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第236話 『泣く魔物――Squonk』


 パアッと目の前が開けたと共に、俺は天に向かってまさしく打ち上げられていた。

 視界いっぱいに白い雲が広がり、目の隅に雲の切れ目から青い空が見える。

 反対側に頭をまわすと、緑色の海に一筋の茶色の道があり、その先の地平線に町が見えた。

 

 だあぁぁーーーっ どんだけ高く飛ばしやがった!


 と、俺がロケットでいられたのはそこまでだった。

 すぐに引っ張られるように、森に落下し始めた。


 くそぉっ 俺は道具無しじゃ飛べないんだぞ。


 すぐさま地上に転移しようとした。

 が、それよりも先に俺の体を、強い上昇気流が押し上げて来た。

 明らかに人為的な風。

 下でシザクが風を操作していた。


 すいません、助けてもらって何なんですが、やりづらいです。

 何しろ落ちるエネルギーには勝てず、ある程度の速度での落下は免れないのだ。

 せめて自分でコントロールするなら手応えがわかるのに、人の操作だと動きや力加減がわからず怖くもあるし、何よりも下にいられるとジェット噴射も出来ない。


 しょうがない。俺は衝撃に供えて、エアクッションを自分のまわりに作ると、そのまま某アニメの()()()()()()()()()()の何倍ものスピードで落下した。


「よっしっ!」

 ドズンと、地面に落ちる事なく、俺はギリギリのところで4本の腕に受けとめられた。

 ダッチとミケーが向かい合い、手を組んで待っていたのだ。

 結局、力のないダッチが勢いに負けて転がり、俺は女の子にお姫様抱っこされた体勢でとどまった。

 たまに落ちるのも悪くないかもしれない。


「ふうぅ、とにかく無事で良かった」

 俺を降ろしながらミケーが言う。

「すぐに出て来ないからどうしたのかと思ってたのよ」

「ああ、なんで、あんただけあんなに吹っ飛ばされたんだろ。最後だからなのかな?」

 シザクが少し首を傾げた。


「え、みんなはこんなに飛ばされなかったんですか?」

「そりゃそうよぉ。地上にポイって転がされるくらいだったわよね」

「みんなほぼ同時に出たから、そんなまとめて飛ばれたら、おれも抱えきれないよ」

 シザクが肩をすくめる。

「イテテ、そうだよ。穴ん中はエライ速度だったけどよ、地面に出る時にはゆっくりになったしなあ」

 ダッチが腰を(さす)りながら立ち上がって来た。


 なんだと、じゃあこんな風に発射されたのは俺だけか。

 なんか納得いかねえ。

 ……それともヴァリアスの奴のせいか? それなら十分あり得る。

 辺りを見回すと、もう俺が出てきた穴は消えていた。


「しかし本当に無事に帰してくれたんだな。ジャールはすぐそこだ」

 そう言ってシザクが、緩くカーブする茶色の一本道の先に顔を向けた。

 そこには起伏した地形の先に、樹々の頭から垣間見える町の城壁があった。


 タムラム村から一気にここまで運んで来たのか。そりゃあスピードも出すわけだ。

 あらためて上を見上げると、太陽は雲越しにちょうど真上近くにいた。

 曇り空だが、もちろん雨の一滴も降っていない。 


「やれやれ、本当に助かった……」

 服から土を払いながら、ダッチが鼻を手の甲で拭った。


「とにかくみんな、あの村での出来事は忘れよう。これからギルドに行って契約破棄の手続きをしたら、もう関わらなくて済むからなあ」と、シザク。


「その前にあたし、シャワー浴びたいわぁ」

 ミケーが今更ながらに、クンクン自分の匂いを嗅いだ。

「俺っちは取り敢えず、ビールを一杯きゅーっとやりたいぜえ」

 ダッチがジョッキで飲む仕草をする。


「そうそう、これを」

 シザクが自分のプレートを差し出してきた。「ああ」と、ミケーも自分の首からチェーンを外した。

 礼金のカタか。


「身分証までは要らないですよ。それに結局抜け出せたのはあのオキ……いや、怪しいオッサンのおかげだし。

 でも薬代ぐらいは欲しいですけど」

「あんたホントに人がいいな。そんなんでやってけるのか?」

 シザクが苦笑した。

 

「じゃあギルドの銀行で渡すから」

「手数ですいませんけど、振り込んでおいてくれません?

