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 第257話 『消えた村タムラム その顛末 (その3)』

ああぁ……伸びる伸びる……(;´Д`)


 俺はジャールの市壁より50メートルほど手前の野原に着地した。

 このくらい離れていればおそらく大丈夫だろうとは思うが、先程の警吏のように夜間の番人には夜目の利く者がほとんどだ。

 市壁の上から見られないとも限らない。すぐに疎らに生えた樹の陰に隠れた。

 そこでカバンを解錠した。

  

「へ……?」

 取り出した黒い手提げ金庫を開けると、中にはゴロゴロと灰色の石が詰まっていた。


『なっ、そんな馬鹿なっ!』

 オッサントカゲが驚いて、もう1つの金庫の上に飛び乗った。

 そちらも慌てて開けてみたが、銀色の物は1つも無く、同じく灰白色の大小の石が入っているだけだった。


 念のため鉱石か解析してみるが、やはりただの石だ。それもあの村のまわりの岩山の。


『何でだ!? 仕舞った時には確かにミスリルだったはずなのに……』

 ゾルフも仕切りに頭を振る。


 それは……もしかして、誰かがすり替えたとか?

 つい部外者の俺としては、そんな疑いがよぎる。


「当たり前だ。悪事で得た金が身につくわけねえだろ」

 その声に、皆が同時に奴の方に振り返った。

 奴は腕を組みながら、面倒くさそうに樹に寄りかかっていた。

 枝の間から月の青白い光が奴を照らし、まるで冥界から来た魔物のようにその姿を浮かび上がらせる。


「考えてもみろよ。食糧が泥に変ってたんだぞ。ミスリルだって無事な訳ねえだろが。

 大体これだけ森の精霊に恨まれたのに、毒蛇に変ってなかっただけでも有難いと思え」

 鬼の形相で吐き捨てるように言った。

 それを聞いたトカゲ達は、あんぐりと開いた口をただパクパクと動かすしかなかった。


 すり替えたのは、あんたかよっ!!

『(おおいっ! これあんたの仕業だな! 何してくれちゃってんだよっ!)』

 俺はテレパシーで即座に文句を送りつけた。


『(コレは妖精達をコケにして得たブツなんだぞ。そんな物をむざむざと人間に渡すなんざ出来るか。

 そもそも『地』の奴らが許さねえよ。だから山に戻しておいた)』

 けろりと容赦ない答えが返って来る。


『(なっ……。それじゃ何のために持って来たんだか……)』

 俺、とうとう立派に盗みまで働いちゃったんだぞ。無駄働きどころか、前科が付くかもしれないのに。


『(そっくり領主に渡すよりマシだろ。それにいくらか抜いたとして、どうやって換金するつもりだったんだよ?

 金に出来なけりゃあ、ミスリルもただの鉱石に過ぎねえだろ)』

 

『(それは……。取り敢えず後で考えるつもりだったから……)』

 悔しいが俺みたいな一介のハンターが、ホイホイと右から左に動かす貴金属の量じゃなかった。絶対に足がつく。

 奴は絶対手を貸してくれないだろうし……。

 

『……そうか、やっぱり悪い事は出来ねえもんだな……』

 ボソッとオッサントカゲが呟いた。

『元はと言えば鉱山で喰ってたのに、ノッカーを騙して使ってたのがいけねえんだ。

 これも天罰だな。

 今までの苦労が台無しどころか人生詰んじまったが、蛇が飛び出して来なかっただけでもマシってもんか……』


「そうだ。意外と潔いじゃねえか」

 奴が片眉を上げた。


『……確かに。ミスリルのままギルドに託したら、これだけ発掘したのになんで上に報告しないって話になっちまう。

 そうしたら不正がバレることになるだろうしなあ……』

 ゾルフも無い肩を落とした。


 そうか、ミスリルのままだったら、(かえ)って面倒なことになってたかも知れないのか。

 もしかして奴はそこまで考えて? それともただの偶然?


 宝と思っていたらゴミやお化けが出て来る、昔話の強欲者に対するどストレートな鉄槌は逸話通りだが、これじゃ皆への一時金が回せない。

 せめて価値を落とすなら、銀止まりにしてくれれば良かったのに……。


 そうだ、さっき俺がオッサンから貰ったミスリルは?

