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第280.5話 『事件はいつでも現場でおきるのだ』

 本当は前話280話に追加するつもりだったのですが、中途半端に長くなってしまったので、こうして0.5話としてアップいたしました。

 なので今回はいつもの半分以下、3000字ほどです。


「お~、なんだか面白いことになってるぞ」

 奴が前方に顔を向けながら急にニヤニヤした。

「は?」

 

 この災厄神がそんな風に楽しそうな顔をする時は、何かしらアクシデントが起こっている時だ。

 だがすぐに辺りを見回してもそれらしいトラブルは見当たらない。

 建物の陰か?

 

 街中をベタベタと探知するのはあまり褒められた行為ではないので、一瞬だけ素通りするように半径100メートルくらいを索敵してみたが、やはりわからなかった。


「わからないか? 例の墓地のとこだ」

「なんだと、それじゃわかるわけないだろ」

 距離うんねんの前にまず魔法防御のある市壁のせいで探知が外に通らない。

 っていうか、1人じゃ絶対に入らないぞ!


「安心しろ。墓地の中じゃなくてその外だ。

 そこでお前の関心のある若い女が困ってるぞ。どうする?」

「あのな、俺には一応絵里子さんって彼女がな――何かトラブルか?」

「それは自分の目で確かめてみろ」

「このぉ~、本当に墓地の外なんだろうなぁ?

 言っておくが別に若い女だから助けに行くわけじゃないからなあ~」


 すぐ左の倉庫らしき建物の角に隠れると、念のためにバスターソードを収納(ストレージ)から出してコートの上から装備した。

 何が起こっているのかわからないが、出来る限り他人にスキルを知られないために先に出しておく。


「準備はそれでいいか? じゃあ飛ばすぞ」

 出たところはすぐ壁際だったが確かに墓地の外側。枯れた樹々が背後にうねるように立っている。

 探知で探る間もなく、くぐもった悲鳴が聞こえたので即座に壁を右手に回る。


 アッ!

 そこには3人の男が1人の女を地面に押さえつけていた。


 女は地面から生えたような鎖で全身を地面に括り付けられ、猿轡(さるぐつわ)をかまされた顔を横向きに押さえつけられていた。

 それを男たちが服を剥ぎながら乱暴にまさぐっている。スカートがめくり上がり、白い足が腿まで見えた。


「何やってんだっ! 彼女を放せっ!」

 俺が走り出ると、女の頭を押さえていた男が跳ね上がるように前に立ちはだかって来た。

「邪魔するな! 関係ない奴はあっち行ってろ!」


 そのマントの左胸には見慣れたあのマーク、他の2人も同じ形の紺色のマント、こいつら警吏か。

 なんてこった、汚職どころじゃねえ! 町が荒れてるのはこんな奴らのせいもあるんじゃないのか。

 

「お前はこいつの仲間か!」

 一瞬にして男のまわりに白い光の筋が5本、垂直に現れた。それは回転する螺旋のモビールのように太く細く変化する。

 きっと捕縛だけじゃなく武器にもなる光なのだろう。

 俺も剣のグリップを握る。


 警吏はヘタな兵士よりクセのある戦法をする奴が多い。

 他の2人は女から手を離さずに顔だけこちらに向けているが殺気を膨れ上がらせて来た。

 3人相手か。

 厄介だがこの剣以外にも武器はあるし 、現在(いま)の俺ならなんとかなるかな。

 まずは彼女をどこか安全な場所に飛ばさないと。


 すると女の足を掴んでいた男が怒鳴った。

「邪魔するな! こいつがグールに嚙まれてないか調べてんだっ」

「へっ?」

 

 俺が間抜けた声を出すと、光のモビール男もやや声を和らげた。

「そうだ、この娘がそこの壁から降りてくるのを見つけたんだ。調べるのは当たり前だろ」 

「まさかおれ達がこんな小娘を襲ってるとでも思ったのか」

 彼女の頭を代わりに押さえこんだ男が憤慨そうに声を上げた。


 その時やっと男たちの向こう側、壁際にコブを所々に結んだロープが落ちているのに気が付いた。

 あぁ……やっちまった。


「よ~し、どうやら噛まれた痕はないみたいだぞ」

 足を調べていた男が手荒くスカートの裾を戻して立ち上がった。同時に彼女に巻き付いていた鎖が消えた。


「あ、その――すいません……勘違いでした」

 俺はそっと剣から手を離した。そうして両手をそのまま体の横に下ろした。

 魔法のあるこの世界では、敵意がないことを見せるために下手に掌を相手に向けると攻撃態勢と取られることもあるからだ。

 

 それにしても、あいつもいい加減に意味ありげな言い方しやがって……。

 もう少しで警吏とバトルするところだった。まさかそれが狙いじゃねえだろうな。 

 居たたまれないように(内心そのままだ)周りを見たが、もちろん奴の姿はどこにもない。

 でも確かに俺の早とちりなんだが、これってちょっと仕方なくないか?


