乂阿戦記2 第五章 黄緑の魔法天使ニカは今日も元気に遊びまわる-8 最強の拳がぶつかる!ギルトン対神の獣ウォーロック!
\超展開✖️熱血変身バトル✖️ギャグ✖️神殺し/
オっス!おらギルトン!ひゃーイブ姉ちゃんを助けに来てみたらすごく強い奴らがゾロゾロいる!おらワクワクするぞ!いっちょやってみっか!
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銀の門が、空間を割るようにして開いた。
そこから姿を現したのは、白き光を纏う“少年のような存在”――だが、それは明らかにこの世界の理に属さないものだった。
髪は月光のように白く、肌は透き通る光そのもの。だがその姿を視界に収めた瞬間、見る者の脳は“認識”を拒絶する。
輪郭は歪み、存在は曖昧で、“観測すること”そのものが禁忌に触れるような違和感。
「……ッ!?」
ガープ・ドアーダが、一歩、無意識に後退った。
覇王と恐れられる武仙にとって、あってはならぬ失態。
だが、恐怖は無意識のうちに肉体を支配していた。
(な、何だ……これは……!?)
(──違う。これは“誰か”ではない。“概念”だ。神の──“格”だッ!!)
「……貴様、まさか……創造神か……?」
誰に問うでもない呟きに、白き少年は無言で佇んだまま応じない。
その背後、地獄のような咆哮が轟いた。
――それは、獣の声。
雄牛の角、サーベルタイガーの牙、炎のたてがみ。
馬の蹄、熊の腕、龍の翼、恐竜の尾。
――それら全てが、忌まわしき神の意志のもとに一つへと繋ぎ合わされた、災厄のキメラ。
見る者の魂を“否”と叫ばせる、完全なる破壊の象徴。
「――よせ、ウォーロック」
白き少年が静かに声をかけると、魔獣はひざを折るようにして従った。
神の獣。
それはウォーロックと呼ばれる存在。
神の剣、神の楯、神の牙、神の炎。あらゆる戦場で“神”の意を体現し、神に仇なす者を灼き尽くす破壊の象徴。
ドアダ最強の将、スパルタクスが汗を滲ませながら、一歩退いた。
神域の武仙、ガープ・ドアーダの背中に電撃のような悪寒が奔る。
(ば、ばかな……このガープが……! 身体が、震えている……!?)
それは畏怖。恐怖。
感情ですらなく、生物としての本能が叫んでいた。
この白い“何か”は、今ここにあるどんな存在よりも上位の“神”である、と。
その圧を察し、戦闘を続けることすら躊躇する中、唯一人――
「うっひゃー! オメェすごく強そうだな!? オラ、ワクワクしてきたぞー!!」
ギルトン・カルマストラ。
先代勇者パーティ最強にして、“斉天大聖”の二つ名を持つ破格の拳闘士が、満面の笑みを浮かべて前に出る。
そして――
少年は、微笑んだ。
その瞬間、神気が爆ぜた。
白き男は変わらず無言、だが嬉しそうに微笑を浮かべ一歩前に出た。
好戦的なギルトンにユノ達は慌てる。
「ちょ、ちょっと待った!?」
しかし、既に遅かった。
次の瞬間にはギルトンの体が吹き飛ばされ壁に激突していたのである。
「ぐえっ?!」
白い男の攻撃ではない。
割って入って来た炎の魔獣の攻撃だった。
「先代赤の勇者よ!我が主と闘いたくば、まずは我を倒すのだな!!さあ、かかってこい、勇者ども!!!」
獣の咆哮を上げウォーロックが身構える。
「……っ、くそ、やってやるぜ、いくぞみんな!」
覚悟を決めて与徳が叫ぶ
「はい!」
「承知しました」
慎重に間合いをとっていたスパルタクスもそれを合図に動きだす。
最初に動いたのはユノだった。
彼女の武器である蒼の剣を上段に構えるとそのまま飛び上がる。
「もらったぁぁぁぁぁ!!!!」
渾身の一撃が振り下ろされる瞬間、ウォーロックが吼えた。
「ガァァァァァァァアアアアアアア!!!」
その音圧の力で剣が止まる。
「うそ!?」
同時にユノの体は巨大な前足で弾き飛ばされてしまった。
「きゃああああああ!!!!!」
宙を舞う彼女を追撃しようとするウォーロックの前にすかさず割って入る影があった。
雷杖を持ったプリズナである。
「させません!」
彼女が杖を振るうと同時に雷が発生しウォーロックを襲う。
だがまるで効いていない。
逆に反撃を受け、雷杖は真っ二つに折れてしまった。
「くっ、そんな……きゃああっ!!」
