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第243話 『ミスリルの黒い闇』

毎度遅くなりました(汗)本当に焦りました……。

また今回も下ネタありなのですが、すいません。話の流れでご容赦ください(汗)


 こういう場合どうするのが正解なんだ?

 

 罠なのか、本当の協力者なのかの両極端。

 まず信用していいものなのか。

 怪しいし……。


 だが俺はすぐに転移できずに、そのまま目の前の菫色に煌めく瞳を覗き込んでいた。

 すると彼女は俺がなんのリアクションもしないので、再び声をかけてきた。


「ねえ、まだそこにいるのは分かってるのよお。どうしてバレたか不思議なんでしょう?

 いいわ、出て来てくれたら教えてあげる」

 そう言って彼女の顔が上に消えた。


 やっぱり罠……か? 

 しかしなんでバレたのか、そこは知りたい。

 もう罠だったらその時はその時だ。

 

 探知で視ると、彼女はベッドの上でしな垂れるように横座りをしながら視線を下に向けていた。

 それはガッチリ俺の目と合っている――ように思えた。


 俺は隠蔽を解くと、ベッドの下から風を使って滑るように一気に飛び出した。そうしてすぐに立ち上がる。

 女といえども油断できない。

 念のために部屋の壁や床に遮音をかけた。さっきの獣人の用心棒に聞かれたらことだ。


 そんな慎重に構えている俺とは対照的に、彼女は軽く笑みを浮かべた。

「やっぱりあんただったのね。そんな怖い顔しないでよ。

 あたしなんか無力な女なんだから」

「無力な女が、隠蔽を見破るかよ」

 先程の獣人の目はくらませたのに、ただの女に分かるわけがない。

 

 しかしあらためて解析してもあの風呂場で見た時と変わりなく、彼女にはほどほどの『水』の能力以外は目立つ力が見つからない。

 ~~んん、まさかベッドスキル(?!)とか、ベッドまわり関連がわかる能力とかあるのだろうか?

 とはいえ、やっぱり――その、……あちらのテクニックとしかわからん、のだが……。


「なんとかぼんやりとわかるくらいよお」

 イタズラ娘のように軽く肩をすくめてみせる。

「ただ、雰囲気で、あんたかなあと思ったのよ」

「隠蔽してる者を見つけるって、かなりの能力じゃないのか?」

 俺はそう言いながら、外に転移出来そうな場所を探知で探った。


 しかし跳べそうな範囲にはみんな、人があちこちに動き回っている。

 さらに包囲網が厳しくなっていた。

 もう少しここに籠城していたほうがいいかな。


「だって侵入者をちゃんと見つけなくちゃ防犯にならないでしょ。たまにね、あんたみたいに目を盗んで忍び込む輩がいるのよ。

 付きまとい(ストーカー)って言うやつ?

 たまに他所から来た短期労働の人にあるのよね」


 しれっと風俗嬢あるあるみたいに言ってるが、ストーカー対策にホワイトハウス並みのセキュリティーだな。

 トム・クルーズでも忍び込むのが難しいレベルなんじゃないのか。 


「うふふ、不思議そうね。いいわ、教えてあげる。

 この部屋にはね、『水』の結界が敷いてあるの」

 そう言って部屋の角を差した。

「水の? あっ!!」


 四隅に置いてあった水皿、あれは(まじな)いじゃなかったのか。

 そう言われてあらためて受け皿の水を解析すると、ほんのちょっぴりだが血液が混じっている。


 彼女(マチルダ)自身の血だ。

 術者が自分の体液を使うことによって、より強力な呪術を仕掛けることが出来る。

 俺はうっかり相手の手中に入っていたようだ。

  

「ねえ、待って。一体どうなってるのか、教えてよお」

 俺が窓の方に目を動かしたのを逃げると思ったのか、彼女はベッドから身を乗り出してきた。

「本当にこの村どうなっちゃたのお?」

 彼女は俺を捕まえるというより、本当に戸惑っているようにみえた。


「俺が怖くないのか? こんなところに隠れてたんだぞ。

 それに――」

「あんたがやったわけじゃないんでしょ? 

