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第233話 『監禁 ただ今続行中!』

ちょっぴり汚い描写がありますので、ご注意ください。


 ここの建物に防衛システムはあるが、それが働いていない通常世界でも俺は探っていたはずだ。

 だけど情報を得るのを急ぐあまり、上っ面しか見てなかった。

 地下室の可能性という意識が抜けていたのだ。


 確かに探知すると足下に、まわりの防衛シールド以上の力が働いているのがわかった。

 それはブラックホールみたいに触れる探知の波を吸い込んで、まさしく地下の黒い深淵のように感じられた。

 まわりのシステムと違って弾くタイプではないようだ。

 しかも強力で、それ以上何もわからない。


「元々牢屋じゃなくて、採掘した銀を一時置いておく隠し倉庫なんです」

 プッサンも自分の足元を見ながら言う。


「こんな辺鄙な村ですから、まず犯罪らしい事件は滅多に起こりません。

 あってもせいぜい喧嘩ぐらいなので、そんな時は納屋にある魔物用の檻を使ってました。

 ただ今回は、用心のために地下に入れると村長が……」


 地下室は隠し倉庫のため、頑丈で魔力遮断の力も強い。

 確かに危険とみなした奴なら、そっちに入れるかもしれない。


「じゃあその人達に会わせて下さい。

 彼らが盗賊か、本当にギルドからの使者か、私が確認しますから」

 もう後者確定だけどな。


「……すいません、入れないんです。鍵がないので……」

 プッサンが申し訳なさそうに肩を丸めた。

 どうも鍵類はいつもオッサンが持ち歩いているのだそうだ。


 オッサンが戻って来ないとなんとも出来ないのか。俺はもどかしさに頭を掻いた。

 彼もまた済まなそうに横を見た。

 と、急にプッサンが首を横に突き出した。

 

 彼の視線の先にはもう1つのテーブルがある。

 テーブルと言っても、無骨な労働者たちが通う安酒屋によく置いてある、丸太を縦切りにしてカンナをかけただけの天板に、枝のコブをそのまま削りもせずに脚として組み合わせた、樵が山小屋の自分用に作ったような洋卓だ。


