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第79話『創世の使徒と余生の使徒』

今回動きがなく、ほぼ会話文になってしまいました (´-ω-;)

エピソードと情報と話のバランスって難しい。

つまらなかったらすいません。

暇つぶしぐらいに思ってください。



「蒼也、ビールくれ」

 昼間、老人達がゲームをしていたひさし下の椅子に座ると、当たり前のようにヴァリアスが言ってきた。

「ったく何がビールだ。あんたのいい加減な結界のおかげで、せっかくのチャンスが台無しだよ」

「あ~、わかった、わかった。今度埋め合わせに花街に連れてってやるよ。

 リースのヤツに初心者向けのとこ訊いてな」


「誰でもいいって訳じゃないぞっ」

 これが食事なら牛丼が食べたいのに、鶏肉しかないから親子丼でいい? と言われているようなものである。

 口がすでに牛丼なのに、親子丼を持って来られても納得できない。

 俺はブツブツ言いながら、テーブルの上に缶ビールを1ダース出した。


 フッと初めてネーモーが笑った。

「仲が良いのですね」

「違いますよ、いつもこいつにこうやって振り回されて、辟易してるんですから」

「コイツは今、反抗期の真っ只中なんだ」

「あんたのその鋼鉄のポジティブ思考が恐いんだよ」

「フフ、あなたはまだお若いから分からないんですね。

 本当に大切なモノは、いつも最後にわかるものです。それがわかった頃には、取り返しのつかないことになっている事が少なくない。

 ワタシのようにね」

 そう言いながら、ネーモーは奥まった目で遠くを見た。


「帰って来たいなら、取り次いでやってもいいぞ。コイツも世話になったしな」

 プシュッと、缶のプルタブを起こしながら奴が言った。

「いえ、そういう意味ではないんです。地に降りたあとの事ですよ。

 まだまだワタシも蒼かった頃のことです」

 奴のやり方を見てネーモーも缶を開けた。

 俺はもう酒はいいのでアイスコーヒーをカップに注ぐ。


「そういえば昼間は治してもらってすみません。助かりました」

「いえ、大したことないですよ。ただの気まぐれですから。

 ただ神経・精神系に、制約がかかっているのには驚きましたけどね。

 まあワタシは、もう神界の者ではないので引っかからなかったようですが」


「話すとややこしくなるが、コイツは基本、自力で治さなくてはいけないんでな。

 でもまあ助かったぞ」

「良ければここからは言語を変えませんか? 遮音するのも不自然ですし」

「そうだな。じゃあ『蒼也のとこの言葉でいいか?』」

 奴が日本語に切り替えた。


『ソーヤさんは召喚者ですよね? 転生者だったら当たり前の事を知らなさすぎる』

 こちらじゃ転生者は基本、0歳児から始めるので、物心つく頃にはすっかりこちらの人となるからだ。


『そうだ、オレのあるじの落とし子だ』

『ほう、創造神クレィアーレ様のご子息ですか』

 ヴァリアスの片眉がピクッと上がった。


『なんで、オレのあるじが誰かわかった?』

『あなたが誰か、知ってるからですよ。アクール人で名が『ヴァリアス』、

 創世期の使徒ヴァリハリアス様の略名ですものね。

 神界で知らない者はいませんよ』

 それから『これはラガーですね』と、ビールを一口飲んでネーモーが言った。


『やっぱり神界でも、何かやらかしてるんですか? こいつ』

『何をだよっ、人聞き悪い事言うなっ』

『フフッ 悪名じゃありませんよ。ただ、色んな意味で有名な方ですよね。

 さっきは久しぶりの神語がアレで、ビックリしましたが』

『済まなかったな。確かめるためにワザと言っただけだ。本意じゃない』

 そう言うわりに、椅子にふんぞり返って、雑に足を組んでいる態度は、全然済まなそうに見えない。


『なんかすいません、粗暴な奴で。

 天使なんかも泣いたそうですから。たぶん、噛み殺されるとでも思ったんじゃないですかね』

 俺が代わりに謝った。

()()そんな事してないぞっ』

 奴が不満そうに口を挟んだ。

『え? ()()っ?!』

 こいつ本当にやってたのか?!


