乂阿戦記2 第五章 黄緑の魔法天使ニカは今日も元気に遊びまわる-7 究極頂点の降臨!
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海底都市イハ=ントレイの最も広く豪勢な女王の間にイサカはいた。
女王の間は彼女を軟禁する広く豪華な牢屋。
彼女は今自分の人口頭脳を神殿のメインコンピュータに直接つなぎ演算を行っている。
彼女のデスクの前には何台ものパソコンモニターがあり、その後ろには邪神に関する禁忌の記録が記された魔導書が山積みされている。
やがて、作業が終わったのか、彼女の身体から力が抜け、電源を落とした機械のように崩れ落ちた。
動かない。まるで命を奪われたように。だが――数秒後、何事もなかったかのように立ち上がる。
そして、ゆっくりと起き上がりまた作業を開始する。
……今彼女の目は虚だ。
何者かに操られ作業をしているのが一目でわかる。
部屋の外、女王の部屋に続くイハ=ントレイの廊下は深き者共の氷像であふれ返っていた。
女王の部屋に続く廊下を警備していた兵士達が襲撃者に氷漬けにされたらしい。
その犯人は、手勢を連れたドアダ首領ガープとドアダ最強の将スパルタクスだった。
ドアダ首領ガープは氷の廊下に倒れる兵士達を見て、ニヤリと笑う。
「くくく、雑魚どもめ、我らに刃向かうからだ」
そういいながら、倒れている兵士の一人の頭を踏みつける。
「所詮、深き者共なぞこんなもの、下等なモンスターにすぎん!ふん、こいつらは単なるクトゥルフの番犬、害獣も同じだ、殺してしまえ」
「御意」
そう言うと、ドアダの戦闘員達は次々と、倒れている兵士達にとどめを刺していく。
その様子を、少し離れたところから見ている者がいた。
それは、かつて、先代勇者パーティの精霊使いだった、エルフの姫プリズナ・ヴァルキリードだった。
「ひどい、酷すぎる、ガープ様は人を殺すことをなんとも思っていないんですね……深き者族の中には邪神の眷属ばかりでなく、ヒト種の血が混じった人間に近い方々もいるんですよ……」
彼女は、あまりの残虐な光景に吐き気を覚え、口を押さえながら、壁に寄りかかるようにして座りこんだ。
その時、彼女の耳に聞き覚えのある声が入ってくる。
「オッス、プリズナ姉ちゃん!」
彼女が声の方に振り向くと、そこにはかつての仲間がいた。
「ギ、ギル君!?」
そこに立っていたのは、なんとエクリプスを打倒した先代勇者パーティの1人であり、メンバーの中でも最強と言われたギルトン・カルマストラだった。
「ど、どうしてあなたがここに?今までどこにいたんですか?」
「オラ、セドゲンス父ちゃんからイブ姉ちゃんのこと聞いて慌てて駆けつけただ。プリズナ姉ちゃん、心配はいらねえ、ガープ爺ちゃん達がやっつけた"でぃーぷわん"はみんな邪神の分裂体ばかりだ。どれもヒトのニオイがしねえ。ヒトとの合いの子はちゃんとヒトのニオイが残ってるだ。」
「……けど爺ちゃん達がやっつけてる奴らからはヒトのニオイが一切ねえ。邪神の分裂体は人型のやつもあったりするけど心とか魂がない凄くタチの悪いモンスターなんだ。」
「邪神達がヒトに嫌がらせする為作った悪意の塊で、生き物にみえるけど生き物じゃない怪物だから、放っておくと凄く危険なんだ。」
「ガープ爺ちゃんはイブさんが攫われた事に凄く怒ってるけど、むやみな殺生する人じゃねえだ。だから安心してくれ!」
それを聞いたプリズナは思わず胸をなでおろす。
「……よかったぁ、それなら安心ですね。それにしても、よく私達の居場所がわかりましたね」
「オラ与徳兄ちゃんとユノ姉ちゃんに連れて来てもらっただよ」
