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不幸か幸か

作者: 涼吹 翼

朝日が昇り、街に光が差し込んだ頃。今日も仕事や学校へと出かける人たちが起きだして準備を始めている。その中の一軒の家。


彼は急いでいた。今日は社内会議があるのでいつもより早く会社に着かないといけないのだが、今日に限って寝坊をしてしまったのだ。

顔を洗って朝食のトーストを口の中に押し込み、急いで走りやすいよう、スニーカーを履いて革靴を鞄に入れ、今日必要な荷物を両手に抱えて家を飛び出す。


彼が急ごうと走りかけたその時だった。黒猫が目の前をサッと横切った。

驚いて少し足を止めたが、今は黒猫が横切った事など気にしていられない……再び駅へと走り始める。


子供達が楽しそうに学校へと向かっている、そんな微笑ましい光景を横目に見ながら走る。

時間に余裕がある時ならば、「あの頃は良かった」などと昔の事を思い出したりもするのだが……。

だが今はそんな時間も惜しい、前に向き直りさらに走る。しかし、息切れが激しくなってきた、腰も少しだけ痛い。

「こんな事なら普段から運動をしていればよかった」

膝に手をついて少し息を整えながらこう独り言を洩らす。だが今更言っても仕方がない。運動は昔から長続きしない。彼はそういう性格なのだ。深呼吸をして早足で歩き出す。


しかし、また彼は足を止める。服に白いものが付いていたからだ。

辺りを見渡すと、彼の近くの電柱の天辺にとまっているカラスが落とした物らしい……

カラスは「当たった当たった」とでも言っているように五月蝿く鳴いている。

彼は服に付いたものをハンカチで拭き取り、忌々しく鳴いているカラスが止まっている電柱を軽く蹴って再び歩き出す。


ようやく駅が見えてきた、すぐ傍の交差点を過ぎれば駅に着く。ここまで来ればあと少しだ。顔を少し叩き気合いを入れて走り出す。

しかし交差点を渡ろうとした時に彼が履いていたスニーカーの靴紐が切れた。

仕方がないから鞄に入れておいた革靴に履き替えようとして下を見た時だった。


凄まじいクラクションの音と轟く衝突音。するどい女の人の悲鳴がその交差点で起きた。


彼はしばらく呆然としていたが、腕時計を見ると会議が始まる時間だ。事故を少し覗いてみたいという気持ちがあるが、もうそんな時間も残されていない。

急いで駅に着き電車に乗り込む。


一息ついて彼は思う

「全く今日はついてないな……朝からどうも不幸の兆しがあったな、やはり奴等は悪魔の使いだ」





場所は変わり、駅の近くの電柱の上、カラス達が話している。

「やはり長老の力は素晴らしいですね、靴紐を切って彼の足を止めるとは……これで彼も助かったというわけだ」

そう言われたカラスの長老は答える。

「いや、この程度で天狗になってはいかん、この世にはまだまだ危険が沢山ある、それらの危険から人間達を守る事が私達の使命なのだ、協力してくれた黒猫達や、足止めをした新入りのカラスにもよくやったと伝えてくれ」



情報を集め、道筋を立ててこれからの事を考えることは良いことです

しかし、行き過ぎて決め付けや先入観で物事は判断をしてしまってはいけません。

今日もカラスや黒猫達はあなたを見守っていてくれているのかも知れません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 物語の起承転結がしっかりとしていて 無駄が一切なく、それでいて納得できる流れでした。 今時珍しいまでにあっさりした文章、 誰とも被らないようなオーラを感じました。 [気になる点] 文の最後…
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