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 第256話 『消えた村タムラム その顛末 (その2)』

 ううっ、やはりまた延びてしまいました(;´Д`A ```

 もはや定番か……。


「「「「「術ぅ……!?」」」」」

 俺とトカゲたちは異口同音に返した。


「ミスリル銀が出たと子爵の奴に報告した時、傍に例の魔導士がいたんじゃねえのか?

 ソイツがお前たちに、子爵に有利に働くよう傀儡の(洗脳)術でもかけてたんだろ。

 おそらく魔法陣にカーペットでも敷いて、見えないようにしてな」


「アッ! そう言えばっ」

 グリーンに青の水玉模様をしたトカゲが、俺の背中で声を上げた。

 こいつはノッカーの話をした時に、空惚(そらとぼ)けた獣人だ。

「通された部屋に、確かに敷物が敷いてあったぜ」


「そうだ、そうだった!」

 今度はゾルフが手の中から飛び出すと、俺の左肩に駆け上がってきた。

「あん時、そこに座るように言われたんだ。

 普通ならおれ達みたいな下々の者に、そんな敷物の上になんか座らせないのによお」 


 彼らの話によると、坑内からミスリル銀が発見され、あらためてオッサン達は領主に呼ばれた。

 始め通された広い謁見の場にて、軽く挨拶と労いの言葉をかけられた後、ここからは重要な話になるという事で奥の間に通された。


 そこは窓のない部屋であり、壁の手前にテーブルと椅子が1セットあった。そうしてその手前にテーブルよりも大きな敷物が敷いてあった。

 古びているとはいえ硬い床に直接跪かせないのは、やはり今回のことでおれ達に謝意を示しているのだと、彼らは思っていたそうだ。


 そこで領主に再び忠誠を促され、誓った瞬間、罠が発動したのだろう。

 このような背任行為に何故畏れを抱かなかったのか不思議だったが、そう考えれば色々な事が納得出来た。


「その魔導士っていうのは、領主のお抱えなのかい?」

 そんな国賊のマネに加担するのだから、その時だけ雇ったとかいう関係じゃないだろう。


「サイラス城代、ザザビック子爵の父方の叔父に当たる人だよ」

 水玉模様のトカゲが答えた。

「えっ、城代の人が魔導士なのか?!」

 城代って、城主の代理人を務めるくらい地位が高い人だよな。摂政とか宰相とか、実質的な政務をこなしたりする?


 それが魔導士兼任なのかよ。

 ちょっと違うけどアーサー王の助言役、魔法使いのマーリンみたいだな。

 さすがは剣と魔法の世界と思ったが、地球でも政治家がお抱え占い師を持つというから、特に珍しいことではないのかもしれない。


「実質の領主と言われている野郎だよ。領主の子爵よりも贅沢にしてるっつう、厭らしい噂があるんだ」

 暗示が解けたからかそれとも怒りのせいか、急に領主たちに対してオッサンの口調がぞんざいになってきた。

「陰から甥っ子を操っているとも囁かれていたんだが、まさかおれ達まで操られるとはなあ……」


「じゃあ今回の件も、その城代が仕組んだ可能性があるんじゃ?」

 その噂が本当なら、その子爵も実は洗脳されているのか。それとも親類だからこそ共謀したのか。

 どのみちその城代がキーマンだな。

 

