乂阿戦記1 プロローグ+第一章- 赤の勇者雷音と魔剣クトゥグァ-1 伝説の始まり
勇者と魔法少女が、12の宇宙を巡る命懸けの戦いへ――
炎の魔剣に選ばれた少年・雷音は、
“龍に変身する力”を手に入れる。
だがその力は、
神々・邪神・巨大ロボすら巻き込む戦争の引き金だった。
勇者×魔法少女×巨大ロボ
神も魔女も戦艦も、全部まとめてぶん殴る!
――これは最強一家の“家族愛”が、世界を壊し、救う物語。
※1話から一気に物語が動きます
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プロローグ:神すら殴り倒す男
空が燃えていた。
巨大戦艦が、炎を噴き上げながら宙を舞う。
しかもただ墜ちるのではない。誰かに投げ飛ばされていた。
「……兄貴」
思わず、そう呟いていた。
爆音が大気を震わせる。
一隻の戦艦が空中でねじ曲がり、別の艦へと激突した。次の瞬間、紅蓮の火柱が天へ突き上がり、衝撃が大地まで揺らす。
まるで戦場のビリヤードだ。
だが、その盤上をかき回しているのは兵器でも魔法でもない。
――たった一人の男だった。
「グルァアアアアアッ!!」
咆哮が轟き、空気そのものがびりびりと軋む。
名を、乂阿烈。
俺の兄。
そして、この世界で最も“人間離れした人間”の一人だ。
身長二メートルを超える巨体。筋骨隆々の肉体。上半身は裸で、下半身には血に染まった布を巻いているだけ。
その拳は戦艦の装甲を素手で引き剥がし、腕力だけで宇宙兵器を投げ飛ばす。
拳を振れば天が割れ、足を踏み鳴らせば大地が揺れる。
――まさに、戦争そのもの。
俺は何度見ても慣れなかった。
兄貴は誇らしい。けれど同時に、恐ろしくもある。
あの背中を見上げるたび、自分の小ささを思い知らされるからだ。
「雷音! ぼさっとしてると巻き込まれるぞ!」
横から声を飛ばしてきたのは、狗鬼漢児アニキだった。
地球からこの世界へ飛ばされてきた高校生。俺たち一家と関わるようになった、ちょっと口は悪いけど頼れる兄貴分だ。
最初に兄貴の戦いを見た時は、口をあんぐり開けて固まっていたくせに、今じゃすっかりこの異常事態にも慣れてきている。
「漢児アニキ……でも、兄貴が……」
「見りゃわかる。あれはもう『すごい』じゃ済まねえ。人間のやることじゃねえよ」
漢児アニキは額に汗を浮かべながら、燃え上がる空を見上げた。
「戦艦をジャーマンスープレックスで投げる奴があるかよ……」
「……あるんだよ。乂一家には」
自分で言っていて、笑うしかなかった。
神を殴り倒し。
魔王と渡り合い。
冥府から蘇り。
果ては女神を嫁にする。
それが《乂一家》だ。
そして、その長男が目の前で戦艦を投げ飛ばしている乂阿烈だった。
俺、乂雷音は、その弟だ。
兄貴たちに比べれば、俺なんてまだまだ小物だ。
盗賊スキルと火炎魔法を少しかじっただけの、どこにでもいる少年冒険者。兄貴みたいに戦艦を殴り飛ばせるわけでもないし、母さんみたいに世界を揺らすほどの女神様でもない。
それでも――。
兄貴の背中を見ていると、思ってしまう。
いつか俺も、あんなふうに戦えたらって。
誰かを守れる男になれたらって。
その時だった。
火柱の向こうで、兄貴がこちらを振り返った。
目が合った瞬間、心臓を鷲掴みにされたような圧迫感が走る。
あれは優しい兄の目じゃない。戦場を蹂躙する災厄の目だ。
けれど、その奥には確かにあった。
家族を守る者の意志が。
「……行くぞ、雷音!」
漢児アニキが俺の肩を引く。
俺はようやく我に返り、走り出した。
背後ではなおも、兄貴の拳が空を裂き、戦艦が悲鳴のような金属音をあげて墜ちていく。
――この時の俺は、まだ知らなかった。
自分の運命が、すぐそこまで迫っていることを。
あの日。
あの場所で。
炎の魔剣を引き抜いた瞬間から、俺の人生はもう後戻りできなくなるのだと。
⸻
第一章 赤の勇者・雷音と炎の魔剣
「……ここだ」
とにかく、熱い。
息をするだけで肺の奥まで焼けそうな熱気が漂い、壁の亀裂からは赤い光が漏れている。
ゴボゴボと煮えたぎる溶岩の音が洞窟内に響き、鼻を突く硫黄の臭いが充満していた。もし一歩でも足を踏み外せば、その瞬間に骨まで燃え尽きるだろう。
――《クトゥグァの洞》。