 地球製の機械で大量生産された既成品に比べれば、とっても味わい深い天然素材の手作り製なのだが、こちらではただ粗野な代物だ。

 薄い天板に細い脚で支えられたテーブルが上品なのだそうだ。


 一緒に置いてある椅子も、背もたれの無い無骨一辺倒のベンチといったとこだ。

 こちらの脚も人の足のように太い。


 そしてそのぶっとい厚みのチグハグな脚の陰に、黒っぽい革の小さなポーチが落ちていた。

 いや、ポーチというより筒かな。

 革をクルっとロール状に丸めて輪にした紐を、何かの動物の牙に引っかけて止めている。

 その隙間から赤金色の金属の棒がはみ出していた。


「あれ、それってもしかして……」

 その席の辺りは、確かオッサンが座ってゲームをしていた場所だった。

 プッサンが立ち上がるより早く動くと、俺はその落とし物を拾った。

「この中にその鍵はありそうですよね?」

 キーケースを目の前に持ち上げた。


「あぁ、もう、村長……」

 プッサンが頭を抱えるように呻いた。

 俺がここにやって来た時、書庫の鍵が挿しっぱなしになっていたのだが、もうだらしなさ過ぎるぜオッサン。

 でもおかげで助かった。

「じゃあ案内してもらえますか」


 彼も村長がゲームをやり始めたら止まらないのを知っていて、予測ではあと半刻(約1時間)は早くとも戻らないかもしれないとは考えているようだ。

 ただそれでも上司を裏切るのは気が引けるし、早く戻って来る可能性もあるにはある。

 そんな心配性の彼を説き伏せて、俺は牢屋に案内してもらうよう促した。


 しぶしぶ入れてくれたのは、カウンター奥の3畳ほどの炊事場。

 そこには竃と水桶、簡単に洗い物をする桶、食器棚、小さなテーブルと丸椅子が1つ置いてあるだけだった。

 足元はただの石造りの床で、床下収納のような戸は見当たらない。


 するとプッサンが食器棚の下の目立たない止め金具を外した。そのまま横板を押すと、棚が横に滑り動いた。

 後ろに3㎝幅ほどの枠があり、その上下にレールが付いていたようだ。

 棚が動いた後には黒い金属製のドアが埋め込まれていた。


「出来る限り短時間でお願いしますよ。いつ村長が帰って来るかわからないんですから」

 俺の顔をチラチラ振り返りながら、鍵束から判子のように面に記号が刻まれている鍵を扉にあてがった。


 ギキィィィ……と、軋み音を立てて黒い扉が上に上がっていった。

 黒い闇の中に射しこんだ光が、石の階段を浮かび上がらせる。

 プッサンが炊事場の柱に引っかけてあったランプを持って、先に階段を降りた。


 暖房はついていないというが、中は意外と上よりも寒さが和らいでいた。

 秋ぐらいの体感だが、地上に比べればずい分マシだ。

 地下は冬暖かいというのは本当なんだな。

 

 階段下はすぐに壁になっていて、そこにまた黒いドアがあった。

 表面には赤い色で魔法式らしき呪文が描かれ、上部には小さな覗き窓が開いている。

 

「あれ、おかしいな。今朝オイルを確認したのに」

 ドア横に付いているランプが消えているのを見て、プッサンが首を傾げる。

 いつもは入った時だけ点けているが、さすがに人がいるので外の灯りだけは小さく灯しておいたのだと言う。

 それを聞いて嫌な予感がした。


 中を覗いてみたが、真っ暗で何も見えない。

 音も同様だ。

 耳を澄ましたが何も聞こえない。

 プッサンを急き立ててドアを開けさせる。


 慌てて中に入ると、黒い金属製の格子戸にぶち当たりそうになった。

 そこであらためてランプを近づける。


 檻の中には3人の人間が毛布に(くる)まって床に転がっていた。

 それぞれこちらに背中を向けるか顔を伏せていて、ランプの光だけでは暗くて表情がまったく見えない。

 というか、全く動かないのだが。

 しかも何だか異臭がする。これはカビや湿気の匂いじゃない。

 

 声をかけてみたがまったく反応がない。

 流石に彼もちょっと様子がおかしいと感じたようだ。

「寝てる……のかな。今朝はドアを開けたらすぐに起きて来たのに」

 プッサンが不穏な事を呟く。 


 思わず鉄格子を掴んだ瞬間、手から力が抜けた。よく見ると金属の棒にも魔法式が刻まれていて、触れると魔力や体力を吸収するようになっていた。

 まるで人喰いダンジョンの壁のようだ。


「開けて下さいっ 早くっ!」

「え、でも、それは危険ですよ」

 この後に及んでまだプッサンが躊躇する。


「いいからっ! 死んじゃってるかもしれないんですよ。

 さっきも言ったように、本当に使いの人だったらどうするんですっ!?」

 だが彼はまだまごまごしていた。

 ええいっ、ここで無理やりに鍵を奪ったら後が厄介か。


「じゃあ私が入ったらすぐに扉を閉めていいですから、早くしてっ!」

 俺の剣幕に押されて、泣きそうな顔をしながら檻の鍵を開けた。

 

 勢い込んで入った際、戸口のそばにあった金属製の壺を蹴り飛ばしてまった。ガラガラと大きく音を立てて転がったが、その物音にも3人はピクリとも動かない。

 中に入ってすぐに光玉を打ち上げた。

 檻の中が昼間のように明るくなる。


「しっかりっ 聞こえますかっ?」

 俺はまず手前に倒れている男の前に屈んだ。

 ぐったりしているが、息はあるようだ。続けて他の2人も確認する。

 

 2番目の壁際の男も生きてはいた。だが呼吸が浅いし、心臓の鼓動も弱い。

 少し離れたところにいた3番目は獣人の女だった。こちらはまだ3人の中でも比較的反応があり、俺が呼びかけると微かに瞼が動いた。


 毛布の前を剥ぐと、手は前にまわされていたが、その両手には魔力封じの手枷がはめられていた。

 おかげで状態を解析しようにも、魔力を吸われて困難だった。

 