「くそぉ……むざむざ野郎の懐の為に罪を犯してたなんて、業腹もいいとこだぜ……」

 オッサントカゲが悔しそうに、顎下の鱗をボリボリと前脚で引っ掻いた。

 そうだった。今はそんな答え合わせしてるより、先にやるべきことがあった。


 俺は右手の護符(アミュレット)を使い、また魔力をグルグルと体内に回すと、ドンの持っているカバンの内部を探った。


 だが、カバンの防御は思った以上に高く、内部は濃霧がかかったようにしか視えない。

 もっとパワーを上げて、いや、それならいっそのことカバンの中身を丸ごと取り出した方が早い。

 ブーストでパワーアップさせた転移でなんとか――


 ――ダメだ……。

 初めて転移を練習した時のように、ビクともしない。というか、霧どころか分厚く硬い粘土の塊りみたいに、まず触手()が入らない。

 これじゃ掴むことも出来ない。

 もちろんカバン自体を転移させることも不可能だった。


 ドンごと転移させればとか、ちょっと思ったりしたが、ヘタするとドンだけ跳ばしてカバンだけ残すことになりそうだった。

 少しの間、色々と頑張ってみたが疲れるばかりだ。


 そうこうしているうちに馬車が動き出した。女と足腰の弱い老人や怪我人を乗せ終えたのだ。

 それに伴って、残った男達もゾロゾロと動き出す。

 こうしちゃいられない。


「ヴァリアス、なんとかあのカバンの中身だけ取れないかな?」

 ダメ元で言ってみた。

「お前がなんとかしろ」

 気持ちいいほどハッキリと突き放された。そうして追い打ちも忘れない。


「言っとくが、オレはあくまでウザイ奴らの相手をしたくないから、傍にいるお前たちも一緒に隠蔽してやってるだけだ。

 もしこの場を離れるなら、隠蔽の効力は無くなるからな」


 分かっちゃいるけど、やっぱムカつくんだよなあ。

 いつかマジでぶっ飛ばしたい。

 まあそんな事が出来るようになれば、奴に頼らなくてもいいのだが。


 しかしどうしよう。

 もしかして村長だったら、2人も安心して渡してくれるだろうか? と思ったが、当然アッサリと奴に却下された。

「ダメだ。一度かけた制裁(呪い)をいちいち外せるわけないだろ」


 うぅ、童話みたいに、夜だけ人の姿に戻れるとかいう設定は無しかよ。

 だけど俺が行っても信用されないだろうしなあ……。


 ただ一つ救いは、必要な認証がトカゲになったオッサンでも出来るという事。

 この認証は指紋や顔、音声でもなく、オーラによる判別だそうだ。

 オーラはそのモノの本質の気なので、姿が変わってもそう変わるものではないらしい。

 となると、カバンと鍵さえ手に入れれば、ミスリルは取り出せるんだ。 


 ……むうぅ、しょうがない、いつまでも綺麗ごとばかりじゃすまないか……。


 幸か不幸か、ドンとプッサンは最後尾だった。けれどそのしんがりには、警吏が2人ついている。

 でも、やるしかねえ。

 俺は自力でフルの隠蔽をかけると、道と平行に樹々の間を移動した。


 すぐに出て行かなかったのは、列に沿って歩く警吏たちが、探知の触手を刑務所のサーチライトのように動かしているからだった。

 外側に半円を描いて固定している者もいる。

 幸いなことに、2人のまわりは移動式だった。

 自分のとこに黒いライトのような触手が伸びて来た時には、樹の上に逃げてたりしてやり過ごしながらタイミングを計った。


 しばらく行くと、真っ直ぐとはいえ遠くにもなれば道の先もすぼみ、日が完全に隠れて村の辺りはもう見えなくなった。

 地上には完全に闇の(とばり)が落ちたが、空に瞬く銀河と道を行く一団だけは、煌々とした光を掲げて夜の森を渡っていた。


 その時、プッサン達より少し前を歩いていた男達が3人、列からはみ出してきた。

「おい、はみ出すな」

 後ろの警吏が注意する。

「すんません、安心したらなんだかもよおしちまって」

「う~ん、さっきまで大変(てえへん)で、どうにも忘れてたもんでなあ」

 頭を軽く下げながら、3人共いそいそと横の茂みの中へと入って行く。


 実はこれは偶然ではない。

 俺が彼らの体内の『水』を少し動かしたのだ。

 オッサン達に比べて護符は本当にお守り程度だし、とにかく警吏の注意を別に引きたかった。


 すると他にも俺が操作していないのに、おれもおれもと、他にも近くから申し出て来る者達が数人いた。

 みんな先程までの騒ぎで、用を足すのも忘れていたのだろう。そこに警吏たちが来てつい言いそびれていたのだ。


「出発する時に済ましておけよ。……しょうがねえなあ」

 そう言いながらも、しんがりの警吏の1人がその場で立ち止まった。

 もう1人も歩きながら、残った仲間と茂みの方向に注意を向けている。


 その時、プッサンはボーッと前を見ていて、ドンは警吏につられてチラチラと後ろを振り返っていた。


 今だっ!


