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第270話 間の話 『邂逅のビール居酒屋 その3 鳥と大猫と』

 お久しぶりです。相変わらず更新が遅くてすみません……(-_-;)

 間の話だけど、中途半端なところで間を空けちゃいけませんよね(汗;)

 一応この話は今回でオチとなります。


 ちなみに『なろう』の投稿システムが変更になってて、ちょっと慣れない……。


「別に怒っちゃいないよ。そいつが先にあんたに()をかけたし、どうも知り合いのようだからなあ」

 男の声に怒気は感じられなかった。


「ええ、確かに知ってるんですけど、なんと言っていいか――」

 そこで顔を上げて気がついた。


 テントの中央には、天幕を押し上げる木製の支柱にカンテラがぶる下がって内部を照らしている。

 それはもちろんLEDほど強い光ではなく、ましてや1つだけの光源ではテントの隅や角っこは薄暗い。

 そこにこちらをジッと監視する眼があった。


 黄色く光るその眼の上には、楕円形の水晶のような魔石が埋まっている。

 青く鋭く尖った(くちばし)に、頭から尾羽まで黒に藍色を散らした羽毛。


 そしていつの間にか、俺のすぐ左横にいた。

 咄嗟に飛び退いたせいで思い切り幕にぶち当たってしまった。


『ピアァァァー!』

 翼を開きながらそいつは鋭く高い声を上げた。

 狭いテント内なので翼は広げきっていないが、おそらく翼幅は6メートルはあるのじゃないか。

 何しろそいつが首を伸ばすと、優に俺の背を超える高さなのだ。


「マックス、騒ぐんじゃない。話が出来ないだろ」

 男が落ち着いた声で大鳥に注意した。


 黒っぽい大鳥は一度男の方に振り向くと、再度俺のほうに顔を向けて一言 Ke’’! と短く鳴いた。

「マックス! 行儀悪いぞ」

 男が今度はキツめに叱る。

 やっぱり今の舌打ちだったのかよ。


 それにしてもこれはやっぱりマズい状況じゃないのか?


「済まないなぁ。おれもあんたがどういう人間かはまだ分からないんで、こいつらは少し警戒しているんだ」

 男はさして悪気はなさそうだが、今ので俺の警戒心が一気に上がってしまった。


 テーブルの上にはジョッキと木皿に盛られた食べかけの料理、そこにナイフとフォークがあるのは当然だが、更にその皿の横に鳥の羽根を模った金物が置いてあった。


 先端はやや丸みを帯びているが、大きさはバーベキュー串のように長くしっかりしてそうだ。

 男のまわりには武器らしきモノは見当たらないが、もしかするとそれが男の得物なのかも知れない。

 もしかすると金属を操って、あれを変形させて使う可能性もある。油断はできん。


 大体今の鳥だって羽音どころか気配すら全くなかった。

 あんな大きなのがすぐ傍に来るまで気がつかないなんて、こいつ、隠蔽使いじゃないのか。

 それに何かしらの結界がテント内に張ってあるのを感じる。

 これは転移出来るだろうか。


『(おい、蒼也)』 

 奴からこのタイミングでテレパシーが来た。やっぱりトラブルに発展する案件だったのかよ!


『(やったぜ、全部当ててやった!)』

―――― …… ア? 


『(いやあ、ブルワー(ビール職人)の名前を付けてるとこが、出身地と現地が合わない場合もあるから、割り出すのにちょっと苦戦したが、結局オレの知識と勘が鋭く――)』


 ―――――― シャットアウトぉぉぉ !!! 


 てんめえっ! こっちは身動きするのもままならないほど緊迫してるっつうのに、酒当てクイズの結果なんざ寄こすなっ!! しかも今っ!