さらに追い打ちをかけられ、彼女は地面に叩きつけられてしまった。
「プリズナちゃん!大丈夫?」
倒れた彼女に駆け寄り助け起こすのは、いつの間にか背後に回っていたユノだ。
「あ、ありがとうございます、ユノさん」
「ううん、気にしないで」
そんな二人を庇うように、今度は与徳が立つ。
「おい、大丈夫か二人とも、下がってろ」
「え、ええ」
「すみません、油断していました」
二人が下がったのを確認し、与徳は改めて敵を見据えた。
(さて、どうしたもんかな……)
敵の巨体を前に、思わず冷や汗が流れる。
先ほどから何度か攻撃を加えているが、ほとんどダメージを与えられていないのだ。
このままではジリ貧だろう。
かといって、このまま引き下がるわけにもいかない。
なぜなら、後ろには守るべき者がいるのだから。
ちらりと背後を見ると、そこには自分を心配そうに見つめる妻の姿があった。
「大丈夫、私がアンタを守るから」
そう言って微笑む彼女を見て、自然と勇気が湧いてくる。
(そうだな、ここで負けるわけにはいかない)
「うおおおお!!!」
雄叫びと共に、与徳は駆け出した。
カードの束を上に放り投げ詠唱を唱える。
『我願う、契約に基づき汝を召喚する! 出でよ我が封獣ユグドラシル!!』
その瞬間、空から凄まじい光が降り注ぎ巨大な魔法陣が現れたかと思うと、そこから神々しいオーラを纏ったウサギの耳を付けた天使が姿を現したのだった。
そしてその天使が手に持った錫杖を振り下ろすとヨクラートルの体は光に包まれ輝きだした。
「変!神!」
与徳が赤紫の鎧を纏った変身ヒーローの姿になる。
頭部には兎耳にも似たパーツがついていた。
変身した与徳を見てウォーロックが吠える。
「ふ、赤紫の勇者か面白い!我の求めしものはただ一つ強者!!絶対の強者との闘いのみ!!!」
ウォーロックの全身から猛烈な炎が噴き上がる。
「さあ来い、強き者よ!死力を尽くして闘うがいい!!」
与徳は赤紫のビームサーベルを構えると彼に斬りかかった。
しかしその攻撃は彼の体に届くことなく、吹き出す炎の壁に阻まれる。
「何!?」
驚く与徳に対して、ウォーロックはニヤリと笑った。
「言ったはずだ、貴様の力を見せてみろと!」
次の瞬間、彼の口から火炎放射器のように勢いよく炎が吐き出された。
「くっ……!」
間一髪それを躱すも、今度は尻尾による強烈な一撃を受けて吹っ飛ばされてしまう。
「ぐはっ……」
壁に叩きつけられ崩れ落ちた彼を見下ろしながら、ウォーロックは言った。
「ふむ、どうやら口ほどにもないようだな」
「……まだだ」
立ち上がろうとするがダメージが大きく体が言うことを聞かない。
そんな与徳に対して彼は容赦なく追撃を加える。
「ふんっ!」
熊手の剛腕が与徳の頭を引きちぎるべく振り下ろされる。
「でえりゃああああああああ!!!」
「ぬぅ!?」
だが剛腕が与徳の頭を砕く前に、ギルトンの拳がウォーロックの炎の防壁を突破し鳩尾を打ち抜いた。
しかしそれでもなお怯むことなく反撃してくる。
「ふはははは!流石は歴代勇者最強と名高きギルトン・カルマストラ!斉天大聖"孫悟空"の称号を持つ武仙よ!!そんな貴様を我が喰らう!!」
「ひゃー!おっちゃんもスゲーつえーな!よーし、オラもどんどん上げていくぞ!!」
ギルトンの身長はわずか175センチ。
対するウォーロックは、身長3.5メートル・体重1トンを超える灼熱の魔獣。
その体格差は、もはや人と兵器、拳と隕石のようなものだった。
だが、それでもギルトンは怯まない。
真っ向から殴り合い、拳と拳をぶつけ合う。
むしろ、“差がある”という事実そのものに興奮していた。
「ははっ! オメェ、やっぱ本物だなァ!!」
その光景に周囲は唖然としていた。
ガープや与徳、ユノ、プリズナはともかくとして、ガープに付き従ってきたドアダ戦闘員の面々は皆一様に驚いていた。
それも当然だろう、何せ伝説の勇者の生の激闘を目の当たりに見ているのだから。
それはまさに奇跡とも言える光景であった。
「どうしただ、こんなものだか?」
「ぐっ……おのれぇ……!舐めるなぁあああ!!!」
激昂したウォーロックが全身に纏う炎の勢いを増す。
それと同時に周囲にあった岩や瓦礫が次々と融解し、さらには蒸発していく。
(か、帰りてええええええ!!)
