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第234話 『情報提供』

すいません。

今回もちょっぴり汚物ネタに触れるところがありますのでご注意ください。


「エェ~~っ! 何やってのあんたっ」

 猫娘が金切り声を上げた。

「あいつらが信用出来るわけないじゃんっ!」

 フーッというよりもキーッ! といった感じで眉を吊り上げる。

 ついでに指先から爪まで飛び出した。


「でも、他の人に見られないように閉めただけかもしれないし……」

 プッサンまさか、あんたも記憶がデリートしちゃったのか? それとも念のため?


 若い男もしきりに鼻と口を撫でていたが、

「まあ待て……。まだ絶望的と決まったわけじゃない」と、猫娘に落ち着くように手を振った。

「あんたもまさか1人で来たわけじゃないんだろ。仲間はどうしてるんだ?」


「えと、あいつは……その辺をぶらついてるはずです」

 どこだかわからないが。

「じゃあ、そのお仲間が気付いてくれる可能性はあるんだな」

 そう言いながら女の方に振り返る。

 猫娘はまだ不満そうな顔をしていたが、ふと気がついて爪を引っこめた。

 危ねぇ。アレでうっかり叩かれでもしたら、ミミズ腫れくらいじゃ済まないところだった。


「挨拶がまだだったな。

 おれはシザク、鉱石ハンターをしてる。で、こいつは仲間のミケー」

 若い男シザクが隣の猫娘を親指で指した。

 二毛なのにミケなのか。


「それとそっちの男は――」

「……ダッチだ」

 2人の後ろで中年男が体を起こしてきた。


「私は蒼也といい【 ぐぅもおぉおぉぉ~~ 】

 いきなり牛の(いなな)きみたいな音が響き渡った。

 何となくみんな猫娘ミケーを見た。


「なによぉっ! 仕方ないじゃないっ、たくさん飲んだからお腹が動いたのよぉ」

 パアッと朱色に顔を染めて、また爪を出した手をブンブン振った。

「……確かに腹は何故かタポタポなんだが、……減ってるよなあ」

 ダッチが腹を(さす)った。


「あ、じゃあ、とりあえず腹ごなししながら話しませんか」

 俺はバッグから鍋を取り出した。

 今朝、キリコが持たせてくれた料理があった。


「え……? なに、あんた食料も持ってんの?」

「それ、収納バッグかい? えっ、マジでいいのか?」

「ありがてぇっ! 恩に着るぜっ アチッ!」

 ダッチが2人の間から身を乗り出してきて、また慌てて手を引っ込めた。

 収納に入れてあったので、シチューはまだ熱々だった。


「ええと、ポーション飲んだから、流動食じゃなくても大丈夫ですよね?」

 おそらく絶食状態だっただろうから、普通は重湯からだが、まあ体調が回復しているから大丈夫だろう。

 それにもう3人の目が期待に爛々として手元の鍋に注がれているので、今さら具無しのスープだけって訳にいかない。


 収納の中には常に予備の皿やカトラリーを3人分入れてあった。とはいえ、深皿の1つには泥シチューが入っている。

 泥だけ取り除けばいいのだが、気分的にあれなので、ダッチにはマグカップに入れてポップバード(鶉に似た鳥)クリームシチューを渡した。


「美味いっ! ウマいよっこれ」

 シザクが若者らしくガツガツ食べながら、何度も頷いた。

「うぅ~ん、喉に染みわたるぅ~~っ」

 ミケーもプルプル体を震わせながら食べている。

「こ、こんな、旨い食事はぁ、初めてだぁあ」

 ダッチが半泣きになりながら、むせび食べている。


 良かったなあ、キリコ。みんなお前の作った料理で泣いてるぞ。

「よかったらパンもありますよ」

 収納から拳サイズの白パンを取り出す。確か苺に似た果実から採った天然酵母で焼いたとか言ってたパンだ。

 焼きたてのほんのり甘い香りは、まだ腹の減っていない俺の食欲も刺激する。

 腹をすかした3人には尚更だ。あっという間に10個のパンが無くなった。


「……なんかピクニックみたい。牢屋なのに可笑しい」

 腹が満たされて彼女も落ち着いてきたようだ。俺が食後に出した紅茶を飲みながら、やっと可愛い顔をしてクスクスと笑った。

「確かに。陶器製のカップを持ち歩くなんて、貴族みたいだな」

 シザクがカップを手にしながら不思議そうに俺の顔を見た。


「あ、まあ、今回はたまたまですよ。たまたま……」

 そうだった。

 これはお洒落なティーカップどころか、100均で買ったただのマグカップなのだが、こちらじゃ陶器は一般的に安くない。(ただの土器なら安いが)