 私、またこれから村に戻らないといけないので」

「「「えっ?!」」」


「戻るって、何言ってんだ? ちゃんと誓っただろ」

「そうよ、神様に背く気?!」

「悪い事は言わねえから、罰金で済ませとけよぉ」


 彼らに村の実情を説明しても余計混乱させるだけだし、どうせ説得したり天罰について説教されるだけだろう。それにいつまでもグダグダ話してるのも時間の無駄だ。

 だから俺と彼らの違いの決定打で簡潔に言った。


「私、異邦人だし信徒でもないので、神罰関係ないんです」

 みんなが驚いたようにあらためて俺の顔を見た。

「……しかし、確かに創造神様に誓いを立ててたよな」

 シザクがちょっと戸惑いながら言った。

「そうだ、それに神罰が無くても、あの村はヤバいって」

 ダッチがオドオドと説得してくる。


「どうしても戻らなくちゃいけないんです。まだ()()()()も残っているので」

 その言葉にみんながハッとしたような顔をした。

 申し訳ないが嘘はついていない。それにあの誓いには、ちょっと裏技を使ったのだ。


「……そうか、やっぱ仲間は見捨てられねえよなあ……」

 仲間を置いて逃げた負い目があるのか、ダッチが下に目をやった。

 ダッチ、あんたの場合、どうしようもなかったんでしょう。全滅するよりは良かったはずですよ。


 まだ止められたが、俺が断固として決意を曲げなかったので、みんなもしょうがなく諦めてくれた。

「ニコルス氏に言えば、きっと私達なら心配ないと言ってくれるはずですから」


「凄い自信があるんだな。だけど本当に危なかったら、全部捨てても逃げるのは罪じゃないからな」

 シザクが握手しながら言った。

「気をつけてね」

 ミケーの項垂(うなだ)れた耳を、失礼ながら触りたいと思ってしまった。

「……あんたのこたぁ、忘れねえよ」

 ダッチがまた鼻を啜った。

 

 皆の姿が樹々の裾に消えるのを見送って、俺は後ろを振り返った。

 遠く灰色の山々が彼方に見える森の奥へ道が一本、村まで続いている。

 またスカイバッドで飛んで行こう。

 今度は例の炭鉱を探ってみるか。空からの潜入ならあのオーラはしばらくは出ないはずだ。

 それとも例の翁に妨害されるかな。


 あ――。

 そうだ、忘れていた。収納の中に早く捨てたいモノがあったんだった。

 俺は辺りを見回した。


 さすがにこんな道のど真ん中に、アレをぶちまけるのはマズいし、穴に埋めても臭いそうだ。

 どうせ肥やしになるのだから、森に捨てるか。

 俺は樹々の中に入って行った。


 冬でも葉を落とさずに枝を伸ばした樹々のせいで、森の中は薄暗かった。

 だが、鬱蒼と茂った枝葉のおかげか、道のように何もない吹きさらしよりは寒いという感じはしない。

 なんとなくギーレン近くのセラピアの森に、穏やかそうな空気が似ている気がする。

 魔素が似ているのだろうか。


 とりあえず道に近いところよりも奥の方に捨てることにした。あまり手前だと、人が見つけて埋めた跡をうっかり掘り返すかもしれないからだ。

 横に伸びた根や枯草を踏みながら奥に進んだ。


 少し行くと寒い季節に関わらず、その枝にピンク色の木苺のような実をつけている樹があった。

 これは秋に花開き冬に実をつける植物の一種だ。

 冬眠しない動物や魔物たちの大切な食料にもなる。このピンク色の実が黒赤く変化すると食べ頃なのだそうだ。


 こいつの肥やしにしよう。

 俺は根っこを傷つけないように、そっと土魔法でその樹の根元を2メートルくらい掘り起こした。

 そうして収納を開く。


 まず赤錆入りの泥水を瓶から垂らす。そうして次に泥シチュー。

 本当はそんな必要ないのだが、皿を洗剤でちゃんと洗いたい。

 最後に問題の汚物。


 直接掴みたくないので収納から先を押し出すと、後はズルズルと下に固まって落ちていった。

 自分の収納は袋のように口を絞ったり、底を押したりすることができる。任意の物だけ手を触れずに取り出す事が出来るのだ。


 また急に強烈な臭気が発せられたので、急いで周囲の泥をかけた。枯葉と土埃が舞う。肥やしの臭いは収まった。

 

