乂阿戦記2 第六章 紫の魔女ナイアルラトホテップと邪神ロキは暗躍の影で嗤う-1 動き出す邪神達
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第六章 紫の魔女ナイアルラトホテップと邪神ロキは暗躍の影で嗤う
紫の宇宙の、紫の星の、紫の大地に、紫の屋敷があった。
――色が溶ける。形が曖昧になる。
そこは空間の法則さえ定かでない、紫の魔女の棲み家だった。
空も大地も空気も、神経を蝕むような毒紫。目を焼くような発色でありながら、脳はそれを“美しい”と誤認する。存在するだけで理性を濁らせる、甘やかな地獄。
その館の中、妖艶な曲線を描く椅子に腰掛けた女が、片肘をついて邪神の耳元に囁いた。
「……ロキ、あなたはあの勇者たちを見てどう思う?」
その問いに、ソファに寝そべった男――黒髪の悪戯神が、気だるげに笑う。
「んあ? あいつらか。……そうだな、“面白い”。でも、“所詮は人間”。我々の敵には、ならないさ」
「ふふっ、そうね。そう言うと思ったわ」
ナイアは笑う。唇に熱を灯し、毒を含ませた微笑。
「でも、侮れないわよ。踏み潰しても、焼き尽くしても、それでも立ち上がる。あの連中、時として神よりしぶといわ」
その言葉に、ロキは片眉を上げた。
「へぇ、お前がそこまで言うとはな。珍しい」
「人間に興味があるだけよ。愛してるわけじゃない。でもね……」
そう言って、ナイアは足を組み替え、スカートの裾を翻す。ふわりと舞い上がる黒のドレスの下、蠱惑的な肢体が覗いた。
「――壊れゆく者ほど、美しいと思わない?」
その刹那、紫の館の奥に銀の門が現れた。
ギィ……という異音とともに、門が開く。
現れたのは三つの影。
白い美丈夫。赤き戦士。黒衣の魔道士。
その先頭に立つ白衣の青年を見て、ナイアは目を細めると、膝をつき、臣下の礼をとった。
「お疲れ様です、我が君。ナイア、ただいま帰参いたしました」
白い男――リーン・アシュレイは、静かに頷く。
「ご苦労だったね、我が強壮なる使者よ。君にはいつも助けられてばかりだ」
「いえ……もったいないお言葉です」
ナイアはうっとりと目を閉じた。
その姿には、普段の傲慢さは影もなかった。まるで崇拝を超えた、恋慕にも似た絶対の忠誠。
一方で、ロキは肩を竦めて欠伸をかみ殺す。
「ふぁ~あ。ようやくお出ましかい。まったく、僕も会議に参加したかったんだけどなー。で、今回の密議、連合軍の動向はどうだったんだい、リーン?」
その不遜な態度に、黒衣の魔道士――時の神ウムルが眉を顰めるが、リーンはそれを制する。
「構わないさ、ウムル・アト=タウィル。ロキは私の部下ではない。対等の、ビジネスパートナーだ」
「ははっ、ありがとよ、未来の覇王さま」
冗談めかしながらも、ロキの視線が鋭くなる。
「……さて、それじゃあ本題に入ろうか。わざわざ僕らを呼んだってことは、何か面白いネタでも拾ったんだろう?」
「もちろん」
リーンは懐から、二組のイヤホンを取り出す。
それをナイアとロキに渡し、無言で再生する。
耳に流れ込むのは、人類連合軍の極秘通信記録。
――国家の長たちによる、クトゥルフ復活阻止計画の会話。
「……っ!?」
「こ、これは……!」
ナイアとロキの表情が一瞬で凍る。
「連合軍の首脳会談を……盗聴したのですか!?」
「お前、どこまでやる気だよ……」
だが、リーンは微笑んだまま揺るがない。
「……どうせ遅かれ早かれ、彼らには知られることだ。なら、今のうちに使える情報にしておくさ。これは、そういう“遊戯”なんだよ」
ロキとナイアは顔を見合わせる。
そして、リーンは言った。
「――銀河連邦最強のHERO、フェニックスヘブンが動いた」
その名が、世界の温度を変えた。
ロキの顔から笑みが消える。
「ち……あの化け物が、とうとう腰を上げたか……!」
ナイアが小さく震える。
「女神国の最高聖王……イルスの転生体……」
リーンは微笑を崩さずに続ける。
「ああ。彼は今、私と同じ“肉体年齢”で輪廻転生している。そして、やはり強かったよ。以前とまったく変わらずにね」
それからしばし、三者は言葉を交わし、情報を精査する。
やがてナイアとロキは、役目を終えて部屋を出ていった。
残されたのは、リーン・アシュレイ一人。
彼は再び、イヤホンを耳に戻す。
だが、その手はどこか空虚な余韻に浸っていた。
「どうやら闘争の時が本格的に動き出しそうだ……それにしても流石だ。覇星の後継者オーム、そしてタット教授……君らがいなければ各陣営の意見はまとまらず、そのままクトゥルフ復活を許したことだろう……」
そう言うとリーンは懐から一枚の写真を取り出す。
そこには一人の少女が写っていた。
それは100年前の古い写真
その写真の少女は神羅によく似ている。
いや、似ているのではない。
同一人物なのだ。
写真の少女は神羅の前世である女神ユキルなのだから。
写真を愛おしそうに眺めるリーンの表情はどこか寂しげだった。
「愛と言う窮極の奇跡をもって、世界法則はおろかこの私さえも変えてみせた女神ユキルよ、君の作った新たな理は世界の有り様をどのように導くのだろうな?………さて、そろそろ私も行くとするか……」
そう呟くとリーンは部屋を後にしたのだった。
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