俺と義姉の乂神羅は、母さん――ホエルに内緒で、その火山ダンジョンへ潜り込んでいた。
「雷音……ほんとに行くの?」
後ろから不安そうな声が聞こえ、俺は振り返った。
そこには、ピンク色の髪をボブカットに揃え、赤いリボンをつけた少女が立っている。
義姉――乂神羅。
支援と回復魔法を得意とする、俺たち一家の癒やし役だ。
優しくて、少しお人よし。
けれど家族のためなら、自分のことなど忘れて無茶をしてしまう。
そんな姉ちゃんだった。
「お母さんにバレたら絶対怒られるよ?」
「バレなきゃいい」
「そういう問題じゃないよ!」
神羅姉ちゃんが頬を膨らませる。
「それに、お兄ちゃんたちだって見つけられなかったんでしょ?」
「だから俺が見つけるんだよ」
「どうしてそうなるの!?」
「探索なら俺の専門だ」
「盗賊スキルをそういう方向に使わないでよぉ……」
神羅姉ちゃんは呆れたように頭を抱えた。
それでも、本気で帰ろうとは言わなかった。
姉ちゃんだって気になっているのだ。この洞窟のどこかに眠っているという、伝説の武器のことが。
――炎の魔剣。
かつて母さんが邪神ナイアルラトホテップとの戦いで使用したという、災厄級の魔剣である。
兄貴たちも何度か探したらしい。
だが、この火山ダンジョンは異常なほど複雑だった。
道は絶えず変化し、よく似た洞窟が無数に枝分かれしている。おまけに魔力感知すら狂わされるため、これまで誰一人として最深部まで辿り着くことができなかった。
だったら、俺が見つける。
兄貴たちができなかったことを、俺がやる。
それは、俺なりの意地だった。
俺は兄貴たちみたいに強くない。
だからこそ、何もできない弟のままで終わりたくなかった。
「雷音!」
突然、神羅姉ちゃんが俺を呼んだ。
「前!」
「え?」
言われて顔を上げる。
そして――俺は足を止めた。
「…………あった」
洞窟が、そこで途切れていた。
その先には巨大な地下空間が広がり、溶岩が川のように流れている。その赤黒い光が洞窟全体を照らし出していた。
まるで祭壇のような場所だった。
いや――むしろ、墓場と言ったほうが近い。
その中央に、巨大な何かが横たわっている。
黒く焼け焦げた、異形の死骸。
龍のようにも見えるし、悪魔のようにも見える。
あるいは、そのどちらでもない何かなのかもしれない。
そして、その胸には一本の剣が突き刺さっていた。
「…………」
思わず息を呑む。
刀身は、燃え上がる炎のように赤い。
いや、ただ赤いだけじゃない。
まるで炎そのものを鋼の中へ閉じ込めたかのように、刀身の奥で何かがゆらめいている。
柄から伝わってくるのも、ただの熱ではなかった。
ドクン。
ドクン。
まるで生き物の心臓のように、その剣そのものが脈打っている。
見た瞬間に分かった。
間違えるはずがない。
「……クトゥグァ」
見つけた。
兄貴たちですら見つけられなかったものを、俺が見つけたのだ。
「雷音、待って」
神羅姉ちゃんが俺の腕を掴んだ。
「なんか……嫌」
「神羅?」
「分からない。でも……あれ、怖いよ」
姉ちゃんの指が小さく震えている。
「近づいちゃダメな気がする」
俺にも、その感覚は分かっていた。
本能が警告している。
触るな。
あれは、人間が持っていいものじゃない。
それでも俺の脳裏に浮かんだのは、兄貴の背中だった。
戦艦を投げ飛ばす、あの巨大な背中。
いつか追いつきたいと思った。
いつか、その隣に並びたいと思った。
そして、俺だっていつか――誰かを守れる男になりたい。
「……大丈夫だ」
「雷音?」
俺は一歩、また一歩と魔剣へ近づいていく。
「俺が――使いこなす」
そして、その柄を握った。
その瞬間――。
ドクン。
「え?」
魔剣が、確かに脈打った。
次の瞬間、世界そのものが爆発した。
「ぐあああああああああああああッ!!?」
「雷音ッ!!」
紅蓮の炎が、一瞬にして視界すべてを染め上げた。
クトゥグァから噴き出した灼熱が、異形の死骸ごと俺の身体を呑み込んでいく。
熱い――いや、そんな言葉では足りない。
身体の内側から焼かれている。
「がっ……あ……!」
血管の一本一本へ溶岩を流し込まれたような激痛が走り、骨が軋み、肉が異常な勢いで膨張していく。
そして、心臓までもが燃え上がった。
ドクン!!
