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νcentury   作者: 図法
3/12

2話

【樫本永遠彦 目線】


「知らない天井だ…」


……この始まり方はよろしくないな、テンプレートすぎる。

よしやり直しだ、テイク2だ。


 目を覚ますと目の前には真っ白な見知らぬ天井が、そして視界の端には先ほどとはまた違ったタイプの美女が見えた。


 さっきのあの少女と同じ綺麗な黒い髪をショートボブ (?)にしている。

そして、さっきの少女に負けず劣らず超絶美人。


 違う点といえば、まずさっきの少女が美人というならばこの女性(ヒト)は可愛いと言い表すのが適切だと言うこと。もう一つは、さっきの女の胸は断崖絶壁だったことに対し、目の前の彼女は立派な二つの峰が(そび)え立っていた。


「お!やっと起きたなー。少年」


 どうやら少しの間、気を失っていたらしく俺が目覚めたことに対してかは知らないが、安堵の表情を見せている。

まだ意識が朦朧としているが、何とか動けそうなので体を起こし状況確認を行うため、名前も知らない美女に声をかける。


「今は何時ですか?」


「午前8時55分…あ、日付は変わってないよ」


 うん、最後の情報はいらんな……って8時55分だと!

嘘であってくれと願いつつ、右腕に付けている時計型の携帯端末の時刻を見ると8時55分から56分にデジタル表記が変わった瞬間だった。


 確か始業式の開始が9時だったはず...。

初日から遅刻は流石にまずい!そう思いすぐさまベットから飛び出したのだが。


「さっむ!…え、俺なんで半裸なん?」


 自分が半裸であることにようやく気づく。

そりゃ寒いわ…。


 長いこと問題になっていた地球温暖化がようやく解消されたのが去年。

だが解消されたのであって解決されたわけでは無い。その為、現在も異常気象は続き四月になった今でも寒い日は死ぬほど寒い。


 すぐに布団を被り直し、着てきた長袖のシャツとパーカーと学ランを探すが見つからない。彼女に見えないように布団で体を隠しながらベッドの周りを探す、だがなかなかどうして見つからない。


 すると、俺の行動を見ていた彼女に声をかけられた。


「探し物はこれかね?」


 ニヤニヤと笑う彼女が手に持っていた籠、その中には俺の着てきた服一式が入っているではないか。


「ああ、ありがとうございます」


 服を取ろうと籠に手を伸ばすが、未だに意識が朦朧としている事もあり、彼女にヒョイっと手を上げられバランスを崩しベッドから落ちる。


 掴んでいた掛け布団がクッションになった為そこまでダメージはない。むくりと起き上がり、打った頭をさすりながら口を開いた。


「何するんですか…」


「いやいや~君にはいくつか聞きたいことがあってさー。すぐに帰すわけには行かないんだよねー」


「いやいや、聞きたいことがあるのはこっちですし、何より急いでるので後にしてもらっていいですかね?」


 こうしている間にも時計の針は万人に平等に進んでいる。

俺の今までの経験からして、いかにも急いでいますよ感を出すと日本人は無理に止めはしない。


「え、ダメだけど?」


「ありがとうございます、それでは…って、ええ?」


 彼女はキョトンとした顔でこちらを見ている。俺もキョトンとした顔で彼女を見つめ返す。側から見ると多分異様な光景だったと思う。


「え、いや、始業式が……」


「あーそれなら大丈夫、先生にはもう伝えといたからサボってOK」


「え、でもアレがアレでああなりそうなんで…」


 この状態から脱出できそうな言い訳を考えるが全く思い浮かばない。どうやら諦めるしかないようだ。


「ハァ……わかりました。質問に答えます」


「よーし、いい判断だ少年」


 え、なにその言い方。怖いんですけど。もしそれでも断ってたら一体どうなってたんだろう。


「断ってたらこの写真をネットに流すつもりだったんだけどなぁー」


 そう言って彼女は自分の端末の画面を見せる。そこに映ってたのは気持ち良さそうに寝る俺と彼女のベット上のツーショット。


「おい待ていつ撮ったそれ!てかなんで撮ったあんた!?」


「え、脅しに使う為だけど?」


 写真の入っているフォルダ名をよく見ると()()()()と書いてある。

ヤベェこいつマジでヤべえ。さっきの少女なんてまだマシだ、この女はぶっちぎりでヤベェ。なんかもう色々とヤバすぎでもはやヤバいしか言っていないとことかさらにヤバい。


「それじゃあ早速…君の名前と新しい住所。前に通ってた中学の名前を教えてくれるかな?」


「はあ。樫本永遠彦、新しい住所は久しぶりに行くので覚えてません。前の中学はマサチューセッツ市の国立能力研究所付属の中高一貫校です…答えたらちゃんとあの写真は消して下さいね」