首領につき従ってきたドアダ上級戦闘員イポス君は半泣きになりながら闘いに巻き込まれないよう勇者ギルトンの戦いを見守っていた。
「はぁあああああ!!!」
炎を纏ったまま突撃するウォーロックに対し、ギルトンは正面から迎え撃った。
「うーりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃああああ!!!!」
二人の拳がぶつかり合い衝撃波が広がる。
建物内がどんどん瓦解していく。
(死ぬ死ぬ死ぬ!死んじゃう死んじゃう!!誰か助けて、誰か俺をここから連れ出してええ!!俺普通の男子中学生にちょっと毛が生えた程度の戦闘力しか持ってないんだって〜〜!!!)
心の中で必死に助けを求めるものの、当然ながら誰も助けには来ない。
「イ、イポス君、おいらのバリアーの外に出たら絶対ダメっすよ!死んじゃうっスよ!!」
ドアダ随一のバリア使い亀型サイボーグ"カメッス"がイポスを守りつつバリアを貼る。
「うえーん、カメッス先輩、俺もう帰りたい〜!」
「カメッスも帰りたい〜!」
二人の叫びは、神にも魔獣にも勇者にも届くことはなかった。
ウォーロックとギルトン──炎の魔獣と最強の勇者。
二柱の怪物が拳と拳で語り合うたびに、空間は悲鳴を上げる。
破砕。融解。衝撃。熱量。殺気。すべてが嵐のように交錯する、修羅の舞踏。
「うーりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃあああああああ!!!」
雄叫びとともに拳を叩き込むギルトン。
その身は鍛えに鍛え抜かれ、神仏すらも畏れるほどの武威を宿している。
だが、それを受け止めるウォーロックの肉体もまた異常だった。
紅蓮の焔を纏いし戦獣。その肉体は灼熱の鋼鉄の如く、ただ硬く、ただ重く、ただ強い。
それは魔獣ではない。
もはや「戦争」と呼ぶに相応しい、純然たる兵器だった。
衝突の余波で、イハ=ントレイの宮殿が、神殿が、都市の骨格そのものが崩れ始めていく。
「お、おいっ……やばくねぇかこれ……」
「バ、バリア厚くしますッ!! カメッスフルパワー防壁ッッ!!!」
イポスとカメッスが泣きながらバリアを強化するも、既に建材は限界だった。
ウォーロックとギルトンの拳が交錯するたびに、空間がゆがむ。
次元の端が剥がれ、構造そのものが崩壊する。
それでも、ギルトンは笑っていた。
「ひゃーーーッ!! おめぇ、ホントに強えなッ! オラ、こんなワクワク、久々だぞ!!」
拳が重なるたびに、拳が歓喜の鐘を鳴らす。
刃ではない。魔法でもない。純粋な武。
ただひたすら、相手を倒すために、命の全てを拳に込めている。
一方、ウォーロックの炎も激しさを増していく。
「いいぞ、ギルトン・カルマストラァ……貴様のような“本物”を喰らえるとはッ……ッ!! この命に、悔いはない!!!」
魂を焦がす咆哮。
灼熱の奔流がギルトンを包む。
だが、ギルトンは一歩も退かず、拳を前に突き出した。
ギルトンの拳が、ゆっくりと後ろに引かれた――
炎に包まれ、視界さえ歪む中、彼はわずかに微笑む。
「ぶちぬけえええええええええ!!!」
その拳が、炎を割いた。
魔獣の焔を貫き、真紅の鬣を散らし、ウォーロックの胸に打ち込まれる。
「がはッ……!」
ウォーロックの身体が浮く。
その巨体が、勇者の一撃で壁に叩きつけられた。
周囲は静寂に包まれる。
瓦礫が崩れ落ちる音。
熱で焼け爛れた空間の歪み。
そして、黒焦げた床に倒れ込む戦獣の影。
「……終わったの?」
ユノが、呆然とした声でつぶやいた。
だが、その答えはすぐに否定された。
「いいや……まだ、だッ!!!」
ウォーロックが、炎と共に立ち上がる。
その身はズタズタになりながらも、双眸にはまだ、戦の焔が燃えていた。
「まだだ……まだ、貴様と拳を交え足りぬ……! 我が喰らいたきは、貴様の“限界”なのだあああああ!!!」
まさに戦鬼。
もはや理性などなく、ただ拳の交歓だけを求める狂戦士。
その姿に、ギルトンはにやりと笑った。
「ったく、しぶとい野郎だ……。でもよ──」
勇者は拳を構え、口元を吊り上げる。
「オラも……まだ燃え足りねぇ!!」
「我もだ、ギルトン・カルマストラ……!」
再び拳が交わる。
宇宙が産声を上げるような爆音が、空間を裂いた――。
二柱の怪物が拳で語り合うたびに、空間が悲鳴を上げる。
衝撃。破砕。融解。次元の歪み。
それはもはや戦いではなかった。
――宇宙のはじまり。創造と破壊の交錯。