。
「……さて。茶番はここまでとしましょう。議題は明確です。“アクアとレイミの救出”――そして、それ以後の対応についてです」
全員の視線が教授に集まる。
机の上、魔導式ホログラムが点灯し、狭間世界と深き者族の領域、そして人質交換予定地が立体地図として浮かび上がった。
「まず状況を整理しましょう。アクア嬢とレイミ嬢は現在、殺悪隊の保護下にあります。今のところは危害を加えられていない」
「……だが問題は、アクアさんの方だ」
神羅が小さく呟く。
プリズナが頷き、表情を引き締めて続けた。
「ええ。アクアさんは、深き者化の進行が懸念されています」
蛙冥刃が、縄を巻かれたまま笑う。
「へい。あの嬢ちゃん、実は以前にも一度、“覚醒”しかけたことがありやしてね。ですがその時は、ある霊薬のおかげで正気に戻った。……けどまあ、今回はそう簡単にはいかないでしょうね」
雷音が声を上げる。
「つまり、また“深き者”とか“怪物”になる可能性があるってことか!?」
「そいつを回避するために、考え得る限りの手を打たねばなりません」
タット教授がホログラムに指を走らせ、三つのプランを提示する。
⸻
【案①】冷凍封印
「まず一つ目。アクアさんの意識を眠らせた状態で、“冷凍保存”または“時間停止”を施す。これは鵺くんの魔法に頼ることになる」
鵺が黙って頷く。
「なるほど……クトゥルフ召喚が終わるまで、アクアを時の檻に閉じ込めるわけか」
⸻
【案②】呪術師マクンブドゥバの暗殺
「二つ目。アクア嬢を操っている元凶――“呪いの魔神”マクンブドゥバを抹殺すること」
沈黙が落ちる。
「……無理だろ。奴の居場所もわからねぇし、見つけたところで勝てるとは限らねえ」
雷音の言葉に誰も反論できない。
蛙冥刃も苦笑する。
「へい。マクンブドゥバ様は化け物です。そんじょそこらの魔王とは訳が違う。実を言うと……クトゥルフ神を改獣に変えるのも、“材料”集めに過ぎねぇんですよ」
「材料……?」
神羅が低く問い返す。
「はい。連中が狙ってるのは、“窮極最終兵器”――《エクリプス》。クトゥルフの復活は、その製造工程にすぎねぇ」
⸻
【案③】霊薬による延命と一時封印
「三つ目。再び霊薬を用い、覚醒を抑える。そして凍結魔法と併用して、時間を稼ぐ。現時点では、これが最も現実的かと」
「……時間を稼いでる間に、何か別の解決法を見つけるってわけか」
キースが腕を組んで唸る。
タット教授はゆっくり頷くと、会議室を見渡した。
「以上を踏まえ、当面の方針はこうなります」
⸻
【決定方針】
1.クトゥルフ召喚阻止を最優先とする
2.アクアは、緊急時に“凍結”し、自我の崩壊を防ぐ
3.マクンブドゥバの暗殺は次善策とし、位置特定が叶い次第動く
4.蛙冥刃から更なる情報を引き出す努力を続ける
……それが、アクアとレイミを救う、わずかな希望に繋がるかもしれない。
⸻
沈黙。
やがて雷音が、いつになく真剣な表情で呟いた。
「絶対に……アクアを、見捨てたりなんかしねぇよ」
その声に、皆が静かに頷いた。
戦争の喧噪の中で、確かに守りたい何かがある。
それを胸に、次の作戦――人質交換に向け、若き英雄たちは再び立ち上がる。
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