#8 僕のターン‼︎
ルティは魔術障壁に阻まれてアルスラの帰りを待ち続けていました。
学院に戻ると橋でルティの涙の歓待を受けた。
「坊っちゃま‼︎」
いきなり抱きつかれた。
"おほぉ〜ッ‼︎美少女の抱きつきとかたまらんのじゃあ〜。"
うるさい!
「ごめん、ルティ…」
「もう、いいです…無事でいらしたのなら」
「うん…」
僕にしがみつくルティを今度はこちらから抱き寄せる。
そうしてルティが落ち着くまでしばらく。
「おい」
キッドをほったらかしだった。
「メシはまだか」
「おじいちゃん教会で食べたでしょ」
「ところで今日は授業行くんか?」
それを問われてまたも暗い気持ちが湧いてくる。
完全にトラウマを再発しております。
「い、行く」
「いや、無理すんなって」
「行くさ!」
「大丈夫なのか〜?」
「行くって言ってるだろ‼︎」
「はーいはい」
「おまえ喧嘩売ってるのか⁉︎」
「ぎゃははは」
何がおもろいねん。
「ほら、デケー声出すと元気出るだろ?」
「はあ⁉︎」
しかし不思議と気持ちが切り替わっていることに気づく。
川岸で振り回された事といいキッドは感覚的にポジティブになる術を身につけているようだ。
この強メンタルめ‼︎
それから焚き火の煙の臭いがついている事をルティに指摘され、着替えるように言われるも既に授業が始まってるのでそのまま授業に向かう。
一時限目は因縁の実習授業だった。
ー
僕にルティが続いて実習授業を行う中庭に辿り着き、その少し後ろでキッドがダラダラ歩いてくる。
「遅れました‼︎」
僕が大声で言うと先生もクラスメートもみんなで僕を見る。
思わずギョッとした目になってクラスメートの視線に慄くが、すぐに顎を引いて睨み返す。
「10秒が来た」「ぷっふー!」「やめてやれよ〜」
またいつもの三人だろう。
「だ、大丈夫よアルスラくん!来ただけエラいエラい!」
この先生ワザとやってない?おっぱいもぐぞ‼︎
まあ、多分気弱になった生徒を慮ってそう言ったのだろうがそれは別にどうでもいい。
「もう終わっちゃいました?」
「あ、いや…みんな魔力を使い切ったので休憩してるのよ…」
「なら僕が的当てをしてても構いませんね?」
「もちろん」
藁の的は綺麗に揃っている、おそらくあらかた練習して休憩が終わったあとの為に整えたのだろう。
「今日の課題は第三階位魔術をループ(火→水→土→風で藁を損なわずに延々と撃つ訓練)なのだけど、アルスラくんは第三階位の火炎属性を撃ってくれる?先生が消火するから」
「はい」
周りに威嚇するみたいに僕は返事をする。
「どーせスカすさ」「150位だもんな」「うけけ」
といつもの三人が笑ってるとキッドが三人に背後に立つ。
「私語は控えろおおおッ‼︎」
真後ろからいきなり怒鳴られて三人は飛び上がるほど驚く。
「ん」とだけ唸ってキッドが軽く僕に向けて顎を振る。
(さんきゅ)と思いながら僕は的に目を向けた。
難しい言い方は避けてざっくりとした僕の解釈を垂れるが。
火炎属性第一階位は火を起こす。
火炎属性第二階位は火を大きくする。
火炎属性第三階位は火を操る。
つまり第三階位以降は起こした魔術を継続的に魔力を注いで意思を持って動かす必要がある。
「魔力放出!」オドを解き放ち膨らませつつマナに干渉する。
煌々と燃える炎が渦巻くイメージを具現化させる。
「火炎暴風‼︎」
あ‼︎また‼︎
僕が広げたオドがマナを火に変える直前、僕のオドとマナの結びつきを解くような解呪魔術が放たれた。
すかさず魔力感知でクラスメートを見る。
ほとんどのクラスメートがオドを消耗し代わりにマナが満ちて徐々に自分のオドに変換していっているが。
二人だけ様子のおかしいのが居た。
一人はキッドで魔力がやたらに動いていない、魔力はあるが今まで一度も魔力を使ってこなかったのがわかる。
あと胸の真ん中にぽっかりと空いてそこから何かが噴き出ているようだが、これは単純に胸に空けられた穴の影響だろう。
そしてもう一人はいつもの三人組の一人、たったいまオドを消耗し周囲から徐々にマナを取り込んでいる真っ最中だった。
(コイツか…)
はっきり言って名前は知らない、金髪縦ロールお嬢様に気を取られていて覚えていないが、カスだとかクズだとかザコだとか言う名前だったはず。
さすがにそんなわけないか。
しかしそいつらの思惑は上手くいった為、僕はまた魔術をスカす大マヌケを披露した。
三人組の思惑通り僕は失笑を買う。
次に僕の頭を埋め尽くした言葉は。
ここで負けてたまるか‼︎
だった。
「アルスラくん、あの…」先生は心配そうに僕に声をかける。
僕はそんな煩わしい親切はもう御免だった。
「先生、"第七階位魔術"を撃って良いですか?」
「え"⁉︎」
先生が目を丸くする。
「だ、ダメよ!いくらいやがらせされたからって学院を吹き飛ばすような真似は」
「しねーわ‼︎」
人の事をなんだと思ってんだ。
「光属性魔術の"ホーリーグレイル"です、他の生徒達の回復にもなるでしょう?」
「ああ!それなら!」
よし!
