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第263話 間の話 『ダンジョン『パレプセト』(その1:狩りガール)

閑話というか、少し昔に戻ってのエピソードとなります。



 時は遡り。

 ヴァリアスのおかげで、オッサン達のことをすっかり忘れていた時の頃。

 タムラム村が消失した妖精事件からこちら(異世界)の時間で、およそ一ヶ月ほど経った頃の話だ。


 タムラム村の仕事が終了したあと、俺は半日で終われるような一度で済む依頼――と言っても内容はそれほど簡単ではないが――をこなしながら、イアンさんのところに商品を納品したりして、地道に稼ぐことに(いそ)しんでいた。


 そんな中、ふとイアンさんから王都近くのダンジョンに、野生の蔓山猫が棲んでいるという話を聞いた。

 雑談にポーの話をしたら、そういえばと教えてくれたのだ。

 イアンさんはダンジョンには入ったことはないそうだが、商人なので地元についての情報に常にアンテナを張っていた。


 ダンジョンの名前は『パレプセト』

 フィールドタイプの初中級クラスらしい。


 ダンジョンとはいえ初中級クラスならいいんじゃないのか。

 何しろ初めて入った『メカトロ』は中級、『アジーレ』は元は初中級だったが、人災のせいで一気に上級クラスまで跳ね上がった。

 それに比べたらどうって事ない。


 以前の俺だったら、それでもダンジョンなんか入りたくないと尻込みしただろうが、ここ最近の俺はどこか度胸がついてきた気がする。

 異世界なんだから、もうダンジョンだろうが野山だろうが、あまり変わらないだろうと。

 実はそれは間違いだったのだが、まあ昔に比べて少しは腹がすわってきたのは確かだ。


 それに今回は俺が言い出したわけで、奴のススメではない、

 それならばヤバい事態になる要素は盛り込まれていないだろうとも考えた。

 ただ、始め少し意外そうな顔をした後に、いつものニーッと悪事を考えるマフィア顔で「それも面白そうだな」と言ったのが少し怖かったが。 


 俺はペット探し中で、もしやレッカのように相性の良い猫に会えるかもと、ほのかな希望を持っただけなんだ。

 今回はあんたの思い通りの特訓はしないぜ。


 また近くと言えども、王都から北西に30キロ近くいった山沿いにあるダンジョン。

 通常は馬車で行くのが一般的だが、俺の場合これくらいの距離だと転移ではなく、奴に走らされるのが常だった。

 だが今の俺にはスカイバットがある。


 王都の北門から出ると、早速収納から取り出して体に取り付けた。

 ちょっと門から丸見えで、門番や高い塀の上からの注視してくる衛兵たちの視線が痛かったが。


 タムラム村はずっと北の土地だったから、先に冬将軍の到来となっていたが、遅れてこちらにも冬の訪れがやって来ていた。

 今日は曇りで太陽もあまり顔を見せない。

 風はむろん寒かったが、あのタムラムで味わった暴風雨のヤバさに比べれば、12月初旬の東京をバイクで走るぐらいなものだ。

 まわりに軽く風のシールドを張ることで簡単に対処できる。


 俺は街道沿いの野原の上を飛んだ。

 所々に魔除けの杭に囲まれた小麦畑が広がっていたが、すっかり刈り取られた畑は平原と化していた。

 時折その切れ目から射しこむ陽の光が、その黄色い五分刈りの大地の上に俺の影を落としていく。


 村や町の上を飛ぶには許可がいるが、こうして畑や農園の上をいくことは基本咎められなかった。


 時刻は11時を少しまわったお昼前。 

 箱馬車や荷車が、絶え間なく街道を往くのが右側に見える。

 左には緑よりも茶、赤茶、カラシ色の色味が多くなった山々が連なっている。


 畑で来季に向けて土づくりをしている農夫が、俺に向かって片手を上げた。

 そういう時は俺も減速して、手を振り返すことにしている。

 こうして気軽に挨拶を交わす気風も長閑(のどか)で微笑ましい。

 

