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第262話 『消えた村タムラム その顛末 (その8:冬の行く末)』

やっと『消えた村編』終わりです。


 もう可哀想とか躊躇してる場合じゃなかった。

 俺はやっきになって狩りをしている小猿たちに電撃を放った。

 

 ヒキャァッ! ピキィィ! 

 (ぬえ)たちがその場で跳ね上がると、雪の上に転がった。

 俺はすぐさま雪上に降りるとその手からトカゲを取り外し、猿たちを森の方に放り投げた。

 アゴ髭トカゲのオッサンは、胴体を思い切り噛まれていた。


「しっかりしろっ! オッサン 死ぬなよ、頑張れっ!」

 慌ててトカゲを咥えた鵺の口を開かせた。 


『はあぁ~~~~…………、たすぅかったぁ……』

 俺の手の中でオッサンが大きく息を吐いた。

 意外としっかりした声に、ついポーションを取り出した手が止まった。


 あらためてよく見ると、体のあちこちに細かい傷があるとはいえ、オッサンの表皮には新しい傷は見当たらなかった。

 他の奴らも同じだ。

 古傷は結構あるが、みんな特にこれといった治療を必要とする怪我はない。

 意外と鱗は硬かったようだ。


 ふと森の方を振り返ると、雪の積もった枝や茂みから先程の鵺たちが、こちらをジッと恨めしそうに窺っていた。


「ごめんよ。だけどお前たちのご飯にさせるわけにはいかないんだよ。

 代わりにコレで勘弁してくれ」

 俺は収納からグリーンボアの肉を包んだ油紙を取り出した。

 

 それを幾つか放り投げると、即座に小さな焦げ茶の影が茂みに飛び込んでいった。

 ポーの大好物の蛇の肉。

 いつでもあげられるように常備していて良かった。


『また助けられちまった。何度も済まねえ』

 俺にしがみついていたトカゲ達は一旦雪の上に降りると、あらためて俺に礼を言った。

 ええと、全員6匹、じゃなくて6人いるな。

 本当に良かった。


「こっちこそ今まで来れなくて申し訳ない」

 忘れていたとは言いづらい。

『いやそんな、こっちもアチコチに隠れてたもんでさ』

 黄色のレオパードゲッコーが目をクリクリさせて言う。

 

「ヴァリアス、いるんだろ? 早くこの呪いを解いてくれよ」

 俺は辺りにぐるりと顔を回して声をかけた。

 だが、何の反応もない。 

 

 時刻は午後3時過ぎ。

 まだ正確には1年経ってないって事か。


 不安そうなオッサン達に、あいつはそういうところだけは煩いんだと説明して、取り敢えず村を離れることにした。


 オッサン達をオーバーのポケットやカバンに入れて、今度は比較的ゆっくりと白銀の海の上を飛んだ。

 飛ぶのはあまり好きでない、というか慣れないオッサン達は前回と同様、終始なかで縮こまっていた。


 ジャールの町に着いた頃には日の短い季節らしく、すでに東の山に太陽が沈み始めていた。

 街中では人々が寒そうに先を急ぎ、早い屋台ではもうその日の店じまいを始めていた。

 太陽が引っ込むと急激に寒さが増すせいだ。

 閉門も早く、既に閉門前2の鐘が鳴っていた。


 本当は6人が泊まれるくらいの大部屋を借りたかったのだが、オッサン達が必要ないというのでひとまず食堂に入ることにした。


 ここら辺の店は特に表示していなくても従魔可のところが少なくなく、目抜き通りから一本裏に入った居酒屋の吊り看板に、首輪をつけたトカゲの絵を見つけたのでそこに入ることにした。

 

 中には早々と仕事を切り上げて、早めの夕餉をとる客たちが数人、暖炉近くの席にかたまっていた。

 彼らの朝も同じく早いのだろう。


 俺はなんとなく習慣で、窓際壁寄りの席に腰を下ろした。

 寒くても喚起のために窓が半分開けられていて、道の先の大通りがよく見えた。  


 酒場でトカゲ相手に喋っていると淋しい奴とか思われそう、という妙な偏見がちらっと頭をもたげたが、実際はそんなことないし、主人と従魔が話している光景はここでは珍しくなかった。


