第223話 『悪魔が来りて酒を飲む』
ハンターギルドに来る前に、俺はこの町のタブロイド紙を発行する情報屋を訪ねていた。
さすがに女将さんの話だけを信用するわけにはいかなかったからだ。
情報屋で、あの村に関する話が載っているタブロイドは6部あった。
タブロイドというだけあって、本当に噂的ネタがほとんどだったが、俺が興味を引かれたのは、行方不明になった商人の情報だった。
タブロイド紙に、その商人の家族からの捜索依頼広告が載っていたのだ。
依頼はこの町のハンターギルド付けとなっている。
ニコルス氏はこの事を教えてくれなかった。
俺のこの小さな反感が、誓約を付けられたこともあって、不信感に繋がった。
やはり新参者の余所者には、あまり情報を与えてくれないのかもしれない。
となると、やはり頼れるのは地元のギルドである。
俺は一度ラーケルに戻る事にした。
ここはまた奴の力を借りてしまった。
さすがにスカイバットで飛んでも、ラーケル村までとても数時間じゃいけない。
移動手段としてだけはどうしても頼ってしまう。何しろ時間がないのだ。
秘密義務で詳しい事は話せないことを伝えると、村長は「そうじゃろなあ」とすぐに納得してくれた。
それでもすぐにギルド本部に、あの村や商人に関する情報を取り寄せてくれた。
奴のネームバリューのせいか、情報は小一時間くらいでファクシミリーに送られてきた。
ギルド本部が教えてくれた情報も、俺がニコルス氏から聞いたり、タブロイド紙で得た依頼などがほとんどだった。
予想していたが、あのプレートの持ち主の登録書がすでに黒くなっていた為、死亡リストに移されていた。
ハンター登録書は、本人が死亡すると変色するのだ。
ただ、ここで1つ新しい情報が分かった。
彼の最後の仕事が、あの商人の護衛だったのだ。
やっぱりあの村には色々厄介なことが潜んでいそうだ。
そうして俺は再び転移でこのジャールの町に戻り、こうして奴を連れてギルドにやって来たというわけだった。
「……それは迂闊でした。
何しろ同じハンターギルドとはいえ、違う町の護衛でしたし……、彼の名前は知りませんでした」
主任のニコルス氏がまた汗をかき出して、せわしなくハンカチで顔を拭いた。
「本当ですか?
もう隠し事はなしにしてくださいよ。
なにしろ期限は明日までなんですから」
そうだ。
この依頼の期限は3日間。もう明日で終わりなのだ。
この記憶石を返すとはいえ、もし契約不履行と見なされたら、報酬金130万どころか、先渡ししてある違約金26万がパアになってしまう。
もう俺も必死なのだ。
ウゥム……と、主任は目を閉じながら、本当に頭を抱えるように下を向いてしまった。
待つこと十数秒、ゆっくり顔を上げると
「……分かりました。
それではこれから子爵様に連絡してみますので、少しお待ちいただけますか?」
急いで連絡してみるが、数時間はかかるかも知れないという事で、同じくギルド内にある食堂で待っててくれと、飲食を全てサービスにするゴールドチケットなるモノをくれた。
「おい、あんまりガンガン飲むなよ」
座るなりジョッキを続けて2杯空けてしまった勢いに、俺はいつものことながら注意した。
「ここは酒場なんだろ。酒を飲む場所なんだからいいじゃねぇか」
「そうじゃないだろ。料金はあちら持ちなんだから、少しは遠慮しろよ」
もうこういうところは、ナジャ様と似ている気がする。
それに昼時とあって食堂は混んでいた。
あまり目立ちたくない俺たちは、都合よく奥まった壁際の席に座ることが出来た。
だが奴がいちいち注文するのが面倒臭いと、またビールを樽で頼んでしまい、結局まわりの注目を浴びてしまった。
もうこいつといると隠蔽でも使わない限り、ひっそり静かは望み薄だな。
しばらくすると、店員ではなく受付のプレートを首から提げた係が呼びに来た。
再び応接室に戻る。
「お待たせいたしました。
それでは報酬金を300万に引き上げさせて頂きます。
期日も明日ではなく、あと3日延長いたします」
ニコルス氏は立ったまま頭を下げた。
「SSの方の力があれば、きっとこの怪現象を解明して頂けることでしょう。
ただ、これがギリギリです……。