「プリズナ姫お久しぶりっす。貴方もここに来てしまったんですね?」
そう言って声をかけて来たの元ドアダ七将軍の一人だった与徳だった。
「あちゃー、ダメじゃないプリズナ! 家に小さい子供がいるお母さんがこんな危ないところに来てどうするの?」
そう言ってたしなめるのは元冒険者仲間の狗鬼ユノである。
「いやいや、お前も子供四人の母親だろ?まあ、プリズナさんは水色の勇者イブの相棒だったんだ。助けに来たい気持ちは汲んでやろうぜ?」
「そうよね、アタシもそう思うわ。イブ、いいえイサカさんだってきっと、自分が死んだ後も、子供たちを守ってくれる人が欲しかったんだと思うわ。だからアタシ達がここに来たんですもの!」
「ああ、そうだな・・・イブさん、いいやイサカ、俺がお前の代わりに子供達を守るからな・・・」
ホエルと同じように与徳とユノもいざという時はフレアとシルフィスとニカを自分たちの養子にする予定らしい。
一同はイサカがいる女王の部屋までもうすぐの所まで迫っていた。
地面に光が走り、歪んだ文様が刻まれる。まるで時空そのものを引き裂くような、禍々しい魔法陣だ。
それは黒いヴェールをかぶった人型であった。
しかしその姿はどこか人間離れしていた。
なぜならその黒い体は透けており向こう側の壁が見える程だったから。
その姿を見た時、全員その正体を確信した。
「その姿、まさかウムル・アト=タウィル!?」
ヴェールを纏った黒衣の人型ウムル・アト=タウィルこそは邪神の副王ヨグソトースの化身
今深き者共が躍起になって蘇らせようとしているクトゥルフよりも遙格上の時を司る大神
その邪神の副王が何故?
「いかにも、我が名はウムル・アト=タウィル。お前達が来るのを待っていたぞ。」
「邪神の副王が何故こんなところに!?いや問うまい!立ちはだかるならばここで倒すのみ!」
スパルタクスが即座に臨戦態勢を整える。
「待てスパルタクス!」
七将軍スパルタクスを首領ガープが制止した。
「時の神よ闘う前に問う。何故お前がここにいる? 四大霊とはいえクトゥルフごとき小神に何故貴様ほどの大物が介入してくる?」
ガープの問いにウムル・アト=タウィルが答える。
「我が主の命なれば……」
その言葉を聞いた瞬間、皆の顔色が変わる。
ヨグソトースの主!?
ウムルの背後に、空間がきしむ音が走った――これは“副王”すら従える、さらなる“上位存在”の気配……
彼のいた後ろに銀色の門が現れ、白い人影と炎をまとった牛のツノもつ怪物が姿を現した。
ウムル・アト=タウィルが跪き声を上げる。
「平伏せよ、矮小な人間ども!神の御前である!跪き首を垂れるのだ!」
銀の門より現れた白色に輝く髪をもつ美しい少年が口を開く。
「すまないが諸君、イサカ君の演算が終わるまで彼女に会うのは控えていただきたい……」
男は無表情にそう言った。
その姿は白い仮面のようであり、素顔のようでもあった。視界に映っているのに、形として脳が受け入れられない。
翼が生えているように見えた――瞬きすると、そこには何もなかった。見えたものが現実だったのか、錯覚だったのかもわからない。
翼が生えている?
いや生えていない?
それすらわからない。
ただ気配はわかる。
凛とした涼やかな、畏怖・重圧を感じるような気配だ。
イハ=ントレイ。
海底に沈む古代都市にして、深き者どもの王城。
その最奥、女王の間にて――沈黙する演算室の空気を一瞬で凍らせたのは、神の気配だった。
↓物語をイメージしたリール動画
https://www.facebook.com/reel/4774470159443882/?s=fb_shorts_tab&stack_idx=0