 まだあのお爺ちゃんが殺されたなんて信じられないけど、それにあんたがお年寄りに手をかけるなんて出来そうにないもの。

 これでも人を見る目はあるのよお」


 ハッとした。

 女が2人――イヴリーンとメイがおそるおそる、廊下をこちらにやって来るのが視えた。

「2人にも知る権利があるでしょお?」

 いつの間にか連絡してやがった。


 後で知ったが、彼女達はこの娼館くらいの範囲なら、水を使って簡単なやり取りを日頃からしていたらしい。

 各部屋にボールに水を張った水鏡(みずかがみ)が置いてあるからだ。

 これにラインよろしく簡単な合図を送るのだ。

 

「あー、ホントにいたぁ~~」

 コギャルのような赤毛(メイ)娘が指を指した。

「しっ! メイ。廊下で声を出さないで。階下(した)に聞こえちゃうから」

 マチルダが口元に指を当てて小声で注意する。


「当たり前でしょう。具合悪くて休むって言ってたのに、どこに行くのよー」

 豊かなブルネットのイヴリーンが、ワザとらしく下に向かって声を上げた。

「寒いからさっさっと入って」

 マチルダが手招きした。


 またこの女たちか。

 昨日は色気責めのせいで、ちょっと腰砕けになったところもあったが、今日はしっかり服を着ている。(胸元は大きく開いているが)

 これなら正視出来るぞ。いざとなったら転移で逃げてやる。もうバインドなんか喰らわないぞ。(水の結界の中なのだが)


「ええと、まずあなた、今とんでもない件で追われてるのは知ってるのよね?」

 イヴリーンがドアをきっちり閉めた後、振り返りながら聞いてきた。

「そうそう、お客さん、ゴディスさん殺害犯なんだってぇ」

 ギャル娘がワザと口を尖らせた。


「だから俺はやってない。罠にはめられたんだ。

 どうせ信じちゃくれないだろうが……」

 でも俺がやたらと接触したからこそ、あの老人が殺されるはめになったのだとしたら、俺のせいでもあるのか……。


 ついまた沈みがちになった俺の気持ちを、マチルダの言葉が引き上げた。

「だからあんたがやってない事はみんな分かってるわよお」

 ねえっと、2人に視線を送る。それに赤毛とブルネットも頷いた。


「なんでそう言い切れる? もしかして真犯人を知ってるのか?」

「そんなの知らな~い。ただぁ、お客さんがそんな人じゃないって事だけは知ってるからぁ」とメイ。

 隣でまた頷くイヴリーン。


「だからなんでだよ。

 まさか人を見る目があるからなんて言うんじゃないだろうな?

 そっちの方が信じられないぞ」

 色んな客の相手するから目が肥えてるなんて、嘘くさいもんだ。

 何しろあのオッサンに雇われたり、風呂場での事もペラペラ喋ってたんだからな。


「信じられっかよ。大体 人のこと○○〇(ピー)呼ばわりしやがって――」

 思い出してつい口に出してしまった。

 女にはわからないかもしれないが、男にとっては酷い屈辱なんだぞ。


「え、なにそれっ?」

 3人が互いに顔を見合わせた。

「お前たちがオッサンに話したんだろうが。ある事ない事言いやがって」

 まだ罠かもしれない危険があるが、逃げる前に一言文句を言わずにはいられなかった。


 みるみる彼女達の目と口が開き始めた。

 これはシマッタという表情か、それともポカンとした顔? 

「やだあーっ」

 アハハハ キャハハハと彼女達は一斉に笑いだした。

 笑い事じゃねえよ!


