プロローグ
ジェネラル・エドワード・ローレンス・ローガン国際空港発
第一学園都市国際空港着 東雲航空 Sf-95便
この飛行機に乗って育ちの故郷から生れの故郷へと飛びたち、早くも一日が経った。一日中飛行機と聞くと長く感じるが秒単位まで変換すると8万6400秒とあまり長く感じないのが不思議だ…や、全然長いな。
俺が思うに人がまともに数を数えられる限界は大体1000が限界だと思う。や、そりゃ一部の変人は別だよ?けどふつうの人間は500位まで行くと飽きてくる。
ソースは俺。昔、色々あって数を数える限界に挑戦した事があったのだが、結果は200越えたくらいで飽きてやめちゃった。飽き性の俺でコレだ普通で500、根気よく物事を続けられるヤツで大体1000行くか行かないかくらいって計算。
さて。こんなどうでもいい話は置いといて本題に入ろう。
慣れないシートに疲れつい先程まで寝ていた俺なのだが、隣で眠るクソ禿げクソオヤジのイビキと「間にあいません!強行します!」というどこかで聞いたことのある、ありえない寝言で意識が覚醒、それからと言うものの何度も眠ろうと頑張っているのだが中々眠れない。
「さて」
どうするか。
悩みに悩んだ挙句やはり寝れない時は考え事をするのが一番だと考えた俺は、静かに目をつむり二日前に記憶を巡らせた。
───二日前 アメリカ・マサチューセッツ州某所
ツカツカと床を鳴らしつつ早足で目的の部屋を目指す。
「ねえあの子って…」
「ダメよ、目を合わせたら」
ひどい言われようだが今に始まった事ではない、というか言われ過ぎてもう慣れた。そんな些細なことより今は呼出しの方が優先だ。もし待たせようものなら熊をも殺す一撃が飛んで来かねん。
君ら全然内緒になってないからね?普通に聞こえてるからね?なんて、ツッコミたい気持ちを抑えて俺は上階へ続く階段を昇った。
コンコンコンと、ウォールナットでできた高級感溢れるドアをノック。
「入れ」
一切の遊びがない許可を貰ってから重い扉を押した。
「失礼しま〜す。理事長さまに呼ばれてわざわざやって来ましたー」
「なんだその挨拶は…ったく」
完全になめきった挨拶に理事長殿の声のトーンは少し低くなるがそんな事は気にせず続ける。
「で、何の用エクス?俺昼飯食ってねーんだけど」
時間は正午、この学園では丁度昼休みだ。朝はあまり食べないタイプの俺としては、しっかり食べて午後の授業と放課後に備えたいのだが。
「そんなもんは知らん。そもそもさっきの時間にいらんことで教師に楯突いたお前が悪いんだろーが」
「…そこを突かれると痛い」
理事長こと、エクセリアの言うことは紛れも無い事実である。
ここで働く大人の殆どは、小さい頃からの知り合いで、当然仲が良いヤツがほとんどなのだが。
「まったく、外部教諭とどれだけ喧嘩すれば気が済むんだお前は」
「さあ?…ってか勘違いしてそうだから言っとくけど!基本向こうが喧嘩売って来てんだからな!?俺は殴られたから殴り返してんの。世が世なら精神的体罰だとかなんとか難癖付けられて退職させられるのは相手の方なんだから!」
「だが流石に脅すのは不味いだろ」
「む…まあ、それは、確かに」
そ、そもそも俺が喧嘩する奴らが何かにつけて俺に文句を言って来るのが悪い!え、例えば?た、例えばえーっと…授業中、他のやつも寝てるのに俺だけ怒られるとか、「テストが楽しみだなぁ」なんてって言うから本気でめっちゃ勉強して全教科満点取ったのに不正だどうだって喚いてへんなウワサ立たせるし…それに授業中に寝てたのだって教科担当がテストで満点取れれば寝ててもいいって言ったから寝てただけなのに…理不尽だろ。
「で、どうする?停学にでもする?その方が昼間に家事ができるから俺は楽で嬉しいんだけど」
もう7年前も前の事だ。日本出身の俺は色々あって一人でこっちに移住する事になった。居候先は両親の恩師だったベルム・ユウ・アスカの実家。名前からも薄々分かるようにアスカ家は元々は日本人。ちなみにアスカを漢字で書くと飛鳥になるらしい。なんでも黒船と共にアメリカに行き、そのまま向こうに住み着いちゃったとかなんとか。