 収納から出すと、これだけは元のままだった。


「それは迷惑料だからな。お前が貰うのは当然だな」

「じゃあ俺のもんなんだから、俺がどう使おうと勝手だよな?」

 すると奴が急に不機嫌顔になった。


 スマホのように薄く小さなインゴット。

 これぐらいなら、換金してもなんとか怪しまれないだろうか。

 家や財産を失った人に、補助金にもならないかもしれないが無いよりマシだ。


「せめてこれを皆に――」


 急に俺の手の中で、そのクリスタルな光沢が艶を失った。みるみるうちにザラザラの手触りをした灰色に変化する。

 俺のミスリルまで石灰岩に変えやがった!


「てめぇーっ! 何てことしやがんだよぉっ!!」

 俺は飛び上がると、奴の胸倉を掴んだ。

 もちろん奴は全く怯むことなく、逆に睨みつけてきた。

 どだい俺の方が見上げる形になってしまうから、あまり恰好もつかない。

 ただいきなりの展開に、オッサン達が訳も分からず目を白黒させた。


「それはあくまでお前の迷惑料だと言っただろ」

「なんだとぉ、俺の物なのに自由に使わせねえ気かよ。この人でなしっ!」

「お前の分だけは別に等価交換しておいてやるよ。ただしそれをコイツらに使うのだけは禁止だ」

「精霊に肩入れするのはわかるが、人に冷たすぎるんだよ。 

 これじゃ見た目のまんま悪魔の所業じゃねえかよ!」


「誰が見たまんまだっ! バカ野郎っ!!」

 奴がアイアンクローを仕掛けて来る寸前、後ろに飛び退りながら転移。

 別の木陰に出現しながら全身を強化し、頭を掴まれないように手で庇う。


 が、次の瞬間、ドカッと背中を強く蹴とばされて、俺は地面に突っ込むようにすっ倒れた。

「わかった。お前がそう言うならオレももう構わん。好きにしろ」

 くそぉ~、今度は手じゃなくて足を出しやがったな。


 本当は()()手だったようだが、どのみち突き飛ばしている事には違いない。

 俺がやられないように反応するのが、皮肉なことに訓練の一環になってしまっていた。

 諦めるとやられっぱなしだし、抵抗すると余計にやられる。

 もうある種のDVかと思うのだが、俺と奴がこうしてこの先幾多の攻防を繰り広げることになるのはまた別の話だ。


 とにかくそのまま奴は姿を消した。

 代わりにドサッと、草むらに白い塊りが現れた。

 シーツに包まれた人型のもの。


 あの野郎っ! ゴディス老人の遺体まで放棄していきやがった。

 ……まあ、始めからあいつが持っている義理はないのだが。


『おい、おい、どうしたんだ? いきなり仲間割れか』

 オッサン達が慌てて草の上を走って来た。

『あんまり騒ぐと見つかるぜ』

 別のトカゲ達が壁の方を心配そうに見上げる。


「すまん。なにいつもの事だよ。あいつは元々気分屋なんだ」

 そう言いながら、俺は収納する前にそっとシーツをめくってみた。


 老人の顔は復元されていた。頭の傷も血糊1つ無くなって綺麗になっている。

 まるで眠っているような穏やかな姿だが、その顔は月明かりのせいもあって青白い。

 両手を組んだ胸の下には、奥さんのポートレートと息子の手紙を大事そうに抱えていた。


『爺さん……』

