第254話 『選別と選択』
うう、またこんなに遅くなってしまいました……(-_-;)
ちょっと難産だったなあ……。
やっとヴァリアスも再登場で、クライマックス……かな?
足元に置かれたロウソクのような小さな黄色の光玉が、暗いトンネルの地面を浮かび上がらせている。
そうしてそのずっと奥に、今度は上部から赤いユラユラした明かりが微かに見えていた。
先程まではもちろん無かった明かりだ。
それはあの炎の光に他ならなかった。
「クソッ! とうとう炎が洩れて来たんじゃねえか!」
オッサンが腹立ちまぎれに壁を蹴った。
残っていた男達がそれを聞いて騒ぎ始める。
いや、それは違うんだ。
探知で探った俺にはわかった。
あれは出口だ。
あの光は、外の炎の明かりが洩れて見えているだけなんだ。
向こう側ではちゃんと出口の反対方向に――村に向かって――炎がその赤い波を向けている。だから穴に入って来ている訳ではない。
ただあまりに巨大な炎なので、辺り一面が強烈な赤い光に照らされているだけなのだ。
だがおかしいのは、先程までこんな光は見えなかったことだ。
炎が激しくなったせいばかりじゃない。
距離が縮んでいた。
俺が通った時、実際の距離より短いとはいえ、50メートルくらいはあったはずだ。
だが今や、手前10メートルもないだろう。
トンネルは当初、あちこち緩く曲がっていたが、今やほぼストレートになっている。
そこまで短くなったからだ。だから出口がそこまで見えるようになって来たんだ。
だが、これはどういう事なんだ?
と、その時、1階から獣人2人が飛び込むように入って来ると、大急ぎで地下室の黒いドアを閉めた。
最後まで上で警戒していた奴らだ。
「いよいよヤバいぜっ! 炎が入って来やがった」
それを聞いて俺も探知の触手を上に向けた。
ドアは先程の俺の錠前破壊と、オッサン達がぶち破ったせいで、もうキッチリとは閉まらなくなっていた。
おかげでそのすき間からすんなりと、探知を伸すことが出来た。
最後まで頑張っていた防御シールドがかなり破られていた。炎がしみ出すように役場の四方の壁から洩れ出して来ている。
1階の天井はまだ何ともないが、すでに3階は完全に浸食されており、マグマの層のようだ。
上からの炎がそこまで下がってきているのだ。
もう八方塞がりどころか、天地360度包囲網がそこまで迫って来ている。
オッサンがギリギリと歯ぎしりした。
他の男達も絶望に声を上げる。
頭を抱える奴、へなへなと崩れる奴、茫然とする者、それぞれだ。
そんな様子を見て、階段を降りてきた獣人も牢の前で啞然として立ち止まった。
目の前にみすみす出口を見ながら、焼き殺される。
狂気にも似た復讐という業火の恐ろしさを、あらためて感じた。
しかし何かおかしい。
苦しめたいとしても、こんな妙な二重の罠をかけるだろうか。
わざわざ道を縮めなくても、こうして穴に入れなくなればそれで十分なのに。
俺はどこかに突破口がないか、グルグルと辺りに探知を巡らした。
あーーっ!!
今度はうっかり声を出さないようにした。
気づいてしまった。なんでトンネルが縮んだのか。
炎だ。
地上に炎が近づいて来た位置まで、トンネルが短くなっているんだ!
あの距離は、この役場から炎までの長さだったんだ。
俺が通った時はまだドームまで炎は入って来ていなかった。だから役場からまだ50メートルほど炎は離れていた。
しかしドームは破られ、炎は確実に近づいてきた。
それにつれてトンネルも短くなっていったんだ。
炎が空間自体を焼き尽くすように。
「ど、どうすんだよっ!? イワン!」
まわりで慌てふためいた男どもがオッサンに詰め寄る。
「クソッ! ここまで来てそりゃあないぜっ!」
上から戻ってきた獣人の片方が、毒づきながら穴に向かって拳を振るった。
「オッ?!」
皆が一斉に、男とその壁の穴を見た。
男の手が、その楕円の空間に吸い込まれていた。慌てて引っこ抜くが、再び恐る恐る手を入れる。
獣人の茶色い毛に覆われた素手は、難なく向こう側へと通過した。
「ああ?! また入るようになったのか。だけど今更入ったって……」
オッサンが唸るように呟く。
喜び勇んで頭を突っ込んだ獣人も、すぐに慌てて顔を引っこ抜いた。
「やべえ……。火がこっちにも入って来てやがんのかよ……」
喜びから一転、また悲痛な思いに眉を歪めたが
「お……?」
あらためて顔を突っ込んだ。
「ありゃあ炎が入って来てるんじゃねえ。ただの光だ」
どうやら土の触手で感じ取ったようだ。
良かった。
どうやら俺が言わなくて済むようだ。俺が言ってもどうせ胡散臭がられるだけだからな。
今度こそ男は、身を投げるように穴を潜った。
スタスタと穴道を走り抜けると、奥の明かりの下で一時立ち止まり、そうして上に伸びあがるとそのまま上がって行った。
「なんだとぉ!」
傍にいたオッサンもまた顔を突っ込もうとした。
だが、こちらはまた見えない壁に跳ね返された。
「ああっ?! クソッ、何だってんだっ!!」
オッサンが鼻を抑えながら、苦痛の声を上げる。
え、何だっ? なんであの男は入れてオッサンは入れないんだ??