 店員が足元に持って来てくれた火鉢(ブレイジャー)では、テーブル下しか暖まらないので、俺は軽く自分のまわりの空気を温めた。

 ついでに遮音もかけた。

 さすがにトカゲ達の言葉は分からないだろうが、俺の喋る内容が半端に聞こえないとも限らないからだ。


 ビールジョッキ2つと従魔用の取り皿(深めのボウル)を3つ持って来てくれた店員に、ビール代とチップを渡す。

 それぞれのボウルにビールを注いでやり、俺も自分のジョッキを持ってあらためてお互いの無事を祝うとした。


「なんだよ、ジョッキが1つ足りねえじゃねえか」

 いつの間にか俺の横に奴が立っていた。

「やっと現れたか。いい加減早くこれを(呪いを)解けよ」

 酒の匂いを嗅げば必ず現れるとは思ったが、本当に外さねえな。

  

「まだ時間になってねえだろ。ここまで待ったんだ。そう急がなくてもいいだろ。

 おい、黒ビール3つ追加」

 足りないジョッキは1つじゃなかった。


 店員がジョッキ2つと、ナマズに似たフィッシュフライの大盛りを置いて去ると、俺は思っていたことを訊いてみた。

「あんた、よくオッサン達が町で暮らすのを許したな。『野良』でいろとか、自然を味わえとか言ってたくせに」


 そう、オッサン達はあれからお互いに探し回ってなんとか合流することが出来たそうだ。

 それから樹の皮を大きく剥いで、それをシートのようにみんなで被り移動することにした。


 上から見ると不格好だが、大きなトカゲに見えなくもないように。

 大抵の動物は、自分より大きな相手は襲わない。


 猿とか人間を馬鹿にしているのは別だが、まずこの森の動物たちは大人しい方だった。

 そうして泥などで自分たちの匂いを消した。

 