「わお。国立能力研究所って言ったら世界有数の研究施設じゃない!凄いわねー。分かってるって、初めての子には優しくするからそんな心配しなくてもいいよ」


 まてまて〜。初めての子ってナニ?脅しに2回目とかあんの?流石に同じ轍を踏むバカなんてそうそういないと思うんだけどなぁ。


「はいはいじゃあ次ね次。えっとー君、彼女いる?」


「おい待て急にプライベートがすぎるだろ」


 普通は好きな食べ物とかから聞いたりするもんなんじゃねーの?いや、好きな食べ物知られたところでどうするんだって話なんだけどさ。


「えー?答えないのー?」


 そう言ってニヤニヤと笑いながら彼女は端末の画面をチラつかせる。ふと思ったのだが、あの写真をばら撒かれても彼女に被害は無いんだろうか?あんなの脅しに使うって事は別に大丈夫なんだろう。

つまり彼女はすでに周囲にはそう思われている……すなわちそれが意味する事は──


「──あぁ、なんだただのビッぷゲェッ!?」


 言い終わる前に彼女の拳が俺の顔にめり込んだ。


「次しょうもない事考えたらちょん切るから」


「すみませんでした」


 どこからともなく取り出したハサミをちょきちょきと動かす彼女。何が怖いって笑ってるのに目が一切笑ってない所が何より怖かった。


 てゆーか!この女と言いさっきの女と言いこの学園都市じゃナニかをもいだりちょん切ったりするのが流行ってるの?


「はいはいさっさと答える!いるの?いないの?」


「友達いねー俺に彼女なんているわけねーだろっ!」


 静かな保健室に俺の絶叫がこだまする。……ああ、自分で言ってて悲しくなってきた。

実はこっちで友達100人をリアルに夢見てたりする。や、100は無理でもせめて30は欲しい。あと富士山の上でおにぎり食べるのはシンプルにキツそうだから嫌だけど友達と遊びにとかは行ってみたいなあ。


「なんか…ゴメンね?」


「謝んないで下さいよ今の笑うところですよ?」


 同情されると余計にきつい。


 それから彼女はひたすら俺に質問し続け、俺はそれに答え続けた。


 質問の内容は、何故このような状況に陥ったのか、等の問題解決に関わるであろう意味のある質問。

そんなこと聞いてどうすんの、売るの?と思うような意味のない質問もあった…ちなみに後者の方が断然多かった。


 ちなみに、俺にも二つ収穫はあった。

一つは先の脅迫写真をちゃんと目の前で消してもらった事。

もう一つは彼女の簡単なプロフィールだ。


 彼女の名前は美音(みお)さんと言うらしく中学の隣の高等部の新2年生ながら生徒会長をしているらしい。

今回は不審者が保健室に運ばれたと聞き、興味本位でやってきたそうだ。


 因みに彼女は内部進学組、つまりはこの中等部の卒業生で、そのつてで先生に掛け合い始業式を休ませてくれたようだ。あの質問攻めに比べて報酬が割に合わない気がしないでもないが、気にしたら負けと思い、どうにか割り切った。


 彼女の事はさておき何よりも職員室に向かわなければ。

8時ごろには来いと言われていたので既に遅刻は決定している。


「そろそろ職員室に行きたいんですけど」


 まだ掛け布団にくるまる俺は彼女に提案する。

行動と言動が一致してない気もするがいかんせん寒いんだから仕方ない。


「あーそろそろいい頃合いだもんねー」


 そう言って彼女はメモ帳をしまい、パイプ椅子からサッと立ち上がる。


「さ、行こっか」


「おい待て服返せ。そろそろ本気で寒いんですけど?風邪引いたらどうしてくれるんですか」


 お詫びとして1日裸エプロンで看病してくれ!なんて、思ってみたが。よく考えたら俺居候するわけだからそんな事したら普通に家からつまみ出されそうだしやめとこう。


 ほれっと飛んできた籠をキャッチ、シャツから袖を通す。

半袖Tシャツを着てパーカーを着て、学ラン羽織ってフルアーマー永遠彦準備完了!


 この学ラン、エクセリアから渡されたんだが、なんでこんな物をアイツが持っているのかが物凄く気になる……若干犯罪臭がしなくも無いので、とりあえず深くは考えないようにしよう。


「準備できた?じゃ、行こっか」


 2人揃って保健室を後にし職員室に向かう。


 丁度始業式が終わった時間なのだろう。講堂から教室へと向かう生徒とちょくちょくすれ違う。


 美音さんと並んで歩いていると通り過ぎて行く奴らに物凄い形相で睨まれる。この女の本性知ったら何人が隣を歩きたいって思うんだろうなぁ。


「ところでさー」


「ひゃ、ひゃい!」


 そんな事を考えていると唐突に話しかけられた。

考えていた内容が内容なのでかなりビックリしてしまい、これ以上ないくらい思いっきり噛んでしまった。本日2度目…恥ずかしい。


 そんな俺を見て彼女は少し微笑み話を続ける。


「君さー友達いないって言ってたよねー。あれなんで?」


 いきなりえぐい事聞いてくるなこの人。傷口を抉るなんてもんじゃねえよ?傷口にわさびと辛子塗り込んで上から水絆創膏塗ってるみたいなもんだぜ?どうでもいいけど、水絆創膏の痛さは異常。アレ何であんなにしみるの?治療行為の為に悲鳴上げさせられるなんてなんて拷問だよ。うん、本当にどうでもいいな話を戻そう。


