乂阿戦記2 第五章 黄緑の魔法天使ニカは今日も元気に遊びまわる-6 呪いの魔神マクンブドゥバの取引
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一方その頃、宇宙空間では――
暗黒のゾス星系から這い出したクトゥルフ眷属の邪神軍と、銀河連合軍との熾烈な艦隊戦が展開されていた。
その戦場に突如現れたのは、漆黒の巨神。
暗黒邪神たちの猛攻を意に介さず、まるで宇宙を散歩でもするかのように悠然と歩みを進める。
巨神が放つ斬撃光は星を裂き、無数の邪神艦が次々と爆散していく。そして、最後に残されたのは――
イカのような触手を持つ、有機的な“旗艦”。
『く、くそぉ!! こんな、こんなことがあってたまるかぁ!!』
艦長らしき生命体が、人語に変換不能な言語で絶叫する。が――
次の瞬間、黒い斬撃が艦を一直線に貫いた。
それはまさに、天罰だった。
『ぐ、ぐうぅっっ……ば、馬鹿な……こんな事があっていいはずが……』
断末魔の叫びと共に、艦は光の粒となって消えた。
その巨神の名は――封獣エリゴス。
半神半馬ケンタウロスフォルムの機械神である。
搭乗していたのは、黒天ジャムガ。
彼はコックピットで競馬雑誌を広げ、片手で操縦桿を動かしていた。
戦争のさなかにも関わらず、その関心はレースの勝敗に向いている。
(はぁ~、最近負け続きだな……そろそろ勝たないとヤバい……ん?)
ふと視線を上げると、前方に白い巨大戦艦。銀河連邦の主力艦だ。
通信が入る。
「そこの機体、所属を述べろ」
「…………」
「聞こえているのか! 応答しろ!!」
「…………」
「おい! この化け物め、無視するな!!」
「……あんだあ? 助けてやったのに応答しろだあ? 潰すぞ、てめえ……」
「な、なんだその態度は!? 我々は連邦政府直属の軍隊だぞ!!」
「ああ、そうかい。で、用件はそれだけか?」
「貴様ぁ……! いいだろう。要件を伝える。今すぐ投降しろ。命だけは助けてやる」
「……おいおいおいおい。泣きながら邪神にやられかけてたのはそっちだろうが……俺が助けたってのによォ」
「うるさい! 黙れ! 指示に従え!!」
「……断ると言ったら?」
その瞬間、黄緑の光が戦艦を掠め、外装が吹き飛ぶ。
「何事だ!?」
『艦長! 敵邪神軍の増援です!!』
「なんだと!? 数は!?」
『……す、推定一万機!!』
「バカな……ありえん……奴らは一体、どれほどの――」
『事実です! 確認済みです!!』
黒天ジャムガは盛大にあくびをしながら、コックピットに肘をついた。
「あーあ、まったくゾスの連中は……弱いくせに数と見た目だけはゴツくしやがって。だが放っておくと星を動かす儀式をされて、クトゥルフが復活する……地球が海に沈んじまうってのは、冗談にならねえ。競馬ができなくなるのは困るんだよ……」
ふと、目を細めて呟いた。
「セオスアポロもナイトホテップも、ルドラも……今は宇宙で足止めされてる。地球は雷音や鵺が守ってるが……鵺、大丈夫かね。あの子は華奢だからな……」
――そのとき、黄金の光が迸った。
戦艦を貫通し、その先にいた邪神艦隊を丸ごと焼き尽くしていく。
「おっと……あっぶねえなあ。あの野郎、わざとオレのすぐ脇で撃ちやがったか」
黄金の砲撃の主は、封獣機アトラスタイタン。
搭乗するはセオスアポロとその妹アタラ。
「ふ……黒天よ。心ここにあらずか? そんなにも鵺が心配か? この親バカ……いや、この場合シスコンか?」
「ぬかせ、セオスアポロ。マジもんのシスコンのお前に言われたくねーよ」
「な、なんだと貴様……!」
「はっはっは、これは一本取られたな兄上!」
アタラが苦笑しつつも、語気を強める。
「だが今は喧嘩している場合ではないぞ。黒天よ?」
「ああ、分かってるぜ。行くか」
エリゴスが背中のブースターを噴かし、跳躍。
宙を舞いながら、斬撃光を次々と放ち、邪神艦隊の陣形をズタズタに切り裂いていく。
「このまま押し切るぞ、アタラ」
「ああ、了解した、兄上!」
二機はそのまま前線へ突入した。
――さらにその後方で、銀髪の神が立ち上がる。
「さて、私も行くとしよう。援護を頼む、アテナ」
「ハイ、了解いたしました。ノーデンス様。海王神機ネプチューン、出撃準備完了しております」
「うむ……ならば行くぞ」
ポセイドンが飛翔形態へと変形し、波動を放ちながら前線へ突っ込んでいく。
――その動きを見て、旗艦テスモポロスの地母神、デメテル・ダイナマイトが咳払い一つ。
「さあ、あたしもやるかね。皆の者、よくお聞き!!」
朗々と響く声が艦内にこだまする。
「これより全軍を三つに分ける! 一つ、敵陣突破部隊――指揮はギオリック・ヘパイトス。二つ、後方支援部隊――指揮は峰馬アテナとセレスティア・ヴィーナス。三つ、予備兵力――これは温存!」
「はっ! かしこまりました!!」
伝令係が走り去り、次なる報告が飛び込む。
「総司令! 敵前衛部隊がこちらに突撃を開始!」
ダイナマイトの顔が一瞬で曇る。
「馬鹿な!? こちらの戦術を読んでいたのかい!?」
ざわつく一同。
しかし、静かに冷静な声が通信を通じて届く。
「……落ち着け。恐らく奴らは我々が分断を狙うと読んで、敢えて部隊を二分し、別方向から挟撃を狙ってきているのだろう」