『昔の話だよ。刃向かってきたヤツだけ、喰い殺しただけだ。

 創世の時代は言い換えると、混沌カオスの時代だったからな。

 秩序もクソもない頃だ。

 それを知らないヤツらがオーバーに言ってるだけだ』

 俺がドン引きしているのを見て、奴が面倒臭そうに弁解した。


 いや、理由はどうであれ、喰い殺すって尋常な事態じゃないだろ !? 

 ヤバい奴だとは思っていたけど、ここまでだったのか!


『失礼ですが、ここはちゃんと説明された方が宜しいのではないでしょうか?

 中途半端にしておきますと、またあらぬ憶測で誤解を招かれないかと』

 ネーモーがそっと助言してくれた。

『う~ん、そうだなぁ。最近、神界の事を話すのに許しも出たし、お前はオレのことをずい分誤解してるようだからなぁ』

 多分誤解じゃないと思うが。


 創世の時代というのは、この星が出来たばかりの時のこと。

 神々は作った第一期の各使徒たちを星に降ろした。

 それが創世期の使徒たちと言われている。

 

 地上には大地と水以外何もなかった。秩序や道徳観念さえも。

 あったのは混沌カオスだけ。

 となると何が起こるか。


 動物も人も神の使いも同じ。

 始めに争いが起こった。自分以外は全て敵になるからだ。

 この時、半分近くの使徒が消滅した。


『ワタシなんかがもし、その時代に生まれていたら確実に消滅してますよ。

 後期で良かったです』

 そのうちに手を組む者が出て来て、グループが出来た。

 そうするとそこには自然とルールが作られる。

 すると秩序も生まれてきた。

 それぞれの得意な能力で星を住み良く開発し、使徒としての礎も築いた。

 それで第一期の役割が終わり、あらためて使徒として役割を与えられたそうだ。


『という訳だ。蒼也、それと天使ども、これでオレがただの野蛮神やばんじんじゃないとわかったろ。

 喰い殺したっていうのも、どうせ殺すなら喰ったほうが腹が膨れるだろ? 

 他のヤツらだって相手を吸収したんだから、同じようなものだ』

 そう言って飲み干した缶を紙のように丸めて潰した。


 それ全然、イメージを払拭できてないぞ。

 天使たちから見たら、映画『羊たちの沈黙』の*レクター博士と、檻ごしどころか直に会ってるようなものだろう。

 そりゃ一挙一動に怯えるわな。

(*カニバリズムで有名な博士)


『だけどなんで始めから役割とか、ルールを作らなかったんだろ』

 俺は思ったことを訊いてみた。

 地球の神々はたぶん、そんなまどろっこしい事はしてないと思うが。

 それにせっかく作った使徒を、わざわざ無駄にするような使い方がわからない。


『自然に任せたからだろ。

 あるじ達の真意はわからんが、オレ達は自分のやりたいように動くだけだ。

 たとえそれが神々の手中だったとしても、自分で考えて納得したことならそれでいい。

 どこぞの星の奴のように盲信して従うようなことはしない。

 だからコイツみたいに、合わなければ出て行くヤツもいる』

 開けた7本目の缶で、ネーモーを指しながら言った。


『あんたがもし出て行く時は、GPSか首に鈴でも付けとかないとな』

『なんでだよっ、鈴ってなんだっ ?!』

 フフフとネーモ―が笑った。


『で、お前どこの何番目なんだ? さっき神界に行って調べてきたんだが、欠番の記録は、抹消されてるからわからなかった。

 残っているのは皆の記憶だけだが、ナジャも全員は知らなかったし』

『もう忘れました。創世記の先輩達とは程遠い新米ですよ。

 今は何者でもない、ただのネーモーです』

 

 ネーモー ――― 思い出した。

 あの『海底2万里』の謎の船長ネモの名前の原型と偶然一緒なんだ。

 子供の頃夢中で読んだ冒険小説の1冊だ。

 確か『誰でもない』って意味だったよな。



 ネーモーは神界を出たあと、あちこちの星に行ってみたそうだ。そこで好き勝手に生きてみた。

 見た事ない生物や遭ったことない環境、他の星の文明に触れたり、異星の生命体と交流もした。

 力のおかげで助かったし、皆にちやほやもされた。

 だけど、段々つまらなくなってきた。どこか虚しくなってきた。

 核まで冷たく凍りついた、氷の惑星で何千年か冬眠した。

 