 と、俺は急にまわれ右をすると、その農夫の近くに降り立った。

「すいませ~ん。

『パレプセト』ってダンジョンに行きたいんですけど、こっちの方角で合ってますかね?」


 道なんか無視して飛んでいるとはいえ、ざっくり方角だけではダンジョンがどこにあるのか分からない。

 目指すダンジョンは山の麓にあるとは聞いていたが、連なっている山なんかどれも同じに見える。


 地上にいれば道端の標識――非識字者でもわかるように、ダンジョンを示すアリの巣のみたいなマークが大きく描かれている――で分かる。

 だが今は道から離れて時速40キロ近くで飛んでいるし、ちょこちょこと探知で確認していたが、ついまわりの景色に和んでいたせいで、いくつかの標識を見落としていたのだった。


 おお、聞いてよかったぜ。

 途中から横道に逸れなくてはいけなかったらしい。

 農夫からあの麓だと教えてもらった山は、飛んでいた方角の斜め15度北にズレていた。


 しばらく飛んで見えてきたのは、低くなだらかな山の裾に広がる森と、その真ん中を突き抜けるように飛び出した巨大な樹木だった。

 ここから見ると、太い何十もの幹が束ねられているように見えて、一本の樹なのか、それとも何本もの樹が寄り集まって出来ているのか見当がつかなかったが、とにかくタワーのように高いのだけはわかった。


 こんな目印があるのに、なんで分からなかったのかと思われそうだが、その巨大な姿に関わらず、森の色と伸ばした枝葉が幹を隠してまわりに溶け込んで、遠目からだと分かりづらかったのだ。


 その森の手前の一角に、煉瓦で出来たトンネル状の建造物があった。

 上部に『パレプセト』と、しっかり彫ってある。

 重そうな分厚い金属の扉が観音開きに開いていているが、上がり階段しか見えない。

 横の小屋が番小屋だな。


「1人 550(エル)だよ」

 係が登録用紙を渡しながら言ってきた。

 ヴァリアスは俺がスカイバットを外している最中に、さりげなく姿を現していた。


「あの、ここに蔓山猫が生息しているって聞いたんですけど、大体どこら辺にいるんですか?」

 俺は登録という名の誓約書――『中で何かあっても、管理局は一切の責任を負わないものとする』という文面にサインしなければならない――を書きながら尋ねてみた。

 

「あ~、そりゃあアチコチにいるさ。

 寝床にできるブッシュがあって、餌があるところ大概縄張りを作ってるよ」

 今更と言う感じで、係の男が肩をすくめてみせた。


 うう~ん、そうなのか。

 でもジャングルで虎がどこにいるって訊くようなものか。

 しょうがない、やはり探知で地道に探すか。


「あー、だけど売店付近には、結構出現する率は高いな。

 あそこであいつらの餌を売ってるから」

「えっ、餌を販売してるんですか?」

「ああ、あんた達みたいに、猫に釣られるもんも少なくないからね」

 係がニヤリと笑った。


 そうか、やっぱりどこの世界にも猫の魅惑にハマる者はいるんだな。 

 その売店の場所を聞いてみたが、中央寄りとしか聞けなかった。


 というのも、ダンジョンは一種の生き物なので、内部が時々変化するからだ。

 とりあえず基本の通り道の標識通りに行けば分かると言われた。


 大扉をくぐって中に入ると、そこは石壁に四方を囲まれたホール状の空間になっていた。

 大聖堂のように高い天井も同じく石壁で、外と同じように呪文が彫りこまれている。

『メカトロ』同様に両壁に屋台や小店があり、中央にはテーブルがいくつか並べられていた。


 そうして奥の一角には、ハチの巣状のベッド棚、まさに大きなカプセルホテルが作られていた。

 長逗留する者達が、いちいち外に出ないで滞在できるようにだ。

 ダンジョンのホールは、小さな街でもあるのだ。


 突き当り奥にダンジョンへの出入口があった。

   

 扉の横にいた係の男に入場プレートを見せると、おもむろに壁のレバーを引いた。ズリズリと地面のレールの上を車輪が転がって、重そうなドアが開いていく。

 同時にドア向こうの鉄格子がするすると上がっていった。

 俺たちが中に入るとまた同じように音を立てながら、扉は背後で閉められた。


 そのまま四方を灰色の石壁に囲まれた、大人が2人並んで歩けるくらいの通路が右横に続いている。それを数メートル、突き当りまでいくと今度は急に左に曲がってまた通路が伸びている。