先生の許可も取った、あとは全力でやるのみ。
「魔力解放」
第七階位魔術の基準はオドを全て解き放ち大量のマナをコントロールする事。
一つ間違えばマナにオドを全て持っていかれてオド切れで意識を失う。
その為オドの高い制御が求められる。
しかし一定の強度を保てる者には最上位の魔術の行使が可能である。
ざっくりとした理屈だが解呪魔術は決して万能ではない、自分が扱える階位より上の階位魔術は解く事が出来ない。
つまり第三階位には第三階位の解呪魔術を使い、第七階位にはそれと同等の技量が求められる。
「光の精霊よ‼︎その最大の加護を我に授けたまえ‼︎」
広げ切ったオドが周辺の光のマナを一気に引き寄せてどんどん結集させる。
結集した光のマナは魔術を発動させる前にも関わらず既に太陽の如き輝きを放っている。
周りが驚愕と困惑の声にざわつくが、そんなのを無視して僕は結集したマナに干渉を始める。
僕のオドが光のマナに形状と指向性を与える。
その瞬間に僕は言霊を用いて最高位の魔術を行使する。
「ホーリーグレイル‼︎」
結集した光のマナが解き放たれて天へと昇る。
円形と十字が重なり後光のように八本の光が伸びた形状の巨大な光の塔が作り出され周囲を照らす。
きっと光の都の全域から見えるだろう。
僕のホーリーグレイルは想定を遥かに超える大きさで、王城の尖塔に並ぶ程の高さに伸びていた。
「目立つかな?」なんて言ってる僕は思わず自分の実力にほくそ笑む。
「うひゃひゃひゃひゃ‼︎なんだこれ⁉︎でっけー‼︎」キッドは上機嫌で、初めて遊園地に来た子供みたいだ。
「やりましたー‼︎さすが坊っちゃまです‼︎」ルティも飛び跳ねるほど喜んでくれてる。
第七階位魔術ホーリーグレイル。
その効果は自分の意思を限定的に叶える奇蹟の体現。
時に広範囲の味方を癒やしつつ敵を消耗させ、時にマナの枯れた大地を癒やし、時に人の才を覚醒させる。
永続的な効果を与えることもあればそうでない時もあるし、叶えられる奇蹟にも限度がある。
ゲームっぽく言えば自分達に都合の良いバフを張りまくって相手のは剥がす、ダメージも有るし発動コストは高くてもリターンが大きくて発動させれば必勝を招くブッ壊れ技。
今回は僕に強い敵意か悪意を持つ者を除き、マナをオドに変換する効率を急速に上げる効果を発動した。
そのおかげかほとんどのクラスメートはオドが万全の状態になった。
「はい!皆さんオドが回復した筈です!休憩は切り上げて練習を再開してください!」
先生の号令に皆困惑しつつも腰を上げる。
しかし例の三人組だけが課題をこなせずに四苦八苦。
どうやらオドが回復し切ってなかったらしい。
彼ら三人を見て、僕は他のクラスメートを見る。
たまに僕をチラッと見るけど、別に嫌な感じじゃない。
多分、僕の本当の実力みたいなのが伝わったのだろう。
一度そういう風に見えればかつての不安もない。
味方ではないけど、敵は本当は少ない。
僕はこの日を境に楽しい学院生活を送るようになる。
キッドが味方だから、きっど大丈夫☆