 ふと遠くから、鳥か何かの小動物らしき高い鳴き声がする。

 そう言えばこの森には危険な魔物や獣はいないと言っていた。

 念のため、今更だが辺りを探知する。


 イグアナサイズのトカゲが沢山の足を交互に動かして、枝に逆さまになりながらゆっくりと進んでいた。

 頭と嘴が体の半分くらいあるオレンジと黄色の鳥が、青い小さな蛇を足元に捕まえて啄んでいる。

 探知ギリギリの範囲に、枝の上で遠くを見ている小さな猿らしき姿を捕らえた。

 尻尾が蛇になっていて、背後を警戒するかのように鎌首を揺らしている。


 ああ、ピグミー鵺か。俺は以前ギルドで見た可愛い姿を思い出した。

 (*第120話『モンスターペアレントと試験予約』参照) 


 と、探知を引っ込めようとした際、触手の端にすっと見た事ない動物が見えた。


 そいつは全身がたるんだ皺だらけの姿で、中国犬のシャー・ペイを思い起こさせる姿をしていたが、足先には2つに割れた蹄があった。

 禿げ散らかしたようにところどころにしか毛がない茶色の皮膚には、赤黒い斑なブチがあり、横に垂れた耳や中央にある大きな鼻は豚によく似ている。

 大きさも成豚ぐらいだろう。尻尾は牛に似た形をしている。


 だがその鼻よりも突き出している口顎が猿も連想させる。 

 またその垂れ重な皺肌には大小のイボがブツブツと散らばっていた。

 美醜で分けるなら、間違いなく醜い方だろう。


 しかし一番気を引いたのは、その表情だった。


 そいつは泣いていた。

 鳴いていたのではなく、まさしくボロボロと涙を流していた。その目からの水は深い皺の溝を伝い、汚れた蹄の足元に滴っている。

 

 なんだろう。

 海亀がお産の時に涙を流すが、こいつも何かそんな習性でもあるのだろうか。

 だが視ればみるほど、目の上から垂れ下がる皮のせいで、何かが辛くて泣いているように見える。

 それとも以前見たブリック沼の怪魚『ランカァ・ガー』みたく、元々こういう顔なのだろうか。

 

 こんな事に関わっている暇はないのだが、妙に気になる。

 俺は近くまで2回に分けて転移で近づいてみた。


 20メートル程手前に出た際、ボキッと落ちた枝を踏んでしまったが相手は気付かなかったようだ。足元に気をつけながらそっと近寄った。


 近くで見ると、その皺サル豚はしゃくりあげるような声を漏らし、プルプルと体を震わせている。

 ますます悲しくて泣いているようにしか見えない。


 しかし迂闊に近づくのは危険だ。

 4メートル近くまで来た時になんとか解析を掛けることが出来た。


《 スクォンク  魔物  ―――――――― ため、いつも涙を流している。

  彼らはその ―――――――― 

  体臭はとても臭いが基本的に無害。

  性質は非常に臆病で弱々しい 》


 なんだ、また伏字(ピー)かよ。だからピーって何なんだよ。

 まさかまた呪いのせいとか言うんじゃないだろうな。

 あの村の近くの森だし、関係あるんじゃないのか。


 それにしても風向きで時折鼻にツンと来る臭いは、あいつからなのか。

 先程の汚物とは違う、酸味のある物が腐ったような、あるいは真夏に一カ月以上、水浴びをしていない獣みたいな。

 ……一応毒ではないようだが。


 しかし『スクォンク』って、どこかで聞いた事あるな。俺は収納から本を取り出した。

『よい子のたのしいずかん 『(もり)のまもの』』

 毎回このタイトルを見るたびに、どこか情けなくなるが、なかなか読みやすい。

 ちゃんと頭文字順の目次もあるし、必ず魔物の挿絵が入っている。


 樹の陰からチラチラと魔物の様子を窺いながら、ページをめくった。

 あった。『スクォンク』


『 ――スクォンク―― 森の魔物(まもの)