 そんなジグザグを3回ほど繰り返して、やっと通路の向こうに扉と鉄格子が見えてきた。


 外は雑木林というか森の中だった。

 雑多な樹々のすき間を明るい光が射している。見上げると太陽が雲の間から顔を出していた。

 フィールドタイプというから、やはりメカトロと似ているのか。


「あれ、なんで太陽が見えるんだ? ここはダンジョンなんだろ。それともあれはダンジョンの太陽なのか?」

 樹々の向こうに見える発光する光は、外の太陽とそっくりだった。

「あれは同じ太陽だ。ここはダンジョンと言っても外フィールド型、山裾に出来た森の中だからな」


「えっ、ダンジョンって洞窟とか、地下とかじゃないのか?」

「確かに元々は地下牢を意味する言葉だったようだが、ここでのダンジョンは一種の亜空間を指すと本にもあっただろ。

 それが地下か地上かの違いなだけだ。条件が合えば水の中にでもどこにでも出来るぞ」


 そうなのか。

 だけど普通の森とどう違うんだろう。ラーケル近くの黒い森だって魔素が濃くて、魔物が結構いたんだが。


 だが、探知の触手を出してみると、その違いは明らかだった。

 黒い森では魔素の乱反射に悩まされたが、空間的にはすっきりしていた。

 だけどここは、蜃気楼のようにゆらゆらと揺れる手応えがある。

 やはりダンジョンは空間の違いなのか。


 それにここは、まるで春の森のようだった。

 外はすでに冬景色で雪こそまだ積もってはいないが、すでに落葉樹は葉を落として丸裸になっている。


 しかしここは全ての樹々が葉を落とすどころか、青々と豊かな枝葉を茂らせていた。

 雨上がりの森林特有の匂いというか、湿った土と青臭い独特の香りが漂ってくる。

 このダンジョン内の魔素の匂いだ。森林浴するには少し主張が強いかな。

 とにかくダンジョンは外の季節には左右されないようだ。


 目の前には樹々と茂みの中を、一本の道が奥へと伸びていた。こんなとこも普通の森の小径に見える。

 ただ飛び飛びに、赤茶色のタイルが埋め込まれていて、そこには魔法式らしき呪文が彫られていた。


 これは道が動かないように制御しているアンカー。

 ダンジョンは生きているので新陳代謝をする。腸のような蠕動運動をするのだ。

 その度に道や土地が動いてしまうのだが、こうして主要な道や建物が移動しないように魔法のアンカーをつけてあるのだ。

 

 道の横の看板にざっくりと簡単な地図が描いてあり、確かに中央やや下寄りに売店の絵があった。

 このままこの道なりに行けば辿り着くらしい。


「もう昼だし、テーブルがあるようだからそこでメシにするか」

 ヴァリアスが珍しく目的地に直行してくれるようだ。

「食ったら腹ごなしに、あちこちまわるぞ」

 若干の不安あり。

「言っとくが、猫を探すのがメインだからな」

 俺も一応釘を刺しておく。


 ともかく道なりに行くことにした。

 しばらく歩いていくと、この濃い魔素にも慣れて来てあまり気にならなくなってきた。

 時たま雲間から顔を出す太陽が、淡い木漏れ日をつくってくる。

 虫や鳥の声、もしくは何かの小動物の鳴き声もする。

 瑞々しい青い匂いに混じって、花の香りがよぎっていく。


 なんかいいなあ。

 山猫を飼ったら、一緒に森の中を散歩するのもありだよなあ。

 そんな事を夢見ながら探知したが、なかなかそれらしき動物を発見することが出来なかった。


 それにしてもちょっと暑くなって来た。

 小径の前でセーターを脱いで、厚手のタートルネックからカットソーに着替えていた。

 だが、ジーンズの下にまだレギンスを履いたままだった。


 なんとなく外で下まで脱ぐのは憚られてここまで来てしまったが、やはり暑いものは暑い。

 どうせダンジョン。人は近くにいないようだし。

 それでも念のため、小径から外れて横の樹の間に入った。


「ハーイ、お兄さん」

 後ろから急に声がかかった。しかも若い女の声。


 振り返ると、タンクトップにキャンパーのような大きなリュックを背負った、大学生くらいのベーシスと獣人の女の子が2人、茂みの向こうに立っていた。


 うああぁぁ~~! 