 老人の顔のそばにやって来た、赤と焦げ茶色のトカゲがふるふると体を震わせた。

『……す、ま ねぇ……。取返しのつかないことをしちまったよ……ほんとにすまねえ……」

 セピア色の大きな目から、うるうると涙を流れ落とす。

 俺はその様子に、こいつ(ゾルフ)も許せるかもと思った。


「それよりどうしよう。頑張ってカバンを盗んだ意味が無くなったし……」

 俺は体から土と草を払いながら言った。

 色々とアテにしていたものや計画が狂ってしまった。

 いや、行き当たりばったりで、まともな計画すら立っていなかったのだが。


 するとオッサンが俺の靴先を、前脚でぺちぺち叩きながら

「いや、意味はあるぜ。

 あの野(領主)郎の私腹を肥やすのだけは防げたしな。

 それと残ってる裏帳簿を何とかしねえと。

 ミスリルが無くなっても、あれが人の目に触れちゃあミスリルの存在がバレちまうからなあ」


 そうか。あのカバンを用意した時、まだオッサン達は半分傀儡状態だった。

 だから領主のための物を揃えてたんだな。


 カバンのところに戻るとオッサンの指図の元、書類や帳簿を仕分けした。

 そうしてミスリルを発掘した記録を残した帳簿、その件に関しての契約書などを灰にした。

 逆に村人の人名簿や採掘権利書、それと業務日誌などは残す事にした。

 

 ミスリルの件を書いていないとはいえ、日誌は残すべきではないのではと思ったが、オッサンには村の思い出として捨てがたかったのかもしれない。

 これは俺が預かる事にした。


 町の門扉は完全に閉まっていた。

 ただ扉前の左右には以前はなかった三本足の篝籠(かかりびかご)が据え置かれ、赤々とした松明が門を明るく照らしている。

 タムラム村からの帰還者を待っている証しだ。

 またこの火には、無事に町まで導かれるよう願掛けの意味もあるらしい。


 今なら大扉横の小口をノックすれば、中に入れて貰えるかもしれない。

 だが続いてやって来るだろう、警吏達にこのタイミングで入った者がいると知られるのは避けたかった。

 それに皆より早く、まずニコルス氏に会わなくて。


 俺は門近くの乗合い馬車の厩舎裏に、こっそりと転移した。

 もはや最初の頃、ヴァリアスの奴に文句を言っていた不法侵入の手口を、俺も真似することになっていた。


 街はまだ7時前後とあってか、街灯の点いた通りをのんびりと歩く人々の姿がチラホラとあった。

 家々の窓の隙間や酒場から、明かりや談笑する和やかな声が洩れ聞こえて来る。

 森を挟んでいるとはいえ近隣の村が全焼したら、まず何事かと落ち着かないと思うのだが、皆知らないのだろうか。

 

 だがギルドにやって来ると、さすがに緊張のムードが漂っていた。

 

 受付前のホールには待機しているのか、屈強そうなパーティたちが何組か神妙な面持ちで長椅子や床に車座になって座っていた。

 喋る声もボソボソと小さく低めで、普段の雑多な役所の賑わいは影を潜めていた。

 その中を時折、職員の腕章をつけた者が慌ただしく通り過ぎる。


 俺が中に入るなり全員がこちらに顔を向けてきたが、すぐに興味を無くしたように元に戻った。

 所詮俺ごときじゃ気にならないようだ。

 

