第226話 『湯殿★防衛戦』
ちょっとだけHな話になります(;*´艸`*)
「すいませんっ 出ますっ! ごゆっくりどうぞ」
俺は慌てて湯舟から出ようとした。
「なに言ってんのよ 。あたし達、あんたに会いに来てるんだからあ」
ブロンド女に肩を押し戻された。
ち、近いっ! ……オッパイが。
「もうここに来るまでに冷えちゃったぁ。あたい達もはいるよぉ」
バシャンと、赤毛のギャル娘が勢いよく入って来た。
「もぉー、お湯が跳ねるでしょっ」
ブルネットヘアの女が、赤毛に文句を言いながらスッと褐色の太ももを湯に入れてくる。
慌てて俺は反対側の隅に移動した。
「ふぅぅ、暖ったか~い」とブロンド。
「ねえ、どうしてそんな奥に行っちゃうのぉ」
赤毛が湯を波立たせて近づいてくる。
「待てっ! ストップっ! それ以上来んなっ」
俺は両手を突き出しながら、横を向いた。
湯気があるとはいえ、到底誤魔化しきれないようなボディライン。
LEDのように鋭くないランプの柔らかい明かりが、逆に生々しくその肌を浮かび上がらせて来る。
さすがにヤバい……。
だが、俺が毅然とした態度(?)で示したにも関わらず、彼女たちは人の話を聞かずに、すぐ傍までやって来てしまった。
「うっふふ、別にとって食ったりしないから、仲良くしましょうよ」
違う意味で食われそうなんだが。
右にブロンド、左に赤毛、そして目の前に褐色のブルネットが来てしまい、逃げ場を失った。
もう思春期の中坊のように、身を縮めるしかない。
「それにあたい達、このまま帰ったら村長に怒られちゃうのぉ。
いても良いでしょー?」と赤毛が、腕を掴んで胸を押し付けて来た。
俺は慌てて水に圧力をかけて押し返した。
なんて気持ちいい弾力なんだ。危険過ぎるっ!
「もぉー、なによぉ。あたいじゃはお気に召さないってことぉ?」
赤毛がぽってりした唇を少しすねたように尖らせる。
「違うっ! いや、そうじゃなくて、あの村長の差しがねかよっ」
「そうよ。大事なお客さんが来た時、接待で呼ばれたりするの」とブルネット。
「そうそう、こんな嵐の中、来客ってホント? って思ったけど、本当だったんでこっちもビックリだわ」
可笑しそうにブロンドが、手をヒラヒラさせる。
その陽気な雰囲気とは違って、ふんわりと髪をアップし、さらした白い首筋に伝う水滴が妖艶な罠を思わせる。
「……接待とか言って、本当は何か聞き出すつもりじゃないのか?
第一なんで3人も必要なんだよ……」
女だと思って甘く見てはいけない。
あのダンジョン騒動の時、ジゲー家の刺客には女もいたのだ。ここは丁寧語なんか使わず、ワイルドに接しないとナメられそうだ。
決して若い女相手だから男らしく見せたい訳ではない。
「聞き出すってナニをぉ?」
本当に知らないと言った感じで、ギャル娘がやや垂れ気味の翡翠色の目を大きくする。
「何か知らないけど、あたし達、ただお客さんの相手するためだけに呼ばれてるのよ。
面倒なことはやらないわよ」
ブロンドの女が大きく肩をすくめる。そうすると豊満な胸が、湯の中をたぷたぷ上下するのが見える。
決して厭らしい気持ちで見ているのではない。
監視しないと何を仕掛けて来るか、油断ならないからだ。
悪いが解析させてもらった。
確かに彼女たちは、この村の娼婦たちのようだ。
ほぼ飾りにしかならないような護符を、腕輪かネックレスにしているだけで、能力もほとんど一般ピープルくらいしかない。
ただ3人とも何のシャレなのか、お水系の持ち主で、中でもブロンドがそこそこ使えるようだ。
だけど俺に比べたらパワーは弱い。
能力は警戒しなくても大丈夫だろう。
しかし何故かスリーサイズや、得意ワザまで解析出来てしまった。
ったく、なんで妙なとこまで表示されるんだ。(これは自分の思考のせいなのだが)
つい想像してしまって、慌ててタオルを抑える。
「……言っとくが俺には決めた女がいるんだ。だから君たちと遊ぶわけにはいかない」
「あらあ、真面目なのねえ。でも安心して。彼女には黙ってるから」
正面のブルネットがウィンクしながら、わざと視線を誘導するように胸元のネックレスを弄る。