他の男達ももちろんまた騒ぎ出した。
もう希望と絶望のジェットコースターだ。
「なんでぇ! 獣人だけ入れるのかあ?」
始めに入れなかったドワーフが、再度失敗して毒づいた。
「おれだって入れねえよっ」
上から一緒に降りてきた、もう1人の獣人が叫ぶように返す。さっき上で俺をペテン師呼ばわりしたあの獣人だ。
まわりで茫然としていた男達も潜れるかどうか、我先に壁に突進してきた。
実は先ほど通れないとオッサン達が騒ぎ立てたおかげで、手前にいた者たちは試しもしないで慌てふためいていたのだ。
「やったぜ。通れるっ!」
雄叫びのような喜声を上げて、ベーシス系の男が亜空間の門に飛び込んだ。
「だぁっ! ダメだあっ」
別のベーシスの男が突き指をしたようで、右手を押さえる。
『オ、オレモ 通レルゾォ』
トカゲのゾルフが壁に張り付き、横から穴に顔を突っ込んで叫んだ。
『イワン、済マネエ。先ニ 行ッテ待ッテル』
するするとゾルフも滑るように入ると、素早く穴道を後ろ足で走っていった。
「おぉいっ、ドン、まさかダチを置いていく気じゃないだろうな」
上半身が入ったドワーフのズボンを、入れないベーシスの男が頼むように掴んだ。
「そんな事はしねえよ。さあ、おれがこっちから引っ張ってやっから」
ズボンから手を離させると、ドンと呼ばれたドワーフがこちらに向き直って手を出してきた。
「うっ、イテテテェーッ」
穴の中にダチを入れようとして、ドワーフが両手で思い切りベーシスの腕を引っ張った。おかげで穴の表面で男の手が軋み始めた。
「だっ、ダメだあ! これ以上は折れちまうよ」
とうとうベーシスの男が悲鳴を上げ、ドワーフのドンは手を離した。
「なんで、なんでなんだよ……」
壁向こうでドワーフが、その厳つい肩を落とした。
後には6人の男だけが残った。
彼らはどう頑張っても、髪の毛の先も通り抜けることが出来なかったのだ。
ただ俺も隙をみてコッソリと手を入れてみたが、なんなく壁と亜空間の隔たりを通り抜けた。
やはりこの村の者だけを拒絶してる。
しかしオッサンは村の代表としてわかるが、どうしてこの6人だけが通れないんだ?