「ぉおっ、ソーヤさんっ!」

 そんな静寂を破って、横の通路からニコルス氏が駆け寄って来た。

 おかげで再びみんなの視線が集中する。


「心配してましたよ! 無事だったんですね。それで一体何が起こったんですか?!」

 もう何から訊いて良いのやらと言った感じでまくし立てる主任のおかげで、まわりも騒めき出した。

 立ち上がってわざわざこちらに近づいて来る者もいるし、明らかにみんなの好奇心を煽ってしまった。


 その中で誰かが

「……ソーヤ? もしかして最近売り出し中の、あの異国(ここでは違う大陸を指す)の妖術使いの奴のことか?」

「それって、バックにSSがついているとかいう……」

 などと言う言葉を漏らしてくれたせいで、また違うどよめきが起こった。


 なんだよ、妖術使いって。魔法なんか、みんな妖術みたいなもんじゃないかよ。

 バックにって、ヤクザのケツ持ちじゃねえよ。本当はもっとヤバいんだぞ。

 売り出し中って……なんだか急激に恥ずかしくなってきた。


「ニコルスさん、ここじゃ話せないので――」

「ああ、これは失礼しました。ではこちらに」

 どうぞと例の応接室の鍵を開けた。


「まず喉を潤すモ(ドリンク)ノが先だろ。話はそれからだ」

 目の前のソファーに奴がふんぞり返っていた。

「えっ、ええっ!? いつの間に?!」

 ニコルス氏が素っ頓狂な声を出した。


「あんた、もう関わらないはずじゃなかったのかよ」

 主任(ニコルス)が慌てて出て行った後、俺はソファーに離れて座りながら文句を言ってやった。

「ふん、どこにいようとオレの勝手だろ」

 いけしゃあしゃあと、奴がそっぽを向いた。


 瓶ではなく小樽(約30L)を載せたワゴンを、主任自らガラガラと押しながら戻って来た。

 ドアが閉まる前に、応接室の外には警備員らしき男が2人、こちらに背を向けて立っているのが見えた。


「遅くなりましてすみません」

 ワゴンには酒以外に、辛そうなサラミとチーズ、味付けした木の実などが大皿に盛られている。

「こちらこそ、お気を使わせてすみません」 

 俺も立ち上がって、定例のお辞儀鳥になる。

 そうして奴もお決まりの手酌ならぬ、勝手にグラスにブランデーを注ぎ始めた。


 ポケットから顔を出しているトカゲ達が、物欲しそうに奴のグラスを眺める。

 流石にここでトカゲに酒はダメだろう。

 とはいえ、気がつくと俺も喉がカラカラだった。


「すみません。良かったら彼らにもあげていいですか?」

 主任が紅茶を注いでいるポットを見て、俺はスープ皿を取り出していた。


 テーブルの上に置かれた皿に6匹のトカゲたちが、ソロソロと皿の中に舌を入れる。

『『 アチッ !!』』

 キュッキュッと、何匹かが啼いた。


 元から猫舌なのか、それとももう人間と同じ温度じゃダメなのか。

 俺が(ぬる)いくらいに冷ましてやって、ようやくオッサン達は飲むことが出来たようだ。

 みんなでピチャピチャと音を立てながら、ゴクゴク飲んでいる。

 やはり皆も喉が乾いてたんだな。


 ついでに大皿からチーズをとって、トカゲ達に渡してやった。

 元が人間のせいか、前脚で器用に持ってバクバクと食べ始めた。

 美味いのか、大きな目を横一文字に瞑って、頬一杯に頬張っているレオパードゲッコー似の奴もいる。 

 

 俺はモフモフ派なのだが、不覚にもちょっとだけトカゲも可愛いなと思ってしまった。

 中身はオッサン連中なのに。


 そんなトカゲ達の様子と俺を主任は交互に見ていたが、やがて自分の首を指すと言った。

「もうお気づきかと思いますが、わたしの()()()()()()()()