 ふっと、遠い昔にいた緑と青の惑星の夢を見た。


『なんだか力を持て余しているというより、それに振り回されているなという感じでしょうかね。

 自分は一体何をやっているのだろうと。

 森の小動物のほうが精一杯生きてるのに、自分は何だろうかと』

 2つの月と満天の星空を仰ぎ見ながら、どこか遠くに語るように言った。


『そりゃそうだろ。

 本来この星を管理するために与えられた力を、そのまま遊ばしていたら、本来の意味がなくなるからな。

 ましてや自分自身がわからないくせに』

 奴の言葉にネーモーはゆっくり頷いた。


『それで一度リセットしようと思い、ここに戻ってきて、暗黒大陸の魔女に力を貸してもらったのですよ』

 そのキーワードに、俺は今朝の事を思い出した。


『魔女って、その人もしかして今日、あのマーケットの近くに来てたんじゃないんですか? 

 魔法使いの若者が占ってもらったって言ってましたよ』

『ああそうですか。同じ魔女かどうかは分かりませんが、まだご健在なのかなぁ。

 かなりの高齢ですが、彼女も離脱者でね。

 姿をこうして変えてもらって、別人になった訳です』


 ふんぞり返っていた奴が、おもむろに体を前に傾けると

『そのせいか。匂いでも正体がわからなかったのは。

 今も土か水か風のどれかだとは思うのだが、その先がわからん』

 そう、ネーモーをジッと見た。

 ネーモーは口元を少しほころばせた。


『蒼也、ビール』

 先に出したビールを全て飲み尽くした蟒蛇うわばみが、テーブルに残っていたアルミ缶を全て霧に散らした。

 ネーモーはまだ1本しか飲んでないのに。


 姿を変えて、ただの旅人として各地を転々としていた時、フージーンと会った。

『磯で夜釣りをしていた時に、何を釣っているのかと訊かれましてね』

 普通こちらでは夜に出歩かない。

 しかも夜の海に近づくのは自殺行為だ。だけどフージーンは普通に訊いてきた。


『クラーケンだと言ったら笑ってましたが、嘘だとは言わなかったですね』

 クラーケンが釣れる磯ってどんなとこだよ。

 なぜか自分とは正反対の、人懐っこいフージーンと意気投合して、彼に誘われるままに男爵の護衛に加わったのだと言う。


『だけど、どうしてあなたのようなヒトが、あんな領主についたんです?』

 いくら仲の良い友に誘われたとしても、元々神様に仕えていた使徒が、あんな俗っぽい人間の下につくなんて、とてもやってられないのではないのか?


『あの人もね、あんな風な物言いですが、権力が欲しかったから爵位を取ったんじゃないんですよ。

 村を守るためには権力が必要だったんです。

 当時の老領主では、まわりの貴族たちの餌食になるのは目に見えてましたからね。

 自分の生まれ育った村が寄ってたかって、よそ者に食い荒らされて、壊されるのを防ぎたかったんですよ。

 それに下手に小領主なんかになったら、土地どころか村全体の管理やら、他の領主との付き合いやら、色々面倒事のほうが多いんですよ。

 大地主のままのほうが、ずっと楽で贅沢できたのに』


 両手で持った缶ビールの縁をさすりながら

『そうやって精一杯奮闘している彼を見て、ちょっと手を貸してみたくなったわけです。

 フーは元々村の出身ですからね、言わずもがなですが』


『でもネーモーさん達なら、明日みたいな競りに参加しなくても、鱗ぐらい調達出来るんじゃないですか?』

 もう鱗どころか本体丸ごと獲れそうだが。

『フーは元SSなんですよ。

 だけどやっぱりそれが嫌になったらしくて、隠してるんです。だからワタシもフーも一応Aランクとしてあるんですよ。

 ワタシ達はあくまで、主人をサポートするだけです』


『で、今後どうするんだ?』

 ヴァリアスが缶ビールのラベルに描かれた、地球の伝説上の生き物(麒麟)を興味深げに見ながら訊いた。

 さっきのは星印のマークだったが、今度は別のメーカーのを出したからだ。   


『そうですねぇ。今、男爵の長男が王都の豪商の下で商いの修行中なんです。

 いずれ彼が領主を継ぐことになるでしょう。

 魔骸炭も無限に出続けるわけではないですから、今後の事を考えて、土魔法の達人達を雇う計画を今しているのです。

 麻だけでなく、もっといろんな野菜や綿が栽培できるような肥沃な土地に、根本から変えるためにね。

 それと噴火で降ってくる灰から畑を守るために、灰除けの風車も建設中なんです。

 綿は火山灰のような酸性土壌を嫌いますでしょう? 