 壊れやすい陶器製をアウトドアで持ち歩くなんて、まさしくお貴族様か大金持ちのピクニックでしかやらないだろう。


「ところで皆さんも、ニコルスさんから依頼を受けて来たんですよね?」

 俺は気をそらす為に話題を変えた。


「ああ、おれとミケーはさっきも言った通り、鉱石ハンターが主なんだが、この村にも来たことがあったから請け負ったんだ」

 顔を知っているという事もあって、大人しくしていれば殺さないと、ここに入れられたそうだ。

 先に来ていたダッチも大人しく投降したので、なんとか命まで取られなかったという。だが、一緒にいた仲間は残念な事になった。


 ちなみにあの資料室のドアをこじ開けようとしたのはシザク達らしい。そこを見つかったのだ。それは知り合いでも確かに捕まるな。


 話からすると、ダッチが1番目、シザク達が2番目のパーティだろう。

 そして彼らの後から来たはずの4人組は、村人とやり合った上に全員殺されてしまったようだ。

 その事は彼らの様子を見に来た村長達から聞いたらしい。


『お前たちの仲間はまだいるのか?』と詰問されたが、彼らからすればギルドが勝手に送り込んで来てるのだから知りようがない。

 そうしたら『盗人にやる食事はない』と怒って、水だけ置いていったのだそうだ。

 どのみち食料も不足していたから――本当はとっくに底をついていたのだが――余所者にやる気はなかったのだろうが。


「食事どころか、水すらまともに持って来やがらねえ。あいつら俺っちをハナから生かす気はねえんだよ……」

 ダッチが両手でカップを持ちながら声を落とした。 


「多分それは違いますよ。ここはなんだか時間が変なんです」

 俺は自分が感じた、村人の意識が一カ月前の『赤の月 第4白曜日』を繰り返していることを話した。


「それはおれも思った。

 何しろあいつら最後にやって来た時、何日も経ってるのにおれ達が来た日を昨夜(ゆうべ)とか言ってやがった」とシザクが同意した。

「それにこの村からしておかしい。

 嵐も人も、まるで隠蔽を解いたみたいに急に現れた」

「じゃあただの放置じゃなくて、無意識でやってるってこと? だったら余計厄介じゃない!」

 ミケーがまた眉根を寄せた。


「とにかく村の人達がすぐに殺す気がないなら、チャンスはありますよ」

 時間が経てば俺の護符魔石(アミュレット)に、また魔力を蓄えられる。そうしたら今度はこの檻に仕掛けて突破出来るかもしれない。


「そうだな。あんたの仲間さんも外にいるんだし」

 ダッチが目に希望の色を光らせた。

 すいません。奴には絶対に期待しないでください! とは言えない……。 


 と、そのダッチが急にキョロキョロとあたりを見回した。

「ところで、あの壺はどうした? もしかして捨てに持って行っちまったのかな」

「ええっ、それはダメよっ。あたしだってさっきから我慢してるのにぃ。

 まさかそれまで放置されたら――」

 猫娘も思わずといった感じにモジモジしだした。


「……しょうがねえから、もうあれでいいんじゃないのか」

 シザクが隅に転がっている、水が入っていたと思われるあの金属缶に顔を向けた。

「口が狭いから女には難しいだろうけど、そこら辺にするよりはマシだろ。

 隠す布も無さそうだからおれ達向こう向いてるよ」


 無理もない。何しろ沢山水を飲んだし、ポーションで体も正常になったのだ。

 生理現象も一気に回復だ。

 けれど例の壺の中はすでに満杯である。


「……あの、壺と布ならここにあります……」