 ったく、上陸の時と場所を選ばないゴジラ以上にTPOが破壊的というか、気持ちいいほどにムカつくぜ。おかげで俺の臆病な防衛本能が闘争心に変わりだした。

 男の眉がピクッと動く。


 するとふいに、()()()が纏わりついて来た。


 ー-ー- 心配ないよ  大丈夫だから  敵意はないよ ー-ー-


 そんなふわりとした穏やかな感じだった。


 見るとあのブチ猫が前脚を舐めながら、触手を上げてゆらゆらと揺らしていた。

 この緊張感の中で一匹だけ、なんてのんびりしているのやら。


 だが他の鳥たちにもソレが伝わったのか、ハーピーの顔から険のある表情が消えた。黒い鳥も伸ばしていた首を下ろす。


「うん、そうだ、ブブの言う通りだ。落ち着けお前ら。それからひとまず後ろにいろ」

 男がそう片手を振ると、ハーピーはやや面白くなさそうな顔をしながらもテントの奥――と言っても狭いのでシートの縁ギリギリに座った。


 黒い鳥も踵を返して男の後ろの方へ歩いていったが、その脚は猛禽類らしく鋭い爪とがっしりした(あしゆび)を持ち、そして3本あった。


「脅かしてすまんが、まあこいつらは見ての通りおれの従魔なんで、もちろん野生じゃない。一応安心してくれ」

 そう言われてやっと気がついたが、黒い鳥の首には黒革に文字を彫りこんだ魔石のメダル付きの太い首輪をしていた。


 ハーピーは細いチョーカータイプで、ついでに胸には野生ではあり得ない赤い布をクロスさせたブラをしている。

 魔物といえども風紀にかかわるようなオッパイをしているということだな。 言っておくが、決して見たかったわけじゃないぞ。


 ちなみに太った眉毛猫のはグリーンの布で出来たシュシュのような首輪だったが、その本人ものそのそと飼い主の横に移動してしまった。

 ……うう、君まで行かなくてもいいのに。


 ところでそんな彼らの飼い主の男、彼も変わった人物だった。


 横広がりな鼻に分厚い唇、そして特徴的なチリチリな黒い髪の毛。

 最近日本ではあまり見かけなくなった、完璧な毬藻みたいなアフロヘアー。これで色黒ならきっとアフリカ系人種を連想するだろう。


 それにゴリゴリのゴリマッチョな体型。肩幅の広さも厚みも、この鳥たちを乗せられるのではないかと思わせるほどだ。


 しかし一番気になったのはそんな造形じゃなかった。

 それは地球どころか、今まで見てきた人達とは一線を画してまさに異色な人種だった。


 彼の肌は緑色をしていた。


 獣人などがいるとはいえ、こちらに来て初めて会った人種だ。

 ただ緑色と言っても、もちろんゾンビのような青紫混じりの不快な死人色ではない。

 柔らかいグリーン、若竹色という感じだろうか。


 これは体型からしてまさしく(超人)ハルクなんじゃないのか? まさか地球から転生して来たとか?? 


「あんた、初めて見る人種だな」

 呆けたように男を眺めていたら、先に言われてしまった。

 そうだ、俺の方こそこっちじゃ異質な存在だった。逆に俺みたいな東洋系の人間っているのだろうか?


「なんでこいつと知り合いなのか、まず教えてくれるかい?