ノッカーの数はもっと多かったし、ただの数合わせとも思えないんだが。
牢内は一時のパニックが過ぎて、またもやへなへなと座り込む者や、絶望に頭を抱える者、悲惨な状況になってきた。
何も出来ずに俺は、ドア側に寄ってこの様子を見守るしかなかった。
「……ドン。お前に頼みがある……」
必死に気持ちを抑えた、押し殺した声でオッサンがドンに言った。
それから隅に置いてあった黒いカバンを2つ持ってくると、鍵束から外した1つの鍵と共にドンに渡した。
「これをプッサンに渡してくれ。おれ達が戻らなかったら、お前とプッサン2人で『ジャール』ギルドのニコルスを訪ねろ。
……多分悪いようにはしないはずだ」
何か大事な物を託されたドンは、悔しそうに振り返りながらも、あの赤い光の洩れる出口に消えていった。
「……ぬうぅぅ、おい、てめえっ!」
急にオッサンが俺に怒りを向けてきた。
「本当はこの事を知ってたんじゃねえのかっ! このメンツが偶然残ったとは言わせねえぜっ! 」
オッサンが闇の霧を爆発させながら迫ってきた。牢の出入り口が真っ黒に塞がれる。
「なに、何のことだ?!」
「どのみちてめえも道連れだっ! 逃がしゃしねえっ」
壁に追い込まれながら、俺は引っ込めていた電気で再び対抗した。
本当なら火の方がパワーはあるのだが、この状況で火を出すのは躊躇われた。
それが仇となった。
一気に押し込まれた勢いは、簡単には跳ね返せなかった。
オッサンの闇が凄まじい力で俺の腕や足に巻き付き、頭に、耳に迫ってきた。
と、次の瞬間、パァッとまさに霧のごとく闇が消し飛んだ。
「いい加減、他人に責任転換するんじゃねえよ」
いつの間にかヴァリアスの奴が、ドア枠の縁に寄りかかっていた。ポケットに両手を突っ込み、片足を反対側の縁にかけ、まさに通せんぼの恰好だ。
相変わらずゴロツキ感が酷い。
「野郎っ! とうとう現れやがったかっ!」
オッサンと共に、6人の男たちも身構えた。
「さっきから見てりゃあギャアギャア喚くだけで、原因をこれっぽちも考えもしねえ。
最後くらい謙虚な気にはなれないのかよ」
ズイっと奴が中に入って来ると、オッサンを除く5人は後ろに一歩下がった。
「くそがっ!」
オッサンが歯を食いしばりながら、今度は闇をヴァリアスに向けてきた。
「ほぉー、それっくらいの闇でオレと張り合おうってか。面白い」
ドンッと、牢内全体が瞬間にして真っ暗になった。俺のまわりだけ残して、内部は圧倒的高圧な黒に支配された。
「おい、やめろっ! 死んじゃうじゃないかっ」
「ふん、手を出したのはコイツらの方が先だ。殺るつもりで仕掛けて来たなら、殺られても文句は言わさねえ」
横の黒い空間に、2つの銀の光がこちらに向く。
「だからって、俺のせいで人が死ぬのはもっと嫌だぞっ」
申し訳ないが助けたいという気持ちよりも、それが本音だった。
「しょうがねえなぁ」
やや不満そうにボヤいたかと思うと、急に停電が直ったみたいに牢内がまた明るくなった。
その場で立ったまま固まっていたオッサン達が、どうっと力尽きたように手を付いて座り込む。
本当に闇でガチコチに固められていたみたいだ。まさしく闇のコンクリート詰めだな。
「さて、もう後がねえぞ。
せめて逝く前に懺悔でもして、穢れを軽くしていったらどうだ?」
悪魔の審問官が、肩を揺すりながら悔悛を促す。
「……てめえら、本当に何者なんだ……」
オッサンが肩で荒く息をしながら、それでもまだ睨みつけて来るところは流石というところか。
「ギルドから来たとかなんとか、ぬかしてたが……。本当は(国の)監察なんじゃねえのか……? 本当は鉱山を調べに……」
「違うっ! 本当にギルドからの依頼で来たんだよ。
ただ成り行きで、こんな事になったけど……」と俺。
「……もうどうでもいいや。どうせおれは助からない身だしな」
オッサンがその場に座り直すと、肩を落とした。
「万に一つ、ここを出られたとしても、森を抜けるまでに毒が回って持たねえや。
そういう誓約だからなあ……」
「誓約? あんたにも付いてるのか」
「けっ、……当たり前だろ。こんなヤバい事をしてるんだぜ。
ただおれ達のはあくまでも、情報を阻止出来れば発動しないもんだ。だからてめえの記憶を消せれば解除されるはずだったんだが。
それよりも焼け死ぬ方が早そうだ……」
「おれ達って……。ああ、この人達はさっき言ってたあんたの腹心なのか」
オッサンはちらりと、秘密を共有しているのは8人だと言っていた。
今は亡きゴディス老人と、トカゲになったゾルフを足せば8人になる。
つまり村で一番、精霊の怒りを買う対象だったんだ。
――だけどゾルフはなんで出られたんだろう?
奴が翁に話していた、トカゲに転生させるという別の呪いがかかったせいなのか?