 俺はちょうどレギンスを脱いだところで、下半身はパンツ一丁。いつものクセで脱いだものを簡単に畳んで収納したところだった。

 上着のチュニックは腰まであるので、こちらならそういうファッションにも見えなくもないが、日本人の俺としてはどうにも落ち着かない出で立ちになってしまった。

 ついでに靴も脱いで靴下状態だ。


「見ない顔ね。1人なの?」 

 山歩きの気さくささながらに声をかけてくる。

「え、俺は連れが――あれっ?」

 さり気なくショルダーバッグを前にずらしながら、気がつくとヴァリアスの奴はどこにもいなかった。


 あの野郎っ、教えねえどころか、さっさと隠れやがったな。

 待てよ、そういえば――


「君たち、もしかして隠蔽使ってた? 全然気がつかなかったよ」

 そうだ、俺はちゃんと探知していたのに、彼女達には気がつかなかった。


 すると2人はコロコロと明るく笑って、あちこちに狩りの罠を仕掛けているのだと言う。

 罠を仕掛けている最中は、バレないように隠蔽をかけていたらしい。

 そこへブッシュを踏み分ける足音がしたので、こっそり見に来たのだと、獣人娘が狐色の尖った耳をピコピコと動かした。


 もちろん人が引っかからないように、こうして目印は付けてあると、赤い紐を見せてくれた。

 確かにこんな不特定多数の人が入るような場所で、目印が無かったら危険だものなあ。


「へえ~、罠猟やってるんだ」

 そう言いながら俺は少しずつ横の、腰まである長い草むらに移動した。

「お兄さんはヤブルーでも取りにきたの?」

 ヤブルーというのは、こちらでのマンドラゴラのことだ。

 あんな厄介な植物が生えているのか。迂闊に踏んだらどうしよう。


「いいや、蔓山猫を見に来たんだ。ここに棲んでいると聞いたんで」

 すると狩りガール達が軽く顔を見合わせた。

「ええ、それはいるけど、大丈夫? あいつらホントに腹すかしてる時はマジで危ないわよ」

「え?」


 聞けば、ここの蔓山猫は普段は人慣れしていてまさに猫撫で声で近寄って来るが、空腹でいる時にこちらが食料を持っていないと最悪、人が餌になってしまう場合があるというのだ。


 ポーが人を食べている姿なんか、とても想像できないが、考えてみたらこれだけ大きな猫科の魔物。

 飼い猫で山猫を知ったので、俺は人懐っこいイメージしか持っていなかったが、自然公園にいるクーガーとなんら変わりなかった。

 野生なんだからそれが当たり前だったのだ。


「大丈夫。万が一襲われても、山猫くらいなら電撃で追い払ってみせるから」

 俺は目の前に出した右手に、バチバチとスパークを出して見せた。

「凄~い! お兄さん、見かけによらず攻撃魔法使えるのね~」

 2人は感心したように目を大きくした。


 なんだか、ちょっと馬鹿にされてる気もしたが、どうも彼女たちに悪意はないらしい。

 それにズボンも履かずにカッコつけてる俺もあれだし。


 2人の狩りガールは、トールホーン(大きな角の鹿の魔物)を狙っていると言って、また茂みの奥に入っていった。

 