「こちらの勘違いで申し訳ないんですが、ただ調べるなら『煙』とか、もう少し優しく確認する方法はないんですか?」

 検査だとしても少し荒っぽ過ぎないか。こいつらがたとえ風使いじゃないとしてもやり方は他にあるはずだ。


「煙ぃ? 外に出てきてるのにそんな悠長なことやってられるかよ。それにこいつはこれくらいされて当然なんだよ」

 と、彼女の腕を掴むと乱暴に起こしてその場に座らせた。


「ンウッ ウぅぅ~……」

 両手は後手に拘束され口に猿轡、泣きはらした顔に髪が張り付いてなんとも痛々しい……あれっ?!


「この()、昨日の――?!」

「やっぱりあんたか、昨日馬鹿なガキどもを助けたハンターってのは。見かけない人種だからそうかなと思ってたんだよ」

 それを聞いた手前の警吏が仲間を振り返ってから、光の捕縛を消した。


「うぇっ ぇっ おっ、おじさぁんンン たすけてぇ……」

 猿轡を外された娘が俺に向かって泣きながら言ってきた。

 昨日ポニーテールにリボンをふわりと下げた、成人したばかりのあの女の子だった。今はバサバサに乱れまくり、枯れ草までつけている。


「君かっ?! なんでまたこんな馬鹿なことを――」

 おいおい、昨日の今日だぞ。本当になにやっちまってるんだ。


「この人たちぃ、あたしがぁ ヒック 中に入ってなぃ って言ってんのにぃ ンン ヒドイことしたのぉ~~ うえぇぇ~……」 

「ふざけんなよっ! てめえがロープでそこの壁にぶら下がってたのは事実だろうがっ!」

 また警吏が声を荒げる。


「すいません、ちょっとだけこの子と話させてもらっていいですか?」

 また娘がボロボロと泣き出したので、男たちに少し黙ってくれるよう頼んだ。

 自業自得なのかもしれないが、こちらの警察は少女にも甘くない。


「どうしてまたこんな事しちゃったの? 昨日怒られたばっかりだろう」

 本当におバカな子なのか? 自分がどんな重大なことをしているかわからないのか。


 内心俺も呆れてはいたが、ガタイのいい男たちに怖い目に遭わされたのはさすがに可哀そうだった。

 傍に落ちていた彼女のらしいクリーム色のケープをかけてやりながら、俺もしゃがんで優しく話しかけた。


「……うっぐ、あの時、落としてきちゃったの……。とっても大事な道具(レア・アイテム)

 だからそれを取りに行こうと思ってぇ……」

「だからってまた勝手に入ったら駄目だろう。しかも君が取りに行っても――」

 そこでふと嫌な予感というか、はたと気が付いた。


「その、他の3人はどうしてるんだ? 君だけで来たのかい?」

「ベティ(カーリー娘のことらしい)は家にいるの……。アレを勝手に持ち出して無くしたから……、パパに怒られて部屋に監禁されてるって、だからお兄ちゃんたちがぁ……えっぇっっ……」

 

「まさか……彼らも()()中に入ってるのか……?!」

「……ぁ、あたしは危ないから外で見張ってろって言われてぇ……。でもなかなか戻ってこないから、様子を見に行こうとしてたら……ぅぐ」


 なんてこった……!

 呆然とする俺と泣きながら項垂れる娘を見下ろしている男たちは、互いに目を合わせて肩をすくめるだけだ。

 慌てる様子もない。誰も助けに行く気はなさそうだ。

 

 俺は半神らしいがスーパーマンじゃない。宮沢賢治みたいな道義心もないし、世界を救おうなんて使命感も持ってはいない。

 ただ、知っていたのに何もせず、後で罪悪感に(さいな)まれるのが嫌なのだ。

 それはこの抗い難い(あらがいがたい)恐怖心よりも何故か上回って感じられた。 


「おじさんっ、お兄ちゃんたちを助けてっ!」

 やにわに少女は顔を上げると泣くように叫ぶ。


 クソッ クソッ くそぉっ!! これじゃ行くしかねえじゃねえかよ。

 

 どこかで奴の低く笑う声が聞こえたような気がした。


 いつも読んでいただき有難うございます。


 たまに『警察24時』とかを見ると、日本の警察って違反者に対して優しく応対し過ぎな気がします。

 まあアメリカみたいにすぐ撃つのは止めて欲しいですが、もうちょっと強い態度とってもいいのでは。

 

 これを見習えというわけではありませんが、海外では警官に暴言吐いたり、いつまでもグダグダ言って従わないと一発逮捕になったりするんですよね。

 態度にもよりますが、老若男女で態度を変えないとこ平等でOKです。

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