蠱惑的に隆起した褐色の山の先っちょは、黒いどころかなんとも綺麗なピンク色をしていた。
お父さんっ、サッキュバス達の誘惑に負けそうです。こんな時はどうしたらいいんでしょう。つい天を仰ぎたくなる。
って、浮気癖のあるお父さんに訊いても無意味だ。
返事はきっと、『己の心に素直になりなさい』とかに決まってる。
本来ならもう両手に花どころか、3種のそれぞれ魅惑の違う、食虫植物の花のようだ。
だとしたら今スゴく、命がけで誘惑に墜ちる虫の気持ちがわかる気がする。
一カ月前までの俺だったら、すで堕ちていただろう。
しかし今や俺は、絵里子さんと正式に付き合っているのだ。これは浮気になってしまう。
もちろん浮気調査なんかされても絶対バレやしないだろう。
だが小心者で嘘が苦手な俺のことだ。何かの拍子にゲロってしまうかもしれない。
潔白でいないと……。
「ねえ、なにブツブツ言ってるの。本当にしない気?」
「もぉ~、女に恥じかかせないでよぉ」
「じゃあ、一線超えなければいいんじゃないのお?
他の方法もあるわよお」
と、ブロンドが半開きの口から、ピアスを付けた舌を妖しげに動かして見せた。
さ、最後しなければいいのかな……。
いや、負けるなっ 俺っ!
3人の女たちがまたすり寄ろうとしてきたので、俺はまわりの湯を硬くしてグルリと壁を張った。
女たちが押し返されて、また文句を言う。
赤毛なんかはわざと『嫌われてるなら帰ろうかなぁ~』などと言いながら、俺の方に尻を向けて来た。
やめろっ! 下手に立つな。腰布が濡れて透けるんだよっ。
顔と喋り方はギャル娘なのに、腰はブラジリアンヒップだ。全裸より中途半端に濡れた布が張り付いてるせいで、余計艶めかしく見えるのだ。
外の雨風の音が遠のいて、彼女たちの甘ったるい声と、湧き出す湯の音が絶妙に共鳴して俺の本能を誘惑する。
もう『据え膳食わぬは男の恥』という言葉が、俺の頭をガンガン叩いてくる。
あぁもうっ、この流れに身も心も任せてしまいたい……。
―― ダメだっ 不味い、マズい、まずいぞっ! 本当に頭を冷やさないと。
――冷やす? おお、そうだっ。
俺は大事なとこだけ、まわりの水温を下げた。
ウゥ、冷てぇっ! せっかく体が暖まってるのに、大事な俺部分だけ寒くしなくちゃいけないなんて……、なんて悲しい……。
しかしおかげで頭も冷えた。
「……じゃ、じゃあ、せっかく来てくれたんだし、ちょっと話だけしようか?」
湯気の濃度を上げて、まさしく霧のように彼女達の間にカーテンを張った。
白い煙越しに人影しか見えない。
ふうう……、これでなんとかなりそうだ。
「え、話だけぇ?」
「ホントにそれだけいいの?」
「あとで村長に変なこと言わない?」
「言わないよっ。それに本当に訊きたいことがあるんだ」
考えてみたら、彼女たちもここの村民である。あの物騒で何か含みのあるオッサン達と違って、素直な話が聞けるかもしれない。
実はあの役場の業務日誌を、昨日ニコルス氏に見せていた。自分の誓約を見せてくれた彼を、ちょっとは信じる気と意見を聞いてみたかったからだ。
**************
日誌の内容に特に変わったところは見られなかったようだが、嵐がやって来る前々日の『第4土曜日』のページ、塗りつぶされたところに彼も着目したようだった。
「念のため、ここの部分を解析してみます」
そのまますっくと立ち上がった。
解析? ああ、そうか、それで視ることも出来るのか。
それなら――と、危うく言いかけたら、隣の奴に『(待て)』とテレパシーで止められた。
ニコルス氏は俺の中途半端な素振りに気付くことなく、部屋をいそいそと出ていった。
「お前、今、自分で解析をやろうとしなかったか?」
奴がまた小馬鹿にしたように片眉を上げた。
「うっ、うっかり……」
そうだった。『解析』能力はハンターギルドどころか、アイザック村長にさえまだ漏らしてなかった。
転移能力はこの間のハンター試験でバレてしまったが、出来るならこれ以上能力を見せないほうが良い。
上級ハンター達は、隠し能力を持つ者が多いという。
何かの時の切り札になるかも知れないからだ。そして切り札は隠しておくものだ。