「そんなこと言うわけないでしょお」

 ふわりとした金髪を掻き上げながら、マチルダが右手をヒラヒラさせた。

「本当かよ。俺が相手しなかったから、嫌味で言ったんじゃないのか?」


「「「言わないわよっ!」」」

 3人がハモるようにビシッと声を張り上げた。 


「これでもわたし達、仕事なりに誇りを持ってやってるのよ。男達に癒しを与える接客業。娼婦だって人の道は外さないわ。

 そんな人の傷つくことなんか言うわけないでしょう!」

 腰に手を当ててイブリーンが眉根を寄せた。


「そうだよ、あたいらにだってプライドってもんがあるんだからねぇ」

 メイがぷっくり頬を膨らませた。

「ホント、娼婦だからってバカにしないでくれる?」

 ベッドの上のマチルダが胸の前で腕を組んだ。


 あれ、俺、逆に怒られてる?


「……だって、イワンのオッサンが……」

 女たちの勢いに押されて、急にたじろぐ俺。ちょっと情けない。


「だからウソよ、それ!」

 片眉を上げながらマチルダがキッパリ言い放った。

「それにあたし達、あんたが○○〇(ピー)じゃないことくらい、ちゃんとお見通しなんだから」

「え……」

「タオルで隠してたって、しっかり元気なのは分かってたわあ。

 なんたってお湯(水)の中だったんだし」


 カアアァーーーッ! ()()()()()ぁ~~~っ!!

 ちゃんと分かってくれていた事より、そっちの方が恥ずかしいっ!

 更に彼女は追い打ちをかけてきた。


「それにあたしたち職業柄、()()でなんとなく人柄も分かるのよねぇ。

 あんたは信用出来るタイプね、ってみんなで言ってたんだから」

 再び頷くメイとイヴリーン。


 ギャアアァァアァァ~~~!!

 そんなにじっくり観察されてたとは――!


 ……童貞じゃないけどこの間まで彼女いない歴ウン十年の俺のメンタルは、ウブな中坊のように免疫力が低下していた。

 久しぶりに顔中に血が一気に集まってくるのを感じる。

 服を着ているにもかかわらず、つい前屈みになってしまった。


 ……うう、隠蔽(モザイク)かけたい……。

 この時俺は、今後隠蔽能力を絶対に上げると心に強く誓った。


 そんな俺の態度をクスリと笑いながら両足を下に降ろすと、マチルダが自分の横をポンポンと叩いた。

「ねえ、そんなとこに立ってないで、ここに座りなさいよお。上から見下ろされたままじゃ話しづらいわよお」


「は・ぃ……」

 すっかりメンタルでマウントを取られた俺は、すごすごと彼女の左に座ることにした。

 結局腰砕けになってしまった……。


「あたいはこっちぃ~」

 ポンと跳ねるように、メイが俺の左側に座るとすぐに腕を絡めてきた。

「もう、あんまり跳ねないで。少し頭痛がするんだから」

 マチルダがそう言って軽く額に手をやる。


「あ、ゴメ~ン、実はあたいもなんか怠いんだよねぇ~」

「あんたはこの中で一番若いから体力あるわね。血色はそれほど悪くないもの。

 私たちなんか、もう化粧でも隈が隠し通せないわよ」

 イブリーンが顔に手をやりながら、マチルダの右隣に座った。


 そういわれれば確かに濃いめの化粧をしているが、顔色の悪さやオーラの弱さまでは隠せない。


 今まで翁の幻覚で保たれていた感覚が、一気に現実にひき戻されたのだ。

 これまでなんとはなしに不調に感じていても、見かけが騙されていたのであまり気にしてこなかった。

 それが突然、ガンのように真実の状態が顔を出したのだ。

 それでは余計に具合も悪くなろうというものだ。

 風呂場で鑑賞したロケット型だった胸も、栄養失調のせいで幾分か萎んでいるようだ。


 そんな俺の気持ちを読んだように、メイがサッと腕を離すと

「あんま見ないでぇ。オッパイ小っちゃくなってるからぁ」と、ちょっと恥ずかしそうにマシュマロタイプの胸を両手で押さえた。

 いや、大丈夫。それでも日本じゃDカップはあると思うよ。

(実際は欧米と日本のサイズは違うから、日本のDは欧米のBくらいだけど……)


