乂阿戦記2 第五章 黄緑の魔法天使ニカは今日も元気に遊びまわる-4 蒼の勇者"狗鬼漢児"vs速射爆拳"鮫島鉄心"
\超展開✖️熱血変身バトル✖️ギャグ✖️神殺し/
雷音達の前に深き者ども最強の男”速射爆拳”鮫島鉄心が現れる!!
蒼のHERO狗鬼漢児が漢のステゴロ勝負を挑む!!
一対一の真剣勝負が始まる!!
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気温が、下がった。
湿気と共に、皮膚を這うような冷気が這い寄ってくる。
漢児、雷音、獅鳳、キース、アキンドの五人は、沈黙の中、石壁に囲まれた狭い通路を進んでいた。
やがて、通路の先に光――いや、ぬるい蒸気のような靄が浮かび上がる。
その向こうに、開けた。
空洞だった。広大な空洞――天井は見えず、足元にはひたひたと濡れる石畳。底の見えぬ水面が、かすかな音を立てて揺れていた。地底湖。だが、自然のものではない。明らかに、人工の“何か”によって穿たれた空間だった。
証拠に、壁面には螺旋状の階段。岩を削り、整えられた道が、ゆるやかに上へと伸びている。
その階段を上れば、地上へ戻れる――そう思った。
が、その希望は、すぐに霧散した。
そこにいたのだ。
無数の“それ”が、うごめいていた。
まるで腐肉に群がる蠅のように、魔物たちが群れていた。
毛のない猿のようなもの、爛れた鱗に覆われた巨体、蛸のような触腕を這わせるもの、烏賊に似た頭部の怪異――地獄絵図。
いや、地獄とはこういうものかと、誰もが納得せざるを得ない光景。
誰かが、息を呑んだ。
その空気に、全員の足が止まる。
(ここを……俺たちだけで、抜けるのか?)
喉が、音を立てる。誰のでもない、恐怖の咽喉鳴りだった。
アキンドが、知らず一歩後退しかけ――その肩を、雷音が掴んだ。
「行くぞ」
その言葉に、力が宿る。
(俺たちは一人じゃない。仲間がいる――)
心に言い聞かせるように、足を踏み出す。
その一歩が、重く、確かに地を鳴らす。
その時だった。
金属音。いや、金属と皮膚の軋み――武器を携えた音だ。
通路の奥に、何者かの姿が浮かび上がった。
インスマス面。
目の焦点が合っていないようでいて、じつは鋭い。
頬が潰れ、額に皺が走り、唇は濁った鱗で覆われている。
その顔は、人のそれとは似ても似つかない。
五人の前に立ち塞がったのは、インスマス面の――武装兵たち。
さらに、その前に進み出たのは、二人の異形だった。
一人は、せむし。両腕をこすり合わせ、卑屈に笑っている。
もう一人は、鮫。異常なまでに筋肉の発達した体躯、黒く濁った瞳。野性と獣性を併せ持った“武”の男。
カエルと、サメ。どちらも水に生きる者。
だが、目の前にいるのは海ではない。“地底”である。
それが、全てを物語っていた。
「ゲヒヒヒヒ、どうもどうもドアダの王子龍獅鳳さんに"武の頂"の弟乂雷音さん。あっしは蛙冥刃ヒキガエルと申すケチな用心棒でござんす。この度はご足労いただき誠にありがとうございやす!」
先に口を開いたのは、せむし男の方だった。
甲高い声。だが、妙に湿っている。
その口元には笑みがあるが、目には光がない。
カエルだ。
背を丸め、両手を胸の前でこすり合わせながら、地を舐めるような声で名乗った。
「蛙冥刃ヒキガエル。あっしはただの用心棒でござんす。龍獅鳳さんに、乂雷音さん、これはこれは、お噂はかねがね……」
媚びたような物言い。だが、姿勢に隙がない。膝は少し曲げ、足の裏は常に地を掴むように開いている。
獅鳳が、静かに問いかける。
「……何者だ?」
