乂阿戦記1 プロローグ+第一章- 赤の勇者雷音と魔剣クトゥグァ-1 伝説の始まり
勇者と魔法少女が、12の宇宙を巡る命懸けの戦いへ――
炎の魔剣に選ばれた少年・雷音は、
“龍に変身する力”を手に入れる。
だがその力は、
神々・邪神・巨大ロボすら巻き込む戦争の引き金だった。
勇者×魔法少女×巨大ロボ
神も魔女も戦艦も、全部まとめてぶん殴る!
――これは最強一家の“家族愛”が、世界を壊し、救う物語。
※1話から一気に物語が動きます
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プロローグ:神すら殴り倒す男
空が燃えていた。
紅蓮の炎が天を焦がし、無数の爆発が大気を震わせる。巨大悪魔の軍勢が咆哮を上げ、空を埋め尽くす宇宙戦艦からは、雨あられと魔法弾が降り注いでいた。
まさしく、この世の終わりを思わせる光景。
だが、そんな地獄のような戦場で、さらに信じられないことが起きていた。
「グルァァァァァァアアアッ!!!」
獣のような咆哮が轟く。
いや、違う。あれは咆哮ではない。
哄笑だ。
たった一人の男が、敵の大軍勢を前に笑っていたのである。
身長二メートルを優に超える巨漢。上半身は裸で、鋼鉄のように鍛え上げられた筋肉からは凄まじい闘気が立ち昇っている。
その男の名は――覇王・乂阿烈。
神をも恐れぬ、天下無双の拳士である。
そして今、その覇王が何をしているのかというと……。
「「「「「うわああああああああああああ!?!?」」」」」
全長五十メートル級の巨大宇宙戦艦を、両腕で鷲掴みにしていた。
しかも、ただ持ち上げているのではない。
ブォン! ブォン! ブォン!
巨大戦艦を振り回しているのだ。
それも、プロレス技のジャイアントスイングよろしく、凄まじい勢いで。
「艦長ォォォ!! 船体が回転していますッ!!」
「そんなことは分かっておるわァァァ!!」
「遠心力で身体が潰れるぅぅぅ!!」
「総員、何かに掴まれぇぇぇ!!」
「無理ですうううううう!!」
艦内は阿鼻叫喚。
乗員たちが悲鳴を上げるなか、乂阿烈はますます愉快そうに笑った。
「グルァァァァァァァッ!!!」
ブォォォォォンッ!!
そして、その巨体が後方へ大きく反り返る。
まさか。
いや、そんな馬鹿な。
だが、その男は本当にやってしまった。
――ジャーマンスープレックス!!
「「「「「ぎゃあああああああああああ!!!」」」」」
五十メートルもの巨大戦艦が、玩具のように宙を舞った。
投げ飛ばされた戦艦は、魔法弾を乱射していた別の敵艦へ一直線に迫る。
「敵艦接近!!」
「何だと!? どこからだ!?」
「味方です!! 味方の戦艦が飛んできます!!」
「はあああああああ!?」
「回避ぃぃぃぃぃぃ!!」
もちろん、間に合うはずがなかった。
ドゴォォォォォォォォン!!!
凄まじい衝撃とともに二隻の巨大戦艦が激突。装甲がひしゃげ、魔力炉が爆発し、紅蓮の火柱が空へ噴き上がった。
だが、惨劇はそれだけでは終わらない。
衝突の勢いで弾き飛ばされた戦艦が、さらに別の一隻へ突っ込んだのだ。
ドゴォォォン!!
「うわあああああ!!」
その戦艦が、また別の戦艦へ。
ズドォォォォン!!
さらに、その一隻が別の一隻を巻き込み――。
ドゴォォォォォン!!!
次々と戦艦同士が激突していく。
まるで巨大なビリヤードだった。
ただし、球の代わりに飛び交っているのは、数え切れない乗員を乗せた宇宙戦艦である。
「「「「「うわあああああああああああ!!!」」」」」
絶叫と爆発が空を埋め尽くし――。
ほんの数秒後。
静寂が訪れた。
先ほどまで空を覆っていた宇宙艦隊が、跡形もなく消え失せていたのである。
正確には、全滅したのだ。
生身の人間たった一人が、巨大戦艦を投げ飛ばしただけで。
「…………」
その光景を、俺は呆然と眺めていた。
「……兄貴」
口から漏れたのは、それだけだった。
俺の名前は、乂雷音。
そして、今しがた宇宙艦隊を素手で壊滅させた化け物じみた男――覇王乂阿烈は、俺の兄貴だ。
いや、正真正銘の兄貴なんだけどさ。
……いくら何でも、これはないだろ。
戦艦だぞ? 五十メートルもある宇宙戦艦だぞ?