 魔骸炭で儲けた利益を全て、その事業に注いでるんです

 成功すれば魔骸炭だけに頼らずに、町は存続していける道も出来ますから」


 少しビールを飲むと

「多分 男爵の存命中に事業は落ち着くでしょう。

 そうして男爵が召されたら、ワタシも余生はどこかの海辺に引っ込みましょうかね』


『お前、水のとこの使徒か』

 奴がラベルから顔を上げた。

『ご想像にお任せします』

 ネーモーはやっと2本目に手をつけた。


『最近、力の衰えと共に、そろそろ命が尽きかけてるのを感じてましてね。

 それもあって、ここに戻ってきたわけなんですよ』

『えっ? 使徒って寿命があるんですか。それにネーモーさんって、こいつより若い方なんですよね?』

『星にだって寿命があるんだぞ。それにあるじである本体から切り離れたんだから、衰えるのが早いのは当然だろう』


 そうしてネーモーに向かって 

『もう一度訊くが、戻って来る気は本当にないんだな ?』

『ええ、もうこのままただの魂に戻ります。

 最後はどこかの岬にある灯台でも買い取って、のんびり波の音でも聞きながら、余生を過ごすのも悪くはないですかねぇ』

 老いた元使徒は静かに目を伏せた。



  ***********************



 それから20年程経った頃、ギルド経由で俺達に一通の招待状が届いた。

 この世の果ての大陸からポツンとはみ出た半島の先に、古びた灯台を改装して、小さいながら観光の宿を作ったので、近くに来た節にはぜひ立ち寄ってほしいと書かれてあった。

 

 波が穏やかな日はお客を乗せて遊覧船を出し、カリュブディスの大渦の脇を通り、青の洞窟で下半身の狼どもと一緒に微睡まどろむスキュラを眺めたり、運が良ければ水面を波打つように泳ぐシーサーペント(大海蛇)が見られるらしい。


 1日に2回、西の空に蜃気楼に隠れていた、ラピュタのような浮島が姿を現し、時計代わりに昼と3時を告げる。


 天気のいい日は、向かいに見える山のような岩山に、巨大なアルケロン(海亀)が甲羅干しする姿を見せ、日没時は沈む太陽を追いかけて水平線を泳ぐ、ファスティトカロン(巨大な魚)の背中が夕日を浴びて赤々と浮かびゆくそうだ。

 

 ちなみに宿のお勧めメニューは、太ったニコニコ顔の料理人が作った『クラーケンのリング揚げ』と添えてあった。


ここまで読んで頂きありがとうございます!

次話はやっと、ターヴィと山に行きます。

なんだか始めに考えていた頃より、ありきたりかもしれないけど

彼等のエピソードがどんどん増えて来て……。

まだダンジョンも行ってないし……。

こんな調子じゃ確実に100話じゃ終わらない(--;)

150話? うーん。


**蛇足ですが、スキュラとカリュブディスって一対で良く文献に載っているので

こちらでも一緒の海域にしてみました。

通常、スキュラは岩場とか岩礁とか外にいるようですが、今回は洞窟に引っ込んでもらいました。

寝床という事で。

「ビトイーン スキュラ アンド カリュブディス」

(スキュラとカリュブディスの間で進退きわまる意)なんて諺初めて知りました。

「前門の虎 後門の狼」よりヤバい状況だと思うのですが。


**『羊たちの沈黙』ご存知ハンニバル・レクター博士、別名カニバル・レクター(人食いレクター)

大好きなキャラの1人です。映画版も俳優さんがとてもイメージが合ってて良かった。

檻ごしになら会いたい人物です。あくまで檻ごしですが。

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