次に口を開いたのは、もう一人の男――サメだった。
肩幅が異様に広い。いや、肩というより、背中そのものが獣のように盛り上がっている。
「守備を請け負った、傭兵だ。……これ以上、深入りせぬことをすすめる。君たちの仲間は、じきに解放される。害は加えぬ」
淡々とした語り口。だが、嘘ではない――そう雷音は感じた。
だが。
「ふざけるなよ!」
獅鳳の声が響いた。拳を握り、前へ出る。
「仲間を傷つけておいて……何が“解放する”だ。そんな言葉、信じられるか!」
その言葉に、サメはわずかに頷いた。
「……そうか」
すでに想定済み、という表情だった。
次の瞬間、せむしの蛙が笑いを漏らす。
「ゲヒヒヒヒ……やっぱ、そうでござんすよねぇ。隊長、こいつぁ殺るしかありやせんぜ?」
「……ああ。だが――手加減は、しない」
その一言と同時に、速射爆拳――サメ男が動いた。
構えに入ったのは一瞬だった。
まず、腕を十字に交差。腹から大きく、音が聞こえるほどの息を吸い込む。
交差した腕を解くと同時に、吐息を噛み殺すように腹を締める。
足の裏を大地に吸いつかせるように沈め、息を抜き、右手を上、左手を下に。
天地上下――誘いの構え。
(……あれは……)
漢児の目が細まる。
構えそのものは、無防備だ。
特に顔面。あえてガードを下げている。
つまりは――“誘い”。
わざと隙を見せることで、相手に攻撃を選ばせる。
選ばせた瞬間に、それを撃つ。
逆に言えば、反応速度に絶対の自信がなければ成立しない構え。
打たせてから返す――打撃の世界における“殺しの形”。
「……みんな、下がれ」
漢児の声が落ちるように響いた。
その声音に、誰もが従った。
雷音も、獅鳳も、キースも、言葉なく数歩下がる。
(わかっているな、という合図)
目配せだけで伝わる“通じ合い”。
その瞬間、この場にあった緊張が――静かに、張り詰めていった。
(……違う)
漢児は思う。
目の前の速射爆拳だけではない。
背後に控える蛙冥刃、そしてその兵たちも――ただの深き者共ではない。
どれもこれも、足取りが違う。
あの、ぴょこぴょこと跳ね回る、蛙のような愚鈍な足運びはない。
スリ足だ。静かに、水平に、頭の高さを変えずに動く。
武術の歩法。戦場で研ぎ澄まされたそれ。
(歩法を身につけた者だけの、動き……)
眼光も違う。焦点が鋭く、全方位を睨んでいる。
ただのチンピラではない。これは戦闘部隊、それも――選りすぐりの精鋭。
漢児は深く、静かに構えた。
両手、下げたまま。
脱力。虚の構え。
ボクシングで言えば――プリンス・ナジーム・ハメドの構えに近い。
呼吸が、止まったように静まる。
対峙する速射爆拳が、唇をわずかに吊り上げた。
獲物と認めた獣の笑みだった。
「……なあ、あんたら一体何者だ?深き者共とは何度か戦ったことあるけどあんたら明らかに毛並みがちがうぜ?」
キースの質問に蛙冥刃が肩をすくめ応える。
「なに、ただの寄せ集めですよ。深き者族の中でも闘うことしか取り柄がない輩を集め、チームとして体面を取り繕った愚連隊、あっしはこのチームを殺悪"シャーク"隊と呼んでやすがね……」
「へえ……そりゃまた安直なネーミングだな」
「ゲヒヒヒ。違いねえ」
――構えの内側で、心が沈んでいる。
それは速射爆拳も、狗鬼漢児も同じだった。
睨み合う。沈黙が続く。
だが、それはただの膠着ではない。
筋肉のわずかな膨張、視線のブレ、呼吸のタイミング、重心のわずかな傾斜。
その一つ一つが、仕掛けの兆しであり、探りであり、殺気の交錯だった。
これが、武の頂を知る者同士の「対峙」――言葉よりも濃密な会話。