 危なかったのは自分達と同じ目線で移動してくる蛇だった。

 だがそこは6匹12の目がある。

 360度の全方位をみんなでカバーし合った。


 もちろん注意していても見つかる時は見つかって、今日のように襲われる場合も相当あったらしいが、そこは元人間。

 ハリネズミが落としていった鋭い針や、口や目に入るととても刺激的な辛子草の実など、天然の武器を使ってやり過ごしていたそうだ。


 けれどすぐに森での生活では1カ月も持たないと判断して、一番近いジャールの町に潜入したそうだ。

 にわかトカゲに冬は過酷過ぎる。


「オレは『飼われるな』とは言ったが、町に入るなとは言ってない。

 それに街中でも自然の摂理は体験できる。

 だろ?」


 イワンのオッサントカゲが、顎の突起状の鱗をボリボリと前脚で掻いた。

「ああ……、森に比べればだが、それでも厳しかったぜ」


 オッサン達は冬場、家々の屋根裏や物置、あるときは厨房の樽や穀物袋の陰などに身を隠してやり過ごした。

 森のように蛇や鳥、猿などに狙われる機会は少なくなったとはいえ、家の中にはネズミや猫、犬がいる。


 そんな奴らの縄張りにずっといる事は出来ず、常に棲み処を変えるしかなかった。

 サバイバルの基本は、水や食糧の調達よりも真っ先に安全な寝床の確保である。それは生死に直結するのだ。


 幸い、この町ではペットとしてのトカゲが多かった為、トカゲを飼っている家では猫やネズミに襲われる心配がぐっと減った。

 その代わりに天敵となったのは、人間の子供である。

 彼らは新参者のトカゲを見ると、小突きまわしたり尻尾を掴んだり、挙句の果てに捕まえて飼おうとした。


 野良として生きなくてはいけないオッサン達にとって、これはありがた迷惑な話だった。

 結局屋内でのんびりと過ごすことはほぼ叶わず、一番多くを過ごしたのは大トカゲ、ロックポーターたちの厩舎だった。


 彼らはその図体の割に穏やかな性質で、見慣れない小さな仲間が自分たちの寝床に潜り込んだりするのを別に咎めなかった。

 飼い葉桶の餌を横からつついたり、己の腹の下に隠れるのも気に留めなかった。


 だが、彼らが気にしなくてもその飼い主たちは、小さな野良トカゲを見ると良い顔をせずに追い払った。

 そういう野生のトカゲが病気を持って来て、大事な担ぎ手に移されることを恐れたのだ。


 ロックポーター達が仕事に出ている間は、外からネズミや鳥などが飼葉のおこぼれを狙いにやって来るので、常に隠れたり引っ越ししなければならなかった。

 とにかく気の休まる日はなかったという。


「だから朝日を見るたびに、また一日が始まったと緊張するのと同時に、昨日を生き延びられたんだなあとつくづく感じたよ。

 朝露に濡れた雑草を、あんなに美しいなんて思ったのは初めてだった」

 他のトカゲ達もしんみりと頷いた。


「フン、少しは骨身にしみたようだな」

 奴が口角を上げた。

「まあ町まで来れたのは幸いだったな。あのまま森にずっと居続けていたら、それこそ生き延びられなかっただろう。

 お前たちは生きて、この世の煉獄と素晴らしさを味わってもらわなくちゃ意味なかったからな」


 もしかしてこいつ、オッサン達がギリギリのところで生き残れるように見ていたのか?


「ああ、確かに世界は残酷で、そうして素晴らしい……」

 オッサンが深く呟いた。


 日が暮れて外はどんどん濃く深い青に包まれていった。

 すでに閉門の鐘が鳴り終わっていた。

 冬の閉門時間は、ラーケルより1時間近く早かった。


「そろそろ出るぞ、もうすぐ時間だ」

 奴が何杯目かのジョッキをカラにするとおもむろに言った。

 オッサン達がお互いに目を合わした。


 外に出ると雪はほぼ止んでいたが、代わりに冷たい霧が湧き出ていた。

 そのぼんやりした視界にポゥと灯りがよぎり始める。

 カンテラを持って歩く人達が増えてきたからだ。

 サクサクと夜の街に、人々の雪を踏みしめる音が静かに響いて来る。


 これからどうするのか。

 オッサン達は人に戻ったらどうするか、しっかりと全員一致で決めていた。

 だから俺達はしばらく無言で、暗い雪の道を歩いた。

 ハンターギルドへ続く道のりを。 


 オッサン達は自首するために、まずニコルス氏を訪ねることにしたのだ。

 妖精の刑は終わっても、鉱石商たちやゴディス老人を殺した罪はまだ償っていない。

 村の件はすでに終決としてしまったが、再び容疑者が現れた場合どうなるのか?

  

 地球の法律では二重の処罰(ダブルジョパティ)は受けない事になっている。

 だが、この場合少し意味が違うし、そもそもこちらにそんな法律はないようだ。

 後から罪が発覚すれば、あらためて処罰される。

 罪は必ず裁かれなくていけないからだ。


 しかしその加害者達もまた、操られた被害者だったら?

 どう判断されるのだろう。

 やはり罪は罪として、殺人罪で処刑されてしまうのだろうか。


「49年生きてきて、一番濃くて長くて、生きたって実感した1年だったぜ。

 もう一生分生きた気がする」

 そうオッサンは先程、咀嚼したフライを食べてビールを喉一杯に流し込み、満足そうに笑っていた。

 トカゲなのに悟った仙人のようだった。


 俺は彼らを再びカバンやポケットの中で温めながら、良からぬことを考えていた。

 どうせならこのままラーケルに連れ帰って、そこで人生をやり直せないだろうか。


 殺人とはいえ、魔法によるマインドコントロール状態だったのだ。これはもう傀儡に近いのじゃないのか。

 遺族からしたら同じ目に遭わせてやりたいかもしれないが、それじゃただ溜飲を一時下げるだけだ。

 生きてさえいれば、何かしら別の方法で遺族への償いも出来るんじゃないのか。

 甘いかもしれないが、俺はそう思った。


「なあ、みんな、やっぱり今日はもう遅いし、明日に出直しーー」

 オッサン達は消えていた。

 ポケットにもカバンにも、もちろん俺の背中や肩にも。

 ヴァリアスの奴もいない。


 まさかっ! 俺だけ置いて先にギルドに行ったのか!?

