きみと蝉時雨
きみに出逢えてよかった。いつだって、心底思ってきた。
けれどこれ以上一緒にいたら、そうやって思えなくなってしまいそうなの。きみを嫌いになりそうなわたし自身が、怖くて仕方ない。
そう思ってきみを呼び出した、いやに蝉の声がうるさい放課後。
「もう、終わり?」
ふっと微笑んだ彼の儚さに、苦しいほどの何かがせりあがる。__けれどきっと、わたしたちに“この先”はなくて。
びゅうっと吹いた風が、わたしたちの間を抜けてゆく。落ちるはずのない葉がはらりと木から落ちる。
どこかで見た、夏の落葉は防衛本能らしいという言葉が頭を巡る。
はじめての告白も、はじめてのデートも、全部全部きみだった。いつからかすっかりきみに依存してしまっていた自分になんか気付きたくなかった。
「今までありがとう。どうか幸せになって。」
泣かずに笑うあなたの強さが、いつだって眩しかった。
くるりと踵を返して遠ざかる背中に手を伸ばしかけて、そんな資格がなかったことを思い出して腕を下ろす。
「わたしだってだいすきだったよ…っ、どうか、幸せになって…!」
残されたのは、わたしと蝉時雨だけ。
どうしたって自分がいちばん馬鹿だってわかっていて、だからこそ、ふと思い出すきみの残像に縋りたくなる自分に蓋をした。
いかがでしたでしょうか( ; ; )
読んでくださった方が少しでもこの作品を気に入ってくださることを願っております…!