「ぐぁッ!?」
背中に凄まじい痛みが走った。
皮膚が裂け、その中から何かが飛び出す。
それは巨大な、蝙蝠のような翼だった。
同時に腕を赤い鱗が覆い始め、指先からは黒い爪が伸びていく。
さらに額が割れそうな激痛とともに、ねじれた角までもが突き出した。
「雷音……?」
神羅姉ちゃんの声が聞こえた。
俺はゆっくりと振り返る。
そして、姉ちゃんの瞳に映った自分の姿を見て絶句した。
全身を覆う赤い鱗。
背中から伸びる巨大な翼。
額にはねじれた角。
指先には鋭い爪。
そして炎の中で妖しく輝く、黄金の瞳。
そこに立っていたのは、もはや人間とは呼べない異形の姿だった。
「きゃああっ!!」
神羅姉ちゃんが思わず後ずさる。
「雷音が……雷音が、化け物に……!」
――化け物。
その言葉が、胸の奥へ深く突き刺さった。
違う。
俺だ。
俺は――乂雷音だ。
「しん……ら……」
必死に口を開く。
けれど喉から漏れたのは、人間のものとは思えない低く獣じみた声だった。
「……逃げ……るな……」
「……!」
「俺……だ……!」
その瞬間、体内の炎が激しく暴れ始めた。
壊せ。
焼け。
喰らえ。
そんな凶暴な衝動が、次々と頭の奥から湧き上がってくる。
ふざけるな。
これは俺の身体だ。
俺の心だ。
勝手に使わせてたまるか。
「ぐ……うぅぅ……!」
俺は必死に拳を握り締めた。
鋭い爪が掌へ食い込み、それに呼応するように炎がさらに膨れ上がっていく。
負けるな。
兄貴みたいに強くなりたかったんだろ。
誰かを守れる男になりたかったんだろ。
だったら――こんな力なんかに負けてどうする。
「俺は――」
自分の胸の奥から、炎よりも熱いものを引きずり出す。
「俺は……!」
自分が誰なのか。
その答えだけは、絶対に手放さない。
「――乂雷音だァァァァァァッ!!」
俺は全力で叫んだ。
その瞬間――。
暴れ狂っていた炎が、ぴたりと止まった。
「…………え?」
神羅姉ちゃんが目を見開く。
全身を覆っていた鱗が消えていく。
巨大な翼は炎の粒となって崩れ、額から伸びていた角も身体の中へと引っ込んでいった。
鋭い爪も元へ戻り、やがて俺を包んでいた炎そのものが静かに消えていく。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
力が抜け、俺はその場に膝をついた。
額から流れ落ちた汗が、地面へ落ちる。
身体は元に戻っている。
手も、足も、いつもの人間の姿だ。
だけど――。
「…………」
俺は胸へ手を当てた。
ドクン。
心臓の奥で、今も確かに何かが燃えている。
「雷音……?」
恐る恐る、神羅姉ちゃんが近づいてきた。
「ほんとに……雷音なの?」
「……ああ」
俺は荒い息を吐きながら、どうにか笑ってみせる。
「たぶんな」
「たぶんって何!?」
「痛ててて……」
「もう! 笑い事じゃないよ!」
神羅姉ちゃんの目には涙が浮かんでいた。
その顔を見て、俺はようやく自分が戻ってこられたのだと実感した。
そして、改めて手の中を見る。
炎の魔剣。
さっきまであれほど激しく暴れていた剣は、今では嘘のように静まり返っている。
まるで俺を主人として認めたかのようだった。
「……なるほど」
「何が?」
「母さんから聞いたことがある」
俺はクトゥグァを見つめながら言った。
「炎の魔剣は、その持ち主に――龍変身の力を与える」
「龍変身……」
神羅姉ちゃんが不安そうに俺を見る。
「でも、それ……大丈夫なの?」
「何が?」
「呪われたりとか……身体を乗っ取られたりとか……」
「…………」
俺には、その可能性を否定できなかった。
身体の奥では今も、あの炎が燃えている。
さっきはどうにか押さえ込めた。
けれど、次も同じように制御できる保証なんてどこにもない。
それでも――。
「今考えても仕方ない」
俺はゆっくりと立ち上がった。
「とにかく帰ろう。母さんにバレる前に」
「もう絶対バレると思う……」
「…………」
「その剣、どう説明するの?」
「…………拾った」
「怒られるよ!?」
神羅姉ちゃんの声が、静かな洞窟いっぱいに響き渡った。
その様子がおかしくて、俺は思わず笑った。
この時は、まだ笑えていた。
俺たちは何も知らなかったからだ。
炎の魔剣。
それが単なる伝説の武器などではないことを。
神々と邪神。
魔女と異世界。
そして巨大ロボ。
やがて無数の世界を巻き込むことになる戦いの、その中心に――この魔剣が存在することを。
そして、クトゥグァが目覚めたその瞬間。
遠く離れた場所でもまた、“何か”が目を覚ましていた。
深い暗闇の中。
何者かが、静かに笑う。
「――見つけた」
姿は見えない。
ただ、その声だけが闇の中に響いた。
「炎の魔剣」
そして、一拍の間を置いて――。
「そして――乂神羅」
俺たちはまだ知らない。
クトゥグァを手に入れたことで動き始めたのが、俺自身の運命だけではなかったことを。
その炎は、俺ではなく――神羅姉ちゃんの運命までも巻き込もうとしていた。
これは――。
神すら拳で殴り倒す一族に生まれた俺が、数え切れない戦いと出会いを経験しながら成長し、
いつか本当に――
《勇者》と呼ばれるまでの物語だ。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
ここから一気に“邪神との戦い”が始まります
「面白そう」と思っていただけたら、
ここまで読んでいただきありがとうございます!
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