速射爆拳は見ていた。
漢児の脱力した立ち姿。
それは、ただの“棒立ち”ではない。
脚部の筋が張っている。いつでも動けるように。
脱力と見せかけて、全身のバネを温存している“待ちの構え”。
(こいつ……やはりただ者じゃない)
速射爆拳が、一歩踏み出す。
その一歩で、空気が変わった。
殺気が凝縮し、雷音たちが一瞬息を呑む。
拳が、走る。
速い。
その一撃に意識が引きつけられた瞬間――足が動いた。
下段回し蹴り。
頭部へのフェイントで視線を上に釣り、タイミングをずらして蹴り込む。
その足が、空を切った。
躱された。読まれていた。
返しの拳が、飛んでくる。
それを寸前でスウェイしながら避け、間を詰めて掌底。
空振り――否、ギリギリで退かれた。
漢児がステップで距離を取り、両者の間に再び空気の断層が生まれる。
速射爆拳が唇を吊り上げる。
「……やるな、小僧」
「おっさんこそ……」
冷や汗が、額を伝う。だが、笑みがこぼれる。
どちらも、本気の呼吸だ。
速射爆拳が天地上下の構えを解いた。
もう“誘い”は使わない――そういう宣言だった。
踏み込む。
速射爆拳の突進。
その肉体――まるで装甲車だ。
迫る質量、疾る意志。
漢児が、構えを変える。
低く、深く。
呼吸が変わる。
次の瞬間、疾風のように姿が消えた。
「なっ……!?」
速射爆拳の目が驚愕に見開かれた刹那、
背中に衝撃。
「ッガァ……!」
吹き飛ばされる。
(どこから……!?)
背後――まさか、瞬間的に背後を取られるとは思わなかった。
この技――“瞬歩無拍子”。
ドアダ首領・ガープが操る幻惑の歩法。
軌道を欺き、動きを欺き、意識の死角に滑り込む。
速射爆拳が体勢を崩したまま、後退する。
漢児が踏み込む。追撃の意志。
だが、速射爆拳の反応は早かった。
振り向きざま、拳。
その一撃は、漢児の頬をかすめ――そして、拳が返る。
ストレート。
顔面。
命中――否、打ち込む直前、漢児が拳をかぶせる。
カウンター。
「ッラァッ!!」
肉が鳴る。骨が軋む。
(入った!)
手応え。完璧なカウンター。
漢児が次の動作へ移ろうとした、その瞬間。
「ッゴホッ!!」
腹に、重い一撃。
速射爆拳のボディブロー。
入っていた。
(ッ……くそっ……いつの間に!?)
喉から内臓がせり上がるような衝撃。
膝が崩れかける。
だが、漢児は倒れない。
気力で立つ。
膝蹴り。
鳩尾へ。
間髪入れずアッパー。顎が跳ねる。
「ッぐはっ!!」
だが速射爆拳は止まらない。
殴る、殴る、殴る。
漢児の反撃を挟ませないまま、拳が連打される。
速い。
破壊力よりも、圧倒的な手数。
“速射爆拳”の名は伊達ではなかった。
漢児が、ステップで背後へ回る。
再び、“瞬歩無拍子”。
だが――
「……見えてるぞ」
振り返る速射爆拳。
構え直している。
(ちっ、もう読まれたか……)
すでに、同じ技は通じない。
その睨み合いの只中、
雷音と獅鳳が、声もなく唸った。
この戦い――格が違う。
ただの拳の応酬ではない。
読み、予測、技術、筋力、胆力、すべてが拮抗している。
そして、気づく。
これは、もう“試合”ではない。
“闘い”だ。
生死を分かつ、“本物の闘い”が始まっていた。
「…………やるな小僧!」
「オッさんこそ!この俺の攻撃に耐え抜いた奴なんてマジで化け物じみた奴ばかりなんだぜ?」
漢児の頭にチラリと蛇王ナイトホテップと九闘竜No.5ロート・ジークフリードの姿が思い浮かぶ
再び、距離ができた。
静寂。
呼吸が、音になる。
心臓の鼓動が、五感を侵す。
速射爆拳は、肩で息をしていた。だが、眼は死んでいない。いや、むしろ光が強くなっていた。