 俺は道の真ん中でつい叫びそうになった。


 横を通り過ぎて行く人達は、白い息を吐きながらそそくさと家路や、または酒場に足を運ぶのに忙しそうで、そんな俺のほうに見向きもしなかった。

 おそらく急に奴が消えたのも気づいていなかっただろう。

 俺はすぐにギルドに向かって転移しようとした。


「兄ちゃん、戻ったぜ」

 後ろの納屋の陰からのっそりと、髭や髪をぼうぼうに伸び散らかした男が現れた。

 顔は違うが、どこかあの翁に似ていた。


「オッサン!」

 そのオッサンの後ろからぞろぞろと、5人の男達が現れた。


 人に戻ると分かっていても、やはりその瞬間まで一抹の不安があった。

 オッサン達は以前よりやつれて、髪や髭に白髪がだいぶ混じりだしていた。

 ただ腹が引っ込み、前より精悍で味わい深い皺を顔に滲ませていた。


「ゾルフ、みんな、戻ったか!」

 俺達は歓喜の声を上げて互いに抱き合い、背中を叩いた。 

 そばを通る人たちには、きっと俺達はただの酔っ払いに見えただろう。


「本当に何から何まで世話になったぜ。

 あんた達にはデケえ恩が出来ちまった。

 ただ返したくてもその時間があればいいんだが」

 オッサンが少し淋しそうに目を伏せて顎を掻いた。


「本当に行くのか。考え直さないか? 贖いの方法はいくらでもきっとあるよ。

 そうだ、またみんなで考えればいい」

 それに対して静かにオッサンは首を横に振った。


「何度も考えて決めたことだ。人としてやり直したいんだよ。

 それには一度、(おおやけ)に裁かれて全てスッキリさせたいんだ。

 なぁ、みんな?」

 後ろを振り返りながらオッサンが言うと、みんなも静かに、だがハッキリと頷いた。


「そうか……。

 じゃあ、せめてコレを受け取ってくれよ」

 俺は例のミスリル銀のインゴットを取り出した。

「ああん? これはお前さんにやったもんだぜ」

 オッサンが顔をしかめた。


「ああ、確かに俺が貰ったものだよ。だからどう使おうと俺の自由さ。

 だから餞別としてあんた達に渡したいんだ」

 念のため辺りをうかがったが、奴の姿は見当たらなかった。

 あの時はダメだったが、やはり今ならいいらしい。


「裁判とかになったら、遺族への賠償金を渡した方が罪は軽くなるんだろ? だったら持っていってくれよ。

 その方が遺族も助かるだろうし」

 

「しかし……」

「気にしないでくれよ。

 俺も去年よりランクが上がったおかげで、収入が増えたんだ。

 これでも1回でコレくらいの仕事を受けれるようになったんだぜ」

 俺はワザと自慢げに胸を叩いた。

 

 さすがにこんな大金の依頼は滅多にないが、まんざら嘘じゃない。

 ただし難易度も相当になるが。


「ホントに本当に済まねえなあ。あんたには一生かけても恩返し出来そうにねえくらいだ……」

 ゾルフや他の男達が鼻を啜った。

「なんだよ、みんな。今まで寒がってもいなかったくせに……。

 人に戻ったらぁ、急に、かぜぇひぃたのかよぉ……」 

 俺もつい声が上ずってきた。


「気にするな。コイツは人助けが好きなんだ」

 先程と同じく、いつの間にか奴が俺の横にいた。


 本当にコイツはいいタイミングで、雰囲気をぶち壊しに来る野郎だ。

 オールマイティなくせに、空気を読む能力だけは持ち合わせていねえ。

 というか、性格がオールマイウェイなんだよなぁ。


 通りの先にギルドが見えてきた時、閉門とは別に6時を告げる鐘が鳴った。

 そこへ角の通りから馬丁ならぬトカゲ引きが、ロックポーターをそれぞれ3頭引いて現れた。

 その1頭には、あの領主の使いが乗っていた駕籠と同じモノが載っている。

 3頭はちょうどギルドの玄関前で止まった。


 すると扉が内側に大きく開かれ、さっきの兵士2人と、白いローブに深いフードで顔を隠した小柄な人物が出てきた。

 その後に、かのニコルス氏の姿も。


 白いローブの人物を駕籠に乗せ、自分達も大トカゲの背に乗ると、兵士達は頭を下げて見送る主任を振り返らずに白い雪道を俺達とは反対方向に去っていった。


 ニコルス氏は見送り終わると、扉横の守衛に何か言葉をかけ、再び中に入ろうとした。

 その姿が一瞬止まり、ハッとこちらに振り向く。


 その顔は口を段々と大きく開けて、さも信じられないといった様だった。

「ニコォ! 帰って来たぜぇ」

 真っ先にオッサンが走りだした。

 後から他の男たちも小走りに続く。


 その後ろについて行こうとしたゾルフに、奴が声をかけた。

 ゾルフがちょっと不安げに振り返る。


「ゾルフ、お前は結構いい戦闘センスを持ってた。

 もし無事に出てきたら、またコイツの特訓用の相手でもするか?