わたしの交渉力がなくて大変申し訳ありません」
えっ、ただの調査から解明になってる。
「言っとくが、受けたのはオレじゃなくてコイツだからな」
奴が軽く俺を顎でしゃくった。
その言葉にニコルス氏は、少し不安げな目を下から上げた。
「……ここまで関わったのですから、どうかお願いします。
もうわたしも後がありませんし……」
また深々と頭を下げ直してきた。
「あの、解明とまでなると、金額云々じゃなくて、その他に知ってることを全て教えて頂かないと――」
「本当に申し訳ありませんが、わたしがお伝え出来るのはここまでなんです」
そう言って顔を上げると、ゆっくりと自分の頭の上に手で丸を描くようにした。
そこには赤い目、赤い服を着た10㎝くらいの小人が乗っていた。
小さな体に対して腕が3倍近く長く、これまた長い針を両手に持っていた。
チャキィン チャキーンと、その針を叩き合わせている。
「これがわたしの誓約です」
ニコルス氏が懇願するような目つきで俺を見た。
「もし破ればこの小人が、わたしの耳に針を打ち込みます。
ですからこれ以上の事は、わたしの口から申し上げられないのです」
俺のより酷い誓約だった。それは大怪我どころじゃ済まないのではないのか。
貴族絡みの誓約って、こんなに厳しいものなのか。
「……分かりました。
とりあえず座って話しませんか?」
立ったままでもなんなので、俺はソファに促した。
奴はすでに座って、先ほどの飲み残しのウィスキー樽をまたあけ始めた。
仕方ないので、こっちからの質問方式にすることにした。
「じゃあこれから言う質問に、出来たら答えてもらっていいですか?
もし答えられないなら、そう言ってください」
「どんな事でしょう?」
膝に手を置いて前屈み気味に、主任が身構える。
「あの村には、塀に何か防衛システムみたいなのはありますか?
何と言うか魔法によるシールドみたいな」
さっきは伝えなかった、例の赤いオーロラのような膜があった事を話した。
「いいえ、そんなモノは無いはずです。
鉱山や役場には勝手に入られないように、防犯シールドはありますが、まわりの塀はただの塀です」
じゃあアレは何だったんだろう。
主任も謎が深まったという顔をしている。嘘ではないようだ。
ただ、鉱山入り口にもその光が見えたというところで、また先程の小人がチャキチャキィンと、針を鳴らした。
おそらくニコルス氏が反応したからだろう。彼自身も口をグッと曲げたように見えた。
やはりあの鉱山に何かあるんだ。
「とにかく私、あの人たちに疑われてしまったので、やり辛い状況になってます」
俺もこめかみに手をやった。
「なんとか疑いを晴らさないと……」
「それならわたしから紹介状を書きましょう。
貴方様の身元は保証すると。
なんなら彼ら直属の、工業ギルドからも書いて貰うよう要請いたします」
「ああ、それはぜひお願いします」
しかし、それくらいであの殺気だった男達が納得するかどうか。
「それだけじゃ難しいだろうなあ」
カツンと、テーブルにグラスを置く音が響いた。
「だけど『魚心あれば水心』って言うことがあるだろ」
サメが牙を見せて笑った。
**************
本当に大丈夫なのだろうか。
俺はまたタムラム村の上を、スカイバットで飛んでいた。
門の前に降り立つと、簡単に羽を畳んで収納する。
広場の砂利道を踏みながら、1人役場へ向かう。
傾いた太陽がもう岩山の肩に乗っている。
夕陽に照らされて、辺り一面オレンジ色に見える。
紹介状やその他の準備をしていたら、こんな時間になってしまった。
どのみちあちらに入れば夜になってしまうのだが。
再契約の際に、奴の信用を立てて、また保証金を取るどころか、先に渡しておいた33万エルを全て返してくれた。
その上で無保証で契約してくれたのだ。
しかしそれも奴の云う『水心作戦』の先行投資に消えた。
いや、それ以上の額だ。
もし失敗しても品は無駄にはならないと思うが、今回の報酬金に近い金額がパアになってしまう。
是が非でも成功させたい。
ちょっと不安を抱きながら、役場に入るとすぐに、カウンター内のファクシミリーに駆け寄った。
よし、ちゃんと来てる!