「……さっさとてめえらも出ていけよ。それともおれ達が焼け死ぬのを見物したいのか?」
下からねめつけるように、オッサンがこちらを見上げた。
そのオッサンの後ろの穴道は、すでに5メートルほどになっている。
探知すると、すでに2階にも炎が浸食して床――1階の天井を舐め始めてきた。
「ヴァリアス、もう時間がない。何か他に脱出方法はないのか?」
俺は奴に詰め寄った。
確かにオッサン達は俺を敵視しているし、酷い目に合わされそうになった。
だが、いくら悪い奴でも目の前で人が死ぬのをみすみす放っておくのは、どうしてもいたたまれない。
それに俺は最悪でも命までは落とさない。最終的にはヴァリアスに守られるからだ。
絶対安全圏にいる俺とこの人達とでは、同じ場所にいながらも危険度は天と地ほどの差がある。瀕死と死では、1と0みたく近いようで全く違うものだから。
どう足掻いても俺は、他の者にとってただの傍観者になるのだ。
けれど俺だって共有してるんだ。
体が無事でも心のどこかが死んでしまうんだよ。
以前アジーレダンジョンで、少女や沢山の人々を見つけても助けられなかった後ろめたさが、まだ心の奥にくすぶっていた。(前世の業はもちろん忘れてる)
それが人を助けると、少し薄れる気がするのだ。
自己満足でもいい。結果としてそれで良い方向に回ればいいんだから。
それに悪事を働きながらも、一方でオッサンは村のためにそれなりにやっているのがわかった。だからどうしてもこのまま見捨てることが出来なかった。
「そりゃあ探せばあるだろう」
奴がドア横の壁に寄りかかりながら答えた。
「例えばさっきのドームみたいにシールドを張って、村の外まで移動するってやり方もあるじゃねえか。
ちょうどここにいる奴らの5人は土使いだ。
闇だって多少は、オーラを押し退ける役には立つ」
「そうか、皆で力を合わせればなんとか――」
「ただし、成功率は0.01%以下だけどな。
炎が浸食し始めた時に、さっさとシールド張って外に逃げれば良かったのに、今じゃもう炎の厚みも威力も最高潮だ。
外までは持たねえだろな。この人数じゃ魔力も魔石ももう尽きてるし」
「だったら言うなよっ!」
ったく、こいつは上げて落とすのがホントに得意だな。
今更出来ない事を言われても、余計絶望するだけじゃねえか。
1%ならまだしも、流石にこの状況下の0.01%には賭けられないぞ。
それともギリギリ助かる見込みでもあるということなのか?
「まあでも、お前を入れて大車輪で転がすのも面白いかも知れねえなあ」
そうニヤニヤしながら俺の方を見た。
この野郎~、俺はハムスターじゃないぞ。
でもそうやってボール状にすれば勢いがつくし、役場の前は一直線で門まで続いている。そうすれば――
いや、ダメだっ! あらためて探知して思い知った。
これはただの炎じゃない。仰圧された気の炎なのだ。
物を焼くだけでなく、中へ中へと押しこもうとする風のような圧力もあるのだ。
転がしていくだけじゃ押し返される。そうしてモタモタしているうちに蒸し焼きだ。
洒落にならないが、まさしく火を見るよりも結果は明らかだった。
そんな焦る俺の様子を虚ろな目で見ていた男達だったが、おもむろにオッサンがよろりと立ち上がった。
「……あんたのそれが芝居じゃないと信じたいぜ……」
さっきまでてめえ呼ばわりだったのに、急に『あんた』に昇格した。
そうしてベルトに付けた革ポーチから、銀色のゴブレットを出してきた。
始めに俺との取り引きでカタに出してきた、あのミスリル銀だ。
「これを……、あんたにやるよ。散々疑って悪かったな……」
「え、あ、でも……」
どうなんだろうか。これ、汚職で作った金なんだよなあ……と、つい小心者のせいで躊躇してしまった。
「いいから、持ってけよっ!