(……あれを出すしかない)
漢児が、静かに構えを変える。
前傾。踵を浮かせ、全身を蛇のように撓らせる。
瞳の奥に、猛禽のような鋭さが走る。
「……爺ちゃんから盗んだもう一つの歩法、使わせてもらうぜ」
「なに……!?」
次の瞬間――消えた。
速射爆拳の視界から、狗鬼漢児の姿が掻き消えた。
幻惑の瞬歩とは違う、瞬間速度倍加の瞬歩だ。
「……ッガッ!!」
再び、速射爆拳の腹に重い衝撃。
吹き飛ぶ。だが今回は、速射爆拳の体勢が崩れきっていなかった。
即座に振り返る。迎撃の拳を繰り出す。
入った。
顎が跳ね、漢児の動きが一瞬止まる。
だが――そのまま、漢児からの反撃の拳が返る。
左のカウンター。顔面に命中。
(……読まれていた、か)
速射爆拳の思考が止まる前に――追撃のボディブロー。
漢児の拳が、鋭角に刺し込まれた。
「グホッ!!」
血が滲み、膝が折れる――その体勢で、漢児が跳ね上がった。
飛びつき、腕を取る。
関節を決める。巻き込む。
「飛びつき腕十字……!」
速射爆拳の目が、驚愕に見開かれる。
漢児の脚が首に絡み、体を地面に引き倒す。
「グッ……!!」
バキン、と音がした。
右腕の関節が逆に曲がる。
そのまま、顎に蹴り。
脳震盪を起こすような一撃。
ふらついたところに――
今度は両足が絡む。三角絞め。
動きが止まる。
地に横たわる速射爆拳の呼吸が荒くなる。
(決める……!)
漢児は、腕を引き絞る。
呼吸が止まるのを、感じた。
だが。
「ぬがあああああああ!!」
獣の咆哮。
速射爆拳が、極められたままの体勢で、漢児の身体を持ち上げた。
高く――
そして、叩きつける。
ドガンッ!!
地響きがした。
漢児の頭が、岩盤に叩きつけられ、血が飛び散る。
それでも、極めは解かれない。
速射爆拳が、再び持ち上げ、もう一度――
叩きつける。
三度目。
四度目。
五度目――
気絶しているはずの漢児が、それでも絞めを緩めない。
その姿に、雷音たちは声を失った。
もう、試合ではない。
技でもない。
人間の限界を超えた、“意地”の応酬。
「ギイイイイイイイ!!」
「ガアアアアアアアア!!」
両雄、獣のように吠える。
常軌を逸した我慢比べ。
骨と肉と精神をすり減らしながら、それでも――両者は倒れない。
沈黙が、周囲を支配する。
蛙冥刃ヒキガエルだけが、目を見開いた。
(ぬかった……)
(隊長とここまで渡り合うとは……狗鬼漢児、まさかこれほどの武人だったとは……)
静かに、仕込み杖を抜く。
構え――居合。稲妻のような斬撃。
漢児の首を、落とすつもりだった。
「待てッ!」
雷音が叫ぶ。
遅い。
ヒキガエルが、雷撃のように走った。
だが――その刃は、届かなかった。
金属音。
横から紅の光が走った。
剣が、斬撃を受け止めていた。
「――武人の一騎打ちに水を差すとは、不粋だな。居合使い?」
声。
低いが若い、だが鋭い。
その声に、ヒキガエルの背筋が凍った。
「……まさか、何故あんたがここに……」
そこに立っていたのは、仮面の剣士――
九闘竜No.5《レッドキクロプス》。
仮面越しでも伝わる、威圧。
ヒキガエルの刃が、震えた。
「この男を倒すのは、この俺と決めている」
鋼のような声音だった。
さらに――
「テメェらあああ!! アクアとレイミを、どこにやったぁぁぁぁああ!!!」
咆哮。
炎の槍を構えた、赤い魔法少女が突進してくる。
フレア・スカーレット。
蛙冥刃が、さらに混乱した。
今、ここにいるのは、敵ばかりのはずだった。
なぜ、味方が――いや、元味方が、こちらに剣を向ける?