そんなアスカ家に引き取られた俺は娘のエクセリアとレーナと一緒に育ち、十三歳になると同時にアスカ家の経営する中高大一貫学校に入学。今は学校の近くに借りた家でエクセリアとレーナの三人で生活している。稼ぎはエクセリアの給料、家事は俺。…あれ、レーナちゃんは?そう思った人もいるでだろう。
レーナちゃんはお姫様の如く毎日食っちゃ寝してるだけなんですよね~。なんなら、公務がある分よっぽどお姫様の方が貢献してる。その上作った飯に文句言うし、口悪いし、たまに見せる可愛い面が無かったらぶっ飛ばしてるまであるぞ。
とにかく、俺の担当は家事。だが家に帰ってから全ての家事仕事を終わらせるのは中々骨が折れる。
特に掃除!掃除がめんどくさい。三人暮らしだっつーのに、エクセリアが無駄にデカイ家を借りやがったせいで掃除が大変で仕方がない。俺らが引っ越して来る前はもっと小さいのに住んでたらしいが、掃除ができない子のエクセリアが住んでたんだ。だいたいどんな悲惨な光景になっていたかは想像がつく。
「なに。今日お前を呼んだのは教師への暴行未遂の件じゃない」
「い・い・か・た」
や、まちがっちゃいないんだけどね?もうちょい言い方なんとかなんないかなぁ?
「物凄く急で悪いんだが、お前には四月から日本の学校に通ってもらう事になった」
「へぇ、4月……いや本当に急だな!?」
四月ってもう一週間もないんですけど?
「引っ越し先も決まっている。荷物も午前中にある程度は送っている。お前は一度基地に寄ってからそのまま向こうに飛んでくれ」
いやに準備が早いな。午前中って俺が学校来てからまだ5時間も経ってない…いや、そんだけあれば充分か。もともと家具が多い方でも無いし。
「驚く気持ちも分からなくはない。なに…実を言うと私もかなり驚いている」
「え、その顔で?」
しまったつい口に!なんて思ったときにはもう遅い。ビュッ!!と俺の頬を彼女の拳がかすめたかと思うと、ツラリと頬から血が滴る。
「次は、当てるぞ?」
「失礼しました…」
満面の笑みで言わないで!ものすっごい怖いから!!
「まったく…お前はすぐに話の腰を折りにくる」
「わ、わざとじゃ無いんだ!ほら、この前出したレポートにも書いてただろ?人間の行動の約九割は無意識の行動だって…」
「屁理屈!」
「ひゃい!」
怒鳴られた。けど美女に怒られるのって悪く無いよね!
「で、日本に転校だっけ?そうか~もう来ちゃったか~」
思ったよりも俺がブイブイ言わない事にエクスは素直に驚き、明日は槍が降りそうだよ、なんて言って笑っている。
正直言うとまだ驚くとかそんなレベルまで思考がまとまってないだけで、しっかり状況を理解すると文句の一つでも言いたくなるんだと思う。
「すまない。私は今回もなにもしてやれなかった」
「は?いやいやいや。なに謝ってんの気持ち悪い」
謝るならもっと他の事があるでしょーが!すぐ拳が飛んでくるとことかさあ。
この女と来たらお前の物も俺の物を地で行く女であり、ジャイアンも真っ青のガキ大将っぷりを見せてくれる。ちなみに歳は今年で二十四歳。そろそろ彼女にも大人になって欲しいと思うどうも私です、はい。
「この学園で一番えらいのはエクスだろ?エクスがなにもしないとは思わないし、どうにもできなかったって事がどう言うことかってくらいは大体分かるよ」
簡単だ。もっと上から圧力が掛かったってだけの話だろう。自分がそれなりに面倒な立ち位置にいるってことは理解してるつもりだし。
「日本でもやって行けそうか?」
「いや、無理でも行くしか無いでしょ?逃げ場なんてないんだし」
今までだってそうだ。コッチに来てから逃げ道なんか無かった。冬の山にナイフとマッチだけ渡されて──
「じゃ、ちゃんと帰ってこいよ~」
──つって置いて行かれたり。
赤道直下の無人島にナイフと虫除けスプレーを渡されて──
「じゃ、ファイト!」
──つって置いて行かれた事もあったなぁ。
あれ、なんでだろ。思い出したら目から汗が出てきたや。派手な柄した蛇に噛まれたあの時の傷、まだ治ってないからな?