ファクシミリーには、新しい文書が送られてきていた。
これは例の紹介状だ。
ハンターギルドと工業ギルドからの2通。
本当は原本を持って来ようと思ったところなのだが、もしかすると偽造を疑われる可能性もある。
だからここのファクシミリーに、直接ギルドから送信してもらったのだ。
そうすればギルドから送られてきた記録が残るので、少しでも疑いが減るのではと思ったからだ。
工業ギルドにはニコルス氏が同行して、タムラム村に調査に行く旨を説明して――怪現象の事は控えて――調査員の俺たちが村人と遭遇した際に、警戒されないように連絡をお願いした。
工業ギルドの方も、鉱山の発掘が止まったことで、色々と危ぶんでいたところだった。
ニコルス氏が「わたしが保証する」と請け負ってくれたこともあり、工業ギルド所長は戸惑いながらも、その場で急ぎ書いてくれた。
さて無事に届いているが、このままにしておくとあの異界には運ばれないかもしれない。あちらに行った途端、これが元の世界に取り残されていたら意味が無い。
俺は文書を収納した。
そうそう、これも忘れちゃいけない。
今度は『業務日誌』を取り出す。これを元に戻しておかないとまた疑われる。
書庫の戸には変わらず鍵が挿さったままだった。
もちろん防犯装置も動いていないので、普通に開けられた。
台帳やファイルは、日誌を抜いた時と同じ状態だったので、空いている箇所に戻しておく。
間違えてませんように。
あらためて中をぐるりと見渡す。
門から入ったから、あと数分であの異界に入ることになる。
またあの人達と会うにもタイミングが必要だ。
ここは一旦どこかへ隠れていよう。
ふと階段を見上げた。2階に行く事にした。
廊下奥か部屋のどちらかちょっと迷ったが、開いている応接室に忍び込むことにした。
もし人が出現しても、個人の部屋よりもいる可能性が少ないと思ったからだ。
応接室の窓は閉まっていたので、戸を開けておく。
こうしていれば異変に気付きやすいだろう。
そうして窓側のソファの背もたれに隠れながら、探知の触手を伸ばした。
今のところ建物内どころか、探知出来る周囲には、人どころかネズミ一匹いない。
人がいなくなったとはいえ、森も近いし、野ネズミも入り込んでこないというのは、やはり異変を感じているからなのだろうか。
そんな事をつらつらと考えていた時、急に外が暗くなった。
ザアァァーと、雨が降って来る音がした。
バァンッ! と窓が勢いよく閉まる。
部屋の中が一気に暗くなった。
始まった。
そして防犯シールドも作動したようで、探知が急にやり辛くなった。
なんとか力を絞って探知を役場内に集中する。
2階には同じく誰もいない。
ただ階下には1人男がいた。
さっきは1階に荒くれ男どもが数人いたが、今は事務員らしきあの気弱そうな男しかいない。
彼1人で留守番なのか、机で帳場を前にしながらソワソワと、なんだか落ち着かない様子だ。
送るにはちょうどチャンスかもしれない。
俺は例の文書を取り出すと、そっとファクシミリーの受け口に転移させた。
そのままだと背を向けている男が気がつかないので、ワザと音を立てることにした。
カン、コロロロロ……。
ビクンと男が後ろを振り返る。
小さな台の上に置いてあったペンサイズのヘラが転がる。
どうやら紙詰まりの時などに使う道具のようだ。
これを俺が風を使って落としたのだ。
男は少しオドオドした顔で、部屋の中をキョロキョロしながら立ち上がると、そっとヘラを手に取った。
そうして元に戻そうとして、台の上のファクシミリーに紙があるのに気がついた。
書類を読んでいくうちに、男の両眉が驚きのせいか上がっていく。
よし、いいぞ。それを上司、イワン村長に早く見せてくれ。
そういやあのオッサンはどこへ行ったんだ?