 全身(ぜんしん)がダブついた皮で(おお)われ、その皮膚(ひふ)には(くさ)(にお)いを(はっ)するイボがある。

 これは(てき)から()(まも)るための異臭攻撃(いしゅうこうげき)(かんが)えれるが、(とく)毒性(どくせい)はない。

 臆病(おくびょう)でいつも(ひど)(おび)えている。

 特性(とくせい)としては、いつも(なみだ)(なが)していて、(つか)まえようとするとそのショックで()()ぎて(からだ)()けて無くなってしまう 』


 ああ、思い出した。

 昔聞いていた『ベストヒットUSA』で知った歌手、フィル・コリンズがいたジェネシスというグループの曲に『Squonk』というのがあった。


 ―― 醜いアヒルの子、地面に落ちる涙 ――

 

 確か地球では、アメリカで目撃例があるんじゃなかったかな。

 ラテン語の名前では『涙で溶けるもの』とかいう意味だったと思う。

  

 こちらでもやはり泣きっぱなしなのか。  


 そのスクォンクは、枯草の上に顔を屈めるようにすすり泣きをしていた。

 近くだとハッキリと『うぇっ おぅえっ えっ……』という嗚咽が聞こえて来る。


 ……なんかこのまま立ち去りづらい。それに魔物だが無害そうだ。

 俺は顔のまわりに風を送って臭いを避けながら、ゆっくりと驚かさないように更に近寄った。


『ヒィギィィィッ!』

 気配に振り返ったスクォンクが、俺の姿を見てビクンと体を強張らせた。泣き声がすすり泣きから一層悲痛になる。


「待ってくれ。虐めたりしないから」

 俺は両の掌を見せて武器を持っていないことをアピールした。

 スクォンクは喉の奥でオゥオゥとしゃくり上げながら、警戒しているのか、俺の顔を泣きぬれた顔でジッと見上げてきた。


「言葉はわからないだろうが、どうしたんだ。腹でも空いて辛いのか?」

 俺はその場にしゃがむと、空中からチーズかまぼこを出してみた。

 これはおやつとして日本から持って来た物だ。

 柔らかいがヴァリアスもたまに酒の肴にするし、俺も好きなので常備していたのだ。


「どうだ? 美味そうだろ。食べるかい」

 ビニールコーティグを取って前にひらひらと振ってみた。

 チーズとかイケるのではないかと思ったのだが、相手は棒状の物を向けられたせいか、また引きこもるように大きな尻を下げて尻込みした。


 ううむ、こちらでもポーにあげたら喜んでくれたのだが……こいつは猫でもないしなあ。


 バクッ! 急に右手に中途半端に掲げていたチーカマが消えた。

 いつの間にかヴァリアスがすぐ横に、ポケットに両手を突っ込んだままこちらに屈んでいた。

 チーカマでサメが釣れたっ!


「コイツはこんなもんは食わん」

 人のチーカマを横から勝手に食ったサメがのたまう。

 奴の姿を見たスクォンクは、一瞬飛び上がるとその場にへたり込んだ。


「あんた、いきなり出て来るなよ。見ろ、怯えさせちゃったじゃないか。

 ただでさえ恐喝顔なんだから、せめて少しずつフェードインしながら来いよっ」

 こいつが徐々に現れて来てもそれはそれでナンだが。


「誰が恐喝顔だっ!?」

 サメが吠える。

 サル豚もどき(スクォンク)がまたその場でビビり上がった。

 もう泣くだけでなく、腰を抜かした尻から涙以外の水が出てきた。


「やめろっ、溶けちゃうじゃないか」

「ああー、コイツはそういう性質だからな」

 哀れな生き物を横目で見ながら、さも当たり前のことのように言う。

 イジメっ子の一番悪質なところは、虐めている自覚がないところだ。


「それより蒼也、またすぐにあの村に戻るのか?