 もちろんコイツには魔法を使わせないハンディをつけさせる」

 と、俺に向かって手をヒラヒラさせた。

 またコイツはとんでもねえことを、ツルっと言いやがる。


 ゾルフが何と返答していいのか、困ったように口をただ開けていると

「なあに、裁判になったらお前らの証人として、有利な証言をしてやるよ。

 コイツがな」

 俺の頭をポンとはたいた。


 ああ、その手があったか!

 こちらの裁判では証言内容よりも、誰が言ったかということが重要視される。

(地球でもあるかもしれないが)

 それなら最近ただの一介のハンターから脱却し始めた俺の証言は、ある程度効果はあるはず。

 それにーー


「もちろん、喜んでするよ! こいつも重要参考人だから、必ず証言台に立たせるから」

 俺は奴の腕を掴んで言った。

「オレは見世物にはなりたくねえから、声だけでいいなら出てやるよ」

 奴は自分で言ったくせに面倒臭そうに眉をしかめた。

 だが、やらないとは言わなかった。


「有難てぇ。無事に戻れたら、精一杯務めさせてもらうぜ」

 ゾルフが力強く俺の手を握った。

 トカゲになって更に握力が鍛えられた気がする。

 魔法を使わずに果たして勝てるだろうか。

 

「じゃあ、またな」

 片手を上げるとそのまま、ニコルス氏に中に招き入れられる皆の元へ駆けていった。


「なんとか……なんとかなるよな、きっと」

 俺は閉まる扉を見ながら呟いた。

 まだ少し胸の奥が詰まった感じがしていた。


「まあ、なるようになるだろうな」

 奴がコートのポケットに手を突っ込みながら、肩を軽くすくめた。

「少なくとも処刑はされねえだろから」


「……それにしてもなんでオッサン達だけ、こんな目に遭わせたんだ?

 これなら下手に処刑されるより、キツイ罰だったんじゃないのか。

 主犯の領主たちは結局は早々と死んでしまったのに……。

 ーーもしかしてそうすることで、取り殺されることを回避させたのか?」


 俺がそう訊くと、奴はフンと鼻を鳴らして考えすぎだと言った。

アイツ(領主達)らじゃ、1日も持たねえし、()()()()()()()()

 地獄で十分だ」


 それから路地の方に向きを変えると、不穏な事を言った。 

「さて、じゃあひとまず帰るか。()()()()()()()()()()()だろうし」

「は? 明日も何も、俺はしばらく仕事はしないぞ。休みを取るってギルドにも言ってあるし」


「何言ってんだ。

 あのミスリル並みの仕事を請け負った()()()()()って言っちまっただろ?

 嘘は良くないぞ」

 奴が意味ありげに片眉を上げた。 


「は? あんただって俺の最近の依頼内容は全部知ってるだろ。

 俺の最高依頼料はーー」

「○○○万エルだ。今の相場だと」

「……は、あぁっ……?!」


 ちょっと一瞬ナニ言われてるのか、わからなかった。

 だが、すぐにそれがミスリルの事だと察した。

「なんだと、いくらミスリルでもあれくらいでそこまでするかよ。

 大体俺が価値を知らないとでも思っているのか」

 

 ここ1年で俺も色々と、こちらの世界のことを自分から学ぶようになった。

 いつまでも何も知らない新参者ではいられないからだ。

 だから貴石の主な発掘地や、金属の大まかな相場なども一応知識として調べていた。

 

 急いでいたのでインゴットの解析こそしなかったが、重さぐらいなら分かる。

 奴が言った金額は、俺が簡単に暗算して出した額の2倍以上だった。


「今の相場と言っただろ」

 奴が人差し指を振りながら言う。

「ミスリルは金よりも変動が激しいんだ。貴族どもが資産としてやたらと売り買いするからな。

 今日の相場は、お前が商業ギルドの情報紙で見た時の倍以上になってるぞ」

「んな、なんだと? 今そんなに上がってたのかよ?!」


 うっかりしてた。

 確かに宝石よりも貴重な金属。金持ち連中の間では、株式のようにトレーディングアイテムになっているのは知っていた。


 だが、俺は別にトレーダーじゃないし、そこまで細かく気にしてなかった。

 第一それがどうしたって言うんだよ。

 価値が上がっていたなら、尚更ラッキーじゃないか。


「まだ不完全とはいえ仮にも(あるじ)の子が、カッコつけるために嘘を吐くのはマズイだろうよ」

 俺の目を覗き込むように見据えてきた。

「そ、そんなの屁理屈だ! 

