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乂阿戦記2 第五章 黄緑の魔法天使ニカは今日も元気に遊びまわる-11 封獣モビーディックラーケン

\超展開✖️熱血変身バトル✖️ギャグ✖️神殺し/


→ ブックマーク&評価、大歓迎です!

その姿はまるで――神に選ばれた人形のようだった。


挿絵(By みてみん)


氷の巨神が、唸りを上げて動き出す。


ドガアアアアァッ!!


地を割るほどの轟音とともに、機神《モビーディック=ラーケン》が拳を振るった。


その拳をまともに受けた黒龍の一体が、まるで玩具のように吹き飛ぶ。


それは、質量の暴力ではなかった。

世界の構造そのものを凍らせ、壊す“寒気の神律”――その一撃だった。


地面が凍てつき、空気が震え、温度のすべてが“静止”する。


さらに、二撃。三撃。


拳が打ち下ろされるたび、空間が悲鳴を上げる。

氷の拳が黒龍の頭を粉砕し、足払いで尾をへし折る。

爪と尾とブレスの応酬を受けても、ラーケンは怯まない。


凍結の気が広がる。吐息のたび、世界が白に染まる。

その場に存在するだけで、大気そのものが沈黙していく。


一方、もう一体の黒龍は、ラーケンを制止せんとブレスを放った。


しかし――


キィン……!!


空気が割れ、ブレスそのものが空中で凍りついた。


直後、氷の槍が黒龍の胸を貫く。


「グガアァアアアアッ!!」


黒龍が咆哮を上げ、地を蹴る。

だが、遅い。巨神の拳が既に構えられていた。


ドゴォォォォン!!!


大地が崩れ、衝撃波が同心円状に広がる。


遠巻きに見ていた者たちは、その威容に言葉を失っていた。


プリズナが呆然と呟く。


「……氷の封獣じゃない……これは、“世界”そのものよ……」


ラーケンの背後で、狂王エンザが跳ねながら叫ぶ。


「いえ〜い☆ ポクちんのお姫さまが呼び出した、究極のデストロイヤーちゃんだお〜♪」


地獄が、歓喜の舞を踊っていた。


そして、イサカは――何も言わなかった。


ただ、虚ろな瞳で氷の巨神を見上げていた。

その姿は、まるで神に操られた人形のようだった。


ラーケンが再び動き出す。

巨体が躍動するたび、世界が揺れる。


そして2体の黒龍が、殴り飛ばされ、蹴り飛ばされる。

炸裂する轟音。放たれるブレス。交差する魔力と爪。


だが、氷の巨神は止まらない。

すべてを――凍てつかせるまで。


「グ〜ッグッグッグ、素晴らしい光景ですなぁ〜」

「うむ、実に壮観であるな……」


遠く離れた高台から、二人の老人――カルマストラ二世とマクンブドゥバが、その戦いを眺めていた。


「グフ……見事なまでにやってくれるのォ、ロキの小僧め。黒の宇宙ではなく、黄緑宇宙でクトゥルフを蘇らせるとは……」


遥か下方で繰り広げられる戦場を眺めながら、カルマストラ二世が吐き捨てるように言った。


隣のマクンブドゥバが目を細める。


「グ〜ッグッグッグ……やつと親しいアシュレイ族の神子が関わっておるかもしれませぬな。あのリーン・アシュレイ……奴はロキですら本気で一目置いておる」


「……ふむ。ナイン族の背後にいる“影の王”……本当に、存在するのかもしれんな」


その言葉を口にした瞬間――


ヒュゥゥゥゥ……


風の音が変わった。


遠くの空に、薄くひび割れが走るような違和感。


「……む?」


二人が視線を上げた、そのときだった。


グラリッ……!!


大地が、突然揺れた。


風が唸りを上げ、空気が振動する。

耳の奥を揺さぶるような不協和音――


「……これは……なんだ……?」


ズオォォォォ……!!


そして、現れた。


地平線の向こうから――巨人が、頭をもたげた。


地上を埋め尽くすような200メートルの人型。

人間に似た輪郭、滑稽なまでに歪んだ顔、血のように赤く燃える目。

水かきを持つ足。異形の神の典型。


「こ、これは……!?」

「旧支配者……イタクァ!!」


驚愕に固まる二人をよそに、イタクァは拳を振り上げる。


ドゴオォォォン!!!