「俺が今朝配ったポーションは? 村人全員分はなかったけど、まだ薬局にあるんじゃないか?」

「そんなのあたい達にはまわって来ないよ」

 メイが可愛い口を尖らせた。

「こういう時は重病人が出た時のために取っておくんだって」


 本当はオッサンとその取り巻き達のために使われていたのだ。

 だから彼らは俺を追いかけまわすくらい、元気だったのだ。


「とにかく今、ここで何が起こっているのか教えてくれる? 外から来たあなたなら何か知ってるんでしょう?」

 イヴリーンがすらりとした足を見せながら組んだ。

 重ね着してあるスカートなのに、横スリットが深く入っていた。


 女たち3人が俺のまわりに来ると、ふわっとなんだかいい匂いがした。

 マズい……。

 俺は手を股間を隠すように置きながら――また見透かされそうで怖い――あらためてこの村の現状を簡単に彼女たちに話した。


 まずこの村が1カ月以上、外界から遮断されていた事。

 そのために領主様がギルドに調査依頼をした事。

 そうして何故か村の中では、同じ日が繰り返されていた事など。


 ただ森の翁のことや、鉱物商人たちの遺体を見つけたことは黙っていた。そんな事を教えて余計な不安を掻き立てさせたくなかったからだ。


 彼女たちは途中から口に手を当てたり、天井を仰いだりしていたが、話し終わると「はあ~~」と大きくため息をついた。


「なんとなく変な感じはしてたのよね……」

 イブリーンが呻くように言った。

「同じことを昨日もやったような、デジャヴがあまりにも多かったから。

 ……まさか第4白曜日をそんなに繰り返していたなんて……」

 はあ~ 頭痛い……と、こめかみを(さす)った。


「それにやたらと下地クリームの減りが早いって、みんなで不思議がってたのよお。美容液も蓋をキッチリ閉めてるのに、まるで蒸発してるみたいだって」

 マチルダも眉をひそめながら納得顔だ。


「そうそう、まさかここの誰かが盗んでるのも考えづらいしぃ」

 ギャル娘メイが、また腕を絡めてきた。

「もしかしてブラウニ(妖精)ーのイタズラかなぁって、みんなで噂してたんだもん」


「でも、どうしてこんな状態になってるのお?」

 マチルダがあらためて聞いてくる。

「それがわからないから調査しに来たんだよ」

 嘘はついてない。本当に始めは知らなかったんだから。


「俺の前に3組のハンターが来たらしいけど、みんな盗賊と間違えられて捕まっちゃったようだし」

 そう言うと、3人がハッと顔を見合わせた。

 どうやら騒ぎは知っていたようだ。

 

 俺自身も村長や他の男たちから、老人殺しから今回の異変の原因とまで疑われていることを話した。

 一介の魔法使いの俺にそんな力があるわけないのに。


「……でも、あんたはそうでなくても、もう1人の、あのアクール人の彼は?