 俺は姿を消したまま、道に飛び出した。

 ドンのすぐ後ろに来た途端、その姿が消えた。

 カバンだけが2つ、宙に残る。俺が取っ手を掴んでいたからだ。

 

 俺はドンだけを列の先頭に跳ば(転移)していた。

 カバンだけが動かないことを逆利用したのだ。

 鍵にもキーホルダーとして、護符(アミュレット)がついていた。それが地面に落ちてチャリンと音を立てる前に、足元にスライディングしたゾルフが見事にキャッチした。

 伊達にいち早くトカゲに変異していない、見事な瞬発力だった。


 ゾルフがまた上着に駆け上って来ると同時に、俺はすぐに森に駆け込んだ。

 何しろ俺自身は隠蔽で認識障害させているとはいえ、カバンと鍵だけは丸見えなのだ。

 空中を2つのカバンが飛び回るなんて、どう見ても怪し過ぎる光景だ。


 そこへ同時に隊列の先頭のほうで、叫び声がした。みんなが一斉に前を向く。

「えっ?」

 プッサンも隣にドンがいないのに気がついた。立ち止まってまわりをキョロキョロとした。


「おいっ、何かいるぞっ!」

 バレた!

 森に入る瞬間、カバンを見られたらしい。

 本当は転移で一飛びに逃げたかったが、ドンのようにこのカバンごとは無理だった。

 走るしかない。俺は隠蔽を解くと身体強化に力をまわした。


 ミスリル銀は、その頑丈さに反してアルミにように軽いのだが、それを入れている金庫及び紙類、それにカバン自体の重さがあっておそらく1つ20キロは下らないだろう。

 騎士のフル装備は20~40キロくらいあったと言われるが、それを着ながら走ることは出来た。


 だが同じ重量でも、まず全身に上手く分散させているか、腕に提げているかでは全然違う。

 本当に身体能力があって良かった。


 と、すぐに後ろに追って来る気配を感じた。

 振り返らなくても探知で視える。


 背後で闇がざわざわと追いかけて来ていた。

 触手よりも広く、霧よりも粒子が粗く蠢きながら迫って来る。 

 それはまるで無数の黒い虫の大群のようだった。

 ただの闇よりも気持ち悪いし、何よりも怖い。

 

「みんな、しっかり掴まれっ」 

 すでに俺のチュニ(上着)ックの両ポケットには、4匹のトカゲが入っていた。残るオッサンとゾルフは慌てて肩からポケットではなく、上着とセーターの中に滑りこんできた。


 奴らの鍵爪でセーターに穴が開く心配がよぎったが、そんな事も言ってられない。

 俺はブーストをかけて、大きく弧を描きながら闇虫どもを引き離すと、再び道に飛び出した。

 隊列よりずっと後ろに出たつもりだったが、すぐに見つかった。

「そっちに逃げたぞっ!」警吏が叫ぶ。


 もう全力で逃げるコソ泥のまんまなのが情けないのだが、そんな自己嫌悪は今は遠くに放り投げた。

 自分が信じる行動のためには、時として図太くならなければいけないのだ。 


 ドンッ、背中に強い圧がかかり、俺はまさに吹っ飛ぶように更に速度を上げた。

 ジェット噴射。

 気分は人間ターボエンジンだ。


 ほぼ地面スレスレを滑空し、駆ける足は着地というよりバランスの微調整役になる。

 もし樹の根や岩などに足を引っ掛けようものなら、転ぶなどという可愛いモノじゃ済まなくなる。

 だからこれを使うために、障害物のない場所に出たかったのだ。


 ヒュンン――…… 俺の左横を光るブーメランのような三日月型の何かが通り過ぎて行った。

 ついで右のカバンにビシッと当たる衝撃が。


 レーザーか!

『光』を高圧縮して、刃状に撃ち込んできたんだ。


 こちらにレーザーの概念があるとは思ってもみなかったが、エネルギーを圧縮すればするほど強くなるという考えはあるらしいので、深い科学的な知識が無くても偶然作れてしまったのかもしれない。

 そうして彼らも矢や風よりも、光が早いのを知っていた。


 さすがに防御の高いカバンは、表面にかすり傷を作ったぐらいだったが……。 

 俺はますます速度を上げた。

 再び第2、第3のレーザー刃が飛んで来たが、距離が開いたせいで威力は明らかに落ちていった。


 よっしゃあ。このまま距離を稼いで、5秒でいいから時間を作りたい。

 そうすればスカイバットが使える。


 第4弾は何故かポーンと斜めに空高く、流れ星のように空高く飛んで行った。

 なんだ、失敗か? 