それをジャーマンスープレックスで投げ飛ばすなんて、いったいどんな筋肉をしているんだ。
「雷音! ぼさっとしてると巻き込まれるぞ!」
横から怒鳴り声が飛んできた。
振り返ると、狗鬼漢児アニキがこちらへ駆け寄ってくる。
漢児アニキは、地球からこの世界へ飛ばされてきた高校生だ。口は少々悪いが、面倒見がよく、いざというときには頼りになる兄貴分でもある。
「漢児アニキ……見たかよ、今の」
「見たくなくても見えるわ! 何だよ、あの無茶苦茶な光景は!」
漢児アニキは額に汗を浮かべながら、燃え盛る空を見上げた。
「戦艦をジャーマンスープレックスで投げる奴があるかよ! あんなもん、人間のやることじゃねえ!」
「……あるんだよ。乂一家には」
「お前、さらっと恐ろしいこと言うな!?」
思わず苦笑してしまった。
だけど、仕方がない。
何しろ俺たち《乂一家》は、世間一般の常識から相当かけ離れた一族なのだから。
神を殴り倒し、魔王と渡り合い、冥府から蘇り、果ては女神を嫁にしてしまう。
そんな連中が、俺の家族にはいる。
そして、そのなかでも桁外れの怪物が、長男である覇王乂阿烈だった。
拳を振るえば天が割れ、足を踏み鳴らせば大地が震える。もはや一人の人間というより、歩く天変地異だ。
けれど、俺にとって兄貴は単なる恐ろしい怪物じゃない。
誰よりも強く、誰よりも頼もしい。家族を守るためなら、神だろうと悪魔だろうと容赦なく拳を叩き込む男。
それが、俺の兄貴だった。
誇らしいと思う。心の底から尊敬している。
だけど同時に、あの大きな背中を見上げるたび、自分の小ささを思い知らされるのも事実だった。
兄貴と違って、俺はまだまだ未熟だ。
盗賊スキルと火炎魔法を多少扱える程度の、駆け出しの少年冒険者。探索や罠の解除なら少しは自信があるが、兄貴のように巨大悪魔を殴り倒したり、宇宙戦艦を投げ飛ばしたりなんて、逆立ちしたってできやしない。
そもそも、あんな戦い方を目指すこと自体、何かが間違っている気もする。
それでも――。
いつか俺も、自分の力で誰かを守れる男になりたい。
そう思っていた。
そのときだった。
「グルァァァァァァァッ!!!」
再び凄まじい咆哮が轟き、火柱の向こうで兄貴がこちらを振り返った。
一瞬、目が合う。
「――ッ!?」
心臓を鷲掴みにされたような圧迫感が全身を襲った。
戦場を蹂躙する覇王の眼光。
普段の兄貴が見せる穏やかさなど欠片もなく、ただ圧倒的な強者の威圧感だけがあった。
正直、足がすくみそうになる。
けれど、その瞳の奥に宿るものを、俺は知っていた。
家族を守るという、決して揺らぐことのない意志。
だからこそ、兄貴は強いのだ。
「雷音! 行くぞ!」
「……ああ!」
漢児アニキに肩を叩かれ、俺はようやく我に返った。
燃え盛る戦場を背に走り出す。
その背後では、なおも兄貴の拳が空を裂き、巨大悪魔たちの悲鳴が響き渡っていた。
まったく、うちの兄貴は本当に無茶苦茶だ。
だけど、いつか必ず――。
俺も、俺なりの強さを手に入れてみせる。
そう心に誓った。
もっとも、このときの俺はまだ知らなかった。
その願いが、思いもよらない形で叶うことを。
そして、伝説の炎の魔剣との出会いが、俺の運命を大きく変えてしまうことを――。
第一章 赤の勇者・雷音と炎の魔剣
「……ここだ」
額の汗を拭い、俺は目の前に広がる洞窟を見渡した。
息をするだけで肺が焼けそうな熱気。岩壁の亀裂からは赤い光が漏れ、足元では溶岩がゴボゴボと煮えたぎっている。
ここは火山ダンジョン《クトゥグァの洞》。
俺――乂雷音は今、母さんに内緒で、この危険極まりない場所へ潜り込んでいた。
「ねえ、雷音……本当に行くの?」
背後から声をかけてきたのは、ピンク色のボブカットに赤いリボンをつけた少女――乂神羅。
俺の義姉であり、支援魔法と回復魔法を得意とする、明るく元気な女の子だ。