 外すように言うと、流石にこれは鍵ではなく、かけた術者のオッサンの力が必要らしい。

 うぬぬぬっ、オッサン本当に面倒な事しやがって。


「今朝はこんな様子じゃなかったんですか!?」

「ええ、そうです。まだ怒鳴ってくる元気はありましたよ。少なくとも1人は……」

 訳が分からないという感じで、プッサンがおどおどと答える。

「何でだろ。ここはそんな凍死するほど寒くないはずだし……」


 一番弱っていそうな男の手の甲をつまんでみる。

 だがそんなテストをする以前に、まだ年寄りでも無さそうなのに皮膚がしなびている。

 これは重度の脱水状態なのでは。

 

「医者を呼んで下さいっ! みんなヤバくなってるっ」

「え、で、でもっ――」

 プッサンの眉が思い切り八の字になる。


「いいからっ とにかく呼んできてっ!」

 俺の大声に酷く困り果てた顔をしながらも、階段を駆け上がって行った。

 

 プッサンがいなくなったので、収納から空のペットボトルを取り出して水を入れようとした。


 しかしさっきからこの臭いは何なんだ。彼らからしてるわけじゃないみたいだが。

 カビ臭さじゃなく腐臭というか、公衆トイレの匂いみたいな――。

 ――あれかっ。


 部屋の隅に防水布が被された桶が置いてあった。臭いはそこからしていた。そばに石灰の粉が入った小さな壺もある。

 だが、もうそれで消臭しきれないくらい、汚物が溜まっているのだ。

 それなのに飲み水らしきものは見当たらない。

 さっき転がしたミルク缶みたいなのに水が入っていたようだが、中はカラッカラだ。


 ――あ、この汚物、プッサンに処理させれば良かった。

 でも、彼じゃ持っていけないかもしれない。……仕方ない。

 一時的に汚物桶を収納した。


 ううっ、泥水と赤錆(偽ウィスキー)に泥んこシチュー、おまけに排泄物と、俺の収納空間がゴミ箱になってしまった。

 目先を変えれば畑の肥料となるのだが、都会っ子の俺からしたらもう汚物でしかない。

 早くどこかに捨てに行きたい……。


 ペットボトルに水魔法で、底から湧き出るように水を満たした。

 そうして調味料として常備していた、塩と砂糖を少量、水の中に入れてよく混ぜる。

 簡単経口補水液である。


 始めは女からと思ったが、奥の中年男が一番弱っているのでそちらから飲ませる。

 意識がない相手に水を飲ませるのは、気道に入る恐れがあるので本来なら非常に危険な行為だ。

 しかし、もう四の五の言ってられない!(*実際は止めましょう)

 

 男を横向きに寝かせ、頭を片手で支えながら口に少しだけ水を含ませる。

 そうして首に手を当てて、まさしくマッチ箱を渾身の念力で動かす超能力者のように、ほんの少しずつ水を動かした。


 初めて水魔法を発現させたときだって、こんなに難しかったことはない。

 本当に魔封じ手枷、厄介な代物だ。


 けれど俺だって以前に比べてパワーが上がっているのだ。

 まったく歯が立たないわけじゃない。

 息を止めるほど全力をかけて、じわじわと水を動かす。もう魔封じと根比べだ。

 それでゆっくりとだが、なんとか食道に流し込むことに成功した。


 四苦八苦しながらも、なんとか200ccほど飲ませる事が出来た。


 次は手前の若い男。こちらは100ccほど飲ませた時点で少し反応があり、無意識に自分で飲みこんだ。

 よしよし良いぞ。


 最後は女だな。

 オレンジ色に赤いメッシュの髪と、黒いノースリーブから出た腕の滑らかな短毛。

 決してわざと触ったのではないが、肌ざわりがちょっとポーを思い出させた。


 三ツ口をそっと開けると、牙が見える。やっぱり肉食系か。

 そっと水を口に含ませた時、ばちっとアメジスト色の月の目が開いた。


 ブフゥッ! 次の瞬間、俺は顔に水を吹かれていた。

 