「そうか…私にはもうお前にしてやれることは無いようだな」
「さあ?それはどうか…まあ、確かにエクスに助けられた記憶なんてここ一年ほとんど無かったか」
「何を言うか。お前が問題を起こす度に影で色々と手を打ったりしてたんだぞ?」
少しは労え。プンプン怒るエクスだが、その辺は、まあ、お互い様ってことにしておこう。
「長い間、お世話になりました。指示通り今日中に家は出るよ。おじさんには荷物を取りに行くついでに会ってくから、レーナにはエクスから言っといて」
俺から言うと泣いて止められそうだし。
「は?文句言われるのは私なんだが?」
「愚痴はメールで聞いてやるよ」
言うが早いか、くるりと踵を返し、部屋を後にする。
「また、寂しくなるな…」
扉が閉まる直前に聞こえた言葉はきっと俺の空耳だと言い聞かせた。
──なんでこんな事になったのか。
隣の親父のいびきにげんなりしつつ思考を続ける。原因、とまでは言わないが。多分、いや八割。さっきの回想に少し出て来た俺の立場が関係している。
俺は日本で生まれ8歳の時にアスカ一家に引き取られた。つまり、引き取られるまでの8年間は日本でも暮らしているのだ。
だが、困った事に日本で暮らした8年間の記憶は所々抜け落ちている。
わかりやすく言うと、記憶喪失。かっこよく言うなら解離性健忘症…ちなみにカッコよく言った事に特に意味は無い。
まあ、そう言うわけで、立場ってものは理解しているが、そこに絡む因縁やら利害関係については、そこまではっきりと覚えていないのだ。
「ま、今考えても仕方ないよな」
ひとり、ぽつり呟き、後ろで寝てるマダムに心の中で断ってから椅子を倒した。
目を瞑って体の力を抜き、背もたれに体を任せて眠りの態勢に入る。
一匹、二匹、三匹。羊を数えて眠気を誘う。
しかし、「ガンダムと…戦ってみたくなったんだ」と隣のハゲが寝言で邪魔をする。
いやもうマジで。お前ホントは起きてんだろ?って言いたくなるくらいにはさっきから睡眠を邪魔してくる。
こうなったら仕方ない。他のお客様の迷惑になる行為はおやめ下さいと機内アナウンスで再三言われてたからな。CAのお姉さんに変わって俺が制裁を加えてやろう。
さっきの寝言から察するに、きっと彼は夢の中でザクⅡ改でアレックスと戦っているんだろう。なればクリスの代わりに俺が眠りにつかせてやらねば。
「もういいんだよバァーアニィ!」
扉から取り出した注射をフガフガと鼻息を立てるおっさんの首筋に撃ち込む。一度ゴフッとえずいたオヤジはそのままぴくりとも動かなくなってしまった。
「南無三!…これは0083か」
イビキは止まったが、息も止まった。だが周りへの被害を考慮すれば釣り合いがとれるだろう……いや、殺してはないからな?
ともかくこれで機内の安寧は守られた…ついでに俺の睡眠も守られた。これで当分お互いが目を覚ますことは無いだろう。
おやすみ世界、そしてこんにちは夢の世界。満足げに目を瞑り今度こそ夢の世界へ旅立った。
皆さまぁ〜(天上天下唯我独尊)。
底辺大学所属、留年危機、土日はその辺のゲーセンでアルバイトの〜〜図法でーす。
意訳→皆様、どうもはじめまして。
あまり偏差値のよろしくない大学に所属し、あまつさえそこで留年の危機を迎え、土日は近くのゲームセンターでアルバイトをしている図法と申します。
これからちょくちょく投稿させていただきますので、何卒よろしくおねがいします。