 布と壺を出しながら、覚悟を決めて俺は汚物のみを収納し直した。

 うぅ……、ホントに早く捨てに行きたい……。

 そして収納空間を出来るなら洗いたい……。


 最後に用を足したダッチが、ズボンのベルトを締めながら隅っこから戻って来ると俺の隣に座った。いま俺達は鉄格子の手前で車座になっていた。

 隅に布をかけている壺のまわりには、ガッチリ空気の壁を作った。もちろん防臭の為だ。

 始めからこうしておけば良かったが、もう後の祭りである。


 とにかく今度こそみんな人心地ついたようなので、あらためて訊ねることにする。

「乞食みたいにボロを着た男を見ませんでしたか? どうもこの怪現象にそいつが絡んでるようなんですが」

 俺は自分が今朝裏庭で見た事や、壁から立ち上る赤いオーラの話をした。

 ただ業務日誌の件だけは控えた。村人に対する変な先入観を与えたくないせいもあったからだ。


「……残念ながら乞食もオーラも、おれ達は見てないなあ」

 シザクがミケーに顔を向けながら言った。

「あたし達すぐに役場に向かったのよ。それで外に出ないうちに捕まっちゃって……」

 ミケーも頷く。

 ダッチはジッと床の一点を見つめながら黙っている。


「じゃあ『オッズ』っていう鉱石商人のことは何か知りませんか? ここいらで行方不明になった人なんですけど」

 今回の事件に関係ないかもしれないが、そっちの情報も得たい。


「その依頼は知ってる。おれ達もついでに引き受けたからな。

 ただ残念ながら、こっちに来てすぐに捕まったから、そっちも皆目見当がつかねえ」

 と、シザクが軽く肩を竦めた。

 嘘をついているようには見えない。情報を隠しているわけではないようだ。

 隣でダッチが鼻を(こす)った。


「じゃあ何か他に知ってる事はありませんか。ちょっとした事でもいいんですけど」

 するとシザク達の眉が八の字になった。


「すまないが、あまりこの村の事は話せないんだ。

 この封じ錠で少しは緩和されてるが、おれ達には誓約がかかってるから」と、自分の肩を見た。


 いた――!

 

 魔封じのせいでハッキリとは視えないが、シザクと顔をしかめるミケーの右肩に辺りに何か透明な(もや)のような塊りが蠢いていた。

 俺には聞こえないが、きっと彼らの耳元で『キチキチ』とあの耳障りな鳴き声で囁いているに違いない。

 ただダッチの肩には見えなかった。彼のはまた別のところに付いているのだろうか。


「そういや、あんたの誓約は? 俺っち達の後から契約したんなら誓約させられると思うんだが」

 じっと視ていたら、逆にダッチが不思議そうに訊ねてきた。


「ええ……と、……解呪しました」

「「「ええっ?! 解呪したっ!?」――出来たのっ?」 ――っ」

「……こっちも詳しく言えないんです。ちょっと企業秘密でして……」

 奴の事を話したらもっと期待させてしまいそうだし、まず面倒だ。戻ったらニコルス氏に聞いてください。


 少しの間、3人は俺のことをまじまじ見ていたが

「まあ、確かに人にバラさない奥の手とかはあるからなあ」 

 ああ、そっちにとってくれたか。まあいいや、あいつは確かにリーサルウェポン(奥の手)だからなあ。


「そんな訳で申し訳ないが、あまり役に立ちそうな事を言えないんだ。

 だが、助けてもらった礼はするぜ。それがハンターの約束事ってもんだからなあ」

 そう言いながらシザクがミケーを見た。彼女も頷く。

「いや、そんなお礼なんて……いいんですか?」

  

