第222話 『隠し事』
ギルドに行ったのは、昼近い11時頃だった。
受付で主任のニコルス氏を呼んでもらおうとしたところ、向こうがこちらを見つけて小走りにやって来た。
「ああ、良かった、無事に戻られたんですね。心配していたんですよ」
本当に心配していたかどうかはわからないが、彼が何か新しい情報を期待しているのは確かなようだった。
続いて「で、何かわかりましたか?」とややせっつき気味に訊いてきた。
「ええ、色々と不可解な事だらけだという事が分かりましたよ。
主任さんあなた、人に誓約をさせといて、隠していたことがありますよね」
「え、なっ何言ってるんですか?」
「こんな危険な事案なのに、情報を出し惜しみしないでくださいよ。こっちも命がけなんですから」
「だから何を――」
そう言いながらもきょどった目が、俺の斜め後ろの男を初めて認識したようだ。
「こ、こちらは……?!」
「昨日お伝えしました、私の仲間です」
奴がそっと主任にだけ見えるように、ネックゲイターをずらしながら顔を突き出した。
「よくもコイツにつまんねぇもん引っ付けてくれたよな。
その礼を言いに来てやったぜ」
奴が声を落としながらも、ガチガチした音を出した。
「……あ、あ、ぁの……
あ? 蜘蛛が解除されてる……!?」
主任の顔色から分かりやすいくらいに色が抜けていく。
「不当な術をかけたんだから、倍返しくらいは覚悟してるよな?」
サメの口が横に大きく開き始めた。
来る前に注意したのに、一気に落とし前モードになってしまった。
「ちょっと待て、そんなこと言いに来たんじゃないぞ。
とにかく別の場所でちゃんと話しましょう。ねっ」
まわりの係が警備を呼びそうな雰囲気になってきたので、俺は奴を止めながら急いで応接室を指さした。
「ここじゃ客に酒の一杯も出さねえのかよっ」
言わないと持ってこないとふんだのか、奴がソファにふんぞり返るなり、テーブルにドンと足を乗せて恫喝した。
ひと息 間を置く暇も無い。
「ひょぉっ、只今っ!」
怖々と向かいに座ろうとしていた主任が、ぴょこんと立ち上がると慌てて部屋を出ていった。
普通、酒じゃないし、客でもないぞ、俺たちは。
ノックの後、おずおずと主任ともう1人の男が、トレーにグラスとデカンタを載せてきた。
「グラスは要らん」
奴が置こうとしたトレーから、デカンタだけを取り上げる。
ビール大瓶くらいのデカンタを、まるでグラスのように飲んだ。
それを見た主任が、戻ろうとした部下に急いで樽ごと持ってくるように伝えた。
「お、お口に合いますでしょうか……」
少しオドオドしながら主任がヴァリアスに尋ねる。
「ここら辺のライ麦を使ったライウィスキーか。まあ悪くねぇんじゃねえのか」
そう言いながらデカンタをグイっと空けてしまった。
「おい、付いて来ていいとは言ったが、ここは酒場じゃないんだからな」
奴を連れてきたのちょっと早まったか。
ナメられないように、奴の後押し(脅し)も必要かと思ったのだが、ものの1分と経たないうちに後悔した。
もう俺の印象は、無害そうな魔法使いから、凶悪な盗賊の先兵にランクアップだ。
やはりデメリットのほうが多かった。
部下が台車に載せてウィスキー樽と摘まみを持ってくると、主任自らデカンタに注ごうとする。
「自分でやるからいい。どうせオレ達は客じゃないんだろ」
すでに客以上の態度なのだが、どこからが遠慮のボーダーなのか、いつもわからん。
「すいません、こんな奴で……。
でも仕事はキッチリやらせてもらいますから」
なんかいつも仕事入る前に謝ってるな、俺。
「……傭兵とお聞きしてましたが、こちらの方、ハンターですよね?」
部下が去って一息置いてから、主任が強ばった顔つきで訊いてきた。
「白いあく……ぃいえっ、白子のアクール人とは、世界中にまず1人でございましょうから……」
今あなた、『白い悪魔』って言いかけませんでしたか?