 こいつに訊いても、何故か人のあんたと兄弟だとしか言わないんでね。まったく要領を得ないんだよ」

 そう、ハルク男は手のひらを上に向けて、ゴツイ肩を軽くすくめてみせた。


「兄弟……! まあ、それは確かに……」

 ややこしい経緯は伏せてポイントだけ正直に話すことにしよう。

 まず知り合いの山猫と一緒に寝たら、彼女の記憶を夢を見せられた事。その時の兄弟だった子猫に、この猫がいたという事をかいつまんで説明した。


「――なるほど、確かにこいつらしい話だ」

 ハルク男は太い指で濃い顎髭を掻きながら呟くように言った。そして後ろに振り返ると鳥たちに声をかけた。

「そういう事らしいぞ、分かったか? お前たち――」


「ピィアァァ」と黒い鳥。

「ケッ!」 

 今度はハーピーが舌打ちしてそっぽを向いた。

 おいっ、見た目が半分が人寄りなので余計に気になるぞ。


「こらっ、ジェシカ! 失礼だぞ」

 ハルク男がまた申し訳なさそうにこちらに向き直りながら言った。

「すまんな。ジェシカはこのブブを子猫の時から世話してたんで、あんたに少しヤキモチを妬いてるようだ」


 するとジェシカ・ハーピーが、ちょっと拗ねたように眉をひそめた。


 ドラゴンみたいな高等な魔物ならいざ知らず、通常魔物は人の言葉は分からないはずだ。

 犬や猫は躾などで簡単な言葉の意味は分かるようだが、複雑な言葉は理解出来ないだろう。


 男が人の言葉を教えたのだろうか。それとも飼い主とリンクしているので、言葉の意味を感じるのかもしれない。

 なんにしても急にハーピーが、グッと人間ぽく見えた。結構感情豊かなんだな。


 もっともこれは人に飼われているからこそなのであって、野生のハーピーはこんなに人間ぽくはないのだろうが。


 それにしてもこんな大きな鳥の従魔って、今まで見た事なかった。

 それこそ大きな魔物――狼や牛、大トカゲとかは何度か見かけたことはあったが、俺が知らないだけなのだろうか。


 それを後でヴァリアスに言ったら、こういうデンジャラス系――本来は温厚じゃない――の従魔は、街中を馬車などで移動するので外ではあまり見る機会が少ないのだそうだ。


「お前んとこだってアレだろ。熊やライオンを鎖で繋いで、そこら辺を散歩させたりしないだろ」


 まあそうか。

 確かに闘犬とかならロープや鎖付きで外出可能だが、虎クラスになったらまず檻で移動させるしかないものなあ。

 しかしやっぱりハーピーって猛獣クラスなんだなあ。ついでにこの大鴉(王鴉)も。  


 気を取り直して、あらためて自己紹介をした。

 ハルク男はやはりテイマーらしく、主にハンターギルドの仕事を請け負っているのだそうだ。


 そうして彼は魔人が住むというあの暗黒大陸、カッサンドラからやって来たという。

 確かに魔人以外に人間もいると聞いてはいたが、このような人種だったのか。

 なんだかマーベルだかアベンジャーズみたいなのが沢山いそうだ。

 

 後に奴に魔界村(魔人の村)に連れていかれ、アメコミどころかボッシュの絵画みたいだと心底思った。(以前キリコと一緒に会った『地』の天使や、『水』の使徒(リベロマーレ)の姿が魔人のモデルになっていた事を忘れていた)


「おれはドド。それでこいつがブブだ」

 そのブブと呼ばれた太った猫は、もう話にまったく興味がないように自分の前足を舐めていた。

 まあ~、見事にピンポン玉をはめ込んだみたいな肉球。あれでちょっと押されてみたい。


「で、ついでに紹介すると、こっちの王鴉がマクシミリ(マックス)アン、そっちのハーピーがジェシカだ」

 ちょいちょいと、ドドが太い指で簡単に三羽を指し示した。

 すると一斉に猛獣及び猛禽類の二羽が、文句を言うかのように首を上げて鳴き出した。


「わかった、わかった。今のは言葉のあやだよ。別にオマケのつもりで言った訳じゃねえから」

 ふうぅ~と、大男ドドが軽く溜息をつく。()()()()言葉ニュアンスだけは分かるようだ。


「全くこいつらは小生意気にプライドがあるから、やりづらくってしょうがねえ」

 テイマーもなかなか大変なようだ。

 それにしてもマクシミリアン(マックス)とか、なんで飼い主より偉そうな名前にしてんだろ? いや、もしかして短い音の名の方が、彼の国では偉いのかもしれないが。

 

 その偉そうじゃないブブは見た目通りなのだが、ジェシカやマックスは気が強そうだ。

 今もなんか喉奥でクァクァ文句らしき声を上げていて、ドドが五月蠅そうに手を振る。


 あ ―― 、その時なんとなく確信した。

 あの時、子猫だったブブを攫って行ったのは、こいつ(マックス)だったんじゃないのか?!