「お母さんにバレたら、絶対怒られるよ!」
「バレなきゃいいだろ」
「そういう問題じゃないってば!」
神羅が両手を腰に当て、頬を膨らませる。
「だいたい、お兄ちゃんたちだって見つけられなかったんでしょ?」
「だから俺が見つけるんだよ」
「どうしてそうなるの!?」
「探索なら俺の専門だ。盗賊スキルがあるからな」
「もうっ! そんな無茶なことに使わないでよぉ!」
神羅は呆れたように頭を抱えた。
俺たちが探しているのは、伝説の炎の魔剣。
かつて母さん――ホエルが邪神ナイアルラトホテップとの戦いで使用したという、災厄級の魔剣だ。
この洞窟は通路が絶えず変化し、魔力感知すら狂わされるため、兄貴たちでさえ最深部へ辿り着けなかった。
だからこそ、俺が見つけたい。
兄貴と同じように戦えなくても、探索なら俺にもできる。
いつまでも守られるだけの弟ではいたくなかった。
「……雷音。またお兄ちゃんのこと考えてた?」
「……別に」
「嘘だぁ! すぐ顔に出るんだから!」
「うるさいな」
「ふふっ、図星でしょ?」
神羅が悪戯っぽく笑う。
まったく、こういうところだけは鋭い。
そのときだった。
「雷音っ! 前を見て!」
「え?」
顔を上げた俺は、思わず足を止めた。
「…………あった」
狭い洞窟の先に、巨大な地下空間が広がっていた。
灼熱の溶岩が川のように流れ、赤黒い光が岩壁を照らしている。
その中央には、龍とも悪魔ともつかない、巨大な異形の死骸が横たわっていた。
そして、その胸に一本の剣が突き刺さっていた。
真紅に輝く刀身。
内部には炎のような光が揺らめき、まるで生き物の心臓のように脈打っている。
ドクン。
ドクン。
「……クトゥグァ」
間違いない。
兄貴たちですら見つけられなかった伝説の魔剣を、ついに発見したのだ。
「やった……!」
「待って、雷音!」
駆け出そうとした俺の腕を、神羅が掴んだ。
「あれ……なんだか怖いよ」
「神羅?」
「うまく言えないけど、近づいちゃいけない気がするの。ねえ、帰ろう? お母さんたちに相談しようよ!」
その指は小さく震えていた。
正直、俺にも分かっていた。
あの剣は危険だ。本能が触れるなと警告している。
だが、ここで引き返せば、結局何も変わらない。
「……大丈夫だ」
「雷音?」
「俺が使いこなしてみせる」
「ちょっと! 待ってってば!」
神羅の制止を振り切り、俺は魔剣へ近づいた。
そして、その柄を握る。
ドクンッ!!
「……え?」
魔剣が確かに脈打った。
次の瞬間――。
世界が紅蓮の炎に包まれた。
「ぐあああああああああッ!!?」
「雷音ッ!!」
クトゥグァから噴き出した灼熱が、俺の全身を呑み込んだ。
熱い。
いや、そんな言葉では足りない。
血管に溶岩を流し込まれたような激痛が走り、骨が軋み、筋肉が異常な勢いで膨張していく。
ドクン!!
「ぐぁぁぁッ!?」
背中に激痛が走った。
皮膚を突き破るように巨大な蝙蝠の翼が生え、腕を赤い鱗が覆う。
指先から黒い爪が伸び、額にはねじれた二本の角が突き出した。
そして、黄金に輝く瞳。
俺の身体は、悪魔と龍を掛け合わせたような異形へと変貌していた。
「雷音……?」
神羅が目を見開く。
「うそ……雷音が、化け物に……!」
――化け物。
その言葉が胸に突き刺さった。
違う。
俺だ。
俺は、乂雷音だ!
「かみ……ら……」
必死に口を開くが、喉から漏れたのは獣じみた声だった。
「おれ……だ……!」
神羅がはっと息を呑んだ。
自分の言葉が俺を傷つけたことに気づいたのか、その表情が悲しげに歪む。
だが、そのとき。
身体の奥から、凶暴な衝動が湧き上がってきた。
――壊せ。
――焼け。
――喰らえ。
目の前にあるものを、すべて焼き尽くしたい。
洞窟も、岩壁も。
そして――神羅さえも。
「……ッ!?」
ふざけるな!
神羅は家族だぞ!
俺が守るべき相手だろうが!
