#4 タノシイ学院生活
ざっくりこの前の続きなのだが、あのあと次席のポニーテールの女子から自己紹介が始まる。
「ミリア・アーミンティ、光の都出身、得意属性は火で順位は6位」
彼女は世間知らずを恥じたのか素っ気なく済ませて着席する。
一位から次席だったのでみんな自然と順位の高いものから順に自己紹介が続いた。
「ティルト・ダムント、光の都出身だけど郊外の貴族邸で育ったんだ」
黒い前髪の右が顔にかかってるワンレンボブの男装した女の子だ。
中性的でお耽美な佇まいは男女問わず魅力を感じるだろう。
「自分で言うのもなんだけどなかなかの箱入りで世間知らずなので至らない事があるけど、どうか遠慮はしないでほしい!"僕"だって男の端くれだかれね、みんなよろしく!」
違った、普通に男だった、きっとホモに人気。
それから僕にアダ名をつけた後ろに座ってる3人は飛ばしてっと。
そんな3人を忘れさせるクラスメートがいた。
「キリビエ・ノワーレ・ワイズリーグですわ!貴族邸最大のワイズリーグ家稀代の才女であり水属性魔術は既に第六階位まで修めてますの、皆さんには特別にフロイライン・キリビエ"様"とお呼びしてよろしくてよ!」
高慢ちき金髪縦ロールお嬢様だあああ‼︎
フロイラインに様までつけさせるとか知能指数をぶっちぎってやがる‼︎
「おーっほっほっほ‼︎」
しかもベッタベッタな高笑い‼︎そもそもなんで笑ってんの⁉︎
こんなん現実におらんわ‼︎こんなん異世界の話やん‼︎
異世界でした…。
「うッ…ぷ…くく…」
あんまりにもベッタベッタだった為に僕はアルスラである事を忘れそうになって笑いを堪えていた。
「ル、ルティ・ハーヴェントです…147位です…」
ルティが自己紹介したところで、残りは僕だけだと気づいた。
僕は椅子から立ち上がって自己紹介を普通にこなす。
「辺境領地出身アルスラ…」「10秒」
「プロットです、得意属性はないですけど」「さっすが150位」
「全体的に満遍なく修得しています…」
背後の3人が小声で茶々を入れてくる。
思わず言葉が途切れ途切れになってしまった。
座るタイミングも見失って困惑して立ち尽くしていると先生が口を開いた。
「あ、あっと…アルスラくんって本当は強いのよね!私も白亜竜を撃破したって聞いたわ!」
先生なりの配慮なのだろう、しかしそんな事で僕の順位は変わらないみたいだ。
「デマなんじゃねーの」
「デュランディオが倒しちまったんだろ」
背後の3人の憶測を切っ掛けに教室内が騒がしくなる。
「でも橋を作ったのは…」
「転送魔術だったとしたら…」
「いや流石にそんな事する理由はないだろ?」
「でも辺境領地のカール・プロット伯といえば随一の富豪だって聞くぞ橋くらい持ってんじゃねーのハハッ!」
スゴく、空気が悪い。
「そんな…そんなことは…」とルティが噂を否定しようとするが彼女の控えめな性格では集団の空気を変えるなどできない。
「キッドくん!」先生は最後の頼りに縋るが。
「あ?」
「お願い、みんなを止めて!」
「は?」
「君がみんなのリーダーなんだからまとまるのは君なの!」
「ああ」
キッドは何を理解したのか突然近くにあった教卓を掴んだ。
「うるぁッ‼︎‼︎」
そしてそれを僕に向けて投げつけた。
なんで⁉︎
僕はルティを抱き寄せながら咄嗟にその場から逃げる。
「ぎゃあああああああああッ‼︎」×3
僕がかわした為に後ろの席の3人に直撃したらしい。
「 」←先生の声にならない悲鳴。
「ガタガタうるせぇ‼︎てめぇら全員俺よりよえーじゃねーか‼︎」
もう、収集不可能だった。
ー
最悪の空気のまま授業が始まった。
真っ先に始まる実技授業は中庭で第一階位の属性魔法を的に当てるだけの簡単な訓練だった。
なお、大暴れしたキッドくんはムキムキの格闘戦授業の担任に連れて行かれ被害者の3人は担任の先生の迅速な治療を受けた。
しかし首席があんな野蛮人ではクラスには不安が広がるもので…。
「所詮奴隷階級だな」「奴隷達の世間じゃ暴力論理で罷り通るんだよ」「奴隷は奴隷同士で食べ物を取り合うそうだ」
と、キッドくんはすっかり嫌われ者に。
「み、みなさ〜ん!集中して!」
魔術の実技担任は僕達のクラスの先生だった。
ちなみにお名前は"クローノ"というそうです。
「まずは先生が見本を見せまーす!」
先生は普通に魔術を行使して藁の的に普通に火属性の第一階位の魔術を命中させる。
「では、次はこの火のついた的を消火してもらいます!ではアルスラくん!」
しめた!
指名されて僕はチャンスだと感じた。
この実技授業なら僕の実力も少しは証明されるはず。
「はい‼︎」僕は意気揚々と前に出て魔力の操作を行う。
視界の端でルティが祈るような目で見ている。
だが僕は数えで10になる前に第五階位の雷電魔術で白亜竜を焼き殺した事がある。
第一階位の魔術なんて簡単だ。
自分の内側にある魔力"オド"を放出し世界中に満ちている"マナ"に干渉する。
少ないオドで効率的にマナを操る事が魔術の極意。
消火には当然水属性の魔術で行う必要がある。
意を決して広げた魔力に言霊を吹き込んでマナを水に変換する。
「ウォーター!」
僕の声が中庭に響き渡る。
あ。
マナが水に変化する瞬間、僕の収束する魔力を解く解呪魔術が放たれた。
後には盛大に第一階位の魔術をスカしたマヌケな僕が立ち尽くしていた。
「ぷっふ…」誰かが小さく吹き出した。
それから「ダッサ」という声が続く。
そこからは嘲笑と困惑の声がクラスメート達に広がる。
「先生‼︎解呪魔術を受けました‼︎」
僕はすぐに抗議した。
しかし人の良い先生はそんな嫌がらがあるとは少しも思っていなかったのか驚いた顔をしていた。
「え、いや…それは本当なのですか?」
当然魔力感知で確かめている筈もなく。
「失敗したからって言い訳してるぜ」という声が僕の立場をさらに貶める。
「な…」自然と声を追ってクラスメート達の方を向く。
みんながぼくをみていた。
嫌な記憶が甦る。
不登校だった僕が意を決して入った教室。
みんながみんな僕を嘲笑って見てるわけじゃない。
みんなが不思議そうに僕を見て。
僕にはルティがいる。
そしてみんなが一斉に見なかったように目を逸らす。
けれどルティじゃ集団の空気を変える事なんかできない。
ルティが庇うより先にクラスメートは簡単に結論を導き出していく。
「結局橋を作ったのはなんでしたの?」
「まあ、たまに"一芸に秀でてる"くらいの奴はいるよ」
フロイライン・キリビエ様の言葉に僕を悪く言った3人組のリーダーみたいなのがそう言った。
「そうですの、大した事ありませんのね」
切り捨てられるように評価されて僕の立場は完全になくなった。
学校は楽しいよね!筆者はクラスメートみんな嫌いだったからあえてしっかり通ったよ!