「ああ、そうだ。昔草原でブブを連れて来たのは、このマックスだ」 

 男の声に大きなカラスが胸を張る。なぜ誇らし気なんだ?


「まあ、ありゃあ手違いだったんだがな。

 本当はおれの昼食用に、何か食べられるヤツを獲って来いって言ったんだ」


 すると男はやおらに例の串状の棒に手を伸ばした。次いでそれを大きな毬藻ヘアーにぶっ刺すと、ゴリゴリと頭を掻いた。

 それってそうやって使うものなのか。


「てっきりラバーフロッグか、野兎あたりを獲って来るのかと思ってたんだが。

 こいつ、よりによってこんな小っこい子猫を掴んできやがった」

 と、両指の先を合わせて輪っかを作る男に、再びマックスが不満そうに声を上げた。


「こんな小さいの、腹の足しにもなんねえし、ましてやこの顔だろ? 

 なんか喰う気失せちまって――」

 そう言うと男は、テーブルの横にのんびり横座りしているブブの顔を見た。

 確かにその困った眉顔はこちらが困ってしまう。ましてやその時仔猫はぶるぶる手の中ので怯えていたのだ。

 

 すぐに送り返えそうとしたらしいが、すでに親猫が子猫ごと森の中に避難した後だったらしく、放りっぱなしにしておく訳にもいかず、結局飼うことになったそうだ。


 なんだか見かけに寄らず(失礼)、動物には優しい男のようだ。自分の贔屓にする――テイム出来る種類しか大事にしないテイマーも少なからずいるから、ブブは幸いだった。


 実際にポーの記憶でも、幼い山猫たちは野生動物たちのエサになっていた。

 巣立ちまで生き残った他の兄弟も、今どうしているか分からないのだ。

 野生として自由でいられる方が幸せなのかもしれないが、少なくとも今まるまると満足そうに太ったブブの姿を見ると、これで良かったのではと思う。


「ええと、良かったらこの子に肉を上げても良いですか? 常備しているのがあるので」

 俺はカバンから例のグリーンボアの肉を取り出した。これは山猫の好物なのだ。


 するとさっきまでこちらに興味を失って毛づくろいをしていたブブが、パンッと細い目を真ん丸に見開いてこっちを見てきた。


 カワイイ! 見事に食いしん坊の良い反応だ。

 そうしてマクシミリアンの奴もこちらに首を伸ばした。

 さすが猛禽類。


 しかしジェシカだけはまだ拗ねているのか、不満そうに顔を背けた。

 後で知ったが、ハーピーは新鮮な肉よりも腐敗(熟成)した肉の方を好むようだった。

 だから獲物は仕留めてもすぐに食べずに、百舌鳥(モズ)の早贄のように置いておいて後で食すのだ。


「すまんが、貰えないな。こいつにはちゃんと食わしてるし」

 ――ああそうか、そうだよな。

 さすがに会ったばかりの良く知らない人間から、餌なんか貰ったら危ないもんなあ。

 俺はすごすごと肉を仕舞った。


 すると俺の顔つきで察したのか、ドドがすかさず軽く手を上げた。

「いや、勘違いしないで欲しいんだが、あんたを疑ってるんじゃなくて、今こいつ(ブブ)はダイエット中なんだ」

「え?」


「もうこの通りのおねだり顔だろ? おまけに人懐っこいし、色んなとこで餌を貰いやがって。

 おかげでこんなデブデブした猫に仕上がっちまった」 と、ドドが顔を顰めた。


『ミュウゥ~~ン……』

 お肉を止められていることを知っているのか、本当に悲しそうな顔してブブが啼く。

 その顔を見ると、ちょっとくらいデブったって美味しい物を食べさせてやりたくなる。

 