やはりそんな通り名が出来ていたか。その通りですけど。
「傭兵ってのは本当だ。最近はやってないが。
それに俺以外にも白子がいないとは限らないだろう」
そう言いながらフードを取ると、黄ばみもない見事に晒したような白い髪が現れる。
混じりっけがないほどヤバさが増すのは、白い粉と一緒だ。
「SSハンターのヴァリアス様のお相方とは……。
それならそうと、始めから言って頂ければ良かったのに」
ちょっとねめつけるように上目遣いで、主任が俺のほうを見た。
「始めは私個人の仕事のつもりでしたから。
それにもし私が、こいつの仲間だと分かってたら、あの誓約はなかったんですよね?」
「も、もちろんですっ! そんな失礼な事出来ませんっ」
『誓約』という言葉に奴が鋭い一瞥をくれると、主任があたふたと言い訳しだした。
「それに秘密義務のある仕事には、通常つける決まりだったんです。
決してソーヤさんだけを疑ったわけじゃありませんからっ」
やっぱり始めからこいつと来ていたら、誓約とかの世間のシステムを知らないでやっていく事になっていたわけだ。
それはそれで良かったのかな。
「いえ、それは別にいいんです。特別扱いはされたくなかったんで。
ただ『誓約』したのに、知ってることはちゃんと教えてくださいよ。
他所に漏らすことは出来ないんですから」
その『誓約』を勝手に外しておいて言うのもなんだが、向こうも隠し事があるようだから、ここは強気でいこう。
「ええ、ですから何をです?
こちらが掴んでいる情報は全て教えたはずですが……」
「聞きましたよ。
噂ではハンターだけでなく、商人もいなくなってるそうじゃないですか。
しかも呪いがかかってるとか、色々なことが起こってると」
そう、俺が聞いた話では、まず嵐が来る数日前に出入りの商人が消息を絶っていた。
鉱石商人で、使用人と護衛の2人もついていたそうだ。
それが村へ行ったきり戻ってこなかった。
村のほうでは、彼らは予定通り帰って行ったと言っているのだが。
また夕暮れ時の山の上から、あの村の上を炎鳥(ケルベロス並の魔物)が飛んでいるのを見たとか、森に半透明の老人がいて手招きするとか、行方不明の商人の幽霊が彷徨っているという話があった。
「それこそただの噂というものです。
『炎鳥』というのは、おそらく夕焼け雲でも見間違えたのでしょう。
そんな大物が本当にいたら、まず村どころか森や近くの町にも被害が出ているハズです。
幽霊くらいはいるかもしれませんが、無害なら別に問題ありません」
幽霊はほっとくのかよ。
他にも盗賊の集団が村人と入れ替わっているとか、奇病が流行って村人が溶けて消えた等々。
「とりあえずみんな憶測と想像に過ぎません。そんな不確かな情報をわたしが話しましたら、逆に肯定したと思われるかもしれませんので、あえてお伝えしませんでした」
そうなの?