「お待たせいたしました」
すぐに戻って来た主任は、四角い鏡のような解析鏡を持って来た。
後ろの脚を斜めにして鏡を立てると、その前に例のページをかざす。
鉄鏡のような金属面に霧が現れて消えると、ページが映り出した。
解析鏡は使用者の意思によって、知りたい内容を現すことが出来る。
鏡に映りこんだページの塗りつぶされた色が、どんどん薄くなっていく。
やがて文字が現れた。
【 今日、とうとうあの乞食を 】 と、書かれていた。
「「乞食?」」
俺と主任はついハモっていた。
だが、現れた文字はそれだけ。
その言葉以外に、日誌には変わったことは書いていないようだ。
「この人物に心当たりありますか?」
「いいえ、まったく分かりませんな」
ニコルス氏も目を丸くしつつ、首を横に振った。
どうやら本当に知らないらしい。
この世界のほとんどの国の町や村は、市壁や高い壁に覆われていて、まず門を通らないと中に入る事は出来ないし、大きな町などになると関税を取ったりもする。
そのような文無しの無宿人が入れるのだろうかとまず思われるのだが、実は乞食は一種の救済すべき対象として扱われる存在だった。
彼らは貧民の中でも一番最下層にして、人の最底辺の存在となる。
(ちなみにヒエラルキーには、彼らより下に奴隷がいるのだが、非人(人でない)として認識されている)
そこで彼らに施しを与え救済することで人として徳を積み、死後天国への道が約束されると信じている貴族や金持ちの施与の対象となるのだ。
だから彼らはそういった偽善者たちの為にとって――もちろん本当に慈悲の心を持つ者もいるが――いなくてはならない存在なのだ。
そのため大きな町などでも、簡単な検査だけして無税で通されることが少なくないという。
ただ、あんな山と森奥にある辺鄙な鉱山の村に、果たして物乞いなんかがやって来るのだろうか?
「乞食と書いてありますが、もしかすると無宿人の事かもしれませんな。
あのイワンなら、ボロを纏った余所者をこう呼ぶかもしれませんから」
ニコルス氏が腕を組みながら言った。
「森の横道は近隣の町に繋がってますし、もしかすると森を通って迷いこんだのかもしれません」
しかし消したとはいえ、書くような事なのかと、主任はまた首を傾げていた。
よく分からないが、とにかくあの商人の他に、その乞食と呼ばれた人物が村に関わったのだろう。
また新たな人物が出て来てしまった。
嵐の2日前というのも何か引っかかる。
**************
「ええと何て言ったっけ。ああ、そう、『オッズ』とかいう商人を知らないかい?」
オッズというのは、例の行方不明の商人の名前だ。
彼はここに銀を買いに来る鉱石商だった。
ここら辺の山々は大昔、地底に棲む巨大なゴーレム達が大暴れし、地上に向かって拳を何度も打ち付けた為、今のような山が出来たと言われている。
ゴーレムはそのまま岩や土に還ったそうだ。
そのせいか表面はほぼ灰色一辺倒なのだが、内部は色々な違う断層が混ざり合い、様々な鉱石が発掘されている。
この採掘場は鉄鉱石も出るのだが、銀鉱石も採掘される銀山でもあった。
「さあ、どんな人? その名前は聞いたことないけど」
「この人なんだけど」
俺は収納から捜索依頼の紙を取り出して、霧越しに彼女達に渡した。
そこには商人の似顔絵が描いてある。
「あ~、知ってるぅ」
赤毛が声を上げた。
彼女によると、彼は連れらしい2人の男と昼過ぎ、一階の酒場で食事をしていたそうだ。
彼女たちの娼館は、階下が食堂兼酒場になっているらしい。
「誘ったんだけどぉ、時間がないってその時は断られちゃったのぉ。だけど、次に来た時はちゃんと遊んでいったわよぉ」
確か名前は違ったけどと、屈託ない調子で話す。
「ちなみにそれはいつか覚えてる?」
「お初だったから、あれは……」
「ええと、嵐の来る4,5日前じゃなかった? わたしもその連れの人のお相手したから」
ブルネットが代わりに答えた。
彼らが最後に村に行った頃だ。
「わたしの相手は使用人の方ね。
お守りの人は、終わるまで衝立ての後ろで待ってたから、なんだか印象があるの」
えっ、それはツラいな!