「ふぁっ! ナ、な、なに……っ?!」

 咄嗟に女が転がるように身を引く。


「待った! 大丈夫っ。水だから、水を飲ませようとしただけだから」

 俺は顔をびしょ濡れにしたまま、ペットボトルを差し出した。

 こういう時すぐに、ひっかかった水を吹き飛ばしてしまうと、毒を飲ませたと勘違いされる。

 だからわざと拭ったりせずにいたのだが、彼女は四つん這いの低姿勢のまま、こちらを睨んできた。

 こちらを威嚇するように見る姿は、豹というより大きな猫だな。

  

「……それ、ただの水じゃないでしょ。何か味がする……」

「そりゃあ経口補水液だから――」

「はぁ?」

 あー、こっちではそう言わないのか。


「えーと、砂糖と塩が入ったお水です。とにかく毒なんか入れてないから」

 ひとまず証明するためにゴクゴク飲んで見せた。うん、まあ甘い水だな。

 すると猫娘の喉もゴクンと鳴った。


 俺が渡した水をクンクン匂いを嗅いだあと、ひとくち口に含むとゴクゴクと飲みだした。

 ああ~、そんなに一気に飲んじゃ――

 しかし思ったより元気だった彼女は、一気に半分近くの水を飲み干してしまった。


「はあぁぁぁ……。生き返るぅ~……」

 ペットボトルを両手で持ったまま、彼女が肩の力を抜いた。

 俺もようやくぶっかけられた水気を切った。


「それ全部飲んでいいですよ。まだありますから」

 そう言ってもう一本の空のペットボトルを出した。そうしてこれにも同じように経口補水液を作っていく。

 

 彼女はそれを不思議そうに眺めながら訊いてきた。

「ねえ、もしかして……あんた、魔力封じされてないの?」

「ええ、私はギルドから派遣されたきたので」


 ドンッと、ペットボトルを床に乱暴に置いた。

「あたし達だってそうよっ! ギルドの依頼で来たんだからっ」

 その大声にか、手前に転がっていた若い男がビクンと体を動かした。

 続いてモソモソと少し頭を起こす。


「起きたっ。ねえあんたっ、水よ。水飲みなさいよ」

 猫娘がすり寄るように水を渡そうとしたので、俺は新しく作った方を彼の前に持っていった。

「取り敢えずこれ飲んでください。ゆっくりね」


 男は俺とペットボトルを見ながら、少し戸惑ったようだ。

 だが隣で彼女が水を持ちながら頷いているのを見て半身を起こしてきた。


「あ~っ、だからそんなに一気に――」

 やはり喉が乾いていた男は一気に飲んでしまい、そして盛大にむせた。

「だから言ったのに……」

 俺は男の背中を擦りながら、念のため回復魔法をかけてみた。

 だがやはり手枷にほぼ魔力を吸収されてしまう。


「……あんたも捕まったのか」

 やっと咳が落ち着いた男が、顔を上げてきた。

「いえ、助けに来たんです。ほら」

 俺は拘束されていない事を示すように両手を出した。

 男がルビー色の目を大きく開く。


「これは……光玉か」

 上の光玉を直に見て目を細めた。

「じゃ――」


「詳しい話は後で。こっちの人がまだ危ないので」

 男の言葉をさえぎって横を通ると、まだ奥でぐったり横たわっている中年男の傍へいった。


「ああその人、あたし達よりずっと前からここにいたみたい。

 なのにあいつら、食べ物どころか水もまともに持ってこないのよ。

 水だってずい分前に置いていったきりだったんだから。

 もう放置よ、放置っ」

 猫娘が文句を言いながら、さっき転がしたミルク缶のような形をした空の水壺を見た。 


 やっぱりプッサンが今朝と言った『今朝』は、()()()()のことじゃないんだ。

 オイルや水はとっくに切れていたし、代わりに汚物入れは一杯だった。

 あれは3人でも半日やそこらの量じゃなかった。

 

 そういや、ゴディス氏は昨夜バラバラに盗賊が見つかったと言っていた。

 別々の日に来たはずなのに()()()()()()()()()()されていたなら、その昨夜というのはもしかして最後のパーティが来た日のことなのか?