 餌をやり過ぎて太らせてしまうのも病気になるから虐待だという意見もあるが、こっちじゃすぐに治せるポーションだってあるんだ。

 この男の様子から、薬も用意出来ない程貧しくなさそうだし。別に猫が太ったところで事件になる訳じゃないだろう。


「もちろん運動もさせてるんだが、腹いっぱいでも好物はすぐに食べたがるんだ。

 しょうがねえから今、獣医からダイエット用の疑似肉を買ってるんだ。これが結構するんだぜ」

 と、またボリボリと羽根串で頭を掻いた。 


「そうなんですか。でもわざわざ運動させなくても、狩りとかその仕事テイマーのでいい運動になるんじゃないんですか?」

 見たところ他の2匹は、均整のとれた体型に思える。飼い主からただ餌を貰って喰っちゃ寝してるわけじゃないんだろう。

 それともブブだけ、それを上回る食いしん坊なのか。


「おれは鳥類専門なんでね」

「え?」

「つまりテイム出来るのは鳥だけ。こいつはマイペースだから、おれの言う事聞かねえことがしょっちゅうあるって事だよ」


 つまり鳥相手なら健康状態から食欲まで直接の管理が可能だが、それ以外には通じないということか。

 ブブは蔓山猫なので細かい意志疎通は可能だが、それでも操れるわけではないんだ。


「体調管理だけじゃねえぞ。

 ダメだって言ってる事はひと通りやらずにはおかねえんだ、こいつは。

 食料を入れてる納屋は勝手に鍵を開けちまうし、他人(ひと)んちの厩舎に入った挙句、飼い葉桶の中に無理やり入って壊しちまったことだってあるんだぜ」

 ドドがしかめっ面をして、またボリボリと串で頭を掻いた。


「この間なんざ買い物に連れて行った先で、いつの間にか売り物の大きな道具箱にすっぽり入ってやがってな。

 すぐに出ろって言っても出るどころか動きもしねえ。

 結局店員に見つかって、棺桶みたいにデカくて要らねえ箱を買う羽目になっちまったんだ」

 と、下唇を突き出した。


 ドドは結構話好きらしく、向こうの方からベラベラとよく喋った。

 ただ会ったキッカケがブブのせいか、やたらと大きな猫を飼うのは色々と面倒事が多いという話題が多い。


 でもレッカからそんなに困ったという話は聞いたことがない。

 ただ気を使う彼の悩みどころは、ポーが人の家に勝手に入ってしまうところだが、別に村の何処からも苦情は出ていない。

 村に猫嫌いがいないこともあるのだろう。


 それに反してこの男はなんだか文句が多いな。

 これは性格の違いか、それともテイム出来ないもどかしさなのか。鳥との習性の違いもあるだろうし。扱いづらいのだろうか。


 見るとブブは、男の横で腹の辺りをのんびり舐めている。脚をこちらに向けて広げているので、白くてフカフカのニャン玉がまる見えだ。

 無防備というか、飼い主の言葉に全く動じている様子はない。


 鳥たちも自分の事じゃないから無関心なのか、それとも聞き飽きているのか。2匹とも頭を時々退屈そうに動かしているだけだ。


 しかしそんなに愚痴を言われて、ブブは本当に幸せなのだろうかと段々思い始めた。


 俺だったらせめて本人のいる前でそんな悪口は言わない。特に蔓山猫なのだから、言葉が分からなくてもニュアンスはわかるだろう。

 ブブは気にしない性格なのかもしれないが、文句ばかり言われていてはやはり可哀想だ。


 俺だったら出来る限り好きなように自由にさせて、好物を沢山食べさせてやるのに。

 体調管理はキリコにお願いして、ブラッシングだって毎日やってやる。(やり過ぎはNG)いや、ぜひやらせてもらいたい。 


 そんな事を考えていたら、ムクムクとペットを飼いたい思いがまた沸き上がって来た。

 そうだ、村に連れて行けばポーにだって会わせてやれる――


「あの、ドドさん、失礼ですがそのコに結構手を焼いてるんですよね?」

 俺はそぉっと尋ねてみた。

「ああそうだよ。さっきも言った通り、こいつはこの前も衛兵の馬の尻尾を――」


「じゃあいっそのこと、そのコを手放すってのはどうです?」