 その時俺は村の方に向かって走っていた。

 逃げる際、自然と相手の進行方向には出たくない心理からだったのだが、つい大事な事を見落としていた。


 両側に続く黒い森が、高い岩山に遮られるのが見え始めた時、前方にパッと光が見えた。

 いや、エナジーが視えた。 

 俺が慌てて地面に伏せると同時に、頭上スレスレに()()()()()()()が掠めて行った。


 警吏は探知に引っ掛からないのを忘れていた。まだ村に調査で残っていた者がいたのだ。

 さっきのは不審者がこっちに向かったっていう、警報だったんだ。

 焦っていたとはいえ、ちょっと考えればわかるものを……。


 などと反省している暇もない。

 手応えがないとわかるや、再び電気ネットが吹っ飛んで来た。今度は地面まで一杯に広がっている。


 電気も発射されると光同様に早い。

 反射的についこちらも電撃で打ち消してしまった。

 ――しまった、見つかった。


 刹那、激しいエナジーが膨れ上がっていくのを感じた。半端なエナジー量じゃない。

 飛び起きてまた森に逃げ込もうとした瞬間、目の前に強烈なスパークが広がって――



 ……―― 目の前にはまだ熱を放ち、ドロッと溶けた黒い岩の塊りとなった煉瓦家の残骸があった。

 鼻腔を焼けた土の臭いが刺激する。

 俺は役場の裏庭に転移していた。

 カバンは―― ガチガチに握った両手にしっかり提げている。鍵もちゃんとポケットに残っていた。


 どうやら死に物狂いでリミッターを外したらしい。

 ブーストさせるより、こうした火事場の馬鹿力の方が強いようだが、意図して出来るものじゃないのがネックだ。

 まだ心臓がバクバクしてるが、何はともあれ助かった。


 おっと、靴底が焼けちまう。

 2メートルほど足元の地面を氷を張って冷やす。

 周囲から蒸気が洩れるのも慌てて霧散させた。


 それにしてもさっきの電気量はヤバかった。あの感じの練り方は、少なくとも2人の気が混ざっていた。

 ブーストというか、複数の雷使いが電気を共鳴させて乗法作用で仕掛けてきたのだ。

 チームワークが必要だが、これは足し算になるのではなく、まさしく掛け算となる強力なパワーアップ方法だ。 


 しかしゾルフの時は殺し合いだったから当然だが、こちらの警察は怪しい奴は容赦なく即殺する気なのか。

 さっきの電流は絶対に感電死間違いなかったぞ。

 逆に日本の警察がどれだけ犯人確保に甘いか、あらためて感じいった。 


 けれどこれは向こうからしてみれば当然のことだった。

 何しろここは夜の森。そこに得体の知れない者が現れたのだ。

 向こうからしてみれば、俺が人か魔物か不明だし、何をして来るかもわからない。

 先程の蛇といい、彼らが神経をピリつかせているのは無理もなかった。


「追って来てるのはたった4人だ。転移を使えば片付けるのはそう難しくないぞ」

 姿こそ現わさないが、すぐ傍で生まれつきの反社野郎が声をかけて来る。

「するかよ! それこそ凶悪犯一直線じゃねえかよ」

 こいつの本当の役割は、俺を堕落させる悪魔役なのじゃないか。

 マジでそんな考えが湧いてくる。


 遠くで怒鳴り声がまた聞こえてきた。

 流石に転移で逃げたとは思わないだろうが、モタモタしていられない。


 俺はすぐに収納からスカイバットを引っ張り出した。

 腕と足をハーネスに通し、腰に太いベルトで芯棒と固定する。


 ああ、このカバンどうにかしなくちゃ。

 太いコントロールバーと一緒に持つのは難しい。

 荷物を吊るす事を考えていなかったから、カラビナ(一辺が開閉式の金具)の1つも付けていない。

 ロープぐらい用意しておけば良かった。


 いや、タオルだ、タオルがあるじゃないか。これで代用だ。

 俺は捻じったタオルでグルグルと、コントロールバーの左右にカバンの提げ手を固定した。

 

 首元から顔を出したオッサンとゾルフが、キョロキョロと落ち着かない様子で首を動かす。ポケットから他のトカゲたちもジッと頭を覗かせてきた。

 焦らせないでくれよ。俺だって早く逃げたいんだから。


 突然、首筋を撫でられたような戦慄が頭の中に走った。

 俺の索敵が警報を告げている。

 

 顔を上げると少し離れた上空に、バルーンのような青白い光の玉が幾つもふらふらと飛んでいた。

 それはただの丸型ではなく、後ろにオタマジャクシのように長い尾を引いている。

 ……嫌な例えだが、まるで大きな人魂みたいだった。


 その中心には赤い核があり、それが青い光の中でゆっくり動いている。

 よく視るとそれ自身の中央に更に濃い赤い部分があり、まわりを彩度の違う赤い線が中心に向かって無数に走っていた。


 ―― 眼球だっ! 