もう定時で部下だけ残して帰ったのだろうか。
肝心な時にいてくれない。
この異界での役場内には、防犯シールドが設置されているせいか、外への探知がほぼ出来ない。
俺はソファの陰から立ち上がると、そっとドアを開けて階段のところへ忍び寄った。
階下を覗くと、男はまだカウンター内で書類をジッと見ている。
ちょうど階段には斜めだが、背を向けている感じだ。
探ると階段下の突き当り奥に、もう1つドアがあった。裏口だ。
ここはいっそのこと、一度外に出て、表扉から入り直すのが良いかもしれない。
俺はなるべく気配を消して、階段を降りようと思った。
ドンッ! 背中に強い衝撃があって、俺は階段下へ吹っ飛んだ。
逆さになった視界の中で、すぐに頭を抱えて丸くなった。
ボスンッと、階段下のカウンターの脚にぶつかる。咄嗟にエアクッションで体を包んだおかげで衝撃もほとんどない。
飛び起きながら上を見上げると、あのイワン村長が階段上に仁王立ちしていた。俺はこのオッサンに蹴り飛ばされたらしい。
いつの間に後ろに?!
気がつかなかったが――あっ、もしかして隠蔽っ?!
防犯シールドを仕掛けた側だから、普通に魔法が使えるのか。
「この野郎……。やっぱりいけしゃあしゃあと、戻ってきやがって」
そう言うとオッサンはダダっと階段を駆け下りてきた。
その姿が途中でフッと消える。
マズいっ! また姿を消された。
俺も思わずカウンターを飛び越えた。
ガツンッと、俺がいた床に何かが激しく当たった音がした。
「ひぇっ!」
気の弱い事務員がまた悲鳴を上げる。
おいっ 早くその書類をこのオッサンに見せてくれよっ!
って、隠蔽を使ってるから、オッサンが見えないのかっ!
なんて厄介な上司なんだっ!!
「あんたっ! 俺が怪しいもんじゃないって、村長に言ってくれよっ!
でないとギルドに怒られるぞっ」
俺は叫びながらドアに向かった。
とにかくここは逃げるしかない。
が、両開きの扉が急に外から勢いよく開いて、俺は危うくぶつかりそうになった。
「村ちょ――、あっ、てめえはっ!」
そう叫んだのは先頭のドワーフ、あの門番のゾルフだ。他にも後ろに3人、ゾロゾロといかつい男達を連れだっている。
反射的に階段とは違う側、右手の壁に走ってしまった。
だがこちら側には窓はなかった。
しまったっ。
俺は壁に追い込まれてしまった。
カウンター横のスイング戸が勝手に動いたと思ったら、イワン村長が姿を浮き上がらせながらズンズンと前に出てきた。もう隠している必要もないと思ったのか。
「ようやく追い詰めたぜ、この野郎。
散々、村の中を引っ搔き回しやがって……。ついでに火掻き棒までこんなふうにしちまいやがって……」
と、手にした火搔き棒を突き出してきた。
火搔き棒の件はすいませんでした。
だけど勝手に追いまわして来たのはあんた達だし……。
「イワンッ、こいつきっと鉱山を探りに来たスパイに違げえねぇっ!
さっさと殺っちまったほうがいいぜっ!」
ゾルフの後ろから殺気立った声がする。
昨日ゾルフと一緒に門の前に立っていた男だ。
「いや、待て」
村長が前に手を出して止める。
「まずは口を割らせてからだ」
「どうする、異国人。
大人しくした方が辛い思いをしなくて済むぞ」
ゾルフが無情な言葉を吐く。
昨日は『悪いようにはしない』とか言ってたのに、あれはやっぱり口から出まかせだったのか?