(まさか、裏切り……?)
そして、さらに――
「アポート!」
アキンドの声。
狗鬼漢児の身体が、雷音たちのすぐそばに転移した。
気を失っている。だが、顔は鬼のような形相のまま。
そして――速射爆拳もまた、倒れながら、空を殴り続けていた。
「……ふっ、二人とも……」
レッドキクロプスが、うっすら笑った。
「骨の髄まで、武辺者だな」
蛙冥刃ヒキガエルは、即座に判断した。
隊長――速射爆拳は、立てない。
敵も、動けない。
いや、正確には、すでに勝敗は決していた。
勝ちも負けもない。
ただ、両者が“潰し合った”だけだった。
(……退くしかない)
蛙冥刃は静かに隊長を肩に担ぐと、振り向かずに部下へ命じた。
「――殺悪隊、撤収」
無駄な威勢もない。ただ、事実としての命令。
「はっ!」
深き者の兵たちが、一糸乱れぬ動きで背を返す。
だが、その背後に、声。
「待ちなさい」
冷たい声だった。
振り向いた先には――二人の少女。
神羅。そして、鵺。
まるで“光”と“影”。
片や柔らかく、芯のある優しさ。片や沈黙に宿る圧。
神羅が、ふわりと手を広げた。
「レイミちゃんとアクアちゃんの居所を教えるまでは、逃がさない」
口調は穏やかだった。
だが、その足元にある気配は――まるで重石のような“圧”だった。
鵺は無言で、ただ敵意を放っている。
まるで、呼吸が刀身のようだった。
蛙冥刃は、全身に冷汗をかきながら、それでも口元に笑みを作った。
「……ほう。これはこれは……お麗しきレディ達」
仕込み杖を納めながら、頭を下げる。
「よござんす。ならばこうしましょう。隊長と部下達は、先に帰させていただきやす。あっし一人残って、そちら様をご案内いたしましょう。我らがアジトまで」
神羅が頷く。
「それでいいわ」
だが、ヒキガエルはさらに付け加える。
「……もう一つだけ、条件がありやしてね」
「何かしら?」
「外におられるドアダ七将軍・銀仮面の旦那と、あの恐ろしい魔女――乂羅刹様。さすがにそのお二人に囲まれちゃ、気が休まらない。申し訳ないが、少し距離をとっていただけませんかね?」
鵺が、じっとヒキガエルを見つめる。
その眼差しには、感情がなかった。
無言のまま、ただ――一度、頷いた。
その一動作で、場の空気が変わる。
神羅もそれに合わせて頷いた。
「わかったわ。その条件、呑みましょう」
「……いいの、鵺ちゃん」
神羅が念を押す。
鵺は、ゆっくりと微笑んだ。
「……ええ。大丈夫。それに……この人たち、まだ“全てが悪”というわけじゃなさそうだしね。……信じてみましょう。……裏切ったら、その時は――」
語尾が、落ちる。
だが、その笑顔を見た瞬間――
蛙冥刃ヒキガエルの背に、冷たい汗が一筋走った。
(……なんだ、この娘……)
ぞくり、とする。
見通されている。
それも、すべて――過去も、現在も、未来すらも、視られているような感覚。
その恐怖と同時に、奇妙な“安心”が、心に芽生えた。
(従っておけば……生き残れる。そんな気がした)
隣に立つ神羅も、同じだった。
彼女たちは、決して“強くは見えない”。
だが、強い。
いや――“在る”のだ。
“そこに在る”だけで、周囲の空気すら支配する“何か”が。
ヒキガエルは、深く頭を垂れた。
そして――口元に、かすかな笑みを浮かべた。
「では、参りましょうか。……旦那方、お待たせいたしました」
こうして、“地底の激闘”は一つの幕を下ろした。
だが、物語はまだ――終わらない。
↓物語をイメージしたリール動画
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