 俺は本当の金額を知らなかったわけだし、別にカッコつけたいわけで言っ……」

 言っちゃってたか な ……?


「せめて明日中に正式に受託しとけば、まあギリ嘘にはならねえだろう。

 とりあえず既成事実は作れる」

 ニーッと、奴が悪魔の笑みを見せる。


 クソッ! なんだかんだと、しがらみに縛られている俺。

 神様(父さん)の威信を損なわせるような真似はしたくない。

 そういうところを気にするのが俺の弱点だ。

 奴はそれをよく知っている。

 自分はしょっちゅう誤魔化してるくせに。


「なあに、まず手続きだけしとけばいいんだよ。

 明日に片付けろとは言ってないぜ」

 ニヤニヤしながら手をヒラヒラさせた。

「なろぉ~、そんな大金の依頼料の仕事、絶対に緊急で大仕事に決まってるじゃねえかよ。

 こちらでせめて冬休みくらいねえのかよ」


「あ~、大きな仕事なら、王都まで行かなくても確かギーレンにも溜まってるはずだぞ」

 奴がワザとらしく上を見ながら言った。

 冬休みのくだりは無視かよ。


「そういえば受付の赤毛の女が、依頼者にせっつかれて困ってたなあ」

 その言葉につい反応してしまった。


「……彼女、その、リリエラが困ってるのか?」

「あの女が手続きしたからな。依頼主の奴がまだなのかって、毎日使いを出して文句を言いに来るようだぞ」


「……それはストレスだな。早く解消してやらないと」

「ふふん、決まりだな。

 じゃあ明日はギルドが開くと同時に行くかするか」

 楽しそうにポンポンと俺の背中を叩いた。 


 ああ……、また奴の掌上で転がされる感が拭えない。

 が、これは人助けなんだ。

 そう、それにこれは決して浮気なんかじゃない。

 知り合いのお嬢さんをストレスから助けてやりたいだけだ。彼女の顔を見たいわけじゃない。

 

 明日はまずギーレンに行って依頼を受けてからーーどんな厄介な依頼なのか怖いが、俺に選択権はいつも通りないようだーーまたこちらにトンボ返りだ。

 ニコルス氏とも今後の事を話し合いたいしな。


 止んだと思った雪がまた降り始めてきた。

 その白い結晶は、オッサンたちの足跡を掻き消すかのように瞬く間に本降りになってきた。


 けれどオッサン達はきっとこの冬も乗り越えて、来年春を迎えられることだろう。俺はそう信じたい。


 俺の冬も奴のおかげでまた厳しくなりそうだが、それでも奴と一緒だとギリギリ乗り越えられてしまうんだろうなあ。


 それが良いのか悪いのか、自分でもわからないため息を一つ吐いて、俺は奴が消えた路地に入って行った。


ここまでお読み頂き有難うございました。

グダグダと当初より長く長~く伸びてしまった『消えた村』エピソード。

当初はもう少しホラー編にするはずが、どんどん曲がっていってしまって……(;´・ω・)

本当は不気味な魔物としてマンティコアとか出すつもりだったのに、どうしてこうなった?


うう……、もう始めから書き直したい衝動に駆られるばかりです。

まあそれはいつか出来たら、アナザーストーリーとして出すかもしれません。


さて、やっと一区切りつきましたので、次回までしばらくお休みさせて頂きたいと思います。

最後のエピソードはもう少し書き溜めて、あまり不定期にならずに発表したいので。


大体2,3か月をめどに、10月あたりに再開するつもりです。

もしかすると間に閑話を入れるか、我慢できなくて途中で発表しちゃうかもしれませんが(笑;)

その他、たまに活動報告に顔を出すかもしれません。


とにかく完結はさせますので、どうか最後までお付き合い頂きたく

よろしくお願いいたします(● ᴗ ᴗ)⁾⁾

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