護衛って、そんなとこにも付いてく来なくちゃいけないのかよ。
エラく忍耐のいる仕事なんだと改めて思う。
ちなみに彼女たちのような安娼館は、個別に区切られた部屋ではなく、大部屋に衝立てかカーテンで仕切られたベッドだけらしい。
マッサージ室じゃあるまいし、当然声も駄々洩れだ。下手すれば覗くことも出来る。
俺はさすがにカーテン1枚越しに、お隣さんがいるところでは無理だな……。
「でもこの人、いなくなっちゃったんだぁ……」
少し感慨深気な声で赤毛が呟いた。
彼はいつも日帰りで帰っていた。
だがこの最後の取引だけ、何故かこちらに泊まるから、帰りは明日になると妻に告げたそうだ。
そうして二度と戻って来なかった。
何か新しい商談があるとか言っていたが、詳しい内容は話さなかった。
もしかして、その色事のためだったのだろうか?
「はい、じゃあ返すわね」
と、ブロンドが霧の中から上半身を突き出してきた。
寄せた胸の間に紙を挟んでいる。
「やめろよ、紙が濡れちまうだろ」
ふくよかな白い肌に滴が流れる。
紙は濡れても水を弾けばいいが、目の前の誘惑は弾き難い。
女はクスクス笑いながら、また霧の中に戻り湯に浸かった。遊ばれてる。
「くそっ、イヤ、……他に変わったことは無かった? 最近」
「変わったこと?」
「うん、変なモノを見たり聞いたり、もしくは初めて見る人が来たとか」
「変わったことねぇ……」
「ないわあ……」
「特にこれと言って……」
どんな些細なことでも良いからと訊いてみたが、彼女たちは思いつかなかったようだ。
ホントにどうでもいい、誰それが久しぶりにツケじゃなく現金で遊びに来たとか、そんな話しかなかった。
「……じゃあこの村に乞食の人とかいないかい?」
「乞食ぃ?」
「乞食なんかいないし、他所からも来ないわよ」
「大体、こんな村に来ても、誰も相手にしないわよねえ」
3人が口々に否定した。
それっぽく見える者もいないと言う。
オーラを視ると、彼女たちが嘘をついてるようには思えない。
う~ん、じゃああの手記は何なんだろう。
また分からないことが増えた。
俺は考えを巡らした。
おかげで彼女たちが、目配せをしている意味に気がつかなかった。
「ねえ、話ばかりしてたらさぁ、なんだかのぼせて来ちゃったぁ」
「あたしも。ちょっと上がろうかしら」
「そうね、ちょっと涼みましょうよ」
「ああ、どうぞ、どうぞ。俺はまだ入ってるから、ゆっくり涼んできなよ」
何しろ俺は大事なとこを冷やし続けているのだ。とても体の芯が暖まるどころではない。
彼女達が後ろを向いて移動し始めたので、まだ霧と囲いは出したままだが、大事なモノを冷やすのを止めた。
ふうぅ、これで少しは暖まれる。彼女たちが戻ってくる前に、こっそり脱衣所に転移して戻ろう。
俺は肩の力を抜こうとして、動かそうとした。
あれっ、動かない?