 あの人ちょっと危……かなり強そうな雰囲気あったわよね」

 最後の方は少し小声になりながらマチルダが言った。


「そうね、村長さん達からしたら、あの人を警戒したのかも。

 アクール人は、魔族並みの力を持つらしいからね」

 イブリーンも困ったように眉をひそめつつ賛同した。


 そうか、俺が疑われてる原因の半分は、(ヴァリアス)のせいだったのか。


 言われてみれば、そりゃそうだ。

 力もそうだが、見るからに物騒の塊りみたいなアレ。何か事が起こったら真っ先に疑われるのは仕方ない。


 で、そいつの仲間が俺。

 ……うーん、これは今後考えなくちゃいけない案件だなあ。


「そういえば、あの人どこにいるのぉ?」

 近くにいないよねぇ、と心配そうにメイがまわりを気にした。

 悪口を言ったら、とって食われるとでも思っているのか。


「あー、ちょっとはぐれちゃって……」

 実は完全隠蔽してすぐ近くにいるとは言えない。

「とにかく今はこの家の外に出ない方がいいよ。ここでジッと救援を待っててくれ」

 俺は話を逸らそうとした。


「あんたはどうするのお? このまましばらくここに隠れてる?」

「そうね、みんなのあの剣幕じゃ、あなたこそ外にいたら危ないじゃない?」

「だったらあたいの部屋に来る? 隠れるとこいっぱいあるよぉ」

 隠れ場所がある女の部屋って、ちょっと興味があるが遠慮した。


「ありがとう、だけど遠慮しておくよ。俺にはまだやらなくちゃいけないことがあるし」

 そうだ、期日まであと3日しかないのだ。

 それまでにこの異変の解明どころか、もう呪いを解かなくてはいけなさそうな流れになっている。


「ええ、だけど命を落したら、元も子もないんじゃない。

 どうせあの領主様のことだから、報酬額もそんな大した金額じゃないんでしょお?」

 マチルダが心配そうに言った。


「うん、まあ、そうなのかな。相場がよくわからないんだけど……」

 そう言われると報酬300万は安いような気がして来た。

 なんたっていくら貧乏貴族とはいえ、子爵様なんだろう。

 しかもミスリルが自分の領地から出たらしい。

 だったら大金持ちになれるじゃないのか。


「なあ、もしもここの鉱山から金とか宝石が発掘されたら、やっぱりこの村や領主様は儲かるよな?」

「え? そりゃあそうでしょお。

 だけどここは主に鉄鉱山よ。あと少し銀が出るくらい。今までずっとそうだったんだから」

 何の話? と3人とも不思議そうな顔をする。


「最近ここの領主さまが、なんだかこの村にご執心らしいんだ。

 鉱山から何か変った物が出たとか、噂でも聞いてないか?」

「「「変ったモノ?」」」


「うん、例えばミスリルとか」


 だが彼女たちは一瞬キョトンとした後、一斉に否定した。

「そんなのあり得ないわよお」とマチルダ。

「ない、ない、それはないわぁ」

 メイも少し可笑しそうに言う。


「そんなお宝が採掘されたら大変よ。まず村中大騒ぎになってるわ」

 イブリーンもちょっとだけ口元を上げて、足を組み替えた。

「万が一、ミスリル銀が発掘されたら、まず王様に報告しなくちゃいけないし」


「え、そんなに大事なことなの?」 

「当然でしょう。だって銀は銀でもミスリルが出たらとんでもないわよ」


 曰く、ミスリルは宝石よりもレアな金属なので、それで作られた品はまず国宝級になるということ。

 当たり前だが、プラチナよりもその資産価値は何倍も高い。


 更にドラゴンの鱗のように硬く丈夫で、また対魔性にも優れているので、武具や防御の素材に使えば、強固で恐ろしく威力のある代物となる。

 それはまさに神具と言える物だろう。


 だから各国は躍起になって、この金属を欲しがるのだ。

 もし採掘出来る場所が見つかったら、国が管理することになる。

 それほど世界中で貴重とされているレアメタルなのだ。


 なんとなく希少価値の高い物だとは思っていたが、そこまで重視されていたのか。

 逆に考えると、ミスリルはドラゴンの素材と似ているのかもしれない。


 ドラゴンから採るのはそれこそ命がけだが、鉱物は場所さえ分かれば発掘はそれほど大変じゃないだろう。

 ただ出土する量と場所が稀有過ぎるのだ。

 