神殿の大地が裂け、底から水が噴き出した。

天井のような天蓋すら揺れ、全体が震える。


そして、その水は――瞬く間に凍り始める。


巨大な氷柱が立ち上がり、空間を貫いてゆく。


「……っ、まずい!!巻き込まれるぞ!!」


慌てて逃げ出すカルマストラとマクンブドゥバ。


その頃、イタクァの掌の上では――


狂王エンザが、ガープ達を見下ろしながら高らかに笑っていた。


その傍らには、無言で佇むイサカ。

その目は空虚で、どこにも焦点を結ばない。


「ガープ〜? ごめんねぇ、ポクちんもう帰るんだぁ☆」


エンザが陽気に叫ぶ。


「クトゥルフ復活の準備が整ったんでね♪ 早く調理して、改獣にしてあげなきゃ! あ、ちなみにチミ達が必死で見張ってた“黒の宇宙”じゃなくって、“黄緑宇宙”で蘇らせる予定だったんだぽん♡」


「な、なんじゃとおおおおおっ!?!?」


ガープが絶叫し、顔面が蒼白になる。


「あ、やば!それ秘密だったかも? えへ、ポクちんってば正直者の困ったちゃん♡ ま、いっか! Let’s 前向きGO!!」


イタクァの肩を軽く叩くと、狂王はひらひらと手を振りながら叫ぶ。


「それじゃあ皆さんバイバ〜イビーン! チュッ♡」


エンザは笑いながら次元の裂け目へと飛び込み、その姿を消した。


ズォォォォォン……!!


空間が一気に閉じ、耳を裂くような轟音とともに世界が静まり返った。


……沈黙。


風もなく、音もない。


ただ、その場に残されたのは――


「エンザアアアアアアアア!!!!!!」


ガープの魂を裂くような咆哮だけだった。


怒りでも、恐怖でもない。


それは、救えなかった悔恨。


あの狂王に、すべてを弄ばれた痛み。


己の無力さを噛みしめる、血を吐くような――魂の絶叫だった。







ここは、宇宙の狭間に浮かぶ漆黒の王宮。


この世の理をあざ笑うように漂う異界の中心で、二柱の神がティータイムを楽しんでいた。


「ふぅ……やっぱり、地球産マカロンは至高だねぇ」


紅茶を啜るナイアルラトテップ。

その姿は、狂気の神ではなく、まるで優雅な貴婦人のようですらあった。


向かいに座るロキが溜息をつく。


「……この異次元世界で、君が唯一大事にしてるのが“甘味”ってのが、今でも信じられないよ」


「だって、美味しいじゃない?」


「……その一言で全部を済ませるのが一番ムカつくんだよ」


と、そんな何気ない会話が続く中、扉が静かに開く。


中に現れたのは、水色の髪を艶やかに揺らす一人のサキュバス。

露出の多いボンテージ衣装に、気だるげな美貌を携えた――ナイア直属の部下、ライト・ブルーだった。


「やあ、おかえり。何か変わったことはあったかい?」


紅茶のカップを揺らしながらナイアが問うと、ライト・ブルーは口ごもるように答えた。


「……狂王エンザ殿が……黄緑宇宙でのクトゥルフ復活計画を……ドアダ首領に盛大にバラしました……」


――カチャン。


紅茶のカップが、ロキの手でわずかに震えた。


「……は?」


その直後。


「ゲホッ!?」

「ぶふっっっ!!??」


ナイアとロキが、紅茶を盛大に噴き出した。


「な、なにやってんだあいつ!?」


「な、なんかその場のノリで、うっかりばらしちゃったそうです」


「“その場のノリ”ってなんだよ!? 誰がノリで禁忌をばらすんだよ!!」


「う、うっかりだったみたいで……その……」


ライト・ブルーが縮こまり、ロキは額を押さえて呻く。


「マジかよ……あいつ、本当に正気じゃねぇ……」


「うん……知ってたけどさ、やっぱり“本物”だわ……」


ナイアも深々と頭を抱えた。


ライト・ブルーが、おずおずと問いかける。


「……いかがいたしますか? このままでは、連合軍が黄緑宇宙に本格侵攻してしまいます……」


しばし、沈黙。


だがその後、ロキは悪戯っぽく笑みを浮かべた。


「……いっそ、それでいいかもな」


「……え?」


「……このまま全部、引っ繰り返そうか」


ロキが、紅茶のカップを揺らしながら呟いた。


「連合軍 vs クトゥルフ軍団の総力戦。

そう、“今回の件”を……世界の最終章クライマックスに持っていこう」


「ええええぇぇぇっ!? なにそれ!? 完全に暴論じゃない!」


ナイアが咳き込みながら叫ぶ。


「うん、ダメだと思うよ。でも、面白いじゃない?」


「……はああああ……」

ライト・ブルーが天を仰いで項垂れる。


だが、もう誰にも止められない。


この戦争は、誰かの手を離れた。


策士たちの机上を飛び越え、神々の掌をもすり抜けて――

今まさに、“宇宙規模の終焉”へと動き出そうとしていた。


「さあ、準備をしよう。作戦会議を始めようか」


「お茶のおかわり、ブルーちゃんよろしくね〜♪」


「もう……やってらんないわ……!」


机に突っ伏すブルーの背後で、ナイアは静かに微笑んだ。


――こうして、世界の裏側では。


最悪のティータイムから、最悪の戦争が始まろうとしていた。


だがこれは、まだ序章にすぎない。


“混沌の頂”は――この先にある。

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