 お前、さっき誓いを立てていただろ。いくら親しい相手だとしても誓いを破るのは、契約を破るのとは違うぞ。

 ましてや神相手に許されるとでも思ってるのか」

 ヒール面な顔に更に凶悪な陰を落として俺を睨んできた。

「もう、圧が強い顔はやめろ」

 俺は奴の鼻面に手を振った。

 奴がムッとして牙をむく。


「言っておくが、俺は神様(父さん)を裏切った覚えはない。

 さすがに俺だって神様をコケにするような真似は出来ないよ。

 それに俺が誓ったのは父さんじゃないからな」

「なに? だが確かにお前はクレィアーレ様の名を出していたぞ。

 オレもハッキリと聞いた。しどろもどろでも誓いは立つんだぞ」


「だけど誓いってのは、何も口に出さなくてもいいんだろ。頭の中でしっかり唱えても有効なんだよな?」

 ミケーが『教えたくないのなら、心の中でだけ唱えればいい』と言っていた。

 俺はそれにかけたのだ。

「まあそうだが―― ああ”っ?!」

 

「だからわざと口でハッキリ言わなかったんだ。

 本当の誓いは頭の中でしたんだよ」

 口で言った言葉は心のこもらない、カモフラージュだった。

 本当はあの時、俺はこう誓っていた。


『 我が神 クレィアーレ様 ―― の99番目の使徒ヴァリハリアスの()()()()()()()()()()()()() ―― の名にかけて、もうこの村には一切関与いたしません 』


「ナんだとぉっ!!? てめぇっ、オレの名にいい加減に誓ってやがったのかぁっ!!

 しかもアッサリ裏切りやがってっ」

「イタタタタッ! 悪かった、そこは謝るよっ。

 見てたなら状況がわかるだろ。あの時は仕方なくやったんだ」

 当たり前のごとく奴はアイアンクローして来た。俺も頭に防御の身体強化をしたが、いつもより強い。思った通りダイレクトな天罰だ。


「ええい、離しやがれっ! だから名前を借りただけだっつーの。

 それにあんただってさっき、俺を空高くふっ飛ばさなかったかっ?!」

「アレは物の弾みだっ。だが、何がどうでもいい名なんだよっ!」

 やっぱりコイツの仕業だったのかよ。


「まともに誓ったら本当に裏切ることになるだろっ。だからそういう()()をつけたんだ。俺はあんたの()()()に誓ったんだよ。

 大体本当に誓いが通っていたら、心の中で唱えたとしてもあんたにはわかったんじゃないのか?

 それに気付いていないって事は、誓いが無効だった証拠だろ?」


 この推測は当たっていたらしい。

 奴は忌々しそうにガチガチと歯を鳴らしながら、やっと俺の頭から手を離した。

 くそぉ~、頭蓋骨が変形しちまうところだったぜ。

 俺は頭を摩りながら振り返った。


 スクォンクは哀れなほど小刻みに震えて、体のまわりに水溜まりを作っていた。

 大きさもさっきより明らかに小さくなっている。

 一番怖がらせてしまった。


「ごめんよ、君に危害を加えるつもりはないんだよ。コイツは顔と態度が乱暴なだけなんだ」

 また文句を言いたそうな顔をした奴に、シッシッと手を振った。

 ちょっと離れててくれよ。

 

 魔物にこんなゼスチャーが通じるかだが、俺はしゃがんで済まなそうに首を傾げてみせた。

 人の気を好意的か敵意か見分ける動物は多い。ましてや魔物なら尚更だ。


 するとスクォンクはその垂れた皮膚の下から見える、黄色い目を大きくするように顔を上げながら声を出した。

 

 今度は俺の方が固まった。

 それは泣き声ではなく、言葉だったからだ。


 それは【……スィマセン……スィマセン……】と言っていた。


「お前、話せるのか?! じゃあどうして――」

 俺は立ち上がって一歩近づこうとした。


ここまで読んで頂きありがとうございます。

ちなみにシャー・ペイの子犬はめちゃ可愛いですね!


次回は仮:『スクォンクと番人』を予定してます。

どうぞよろしくお願いいたします。

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