 日本と違って個人の救助は実費である。

 相互協力の精神があっても、そこには助ける側の必要経費(薬とか)と命の危険が伴う。

 救助依頼には、それなりの報酬額を当人(もしくは身内)が払うのが当たり前になっていた。

 だからこそ救助ハンターという仕事が成り立つのである。

 なのでハンター達は依頼をせずとも、命を助けてもらった場合には礼金を相手に渡すのが暗黙の了解となっていた。


 郷に入っては郷に従え。日本人は奥ゆかしさを美徳とするが、ここはヘタな遠慮は不要である。

 聞くところによると救助の際、カタとして相手の身分証(プレート)を預かるものなのだそうだ。中には無事に戻った途端に逃げたり、しらばっくれる輩もいるからだ。


「ただ渡したくても、この通り防具から何から取り上げられちまってるからなあ」

 と、シザクが黒みがかった深緑色の頭を掻いた。

「いや、大丈夫ですよ。そこは信用しますから」


 そういった俺たちの会話を、ずっと黙って聞いていたダッチがおもむろに顔を上げた。

「乞食の方は見てないが、俺っちも赤い光は見たぜ」

 俺たちが注目すると、少し恥ずかしそうに肩を丸めた。


「助けてもらってアレなんだが、……その、俺っち、あんまり持ってねえんだ。

 戻ったらギルドに違約金も払わなくちゃなんねえし……。

 だから、その代わりと言っちゃあなんだが、情報で勘弁してくれないかい?」


「あんた、こんな状況なら出来る情報は共有するのが当たり前でしょ。礼とは関係ないよっ」

 ミケーが不愉快そうに眉をしかめた。

「それにそんなモノ見たなんて聞いてないよ」

「そ、そりゃあ、あんたらが来た時にゃあ、すでに俺っちは腹も空いてたし弱ってたんだぜ。喋るのも億劫だったんだ」

 ミケーがまた爪を出しそうで、ダッチが身を引きながら弁解した。

 

 確かに彼はシザク達より14日程前から拘束されているのだ。まだ元気だった彼らから質問攻めにあったら、口を開くのも億劫になるだろう。

 しかし待てよ――


「待ってください。ダッチさんは情報を喋れるんですか?」

「ああ、俺っちはいっち(一番)始めの依頼だったかんな。こんな大事になるとは向こうも思ってなかったんだろ。誓約はまだ無しだったのさ」

 少し得意げに片方の口角を上げた。

 それを見てまたミケーが「ズルーい」と口を尖らせる。

 

「仕方ないよなあ……。

 彼らが帰って来なかったから、ギルドがこの件を重く見たんだから」

 シザクが軽くため息をついた。

 