 いや、今はそれよりも応急処置だ。

 男の生気のない白い顔には、目の下にくっきり青い隈が出来ている。

 頬骨が出ているというよりも、頬がこけて茶色の髭の下から見える唇は青紫色だ。

 もはや死相だ。


 本当は直接生命エナジーを与えられれば良いのだが、この忌々しい手枷のおかげでほぼ無効になってしまう。

 それじゃアジーレダンジョンで、ヨエルにエナジーを注ぎ込んだ時にダンジョンにほぼ吸収されたのと同じ結果になりそうだ。


 どうしよう、もう一度水を飲ませてみるか。 

 猫娘からペットボトルを受け取って、また水を詰めた。


 待てよ。いくら魔封じといっても、さっき俺の渾身の水魔法は完全にはブロックされなかった。

 こんな小さな村の役場が使ってるような代物だ。威力もそれなりなんじゃ。


 俺は右手から護符腕輪(アミュレット)を外した。

 神様御謹製の魔力バッテリーでもあるこれなら、パワーで対抗出来るんじゃないのか。


 そしてこういう時の為に、ギーレンでリリエラに相談しながら買ったポーションがある。


 ここでのポーションというのは知っての通り、魔法薬である。

 薬草や動物などから取れる生薬のエキスと、体を正常にする()()()()()()魔素エキスがブレンドされている。

 口に入れれば胃に到達しなくても、弱った体を回復させるように速攻で駆け巡るはずだ。


 俺は意識不明の男に付いている手枷に、腕輪を引っかけた。

 途端に手枷が淡い青と白い光を放ちだす。

 キャパを越えて吸収できない魔素を放出しているんだ。

 その隙に男の口にポーションを含ませた。


 青白かった男の顔色に、少しずつ赤みが差してくる。

 血液が巡り始めた。

 探知で診ると、先ほど胃袋に入れた水はもうなかった。


 妨害されないうちに追加で胃に水を送り込む。

 ちなみに胃の中で直接水を形成させると、体内から水分を引っ張って来てしまうことがあるために注意が必要だ。


 入れた水がみるみるうちに吸収されていくのがわかる。

 けど、どのくらいまで飲ませて良いんだろ?

 思うまもなく吸収する速度が落ち着いてきた。胃袋に水が溜まっていく。

 ストーップ。


 ペットボトルの残りからすると、1Lくらい飲ませてしまったか。

 容態を確認すると異常なしになった。よしっ、やったぜ。

 げふっと男が無意識にゲップをした。


「なんかスゴいの持ってるわね、あんた」

 横に来た猫娘がリングを興味深そうに見た。

「あ、これ? 父さんからのプレゼントで」

 機嫌良くなった俺はつい自慢したくなったが、見ると手枷の光が段々と小さくなっていた。

 慌てて手枷から護符(リング)を外す。


 調子にのって使い過ぎたか。

 もうアミュレットのバッテリーが尽きかけていた。

 考えてみたら水魔法でもパワー全開だったし、今もほとんど無駄に散らしちゃったからなあ。


 残り2本のポーションを2人にも渡す。

 基本、疾患や障害の回復だが、体力を補うエキスも入っている。

 薬を飲み干すと、彼らも顔つきから元気になった。オーラの色も良い。


「ありがとう。ホントに助かったよ」

 2人が口々に礼を言って俺の手を握った。

「そいつももう大丈夫なんだよな。じゃあ起こしてとっとと、ここをずらかろうぜ」

 若い男がそう言って立ち上がろうとした。


「待った。そんな急がなくても大丈夫だよ。

 さっきプッサンに医者を呼んで貰うよう頼んだとこだから」

「え? 誰に頼んだって?」

「ねえ、助けに来たって言ったけど、ここ戸が閉まったままなんだけど……」

 猫娘が戸を軽く押しながら眉を曇らせた。


「ああ、それはそうしないと、彼が納得しなさそうだったから」

「その彼って、仲間?」

「ううん、この役場の人。

 君たちに水を持って来た――」


 言いながら俺も状況を理解した。

 彼らの顔がみるみる泣きそうな顔に変化していく。


「えっ、でもドアは開けたままだし、……さすがに他の人が気づくでしょ」

 しかしよく見ると、確かに手前の黒いドアは開け放されたままだったが、正面の階段上は薄暗く闇に消えていた。

 上の扉が閉まってる?!


 地下牢に俺まで収監されてしまった。


ここまで読んで頂きありがとうございます!

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