乂阿戦記2 第五章 黄緑の魔法天使ニカは今日も元気に遊びまわる-10 狂王
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かつて妖魔帝国に代わり世界を支配していた女神国の国王にして最高指導者。
彼が統治していた時代、女神国は最強の戦士団を有しており、あらゆる国が彼の前では無力と化した。
彼は己に逆らう者は容赦なく殺し、女は犯し、男は奴隷にして死ぬまでこき使った。
逆らう者、気に入らぬものは片っ端から処刑し、歯向かうもの、少しでも気に食わぬことがあればその場で殺した。
気に入らない者がいればすぐに追放し、自分が最も偉く優れていて偉いのだと信じて疑わなかった。
彼の悪行の数々は数知れず、まさに史上最悪にして災厄の王である。
「はっあーい!みなたまお久しぶりぶり♪ポクちんだお?すーぱーカリスマ王エンザちゃんだお〜☆マイプリティれいでぃ〜イサカ〜♪ちみの王子様が、ちみの事迎えにきたんだぽん♡さぁ僕ちんの胸に飛び込んでおいで〜♫」
そう言うと両手を広げて迎え入れようとする。
当然、イサカが飛び込むはずもなく、全員ドン引きである。
「貴様が狂王か!」
「お前がイブ様を誑かしたのか!?」
「今すぐイブ様から離れろ!!」
口々に罵詈雑言を浴びせるイポス達ドアダ戦闘員らに対して、狂王は心底うんざりした様子でため息を吐くと言った。
「うっせーんだよボケカス共がよぉ!てめえらみてぇなゴミムシ風情がこの俺様に向かって舐めた口きいてんじゃねぇぞコラァ!?ぶっ殺すぞゴラァッ!!!」
凄まじい怒号と共に放たれた殺気に当てられ、全員が硬直する。
それはそうだろう。
彼らとて幾多の修羅場をくぐり抜けてきた戦士たちなのだ。
並大抵の殺気には怯まない自信があった。
しかし、今目の前にいるこの男の殺意、と言うより狂気は桁外れに凄まじかった。
まるで、巨大な竜に睨まれた小動物のような気分だった。
(なんだこいつは……?こんな奴に敵うはずが無い……!)
そんな思いが頭をよぎり、足が竦んで動けなくなる。
「あ、ああ、あああああ!」
復讐の女神と恐れられたイサカが狂王を見て顔を青ざめる。
まるで小娘のように震え後ずさりする。
その様子を見て、ユノが叫ぶ。
「ダメっ!!逃げて、イサカ!!!」
しかし、時すでに遅し。
「おいおいおい、イサカちゃん何ビビってんのぉ?あ、そか!あそこの黒ずくめ戦闘員共がイーイー騒ぐからビックリしちゃったんだね!イーーッ!おい、お前ら謝って!ポクちんのイサカちゃんに謝って!!ほら、ごめんなちゃいは!?」
「ひぅっ……!」
「ねえ、なんで逃げるのさ〜?ポクちんの事好きなんでしょ〜?なら逃げないでよ〜☆」
「や、やめて……」
「や、やめてだってぇ、かっわいいなぁ〜!」
「ひっ……いや……来ないで……お願い……」
声は、崩れた心の奥底から漏れ出るかのように、震えていた。
足が動かない。喉は乾き、目は潤む。
それでも男は近づいてくる。無邪気な笑みを浮かべた狂王が、世界の終わりのような気配を纏って――。
「たすけて……誰か……お願い……もう……やめて……」
ぽろぽろと涙をこぼしながら、イサカはその場に崩れ落ちた。
心が砕けた音が、誰にも聞こえた気がした。
「あ〜ラメラメ!そんな風にに可愛い声で鳴かれたらポクちん、ポクちんもうそれだけで達しちゃう!!ああ、ラメラメラメラメらめえぇ!!…………あふん♡」
狂王はイサカの泣き声で本当に達し自らのズボンの中を汚した。。
その光景を見たイサカの精神は完全に崩壊してしまった。
目から光が消え、焦点が定まらなくなり、気を失う。
完全に壊れてしまったようだ。
「いっや〜んはずかちい♡ポックンみんなが見てる前で達しちゃった。でも見られてチョッピリ興奮しちゃった♡うわあーお!!」
狂王が満足そうに頷く。
どうやら満足したらしい。
イポスは狂王をみて戦慄していた。
あかん、滅びる。
そらこんなん滅びますわ。
あんなマジキチが王様になったら、いくら前後の王様が立派でも女神国は滅びますわ……。
一体当時の女神国国王選定者達は、なにをトチ狂ってあんな電波人間を国王に据えたんだ?