悪い噂だからワザと話さなかったのかと思っていた。
ぽっとやって来た、駆け出しの魔法使いだから、捨て駒ぐらいに使ってやろうと思われたのかと、つい勘ぐっていたが……。
いや、すぐに全部信じちゃ駄目だ。
大体『呪い』という、俺の大嫌いなキーワードを教えてくれなかったのだから。
ひとまず今はこの失踪した商人の話に絞る。
「それは帰りに、魔物か盗賊にでもやられたのかもしれないですよ。
たまたま時期が近かっただけで、今回の件に関わりはないと思います」
「ここら辺の魔物は、そんな大した肉食獣はいないと聞いてます。あの大トカゲの姿で引っ込むぐらいだと」
自分より大きな相手に向かってくるようなのはまずいないと、女将さんが言っていた。
「じゃあなおさら盗賊の可能性が高いでしょうな」
当然のように言う。
そう、俺もはじめはそう思った。
治安の悪いこの世界で、金を持っているだろう商人が狙われやすいのは至極当然のことだし、護衛をつけていても必ずしも安全とは限らない。
ただこの辺は、切り立った岩山が多く、あの森に行くにはまず町を通って行くしかなく、なのでそれらしい者がいたら、すぐに怪しいと疑われる。
それでここの森の道は比較的安全と、地元の人たちは行き来していたのだ。
もちろん可能性はゼロではないのだが――。
「それですから、この件とは関係ないかと思いましてお伝えしませんでした」
ですから隠していた訳ではないですと、主任は額を手で拭くように触った。
さっきから奴を気にして動揺している。
ここでちょっと押してみる。
「いや、関係なくないですよ」
俺の言葉に主任が、はっ? と声を漏らした。
「聞いたところでは、その商人さんには捜索依頼が出されているそうじゃないですか。
なんで教えてくれなかったんです?」
「ぇえっ?」
「同じ村付近に関係している案件なんだから、どうせなら一緒にやったほうが都合良いでしょう。
しかもすでに亡くなっている事が前提で、救助依頼じゃなく遺留品捜索だそうで、その場合期日に限定はないから、常時依頼のように補償金は要らないんですよね?」
「え、ええ、その通りですが……」
「それとも2つ同時には手に余るだろうと思われました?」
「いいえっ、そんな、とんでもないっ」
胸の前で主任が両手を振る。
「じゃあそれも追加してください。
とにかくこういうのも教えてくれないと――」
マフィアを連れて、なんの言いがかりをつけられるかと身構えていたところに、俺が肩透かしな事を言ったので、恐らくちょっと安堵したのだろう。
主任がふうっと肩の力を抜いた。
「本当に隠していたわけではありませんよ。
普通、こういった依頼は特にこちらから頼む以外は、お請けになる方のほうが名乗り出られるものなので……」
ふとあらためて、俺の前のグラスが使われていないことに気がついたようだ。
「おや、ソーヤさんはウィスキーはお好みではなかったですか?」と訊いてきた。
「いえ、仕事中は飲まないので。良ければお茶を頂きたいのですが」
主任はすぐに立ち上がると、では依頼書類もお持ちしますとそそくさと出ていった。
俺はヴァリアスと目を合わせた。
「お前も結構ワルになってきたな」
奴が嬉しそうに口角を上げる。
「悪って言うほどじゃないだろ。
他の依頼もついでに受けたいのは本当の事だし」
ただカマをかけて、反応を見たかったのも確かだった。
「さっきの様子だと、主任さんは商人のことは本当に知らないんじゃないかと思うけど」
「まあな。その件に関しては知らないようだな」
しれっと言ってるが、奴はおそらく全貌を知っているハズだ。
だが、訓練のために俺が調べるまで教えてくれないのだ。
仕方ないことだが、いつも一番の悪玉に思えて来る。
間もなく主任自ら、カップとポットを持って戻って来た。
「依頼者は行方不明者の妻でして、ご承知の通り探すのは遺留品です。
せめて葬儀だけでもしたいそうで、ご遺体が一番良いのですが、服でもいいそうです」
と、お茶と捜索依頼書を俺の前に差し出した。
普通、家族が行方不明になったら、本人自身をまず探すべきなのだろうが、ここではすぐに死亡したと見なされてしまう。
早急過ぎる気もするが、現実的には望み薄だから、家族は早く立ち直るために切り替える準備をするのだろう。
