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小森霧子は抜け出せない。


中3の夏に初めて仮病を使って学校をズル休みした。






最初は些細な理由だった。


一部の女子グループからのいじめ。


よくある話。


勉強も嫌いじゃないし、それなりに話す友達も少ないけどいた。


学校に行きたい気持ちと行きたくない気持ちを天秤にかけて、

行きたくない方に少しはかりが振れただけ。


きっと今日が特別憂鬱なだけで、明日になったら秤は元に戻るはず。


そう自分に言い聞かせながら布団にくるまって過ごした。






次の日、昨日よりも秤が少しだけ傾いた。


行きたくない方に少しだけ。


「少し疲れてるだけよ。しばらく休んだら良くなるわ。」


母は優しかった。

少し疲れてるだけ、三日ぐらい休んだら良くなるはず。

母の言葉を借りて、自分に言い聞かせた。





一週間が経った。


秤の片方の黒い気持ちがじわじわと重さを増していく。


黒い気持ちを取り除いて白く塗りつぶしてもう一方へ乗せ換えることができたら、と思った。


塗りつぶすこともできない自分が悪いのだと思った。





一か月が経った。


この部屋の扉も重くなって、開きたくなくなった。


「人生はまだまだ長いから、焦らなくてもいいのよ。」


母はひたすらに優しかった。


いっそ母がこの扉をぶち壊して、無理やりにでも学校へ連れて行ってくれたら、

きっと私は学校へ行けるだろうに。






三か月が経った。


この部屋の重い扉が開くのは、一日三回。

母が作ったご飯と2Lのペットボトルをとるときと、トイレ、シャワーに行くとき。


この生活を快く思っているわけではないけど、当たり前になってしまった。


どうして以前は学校に行けていたのだろうと不思議に思う。


ちゃんと制服を着て、外に出て、歩いて、知り合いと会ったら挨拶を交わして―。


そのためのガソリンはこの体からすっぽり抜けてしまっている。


ずっと使わないうちに私のガソリンタンクは小さくなって、

生命維持に必要な分しか貯まらなくなっていた。


それでもこの体がちゃんと生きようとするのは、驚いたことでもあるけど。





一年が経った。


秤は片側に完全に沈み切っていた。


秤に乗った黒いのが大きくなったわけではない。


気づいたらもう片方の白いのが跡形もなくさっぱり無くなっていた。


中学は卒業したことになっているらしい。


でも、高校には入っていない。


私はいま、何物でもない。


この一年を振り返ろうとすると、どんなアニメや動画を見ていたか、

でしか振り返ることができない。


その時期すらも曖昧だけど。




今度、家庭教師という体で知らない男の人が今更やってくるらしい。


いっそとんでもなく酷いやつで、私のことをレイプしてくれたら、

私は悲劇の主人公になれるのに。


そんなことを薄っすら思い浮かべた。


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