 普通そう言う事ってもっと仲良くなってから聞くもんなんじゃないの?や、比較対象が少なすぎてよく分かんねーんだけど。


「別に君と話してても()()()()はしないし。なんなら適度に砕けてて話しやすいなーって思ってたくらいなんだけど」


 みんなも初めはそう言っていた。けど、少しすると離れて行って、気付けば周りには誰もいなくなってた。


「さー?やっぱ向こうじゃ日本人とはなんか根本的に合わなかったんじゃないんすか?よく知らねーけど」


 そもそも分かってるなら、ちゃんと修正して友達してますよ。なんて言って適当に誤魔化す。


「そりゃそうだ。なんか思い当たる節とかないの?」


 グイグイくるなこの人…まあいいけど。思い当たる節ねぇ……。


「さあ?やっぱ生き物なんで自分とは違うものを排除したがるんじゃないですか?ほら、先輩もゴキブリは嫌いでしょう?」


「?…ええ、まあ、嫌いよ。なぁーんかどうしても無理なのよねぇーアレ」


「そういう事です。人間ってのは自分とは違うモノを排除しようとする本能があるんですって。俺はみんなと違った、だから排除された。なんて事ないどこにでもある普通の話ですよ」


 このご時世イジメやハブリなんてどこにでもある話だし別段珍しくもない。誰が始めたかは知らないが気付けば皆んな誰かに合わせて生きている。人に合わせて欲しくもないものを買って、好きでもない歌手の歌を聴いて、別に面白いとも思わないコメディアンの話に乗っかる。


 これがみんなの普通らしい。


「けど、俺にはそれができなかった。欲しくない物は買わないし、好きでもない歌手の歌は聞かない。面白くないコメディアンは面白くないとはっきり言う。そんな俺の普通は周りとズレていたんです」


「はー世界広しと言えど、どこでもやってる事は同じなんだねぇ」


 改めて人類皆兄弟説が濃厚になったねえ。と感慨に耽る美音さん。人類皆兄弟ならそもそもイジメもハブリも無くなるんじゃねーの?…いやまあどっちでもいいけど。


「ま、お陰様で人間観察は得意になりました」


「そっか。ねえ所で樫本くん」


 なんか、名前で呼ばれるのって新鮮だ。近しい奴らはみんな俺の事をトワって呼ぶし、何より近しい人間としか話ししてないから、名字で呼ばれるの事はまずなかった俺は名前で呼ばれる事に妙なむず痒さを覚える。


 しかし、次の彼女の言葉でそんなモノは全て吹き飛んだ。


()()()()()()()()()()()


 認めたくはないが、俺は背が低い。ので、美音さんは俺の顔を覗き込むようにこっちを見ている。

 

 さっきと違い目が笑ってないとかじゃなく、普通に笑顔。

だが、その笑顔がどこか狂気じみていて軽くさっきの数倍怖かった。


「あ、勘違いしないでね。別に怒ってるわけじゃないんだよ?」


 そんな事は知っている。彼女の笑みからは悪意や敵意など微塵も感じられない。なのに、だと言うのに。俺の冷や汗は止まらない。


「今の話、全てが嘘ってわけじゃない。アメリカでもイジメがある事と、君がハブられてた事は本当。けど、友達がいない事と肝心のハブられていた理由はウソだ」


 おぅ…怖いくらいに全部当たってんだよなあ。バレにくい嘘をつく方法は適度に事実を混ぜ、堂々と言っとけば大体どうにかなるって大きなお友達に教わった。いや、バレてるし。ものすっごい普通にバレてるし。今度あったらあのビール腹思いっきりタプタプしてやる!


「…なんで分かったんすか?」


「君と話してたら分かるよ。君は興味ない音楽は聴かないだろうし、面白くない物は面白くないって言うだろうけど、それで終わるタイプじゃないでしょ」


「ぬぐっ…」


「興味のない音楽は聴かない。なら、自分の好きな曲を人に知ってもらいたいと思う。面白くないものを勧められたら、自分の思う面白いを人に勧める。そんな()を貫く人間だ」


 当たってる。怖いくらいに当たってる。俺はみんな違ってみんないいってタイプの人間だ。ハッキリ物は言うし、一応自分の好きなものは人に勧めるが強要はしない。そう別にそんな事で周りと溝が出来ていたわけじゃないのだ。

てか、小一時間程度で知られる俺の人間性ってどうなの?


「よく知らないとかそんな言葉で濁してたけど、君。自分がハブられてた本当の理由もちゃーんと分かってるよね?」


 一度止まりかけた冷や汗がつらりと流れる。俺は皆んなと溝が出来ていた理由をちゃんと理解している。理解した上でどうにも出来ない、もっと根本的で非常に簡単なものだった。


「ま、別に今話さなくてもいいよ」


 そう言って彼女はヒラリと俺から離れる。


「いつかちゃんと話してね?」


 廊下の窓から差し込んだ陽の光が眩しくて、思わず目を細めてしまった。振り返ってそう言った彼女は、果たしてどんな表情をしていたのだろう。

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