生死はわからないが、この商人も村で何かあったと思う。
そう考える証拠を見つけたからだ。
「ところで村の様子なのですが、そろそろお聞かせ願えませんか?」
そうだった。
「まずはこれを」
俺は記憶石を取り出した。
本当は来る前に一度確認したかったのだが、再生出来なかった。
どうやら不正な編集をされない為に、再生にはロックがかかっているようなのだ。
だからちゃんと撮れているか、俺も少しドキドキである。
主任が記憶石に、何やら呪文のような言葉を唱えながら軽く魔力を流した。
ポウッと石が黄色い光を発すると、テーブルの上に両手を広げたくらいの長さに映像が浮かび上がった。
高さは30cmくらいか。パノラマ映像である。
良かった。ちゃんと撮れてる。
始めは相手のペースに持っていかれないように、強押し姿勢で行ったのだが、これで用を成さなかったら、俺はただの文句垂れの役立たずになるところだった。
やはり柄にもない事はするもんじゃないな。
気がつくと俺も喉がカラカラだった。一気に紅茶を飲み切った。
あー、茶が美味い。
と、横で急にボリガリ、破壊音が響いた。
ヴァリアスの奴が、摘まみのピスタチオに似た木の実を食べ出していた。
普通硬い殻を割って食べるのだが、もちろん奴は殻ごとである。
ったく、ボリボリバリバリうるせぇなあっ。
奴のせいで緊張する空気が締まらない。
「これは、村の門前広場ですね。
うぅむ、確かにこんな昼間なのに閑散としている……」
俺のカップにお代わりを注いでくれながら、映像を見た主任が唸った。
映像は平面ではないが、完全な立体ホログラムとも違う、強いて言えば2.5Dという感じか。
表面から見ると水槽越しに見た風景のように、少し色冷めた奥行のある映像なのだが、真横から見ると一気にオブジェクトが潰れてバーコード状になっているのだ。
それでも村の様子、雰囲気を伝えるには十分だった。
誰もいない広場、井戸まわり、まだ陽も高いのに通りには人っ子一人姿がない。
ザリッ、ザリッと、俺の砂利を踏む音だけが録音されている。
途中の製鉄所の扉は全開していたが、奥は真っ暗だった。
そのまま行くと3階建ての役場が見えてきた。
役場の中も俺が見た通り、さっきまで人が居た気配があるのに、誰もいない光景が続く。
そこで一旦画像が切れた。
俺が昼メシを食うために切ったところだ。
勝手に連続再生はされないようだ。
「実はこの後、この役場で人にあったんですよ」
「ほうっ」
期待するように主任の目が輝く。
ちゃんと仕事の成果をあげたようで嬉しい。
隣では興味無さそうに、奴がデカンタグラスに酒を注いでいる。
とりあえず大人しくしてるからいいか。
続いて次のシーンを見るために、主任が再び記憶石を操作する。
そう、次は雨が降り出して、人々が現れた瞬間の映像だ。
――の、ハズだったのだが…………。
現れた画面はパッと赤一色だった。
よく昔のブラウン管テレビが古くなって故障すると、1色になって画像がブレたりしたものだが、これはそれよりも画像自体が縦に波打ち、ザワザワと細かく振動し始めた。
本当なら豪雨の音が入っているところだが、キーーーンンンとした高い音しか聞こえない。
見ると記憶石が小刻みに揺れていた。
パンッと、主任が手の平で抑えるように石を叩いた。
真っ赤な光の板がフッと消えた。
再生を切ったのだ。
「……これは故障ではありません。
磁場が極端に強い場所や、強いエネルギー場で使用したりすると起こる現象です」
先程の期待のこもった笑みが消えていた。
「ワザとじゃありませんよ。
これは再度、役場の2階で撮った時のです。
突然雨が降り出してきて――」
主任は無言だったが、それが逆に疑っているかのように感じられた。
隣に顔を向けると、奴は飲みながらワザと目を逸らした。
うぬぬぅ、我関せずってやつだな。
やっぱ、こういう時は自分で乗り切れってか。
わかったよ、くそっ。
……いや、違うだろ、俺。
自分の力で出来る限り解決していかないと。
ダークサイド●ラえもんから一人立ちするんだ。
「もちろんワザとしたなどとは、露ほども思ってませんよ」
主任が急に取り繕うように言ってきた。