 俺は思わず隣の奴を見た。

「オレじゃないぞ」

 奴が素っ気なく答える。


 主任も自分のカップからお茶を啜ると、少し興奮を抑えた様子で話し出した。

「……ええ、原因は分かっております。先程、サイラス卿が()()()()()()()()()()のです」 

「え……」


『『『 なんだってえぇぇ?!』』』

 皿に顔を突っ込んでいたトカゲ達が叫びながら顔を上げた。

 一瞬主任はトカゲ達に目をやったが、またこちらに視線を戻した。

 やはり彼らの声は、他の人間にはトカゲの鳴き声としか聞こえないみたいだ。


 ニコルス氏の話によるとサイラス城代は、地下室で黒焦げの遺体で発見されたそうだ。

 そこはこれまで色々な呪法や式が行われてきた、魔法陣のある儀式の部屋。

 もしやかの魔導士が、何か大きな呪法を行って失敗したのではないかという見方が出たらしいのだが。


「まだ未確認ではありますが、直前に不吉な赤い色の大きな鳥が城の上空を飛んでいたという目撃情報があります。

 それはまるで炎の化身、ファイヤー・バードのようだったとか」

「……」

 俺もトカゲ達と顔を見合わせていた。 


 どうやらギルドのこの異様な緊張感は村のせいだけでなく、領主宅での変事が主な原因のようだ。

 同じ頃に同時に勃発した異変。

 流石に近場の町としては、有事のためにこうしてハンターを収集したという訳か。


 ただまだ詳細もわからないうちに無闇に騒ぎ立てるのは不味いので、関係者には箝口令(かんこうれい)が敷かれているらしい。

 それで町の人達は何も知らずに過ごしているんだ。 


 とにかく話を聞くと、城代の変死体が発見されたのは村に警吏達が到着した後のことのようだ。

 あの時、村を焼き尽くした炎は消えていったんじゃなくて、今度は仇敵の魔導士を襲ったんだ。

 誓約をかけた張本人がいなくなったから、ゾルフやニコルス氏に憑いていた呪い(誓約)も消滅した。

 ヴァリアスが言っていた『別の作用で消えた』というのはこの事だったんだ。


「何か思い当たることが?」

 考え込む俺に主任が問いかけてきた。

 

 すぐに返事をしかねていると、オッサンが俺の肩に登って来て啼いた。

『奴がいなくなったんだ。こりゃあ好都合じゃねえか』

 アゴヒゲトカゲ似のオッサンが上下に頭を動かす。

『とにかく打合せ通りに頼むぜ。おれを信じろよ』

 言葉はわからないはずだが、しきりに啼くオッサントカゲをやや不思議そうに主任が見やった。

 

 オッサンの話によると、ニコルス氏とイアンのオッサンは昔、ハンターとしてパーティを組んでいたことがあるらしい。

 その後こうしてそれぞれの道に別れたが、苦楽どころか窮地を一緒に助け合った友として、今でも旧知の仲なのだそうだ。


 だからオッサンも彼に信頼を寄せるところがあるのだろうが、これから俺が話すことをどこまで信じてくれるのやら。

 責任が重いぜ。


 そんな深刻な境地で挑もうとする俺の隣で、ボリボリとナッツを殻付きのまま喰っている奴がいる。

 うるせえBGMだな。相変わらずTPOの欠片もない。


「やはりこれは、村の件と繋がりがあるという事ですね」

 そんな奴を気にしてる場合じゃないとばかりに、主任が無視して話を続けてきた。


「あっ、そうだ。ちょっと待ってください。その前に聞きたいことが」

 俺はふと思い出して話題を変えた。

 そっちの話も重要だが、もう1つ気掛かりな事があったんだ。


「私たちの前に依頼を受けていたハンター達が3人戻って来ませんでしたか?

 シザクとミケー、ダッチという人達なんですけど」

 ピクっと主任の眉が動く。


「ええ、ソーヤさんに助けられたとか。

 驚くべき話でしたが、少なくとも彼らが本当に体験した事に間違いないのでしょう。

 彼らの言葉に嘘はありませんでしたから」


 ズイッと主任が身を前に乗り出してきた。

「ですからぜひソーヤさん達のお話も伺いたいのです」


「……あの、彼らは無事なんですか?」

 その嘘はないという確信は、どこから出てきたのだろう。

 シザクとミケーには誓約が付いていたが、ダッチにはない。

 どうやって嘘判定をしたんだ?

 それに中途半端だが、領主の秘密に繋がることを嗅ぎつけていた。

 聞き出した後はどうしたのだろう。


 依頼したのだからある程度はバレる前提だろうが、みすみすそのまま帰したのだろうか。

 城の設計図を描いた建築家が、秘密保存のために城の完成直後殺されることは珍しくないだろう。

 そんな風に利用するだけされて始末されることがまかり通る世界。


 俺にはSSというバックがついているが、彼らのような一介のハンターは捨て駒にされてもおかしくないんじゃないのか。


 すると主任は

「ご安心ください。ギルドは審問機関ではありませんから。

 ましてや契約期間が過ぎてしまったとはいえ、彼らはこうして重要な情報を持って戻ってくれました。

 そんな功労者を無下にするような真似はいたしませんよ。

 今は別室で休んで貰っております」と頬を緩めた。


「ああそうですか。それなら良かった」

 俺はそのニコルス氏の顔を見て、すんなりと言葉通りに受け取った。

 だから隣で奴が、底意地悪く口元を上げたのに気がつかなかった。 


ここまでお読み頂き有難うございます。

うう、次回こそ終わりにしたい……です。

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