腕が肘の辺りから上がらなかった。上腕のまわりの湯が動かなくなっていた。水のバインドだ。
続いて霧と水壁がユラユラと緩くなる。
「えええっ?!」
「やったあっ!」
霧が薄くなって、急に彼女たちが姿を現した。
濡れた姿が更にエロティックだ。
「こ、これあんた達かっ?」
間違いない。この力は彼女達から発せられている。
しかも3人の力が合わさって共鳴している。力が3乗されパワーアップしているのだ。
しまったっ! 1人1人の能力が低いと侮ってたっ。
「そうよぉ。驚いたぁ?」
ギャル娘が得意げに言った。
「水って色々な使い道あるのよねえ」
ブロンドが含みのある言い方をする。
「『*小虫軍勢 国を滅ぼす』って言うのよ」とブルネットが微笑んだ。
(*『小さい虫も大群になれば脅威になる』という、こちらの諺)
俺が文句を言う前に、彼女達がはしゃぐように襲い掛かって来た。
「ばっ、バカッ! どこ触ってるんだよぉっ!」
ブロンドの手を慌てて振り払う。
「やっぱり、元気じゃないのお。だったら我慢してるのは体に悪いわよお」
耳元で囁かれてせっかく暖まりかけたのに、違う意味で身震いが起きた。
「そうそう、少しは羽目外したぐらいの方がモテるからぁ」
赤毛が俺の頭を抱きしめてきた。鉄分のあるお湯の匂いとは違う、何かフレグランスな魅惑的匂いがする。
体臭にそういうフェロモン効果を出す、水魔法のテクニックがある事を後に知った。
そうしてエキゾチックな息をもらしながら、ブルネットが俺の目を覗き込んできた。
「やっぱり少しはおもてなししないとね」
琥珀色をした官能的な瞳が射すくめて来る。
くそぉ~~~っ!! なんで俺 今はフリーじゃないんだっ!?
つい運命を呪いたくなってしまいそうだが、慌ててその考えを振り払う。
――っ! しょうがないっ 電撃っ!
バチィンッ!
「「「キャッ!」」」
一瞬痛いが強い静電気くらいだ。過ぎたおふざけが悪いのだ。
バインドが外れる。
続いてザバァァーーーッ!と、自分のまわりに水柱を激しく立てた。
彼女達から完全に姿が見えなくなった瞬間に転移。
俺はそのまま渾身の力で役場の防御を撃ち破り、応接室まで跳んでいた。
「おおっ、やれば出来るじゃないか」
ソファにくつろぎながら奴が手を叩いた。
テーブルの上には俺のスマホが置いてあり、空中には『プリ●ンブレイク』のシーズン2が映写されている。
「昨日は全く歯が立たなかったのに、やっぱりある程度追い込むと伸びるもんだな」
奴が納得顔で顎をさする。
「ふざけんなよっ! これはただの火事場のクソ力だっ」
本当にいつもの150%くらいの力が出ていた。
そしてこれまた本当に火事から飛び出してきたかのように、俺は腰にタオル一枚のびしょ濡れの姿だった。
すぐに魔法で体についた水を拭いさる。
以前は皮膚からも水分を抜きそうでおっかなかったが、勢いに任せてやってしまったら意外と上手く出来た。
しかし今はそんなこと感じいってる場合じゃない。
「あんた、ずっと見てたのか」
俺は部屋の隅に行って、服を着ながら問い詰めた。絶対コイツが知らないはずがない。
「そんなノゾキ見なんかするか。ただ気配を多少感知してるだけだ」
「やっぱ覗きじゃねえかよ。大体あの女たちが来たのも知ってたんだろ?」
相変わらず危険を教えてくれねぇな。
「まあな。始めあの男がここに連れてきたから、断ってやったんだ。
『オレは要らねえから、蒼也のとこにでも行け』ってな」
「なにっ!? あんたのせいかよっ!」
この野郎、よりによって俺に彼女が出来てから、女まわしやがってっ!
守護神の意味わかってるのかっ?!
「せっかくの温泉もリラックスどころか、危うくエキサイトしちまうところだったじゃないかよ」
まさかこれも訓練とか言うんじゃないだろうな?
「主なら一度に大勢の方が、リラックスするらしいぞ」
しれっと奴が指を立てて振った。
「なっ! そ、それって、まさか、……そっちの方の意味……?!
奴がゆっくりとだがハッキリと頷いた。
ななななっ ――お父さんっ!
「――違ぁうっっ、問題をすり替えるんじゃねぇよっ!!」
主の秘め事を息子に暴露する、トンデモねえ使徒だな、ホントにっ。
「あんたがそんなことバラしていいのかよっ」
「構わんだろ。主自身がそうみんなに仰ってるのだから」
ジョッキを持ちながら、肩をすくめてみせた。
「だあぁ~~~っ、マジかっ 父”さんっ!」
本当にあの神様の息子でいていいのか、余計な疑問と悩みが増えた夜だった。
いつも読んで頂き有難うございます!