「でもそう言われると、確かに数か月前に領主様来られたわねえ? いつも代理の人しか来なかったのに」

「そうそう、あたしもそれで初めて、子爵様の顔見たのよ。遠目だったけどお」


「あ~ 思い出したぁ」

 メイが顔を上げた。


「あの商人のお客(オッズ)さん、今夜が初めてこの村に泊まって行くんだって言ってたの。

 だけど今度から、ちょくちょく寄らしてもらう事になりそうだって。

 何しろこの村で『銀』を扱うのは自分だけだから、とても大きな仕事になるみたいなこと言ってたよぉ」

 

「あー、じゃあ銀の鉱脈でも見つけたのかしらねえ。それならあのケチん坊の子爵様が飛んできそうだわあ」

 少し皮肉るようにマチルダが言った。

「そんなにケチなのか? その子爵様は」


 するとまた3人は揃ってガッカリしたような顔をした。

「だから不安なんじゃない」とマチルダ。

「あの吝嗇家の子爵様じゃ、助けを送ってくれるか期待出来ないのよ。

 自分の領主様の悪口は言いたくないけど、あの(かた)はお金のかかることは出来る限りしない人よお」


 続いて話をイブリーンが引き継いだ。

「以前、別の村がゴブリンの群れに狙われた時に、ギルドへの依頼料をずい分と値切ったらしいの。

 ギルドに兵を頼んだら、それなりにお金がかかるでしょう?

 それに自分とこの衛兵を使ったら、そのあいだ城が手薄になるしね。

 だからハンターや傭兵がなかなか集まらなくて、対処が遅れたそうよ」

 

「えっ、だけど村がやられちゃったら、結局困るのは領主様だよねえ?

 そんな一時の出費を出し惜しみしてる場合じゃないと思うけど」


「だからねえ、そういう全体的な考えをしないお人なのよお」

 マチルダも頭が痛いような顔をした。

「後々の資産より、手元のお金が大事みたい。それでも贅沢したいから、なんだかんだであちこちに借金してるようだけど」

 

 結局その村の件は、近くの町が自分たちの所にも来るのを危惧して、対処したおかげで無事に済んだようだ。


「ここも鉄の他に銀が少し採れるぐらいの、それほど資産価値は高くない鉱山村だからねえ。

 もしまとまった銀が採れるとしても、どれだけギルドに救援を頼んでもらえるか、本当に頭、ううん、胃が痛いわあ」と、マチルダが胸の下を擦った。


 そういやニコルス氏が、子爵と交渉してこれしか出せないと言っていた。

 やっぱりケチなのか、いま手元に金がないのか。


 ――ンン? 


「なあ、その、ミスリルを国が管理するって、具体的にどうなるんだ?

 普通はそこの土地の領主様の持ち物にはならないのかい?」

「あなた本当に遠い所から来たのねえ」

 イブリーンが綺麗な眉を上げた。


「そんな貴重な物が出たら、他の国だって黙って見てないわよ。まずそういう情報を探る間者(スパイ)から守らないと。

 領主様にもよるけど、国家間の防衛をするなら国が管理しないと出来ないでしょう。

 だから国の持ち物にして厳重に管理するのよ。

 国の財産にもなるしね」


 そんな国家間で奪い合うようなことしてるのか。まあ地球より治安悪そうだしなあ。

 それに間者――スパイか。

 そういやオッサンは俺のことを、たびたびスパイと勘違いしていた。

 あれは他所の国のスパイと疑っていたのか。

 まあ確かに俺は異邦人どころか、異星人だから怪しさ満載だけどな。


「あれ、じゃあ元々の地主というか、領主様へのご褒美は? まさかの取られ損?!」


「う~ん、この国の王様はまだ利益の一部を地主に還元してくれるようだけど、国によっては一時金のみというところもあるそうよ。

 少なくとも国に貢献したという、名誉を与えて優遇はしてくれるそうだけど」

 なかなか博識な彼女は、すらすらと説明してくれた。


 これでも以前は王都の高級娼館にいたの、と彼女は自慢する様子もなくサラッと言った。

「お客さんも官僚が多かったから、話のネタに色々とね。

 けれどわたしにはあの都会の水は合わなかった。

 だから田舎(ここ)に引っ込んできたんだのよ」

 そう言って微笑んだ。

 あまり理由を聞いて欲しくないような気配だった。まあ人生ひとそれぞれだしな。

 