せっかくここまで精錬したのに、また溶かしちまうのは勿体ないだろ」
結局無理やり握らされた。
「迷惑料に貰っておけよ。
どうせカローンの船に乗るにもこんなに要らねえ。1人銅貨3枚ありゃあ十分だ」
後ろで奴がしゃあしゃあと言う。
「まあでもやっと、覚悟を決めたか」
「……ああ、だがこのまま焼け死ぬのは御免だ」
オッサンは後ろの男達を見回した。
「お前たちには、俺の闇で深く眠らせてやるよ。せめて苦痛は味わいたくないだろう。
最後にこんな事しか出来なくてすまんが……」
「村長……」
ぐずっと、獣人が鼻を鳴らした。他の男達も下を向いた。
「待ってくれ、そんな諦めな――」
「よぉーし、じゃあ死ぬ気になりゃあなんでも出来るな?」
奴が壁から背を離して、オッサン達の前に立った。
「なんでもって……。もう選択肢なんかねえじゃないか……」
オッサンが頭を項垂れたまま答えた。
「さっきオレに、何者かって言ったよな?」
ポケットに手を突っ込んだまま、ガンでも飛ばすようにオッサンを見据える。
「オレはアイツ、森の精霊から後の執行を委ねられた代理人だ。
だからこれからはオレが代わって裁いてやる」
皆が一斉に顔を上げた。
「おい、そんなこと言っちゃっていいのか!?」
まさかどうせ死ぬから、正体ばらしてもいいとでも思ってるのか。
「構わねえだろ。人間だって時には神や精霊の代行者になるじゃねえか。オレだって今だけだし」
うぅん……、あんたはモーゼやキリスト様とは程遠いんだが……。
「あんたが執行って……、それじゃこれもやっぱり……」
オッサンの顔が悔しそうに歪む。
「勘違いするな。
この炎はあくまでアイツが、最後の力一滴まで振り絞って作った怒りの体現だ。
つまり一番うらみつらみのあるてめえ達だけは、絶対に許さねえってこった」
「おい待てよ。じゃあなんでゾルフは通れたんだ? あいつだってこのグループだろ。
それともトカゲになったからとでも言うのか」
「おお、ちゃんと分かってるじゃねえか。エライぞ蒼也」
奴が手を伸ばして頭を撫でようとしてきたので、俺は即座に払いのけた。
いつまでも子供扱いすんなよ、みっともないだろ。
「……まあそういうことだ。
本来は村ごと全員を焼き滅ぼすつもりだったらしいが、お前が事をみんなに知らしめたおかげで、ほんのちょっぴりだけアイツも溜飲を下げたんだ。
そこでオレが一押ししたって訳だ」
ちょっと不満そうに出した手を引っ込めて、奴がまたオッサンに向き直った。
「つまり、人として生かしちゃいられねえなら、いっそのこと畜生に堕とせばどうかってな」
オッサンと男達の目が見開かれる。
「えっ、それって、まさかみんなもってことなのか?」
畜生道に堕とすのはゾルフだけじゃないのかよ。
「当たり前だろ。向こうは大事な子供を傀儡にされた上に、自分は命を落としたんだ。
これでも相当まけてやってるんだぞ」
「しかしよぉ……」
オッサンが唸るように口を挟んだ。
「ノッカーを使ったのはホンの3ヶ月足らずだ。それでこんな村ごと……、しかもトカゲにされるなんて、割が合わねえじゃねえか……」
「ふざけるんじゃねえっ!!」
ヴァリアスの怒号にビリビリと牢屋が揺れた。皆が床に這いつくばる。
奴の白目が黒くなった。銀色の瞳がより物騒な光を放つ。
「てめえら、鉱山で働くくせにノッカーをなんだと思ってやがる。ただの便利な道具だとでも思ったのか。森の恩恵も忘れやがって。
しかもムチャさせやがって、何体のノッカーがぶっ壊れて消えたと思ってんだっ!!」
「えっ?! 消えたって―― じゃあ死んだノッカーもいたのか?!」
俺の驚きの問いを無視してさらに奴が怒鳴る。
「大体、自然がなけりゃあ生きてもいけねえてめえらが、大地に楯突いて簡単に許して貰えるなんざ思うなよ。
自然をなめるんじゃねえっ!!」
牢内がシンと静まり返った。みんな口をつぐんだ。
ちょっとの間、奴はじっとみんなを見下ろしていたが、やがて眼の色を戻すと、パンと軽く両手を打ち鳴らした。
「とにかく死ぬ以外に道が開けたのは有難いと思え。
人としてこの場で焼け死ぬか、トカゲとなって鳥やその他の天敵どもに怯えながら、せいぜい残りの余生をコソコソと生きて行くか、どっちにする?」
悪魔が口を裂いて黒い笑いを浮かべた。
究極の選択に、男達全員の顔色がサーッと蒼白に変った。
ここまでお読み頂き有難うございます!
次回でこの『消えた村』編は終了するはずです。
なんとか2週間以内にと思ってましたが……(;´Д`A ```すいません。
なかなかまとまらないです。
自律神経失調症のせいか、動悸やら気も落ち着かなくて、昔の原稿を整理したりと関係ないことしています(-_-;)
そうしたらずい分前に描いたマンガの一部が出てきました。
珍しく恋愛モノ……なのか? 我ながら不思議。
とりあえず『みてみん』にアップしました。
https://30727.mitemin.net/i733513/
もしかすると後で近況に載せるかもしれませんが、気が向いたら見てやって下さい。