 男がちょっと目を瞬かせて、前屈みになっていた体を起こした。


「もちろん無料(タダ)でとは言いませんよ。今まで掛かった食費とか費用とか、結構したんじゃないかと想像はつきますからねえ」


 金の話で解決しようとするのはあまり好きじゃないが、それでもこの大猫をおよそ13年間養ってきたのは事実だ。

 仕事にも使っていたかもしれないが、彼の愚痴によると赤字だった可能性も高いし、何より手間も相当かかったろう。


 ちなみに日本での飼い猫一生分に掛かる費用の平均は、1匹およそ250万前後とか聞いたことがある。(約15年の見積で)

 食事が一番掛かるが、医療費も馬鹿にならないのだろう。


 こうまとまった金額を提示されると、あらためて生き物を飼うことの大変さが実感される。

 ある人は独身時代、スコティッシュフォールドの仔猫に一目ぼれしたが、『子ども』の世話はつくづく大変と思い知ったと言う。

 しかしそんな手間とお金には変えられない、それ以上の癒しに満足だったらしい。

(それが出来ない人は本当に飼わないでほしい)


 男はジッと俺の目を真っ直ぐ見ながら黙っている。


 しかし俺も、初対面の相手によく言ったもんだ。

 相手も戸惑っているのか、それともいくらなら元が取れるか、計算しているのだろうか。


 地球の普通サイズであれだけかかるんだから、こんな大猫ならまず食費がバカ高いだろう。

 そういやレッカもそこちょっと大変だとか言ってなかったか。

 もっともポーは、ときおり外で自分で獲物を捕まえて来たし、レッカが住み込みで働いていた下宿の残り物をよく貰って賄っていたようだが。


 一体いくら吹っ掛けられるんだろう。 

 ギルド銀行には確か2,000万以上の貯金があるはずだから、それならすぐに動かせる。


 もしそれで足りないようなら、ひとまず残りは後払いにしてもらうか、嫌だがヴァリアスに借りるしかない。

 そうしたら借金分、またトンデモナイ試練的特訓に放り込まれるんだろうが……あ、いつものことか。


 いやいや、もし貯金全部はたいちゃったら、今後の孤児院の運営費とか、絵里子さんとの結婚資金とかはどうするんだ? 

 今まで以上に働かないと――トンデモナイ目に遭わないと――ダメじゃないのか。


 そんな不安と懸念がグルグルと頭の中に回り出してきた時、(ドド)がおもむろに口を開いた。


「悪いがそいつは断るぜ。

 何しろこいつはもうウチの家族なんでね。

 たとえ大金と美女と権力をくれても、家族を売る気はさらさら無いぜ」

 そう男がふっと鼻で笑うと、後ろにいたハーピーと王鴉も頷くように頭を上下させた。


『ミュゥ~~ン』

 男の足元で大きな猫も、目を細めて満足そうに啼いた。

 

 いつも読みに来てくださり有難うございます。

 もしかするとドド達のスピンオフストーリーを書くかもしれませんが、それも閑話としてですね。


 ところで先も書きましたように、システムが変わって使いづらいです。

 単独で執筆中にして今話、こちらの第270話に変換しようとしたら、変換タイトルがそのまま作品名しか選べないんですけど……。以前はその『次話』として選べたのに。


 怖かったので、別の単独小説(タイトルだけの空っぽ)のを選択したら、見事にすり替わりました。

 これはもしかして先に下書きとして空っぽの『次話』を用意しておかないと、ヘタすると全ての話が消えてたった1話にすり替わってしまうのだろうか……?!(;゜Д゜)))そ、そんなことになったら目もあてられん……。

 それとも連載物はちゃんと『最新話』とか選ばせてくれるのかな。


 もうヘルプ探すよりコピペが早いので、今回は手作業で移しました。

 しかも投稿しようとしたら、小説情報からまた確認始めるって……本当に消えないよね……:(;゛゜''ω゜''):

 あとでゆっくりヘルプ確認します。

 それでは全消ししないことを祈って、また宜しくお願いします。

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