それなのに、身体が勝手に動こうとする。
神羅へ向かって、一歩。
「ぐ……うぅぅ……!」
俺は必死に足を踏ん張り、拳を握り締めた。
鋭い爪が掌へ食い込むが、暴走する炎は止まらない。
「雷音っ!!」
神羅が叫んだ。
恐怖に震えながらも、逃げようとはしない。
「雷音! しっかりして! 雷音は雷音でしょ!?」
その声が胸の奥へ届いた。
――そうだ。
俺は何をやっている。
誰かを守れる男になりたかったんだろう。
それなのに、こんな力に負けてどうする!
「俺は……!」
兄貴の背中が浮かぶ。
母さんの笑顔が浮かぶ。
そして、目の前で必死に俺を呼び続ける神羅の姿。
俺には守りたい家族がいる。
こんなところで、自分を失ってたまるか!
「俺は――乂雷音だァァァァァァッ!!!」
全身の力を振り絞り、叫んだ。
その瞬間――。
暴れ狂っていた炎が、ぴたりと止まった。
「…………え?」
神羅が目を見開く。
全身を覆っていた鱗が消え、巨大な翼は炎の粒となって崩れていく。
角も爪も元へ戻り、やがて炎そのものが静かに消え失せた。
「はぁ……はぁ……!」
俺はその場に膝をついた。
身体は元に戻っている。
だが、胸の奥では今も、何かが燃え続けていた。
魔剣の力を支配できたわけじゃない。
ただ、ほんの一瞬だけ、暴走する炎を押し返せただけだ。
次に同じことが起きたら、どうなるか分からない。
「……雷音?」
神羅が恐る恐る近づいてくる。
「ほんとに……雷音なの?」
「……ああ。たぶんな」
「たぶんって何!?」
「いや、俺にもよく分からなくて……痛てて!」
「もうっ! 笑い事じゃないよ!」
神羅の目には大粒の涙が浮かんでいた。
「本当に心配したんだからね!」
「……悪かった」
「もう二度と、あんな無茶しちゃダメだよ!」
「分かったって」
「絶対だからね!?」
神羅が俺の腕をぎゅっと掴む。その手は、まだ少し震えていた。
俺はようやく、自分が戻ってこられたのだと実感した。
そして、手の中の魔剣を見つめる。
炎の魔剣。
先ほどまで暴れ狂っていた剣は、今では嘘のように静まり返っていた。
「……なるほどな」
「何が?」
「母さんから聞いたことがある。炎の魔剣は、持ち主に特別な力を与えるって」
「特別な力?」
「ああ。龍変身の力だ」
「龍変身……」
神羅は不安そうに俺を見上げた。
「でも、それ……大丈夫なの? 呪われたり、身体を乗っ取られたりしない?」
「…………」
否定はできなかった。
さっきはどうにか制御できたが、次も同じようにいく保証はない。
それでも、この力をいつか必ず、俺自身のものにしてみせる。
「……まあ、今考えても仕方ないか」
俺は立ち上がった。
「とにかく帰ろう。母さんにバレる前に」
「……え?」
神羅がぽかんと口を開ける。
「もう絶対バレると思う!!」
「何でだよ?」
「その剣、どう説明するつもりなの!?」
「…………」
俺はクトゥグァを見下ろした。
真紅に輝く、見るからに危険そうな魔剣。
「……拾った」
「怒られるよ!?」
「じゃあ、洞窟で偶然見つけたってことで……」
「それ、正直に言ってるだけじゃない!」
「……そうとも言うな」
「もうっ! 雷音の馬鹿ぁぁぁ!!」
神羅の叫び声が洞窟いっぱいに響き渡った。
俺は思わず笑ってしまった。
まったく、うちの姉貴は騒がしい。
だけど、こうして神羅と馬鹿なやり取りができることが、今は何より嬉しかった。
こうして、俺たちは《クトゥグァの洞》を後にした。
だが、このときの俺はまだ知らなかった。
炎の魔剣を手にしたことで、動き始めたのが俺一人の運命ではなかったことを。
その頃――。
遥か遠く離れた、光さえ届かない暗闇の中。
何者かが静かに目を開いた。
「――見つけた」
低い声が響く。
「炎の魔剣」
そして――。
「乂神羅」
なぜ、その存在はクトゥグァの覚醒を知っていたのか。
なぜ、魔剣を手にした俺ではなく、神羅の名まで知っていたのか。
このときの俺には、知る由もなかった。
これは、神すら拳で殴り倒す、とんでもない一族の物語。
そして、その怪物たちに振り回されていた一人の少年が、数え切れない出会いと戦いを経て、いつしか《勇者》と呼ばれるまでの物語だ。
もっとも、この頃の俺は――。
そんな未来が待っているなんて、夢にも思っていなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
ここから一気に“邪神との戦い”が始まります
「面白そう」と思っていただけたら、
ここまで読んでいただきありがとうございます!
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