「なっ、情報を礼金代わりにってことに出来ないかな?」

 ダッチが大きな目を上目遣いにしながら俺を見てきた。

 こっちとしては情報でも有難いが、2人と不公平にならなければいいんだが。

「……それが有力な情報なら」


「そうだなあ、あんたここら辺じゃ見かけないけど、そちらさんと同じくいつもは他所でやってるんじゃないのかい?」

 と、ダッチが2人を指した。

「ええ、まあ、ここら辺は初めてですけど」

「じゃあ、依頼主の子爵様の噂は知ってるかい?」

「噂……」

 シザク達も首を振った。


「それじゃ、子爵の台所事情も知らないかな?」

「いえ、全然」

 考えてみたら依頼主の事は全然気にも留めてなかった。ただ、貴族だから世間体とか知られたくない事なのだろうと。


「ザザビック辺境子爵、ガーランド様はさ、こういう痩せた領地の持ち主によくある、経済状態があまり芳しくない、つまり貧乏貴族ってこと」

 ダッチの口が段々と滑らかになってきた。

「だからなのか、生来なのか、節約家というよりケチん坊でね。

 以前、干ばつで農作物があまり採れなかった年も、変らない税率で年貢を収めさせたし、川が反乱した時も自分は指示をしただけで、そこの地主に修繕させたんだ。

 屋敷の中じゃ客がいなければ、割れやすい陶器の食器なんか使わないって噂があるぐらいだ」


「それが……情報なんですか?」

 正直依頼主のお家事情なんかどうでもいいのだが。

「だからさ、そんな締り屋なのに変だろ? この村と1週間連絡がつかなくなっただけで、金を出して人を雇うなんてさ」

 手錠をつけたままの両手をヒラヒラさせた。 


「で、ちょいと行く前に聞き込んだんだ。そうしたら面白い話があったよ」

 ぐっとお茶を飲み干した。

 俺はみんなの空になったカップに、また紅茶を注いだ。


「2カ月ほど前に、子爵がこの村を視察に来たらしいんだ。今まで代理の差配人がたまに来るしかなかったのに、領主様直々にだよ。

 なんでも今度から農作物に頼らず、鉱物の採掘に力を入れる方針に変えたと言っていたらしいが、それでも他の村や町を見回らず、視察したのはこのタムラムだけだったそうだ。

 他にも鉱山のある村はあるのに、急にこの村だけ入れ揚げ始めたんだよ」

 

 更にダッチは得意げに話す。

「それに例の鉱石商(オッズ)も、同じ頃からこの村に頻繁に出入りするようになったんだ。

 以前は月一(つきいち)だったのが急に頻繁に通うようになったって、女房が言ってたからなあ。

 で、俺っち、なんとなくピンと来たわけさ。あの鉱山に何かあるぞってね」


 俺たち3人は顔を見合わせた。

 確かに依頼の内容も、村の様子以外に、必ず採掘場が無事かどうか確認して来ることだった。


 若者達よりハンターランクは下だが、経験値を生かしたスキルは中年男の方が高かったようだ。


 ダッチ達のパーティは村の中を簡単に確認した後、すぐに鉱山に向かったそうだ。

 その途中で急に嵐になった。

 雨風を避けるためにも採掘場に駆け込んだが、穴の奥にはただならぬ気を発した赤い光を放つ霧のようなモノが漂っていた。


「始め防御システムかと思ったさ。だからなんとか突破出来ないかと3人であれこれ思案してたら、カンテラの灯りに村の奴らが集まってきて……」

 それから少し声を落とした。 

「……ギルドから来たって言ってるのに、いきなり仲間の頭をカチ割りやがったんだ」

 その時のことを思い出したのか、ふと目を伏せた。


「俺っち達を見つけた時、始めは盗人とか怒鳴ってたが、まだ話せてたんだ。

 なのに、さっきの赤い霧がそいつらの足元に流れてきたと思ったら、急に何も言わずに斧を振り降ろしてきやがった。あっという間に2人やられちまったよ」

 ダッチがズズッと鼻を擦った。


「それはオーラ、いやその霧がそうさせたと?」

 シザクとミケーの2人は、赤いオーラ自体を見ていないので、半信半疑の顔をしていたが、俺は信じられると思った。

 俺も追っかけまわされていた時、番人のオーラが急激に凶悪化した変化を目撃しているからだ。


「こう見えても俺っちは、ちょいと隠蔽が使えるんだ。それでその場を一旦逃げられたって訳さ」

 しかし俺もそうだったが、逃げ出そうとした門や壁はあの不気味な赤い光で覆われていた。アレには触れちゃいけない、彼も本能でそう思ったそうだ。


「ずぶ濡れで寒さも限界だったし、それで――」

 前を向いていたダッチの大きな目玉が、更に剥かれたようになった。

 俺たちも檻の外に振り返った。


 階段の陰にいつの間にか男が立っていた。

 男はゆらりと明るい光の中へ出てくると、無表情でこう言った。


「……出してやろうか?」

 それはスタン・ハンセン似の姿、ここの村長イワンのオッサンだった。


ここまで読んで頂き有難うございます!

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