「カッカッカッカ! なにあんな小娘相手に腰を引いてるんだ」

 俺がズボンを履いていると、奴がいつの間にか隣にいた。


「てんめぇ~、俺のメンタルが悲鳴を上げるじゃねえか。

 わかってるなら教えろよ」

「お前が探知をしっかりしてないせいだろ。

 範囲を広げることにばかり気を配って、入念にやってない証拠だ」


 それから面白そうにニヤリと笑うと

「大体、あの女たちはお前がズボンを下ろした時から傍で見てたんだぞ」

「えっ?!」

「ホールで着替えるのが普通だからな。こんなとこで脱いでるのを見て、このダンジョン初心者だってわかったんだろうよ」


 ううっ、どおりでズボン下ろしてる奴の傍になんかよく来るなあと思ってたけど、やっぱり俺、からかわれてたのか……。

 今さらながら、自分の様子を思い浮かべて恥ずかしくなった。 


 そこにヴァリアスが釘を刺して来る。

「それに今回は悪意はない連中だったが、隠蔽を使って近づいて来る奴なんかに気を許すな」


 うぬぬぬぅ~~、言い返せねえ。

 確かにダンジョンは治外法権。どんな奴らがいるかもわからない。

 もし盗賊に殺されても、死体を魔物に喰われてしまっては跡も残らない。

 それに人的被害にあっても立証しづらいのだ。


 例えば彼女たちのようにこうやって、罠に目印をつけていくのは良心的な人達で、中には自分たちにしか分からないように、目立った印をつけない不届き者もいるそうだ。

 ヘタに不自然なモノがあると、獲物が警戒するという理由で。


 そしてダンジョンの恐いところは、それで被害にあってもやられ損になるというところだ。

『ダンジョン内で起こった被害等については、管理局は一切の責任を負わない』という誓約。

 つまり当事者同士で解決しなくてはならないという事。


 こちらではそういった事故などの事件に警吏は介入せずに、いきなり判事もしくは刑吏の手に委ねられる。

 警吏はあくまで警備や現行犯を捕まえたりする役人で、現在の警察のように捜査などしないからだ。

 審問機関も、そんな民間の事故なんかには滅多に関わらない。


 そして裁判になっても、証拠不十分でほぼ被害者側が負けることが多い。

 目印がなかったと、立証出来る事が難しいからだ。

 目印の規定に決まりはなく、自然に出来た落枝の✖印を目印だったと言われれば通ってしまうのだ。

 ましてやダンジョン内でのこと。全ては自己責任になる。


『騙された者が悪い』という風潮があるこの世界では、当たり前の意識だ。

 そういうとこが、こちらに移住するのを躊躇させる要因でもある。

 やはり治安と最低限の安全保障は欲しいものだ。


 再び探知を意識しながら、道を進んだ。

 範囲は先程より縮めたが、もう隠蔽や足跡一つ見逃さないように濃く感知しながら。


 と、右斜めの藪の向こうに、赤いリボンが付いているのが視えた。

 近づいて行くと、確かに地面の草や木の枝に、さっき狩りガール達に見せてもらったリボンが結んである。


「ということは、ここら辺に罠があるって事だな」

 俺はそのまま近寄らずに、辺りを注意してみた。


 すると草やシダに隠れながら、1本の紐が10cmくらいの高さにずっと張ってあるのがわかった。

 それを探知で追っていくと、近くの樹の幹に沿って伸びている。更にそれをたどって、俺は思わず戦慄した。


 4mくらいの高さの、枝が入り組んで葉がこんもりと茂っているところに、ソレがあった。

 長さは1m以上で、棘のように尖った杭をハリネズミのように打ち込んである丸太が、そっと隠れていた。

 そして手前の太い枝から伸びたロープに繋がっている。


 これはアレだ。

 下の紐に触れて引っ張ったら、あの丸太が吹っ飛んでくるヤツだ。


「ベトコンかっ! 捕獲罠どころかブービートラップじゃねぇかっ」

 もう捕まえるというより、一撃必殺を狙ってきてる。

 普通もっと、獲物の皮とか肉とかを最小限傷つけずに狩るものじゃないのか?


 これがあのキャピキャピ狩りガールが仕組んだものなのか?!

 よく見るとその丸太の鋭い杭にも、3つのリボンが可愛らしく結ばれている。

 

 色んな意味で恐ろしい……。

 もう狩りガールじゃなくて、物騒(デンジャー)ガール。

 これじゃただの殺戮だ。


「こんな罠は珍しくないぞ」

「なに、だって鹿とか言ってなかったか? 俺はてっきり落とし穴とか、括り罠かと思ってたんだが……」

「特に中型以上の動物は、生半可な罠じゃ獲れないからな。

 まあ自分の能力で何とか出来る相手なら、捕まえるぐらいに抑えられるかもしれないが」


 って、ことは鹿って言っても、熊みたいに危険な奴ってことか。

 もしかすると落とし穴も、ただの穴じゃないのかもしれない。落ちたら串刺しになるような、即死か致命傷狙いの……。

 これは確かに気を引き締めないと。

 あらためて探知に気を入れる俺に、奴が気を抜かすような事を言ってきた。


「ところでブービートラップってなんだ?」


 家に戻ったら、まず『ランボー』と『プラトーン』、『フルメタル・ジャケット』あたりを観せてやるか。


ここまでお読み頂きどうもありがとうございました。


これは別サイトに載せた話を改稿したものですが、半分近く加筆しました。

やはりこれももう一つのパラレルな人生という事で、重複しつつ少しずつ違う面を見せていきます。

この『パレセプト』編は最終ストーリーまでの閑話(繋ぎ?)であるのですが、おそらく4話くらい続きます( ̄▽ ̄;)

もう本編の一部に近いですね(汗;)

宜しければまた来ていただけると嬉しいです。

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