シールドのせいか、転移出来ない。
隠蔽や攻撃系の魔法もほとんど使えそうにない。
となると身体強化した力のみだが、ドワーフ相手にまず分が悪い。
扉もまた閉められてしまった。内開きなので、勢いで逃げにくい。
――天井は3m強か。
なんとかこいつらの頭上を天井ギリギリで飛び越えて、2階に逃げれば窓から脱出できるかも……。
一瞬の間にそんな考えがよぎる。
「あ、あのぉ、村長……」
カウンターの方から声がした。
「ギルドから通達が来てるんですけど……」
やっとあの事務員が、オッサンに声をかけてくれた。
「ああっ? そんなの後だ。今はこの曲者の方が先だ」
イワンが俺を睨んだまま答える。
「あ、あのぉ……それがですね……」
男は場の勢いに飲まれたのか、それとも俺をまだ信用してないのか、聞こえないくらい小さな声で口ごもる。
「とにかくこいつをふん縛って(ボコって)からだ」
早く伝えろよっ。こういうことで冤罪が起こっちまうんだぞっ。
ヴァンッ! 扉が左右に勢い良く開いた。
全員がそっちを振り向く。
「おい、ソイツに何しようってんだぁ?」
暴風雨の音が聞こえなくなった代わりに、重低音な声が響いた。
暗い豪雨をバックに立つ男の姿が、更に黒く浮かび上がっているように見える。
銀色の目だけが鈍い光を放っている。
ラスボスの登場だ。
「なっ、なんだ、てめえ……」
村長やゾルフ達も一斉にそちらに向き直ったが、一歩出るどころか、みんな止まってしまった。
「話も聞かずにリンチかぁ? 良い度胸してんじゃねぇかよ」
ゾロリと開け放ったドアから、黒い瘴気を纏わりつかせた悪魔が入って来る。
「他人をそう扱うなら、されるのも覚悟の上なんだろうなぁ」
奴の横に位置した背の高い男が、長剣を思い切り平行に振った。
ゴズッ!!
鈍い金属音が響く。
奴がコートに手を突っ込んだまま、首だけ動かして牙で刃を受け止めていた。
「「「「「エ、エッ……」」」」」
バキンッ!! ジョーズが金属の刃を煎餅のように喰い齧る。
幅広の刃の中央に、くっきりギザギザの噛み跡が残った。
「なまくらだな。研磨が足りてねぇ」
ペッ、と金属片を床に吐き出すと、裂けた口から見せた牙を鳴らし始めた。
「うわぁっ」
刃こぼれまみれになってしまった剣を、仰天した男が床に投げ捨てる。
「な、な、なんだ――だ、だ、」
「え、あ、ぁ、とっ、」
「あ……ァクール人っ、の強盗っ!」
「誰が強盗だっ!!」
ドンッ! と奴が床を踏み鳴らした。床が壊れそうに揺れて男達が更に怯む。
もう定番の疑われ方だ。
「ヴァリアスッ、瘴気を引っ込めろ! 余計疑われるっ。
それとあんたっ」
俺はカウンターの方にも叫んだ。
「その通達、ギルドから来たんだろっ?
俺たちのことが書いてあるんじゃないのかっ、早くこの人達に教えろよっ」
俺の言葉に事務員がハッとした顔をする。
「そ、そん長、ギルドからつぅたつがぁー。
2人ぃ、ギルドから派遣されたとぉーー」
「何だとぉっ!?」
イワン村長が目を大きくして、カウンターを振り返った。
「だから最初から言ったでしょうっ!
私たち、ギルドから派遣されて、皆さんの様子を見に来たんですよ」
そう主張する俺とヴァリアスを、文書と見比べながら、村長はまだ疑いを消せないようだった。
「……ううむっ、確かに嵐で遮断されてるが、何だってこんな……」
他の者達もみんな、村長とヴァリアスに交互に目を送っている。
まあ今、警戒度MAXなのは奴だからなあ。
「せっかく助けに来てやったのに、無作法な奴らだぜ」
どの口で言えるのか、マフィアが肩をそびやかす。
「蒼也、こんな勝手な奴ら放っといて、やっぱり帰ろうぜ」
「え、だってせっかく――」
「何が助けに来たってんだ。ただひと騒がせに ―― 見に来ただけなんだろう?」
また少し気を取り直した獣人の男が、強がって声を出したが、奴が睨むと一歩引いた。
「手ぶらで来たわけじゃねぇってんだよ。食料と大事なモノが不足してるんだろ?
だからこうしてブツを持ってきてやったのによぉ」
そう言うや、空間からダンッと大樽を引っ張り出して見せた。
続いて銅製のマイジョッキを取り出す。
呆気に取られている男達の前で、樽のコックを捻ると、ドクドクと黒い液体を泡立てながらジョッキになみなみと注いだ。
独特の香ばしい香りが広がる。
勝手気ままな奴はそのまま、グビグビと黒ビールを美味そうに飲んでいく。
それを見ていたドワーフが思わずゴ…キュゥンと喉を鳴らす。
『水心作戦』が始まった。
ここまで読んで頂き有難うございます!