 もちろんただの眼じゃなくて、俺の索敵や探知とも違う()()触手なのだろうが、なんとも生々しくて気持ちが悪い。


 と、目ん玉たちが一斉にピタっと空中に静止した。続いてなんと皆が俺の方向に赤い瞳を合わせてきた。

 

 えっ、なんで? 俺の姿はまだ捉えられないはず――。


 次の瞬間、そいつらは宙で無数の光の点に分解すると、勢いよく俺の上に降ってきた。


 ガガガガガァッ!! 

 咄嗟に捻じ曲げた溶けた壁の下に入って助かった。

 なんとかこのシールドは通過してこなかったが、手応えは突然の豪雨というか、ナパーム弾だ。

 こいつは探索だけじゃなく、武器にも早変わりするのかよ。


「一種の感応機雷だ。お前が感づいた気に触発された」

「厄介なっ」

 どうせ言っても無駄だと思うが、知ってるなら教えてくれよ。ジロジロ調べちまったじゃないかよ。

 動揺したトカゲ達が、ポケット内やセーターの上でモゾモゾ動く。


「みんな、これから飛ばすから、本当にしっかり掴まっててくれよ」

 言いながら俺はコウモリの羽根を全開にすると、タオルの上からバーを強く握った。

 同時に羽根に向かってジェット気流を吹かす。


 ドシュッ!!

 遊園地の急昇降アトラクションのように、俺の体は凄い勢いで打ち上げられた。

 秒で50メートルはいった。時速200キロ近く出たか。

 間を置かず、今度は思い切り追い風を押し込む。


 45度に(ひるがえ)り、一気に左斜めに流されるのと入れ替わりに、俺が居た場所には赤い流星群のような火炎弾と波動砲みたいな電撃が撃ち込まれて来た。


 道のすぐ上空を行くのは危険なので、そのまま森の上に逸れたまま滑空する。

 後方には時折、ロケット花火のように炸裂する光や音が響いていたが、それも遠く消えていった。


 黒い森の上を大きく迂回しながら、やっと羽根のはためく音だけになると、急に身震いがしてきた。

 後から飛んだ時の恐怖が湧いて来たのだ。


 自分でやっておいてなんだが、俺はジェットコースター系が苦手なのだ。

 飛行するのはいいが、急降下急上昇だけはなかなか慣れることが出来ない。

 気がつくとバーを握る手も全身もガチガチになっていた。

 トカゲたちも中で硬直している。とにかく無事にくっついてはいるな。


「お前はいつもアドレナリンより、恐怖心ばかり出るんだよなあ。よっぽど防衛本能が強いんだな」

 すぐ傍で奴の少し呆れた声がする。


「五月蠅いよ。これが普通なんだ。あんたみたいに闘争本能だけで出来てるわけじゃないんだからな」

 それとも神様(父さん)がこいつから色を抜いた際に、間違って恐れと道徳心までも取ってしまったんじゃないのか。


「それじゃただの馬鹿なバーサーカーじゃねえかよ。他にも能くらいあるわっ!」

 ブワッと嫌な横風が入る。

 まったく、俺の真の敵は守護神(こいつ)なんじゃないのか?!


 上空には何事もなかったように、月に青く照らされた雲が細くたなびいていく。

 まだ油断は出来ないが、警吏達は俺を見失ったのか、もう追う意味がないと諦めたのか、今のところ追尾して来る気配はない。


 俺の肝っ玉はまだまだ小動物並だが、これもいつか力のように大きくなっていくのだろうか。

 それよりも早く、俺の中の魔石の方が大きくなりつつあるのだが……。


 バーを握り直すと俺は、再び漆黒の樹海の上で速度を上げた。


ここまでお読みいただき有難うございます。

なんとか次回には、なんとか、なんとか終わらせたい……。


そういや関係ない話ですが、人魂と幽霊ってどう違うのでしょうね?

人魂にも顔が視えると聞いたことがあるので、ただの燐の発火じゃない場合もある?

その場合は形が違うだけなのでしょうかね?


ちなみに私は見た事ないし、見たいとも思いませんが、母は子供の頃、見た事があるようです。

雨の日の夜の病院内で二つ、オタマジャクシのような発行体が天井近くをふらふら動いていたそうな。

騒いだらパっと消えたと言ってました。 

ちょうど人が亡くなった時だったとか。

燐が病室内でも自然発火したのか、それとも……なのか? 未だにどっちかわからないですね(^_^;)

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