 ちなみにミスリルは硬貨にも使用されているが、それは表面だけのメッキで、しかも99%混ざり物らしい。

 だから硬貨を集めてミスリルだけを取り出すのは、極めて効率が悪すぎるやり方となる。おまけに恐ろしく高額になるし。


 それにしても多大な利益が手に入るはずが、否応なくむしり取られてしまうのか。

 自分んちの庭で、歴史的遺跡が出土したみたいなもんだな。

 そんな事になったら、日本だって土地ごと取り上げられること間違いない。


 せっかく自分の土地から出た物なのに、全て取り上げられてしまうのか。

 本当ならまるまる自分の利益になる物が、ホンの分け前程度にされてしまうなんて――


 国に知られたら――


 貧乏でなおさら吝嗇家の領主。

 自分だったら、せっかくのこの幸運をいくら国とはいえ、はいそうですかと右から左へ簡単に渡したくない。

 もし俺がもっと大胆不敵な精神を持っていたら、申告しないでコッソリ採取するかもしれない。

 

 あ、でもある程度の量を流通させたらバレちゃうか。

 そうしたら国家反逆罪とかで、まず処刑されそうだなあ……。

 となると、みみっちいかもしれないが、申告する前に少しちょろまかしておくぐらいか。


 それでも途轍もなく価値がある代物。ビール樽1つ分くらいでも何十億にもなりそうだ。(1g万単位で)


 恐らくミスリルが出た事を知っていたのは、村長、ゴディス老人、鉱石商と彼らの遺体を始末するのを手伝った一部の者たち。

 そして領主。


 その時、ふっと俺の頭に、さっきのオッサンとのやり取りが思い出された。

 あの時のオッサンの反応から、鉱物商(オッズ)はミスリルの件で殺されたのは間違いないだろう。

 

 だけど、オッズはここからミスリルが出た事を、なんで知ったのだろう?


 まだ国にどころか、村人にも知れ渡っていないのに、いくら出入りの業者とはいえ先に余所者に教えるだろうか?

 逆にコッソリ教えるほど信頼していたなら、計画して殺すようなことはしないんじゃないのか?


 何故かわからないが、とにかくこの秘密が商人にバレてしまった。

 もしかするとそれをネタに強請(ゆす)ったりしたかもしれない。

 鉱石商らしく独占取り引きをすることを強要したかも。

 それはたとえ掠め取るぐらいの量であっても、相当大きな儲けになるのだろうから。


 だが、それがまだ世に知られてはいけなかった。

 だから口封じに殺された?

 領主もこの鉱石商殺しを知っていて――いや、もしかすると指示した可能性もあるな。


 待てよ。領主である子爵は、調査する者たちが万一よそで吹聴しないよう、厳しい誓約をかけさせていた。

 もし鉱山の様子どころか、ミスリルが出るとバレたら、その時はどうする気だったのだろう。


 嘘をついているかどうかぐらい、噓発見器よりも優れた魔道具なんかいくらでもある。

 ダッチやシザク達がミスリルの件までは知らないのはわかるだろうが、鉱山に何かあることは勘付いている。

 

 町に帰したダッチ達が心配になってきた。


いつも読みに来ていただき有難うございます。

相変わらず話が進まなくてすみません(;´Д`A ```

あちこち手を出し過ぎてしまった弊害ですね……。


ちなみにたまに近況ノートも書いております。

先月9/28アップには、この小説に関係ないカットなども載せております。

小説が全然動かない時はこちらで呟いているかもしれないので、たまにはこちらも覗いてくださいませ。


『近況ノート:9/28』

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1518725/blogkey/3052244/

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