それがイポス君の正直な意見だった。
「エンザアアアアアアアア!!」
ガープが半狂乱になって叫びながら、拳を振りかざしてくる。
それを見て、狂王がニヤリと笑う。
なんとガープが狂王とイブの下に近づこうとすればするほど距離が離れていくのだ。
「な、なんだと!?」
困惑するガープ。
「ふふ、どうしたのかな?お爺ちゃんボケちゃったの〜〜?晩御飯はさっき食べたでしょ!?」
余裕の表情で微笑む狂王。
「くそっ、おのれえっ!!」
「ひゃあはははははっ、悔しければここまでおいで〜」
狂王は笑いながら手で自分の尻を叩きガープを挑発する。
その様子を見たガープの表情が怒りに染まる。
「くっ、どこまでも馬鹿にしおってぇっ!」
「ほらほらぁ、頑張れがんばれ♪どうしてそこで諦めるんだ!そこで!(怒)諦めるな!がんばれ!為せば成る!!……ぬわ〜んてうっそぴょ〜ん♪あっきらめたるあ〜〜??」
「ぐぬぅ、おのれええええっ!!!」
激昂し、全力で走るガープ。
しかし、距離は縮まらない。
まるで透明な壁でもあるかのように。
「ひゃあはははは、ざまあみろぉ♪お前みたいな雑魚に用はないんだよ!ポクちんが王様になった時、ダメだって反対したバチがあたったんだ。とっとと失せろ。あっかんべろべろべ〜!」
「ぐっ、貴様あっ!言わせておけばああっ!!」
さらに加速し、走り寄るがやはり近づけない。
「はぁ、はぁ、はぁ、馬鹿な、なぜ、こんなに遠いんだ!?どうして追いつけないんだ!?」
「ガープ様落ち着いてください。あれは何かしらの魔法です!」
プリズナ・ヴァルキリードがガープを落ち着かせようと、その手を握る。
「ピンポンピンポンピンポーン!正解で〜っす!ネクロノミコンとかルルイエ異本とかに書いてある禁断の魔法だよん。この本はぼくちんみたいな天才以外が読んだら頭がくるっくるパーになっちゃう本だから、実質ポクチンだけが使える魔法だね☆」
「……く、くそぉっ!!ならば、これならどうだぁっ!!」
そう叫ぶと、突然立ち止まり両手を突き出す。
するとそこから黒い球体が出現し、一気に膨れ上がると巨大な漆黒のドラゴンの姿に変わる。
それを見た周囲の者たちは驚きのあまり言葉を失う。
それはそうだろう。
神話に出てくる伝説の怪物が現れたのだから。
しかもそれが2体もいるのである。
一体だけでも凄まじい脅威だというのに、それが2体だ。
あまりのことに、誰もが呆然と立ち尽くしていた。
そんな中、いち早く我に返ったプリズナが指示を出す。
「全員退避してくださいっ!早くっ!」
その言葉にハッと我に帰る兵士たち。慌ててその場から逃げ出す。
そして、その場に残ったのはプリズナとガープ、そして与徳、ユノ、スパルタクス、ギルトンだけだった。
「ゆけ、次元の邪竜達よ!」
そう言ってガープがパチンと指を鳴らすと、2体の巨大竜が動き出した。
まず動いたのは、1体目の黒き龍だった。
2本の足で大地を踏みしめると、そのままゆっくりと歩き出す。
(こ、これが、あの伝説の邪龍なの?)