それはノーデンスからの通信だった。
「……なるほど。だったら、こっちも乗ってやるさね。油断させて一気に叩く。よし、行くよお前ら!」
――その頃、地上では雷音たちが教団との死闘を繰り広げていた。
だが宇宙では宇宙で、地球を守るためのもう一つの激戦が、静かに、そして熾烈に幕を開けていたのだった。
ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ るるいえ うが=なぐる ふたぐん
ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ るるいえ
うが=なぐる ふたぐん……
地下の大祭壇にこだまする呪詛の声。
掲げられた石像――クトゥルフの像が、禍々しい磷光を放っていた。
その像の前で、教団の大司教マクンブドゥバが両腕を広げ、復活の呪文を高らかに詠唱していた。
それは単なる祈りではない。星辰を操り、クトゥルフの眷属を喚び寄せるための、禁断の儀式。
やがて、地鳴りのような振動が神殿を揺るがした。
像が――砕けた。
砕け散った石像の中から、触手めいた漆黒の何かが蠢き始める。
無数の目、咀嚼器、腕か足とも知れぬ器官が渦を巻き、天井を突き破った。
「おお、偉大なるクトゥルフ様……!」
「いまこそ御使いが降臨された!」
神官たちは歓喜の声を上げ、膝をついて崇め奉る。
だが、その“御使い”は神殿の天井を突き破ると、そのまま大空へ――いや、宇宙空間へと這い出していった。
その異形は、空間を這い、分裂と拡張を繰り返しながらゾス星系へ向かっている。
やがて、それらは新たなる艦隊――邪神軍宇宙艦隊として編成されるのだ。
その様子を、神殿の屋根上から見下ろしていた二人の影があった。
九闘竜No.2・ファウスト。
そして、かつて剣の鬼神と謳われたNo.3・パピリオ。
「……アレが、ゾス星系から召喚された眷属どもね」
「うむ。分裂を繰り返し、黒の宇宙を目指す……。あれらは、いずれ連合軍と真正面から衝突することになるだろう」
「だけど、正直どうでもいいわ。アタシが今、心配してるのは――家族のことだけ」
その眼差しには、遠く宇宙を見つめる姉のような情があった。
そのまま屋根の穴から飛び降り、二人は大祭壇へと舞い降りる。
そこにいたのは――マクンブドゥバ。
「グッグッグッグッ……懐かしいのう。胡蝶蜂剣よ、古き友よ……」
「……ええ。久しぶりね、呪いの魔神マクンブドゥバ」
「しかし、何故ここに? どうやって来た?」
「それは企業秘密よ。……それより、訊きたいことがあるの」
「ほう? ならば言ってみるがよい」
「イサカの脳――“キジーツ”は、どこ?」
マクンブドゥバの目が細まる。
「持っておる。だが……何故それを?」
「知ってるでしょ? あの子はアタシにとって妹のような存在だった。……あの子を、操り人形みたいに利用しているのを、これ以上見過ごすつもりはないの」
「ふむ……だが、断る。クトゥルフ様の復活には、復讐の女神の力が必要なのだよ」
「そう……ならば、力づくで奪い返すまでよ!!」
パピリオが構えた刃が煌めく――だが。
「おっと、それはやめておけ。ワシを殺せば……ヌシらに返したあの娘、ニカの呪いが発動するぞ? 死ぬのは――あの娘じゃ」
マクンブドゥバが視線をファウストに流す。
ファウストは舌打ち一つ。
「さらにもう一つ。ワシが死ねば……イサカも死ぬ」
マクンブドゥバは司祭服の胸元を開いた。
そこには――生きた脳が。
キジーツは、マクンブドゥバの肉体と半ば融合していた。
「な……!?」
「わかったであろう? ワシの命が尽きれば、イサカも終わる。……そこでだ、旧友よ。取引を持ちかけようではないか」
邪悪な笑みを浮かべ、囁く。
「さしものワシも、貴様らを敵に回すのは怖い。だから……クトゥルフ様が完全復活するまででかまわぬ。ワシを連合軍から守ってくれんか?」
「…………」
「復活の暁には、イサカの脳はヌシに返そう。教団内での地位も保証する。どうじゃ? 古き友よ」
パピリオは逡巡した。
理性は、この取引を“呑むべきだ”と囁いている。
だが――感情は、拳を握らせた。
(こいつは……愛弟子フレアの両親を殺した男よ。いつか必ず……殺す)
だが今は――イサカも、ニカも守らなければならない。
「……いいわ。その条件、呑んであげる。ただし、クトゥルフが復活するまでの“限定契約”よ」
「うむ、それで構わん」
マクンブドゥバがしてやったりと笑う。
その顔は老獪で、狡猾で、憎らしいほど自信に満ちていた。
「ふはははは……もうじき連合軍の殺し屋どもが、ワシを狙ってやってくる。頼むぞ、剣の鬼神よ――守ってくれ!」
パピリオは振り返らずに踵を返す。
(覚えてなさい……アンタの喉元に刃を突きつける日は、必ず来る)
そう思いながら、パピリオは祭壇の奥へと歩み去った。
――だがその時が来たならば、この手で終わらせる。あの忌まわしき契約ごと、すべてを
その背中に、マクンブドゥバの高笑いが響き渡る。
だが――それは“終わり”の笑いではなかった。
“始まり”を告げる、序章にすぎなかった。
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