あまりにも現実離れした光景に、プリズナは驚愕する。
それも無理からぬことだろう。
何せ目の前に立っているのは、物語の中でしか語られないような存在なのだから。
しかし、いつまでも呆けているわけにはいかない。すぐに気持ちを切り替えて指示を飛ばす。
「ユノさんは後方から援護射撃をお願いします!ギル君は前衛で盾になりつつ攻撃を防いでください!私は魔法で援護します!」
それを聞いた二人は即座に行動を開始する。
プリズナは杖を構え呪文を唱える。
その間、ユノ水の攻撃、呪文を放つべく狙いを定める。
それと同時にギルトンも走り出しパーティの前面にでる。
そしてスパルタクスも前面に走りだす。
その手には大剣を握りしめていた。
一方、黒き龍の方はと言うと……。
グルルゥオオォォォォッ!!! 雄叫びを上げると同時に口から火炎放射を放つ。
もう一体は狂王が仕掛けた次元の歪みの細工を正そうと魔法陣を展開している。
それに気付いたのか、次元の歪みから無数の触手が現れ、黒き龍を攻撃する。
しかし、黒き龍はその巨体からは想像できないほどの俊敏さで躱し、逆に攻撃を仕掛ける。
その一撃を受けた触手は呆気なく消滅する。
さらにもう一撃を加えようと迫るが、その前にもう片方の触手が襲いかかる。
咄嗟に避けようとするが間に合わず、脇腹を切り裂かれてしまう。
グガアァァァアアアッ!? 痛みに悲鳴を上げるが、それでも怯むことなく反撃に出る。
鋭い爪で切り裂き、尻尾を振り回して叩き潰す。
更にはブレスを放って焼き尽くす。
その凄まじい猛攻の前に、さしもの触手の化け物も追い詰められつつあった。
しかし、まだ諦めるつもりはないようだ。
今度は直接体当たりを仕掛けてきた。
ドゴオォンッ!!! 激しい衝撃音が響き渡り、地面が大きく陥没する。
しかし、黒き龍は微動だにしない。
それどころか、涼しい顔をしているように見える。
その様子を見て、ガープは勝ち誇ったように笑う。
「フハハハハッ!無駄じゃ、我が黒龍にはいかなる攻撃も通用せんぞ!!」
狂王はアゴに手をやり考える。
「う〜ん、ちょっち押されてるかもかも…よ〜し、イサカたそに手伝ってもらおうっと⭐︎」
エンザが指を鳴らす。
「イサカたそ〜? もうお目覚めの時間だよん♪」
呼びかけに応じて、イサカの身体が無言で立ち上がる。
その眼は焦点を失い、魂の宿った気配がない。
虚ろな視線。薄らと笑みさえ浮かべたその顔は、もはや“復讐の女神”ではなかった。
彼女の手には一本の鎖。
それは冷たい氷の呪具。
蛇と亀の紋章を刻み、封印された神獣の咆哮を宿す――封獣《モビーディック=ラーケン》。
「氷獄より来たれ……汝の名は……」
少女の口が、まるで壊れたオルゴールのように、詠唱を紡ぐ。
「氷獄より来たれ……汝の名は…… モビーディック=ラーケン」
その声に応じるように、鎖が震える。
霜が宙を舞い、空気が裂け、氷の粒子が地面を這い始めた。
まるで、世界が凍る。
そして――
鎖が溶け、変形を始めた。
金属は軋みを上げ、蠢き、異形へと姿を変える。
血のように黒く、海のように深く。
その巨躯は20メートルを超え、全身を水色の重装甲で覆っていた。
角を戴いた鬼面の兜。
吐息は白く、体表からは霜の結晶が散り落ちる。
眼は光る。瞳孔はない。そこにあるのは、“命令の履行者”としての空洞だけ。
機神・モビーディック=ラーケン
“凍てつく世界へと誘う、氷の神”
巨体が、唸りを上げて動いた。
ドガアアアアァッ!!!!!
氷の巨神が拳を振り抜く。
目の前にいた黒龍が、冗談のような音を立てて吹き飛んだ。
それは質量の暴力ではない。
世界の秩序を書き換えるような、“寒気の神律”そのものだった。
大地が白く染まり、空気が凍結する。
熱を持った存在すべてが、揺らぎ始める。
そして二撃、三撃。殴るたび、蹴るたびに、空間が泣いた。
あまりの威容に、戦士たちは声を失った。
プリズナがようやく呟いた。
「……氷の封獣じゃない。これは……一つの世界そのものよ……」
その背後で、狂王は跳ねながら叫んだ。
「いえ〜い☆ 出ました〜! ポクちんのお姫さまが呼んだ、究極のデストロイヤーちゃんなのだ〜!」
地獄が、満面の笑顔で踊っていた。
そしてイサカは、何も言わず。
ただ、冷たい瞳で氷の巨神を見上げていた。
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