「こういった事は決して珍しくないんです。密度容量以上の高エネルギーに晒されると、パンクしてしまう現象なんです」
そう言いながら、俺の隣の超高エネルギー源をチラリと見た。
「いえ、多分こいつのせいじゃないと思います……」
なんだか頭痛の予感がして、反射的にこめかみの辺りを擦った。
「そりゃそうだ。オレはそんなヘマはしねぇっ」
こういう時だけ反応するなよ。
「さっき仰った、場が変ったせいだと思います。
これを撮った瞬間に、異変が起こって――」
俺はザッと簡単にその時の様子を説明した。
急に強い雨が降って来たと思ったら、1階に人々が現れたこと。
そこで疑われたので窓から逃げたら、雨の跡も人もいなくなっていた事。
最後には門番のドワーフ、ゾルフと会ったことや、スパイ容疑をかけられて殺されそうになったことを話した。
壁を乗り越えたら、また元通りになったことも。
ふと『スパイ』という言葉の時に、主任の眉がピクっと動いたのを感じた。
なんとなくあのオーラの話は、まだ伏せておいた。
ひと通り話し終わると、主任はそっと、今度はモスグリーン色のハンカチを取り出して顔を拭いた。
「その……大柄なヒュームの中年男は、髪の色は何色でした?」
「ええと、確かスタン似で、いえ、薄めの茶色で鼻の下にこう、髭を生やしてて」
俺は自分の鼻の下に、八の字を作るように両の人差し指をつけた。
「……ソーヤさんは、この依頼を受けるまで、あの村のことは全く知らなかったんですよね?」
「もちろんです。『誓約』を外してしまった身で言うのもなんですが、我が神の名に誓ってそれは言えます。
あそこに行ったのも知ったのも、昨日が初めてです」
少し考え込むように主任が腕を組んだ。
そうしながらジッと俺の目を、見透かすように見てきた。
「……分かりました。
少なくとも貴方が嘘をついてないと思います。
これでもわたしはオーラを見る、自分の真贋の目を信じてます。
貴方のオーラには偽りの濁りがない」
あれ、本当に見透かされてたのか。
まあ信用してもらったならいいか。
「その大男は村長のイワンですな。
ゾルフも確かにあそこで長年、鉱夫と門番を交代でやっている村の者です。
例え幻だったとしても、彼らを見たのは間違いないのでしょう」
そうしてまた腕を組むと顔を下に傾けた。
「……しかしそれが事実となると、一体何が起きているのやら……」
目を瞑りながら主任がウウムと唸る。
よし、向こうの腹を探りながら、俺も情報を小出しにするつもりだったが、ここは名誉挽回の為に1つ出してしまうか。
何せ期限は明日までだし。
「主任さん、実はあそこでこんなモノを見つけたんです」
俺は厩舎で見つけた例のシルバープレートを出した。
「これはハンタープレート……」
おずおずと手に取って、名前を見た主任の眉がやや曇る。
期待した名前ではなかったからだろう。
「この方は、今回の件には関わってませんね。
調査依頼をしたハンター達のモノではありません」
さすが依頼課主任。
この調査を依頼した雇い人達の名前をそらで覚えてるんだ。
「ええ、私も見つけた時は、その人達のかと思ったんですけどハズレでした」
だが、違う方で繋がっていた。
「でもこれ、ただの落とし物じゃなくて、残念なことにすでにお亡くなりになってました」
「ほう、すでに確認済みなのですね」
主任が軽く眉を上げる。
別のギルドで調べたことに気付いたようだが――そのせいでここに来るのが遅くなった――そこはスルーして話を続ける。
「ええ、あちこちで調べものをしてきましたので。
で、なんでこの人があの村に行ったと思います?」
「さあ、噂を聞いて好奇心で行ったのかもしれませんねぇ。
もしかすると、依頼前の下見に行ったのかもしれません。
うん、その線は濃厚ですね」
自分の思いついた考えに得心した主任が、軽く両手の平を叩く。
「これですよ」
俺はさっき渡された捜索依頼書をヒラヒラさせた。
「護衛の人だったんです、この行方知れずの商人さんの。
その護衛ハンターのプレートが村の中で見つかるなんて、商人さんの件も今回のことに関係ありそうじゃないですか?」
主任の口がゆっくりと開いていく。
ふふん、ちょっとは決まったかな?
ちょっと得意げに横を向くと、どう思ってるのか、奴がニヤニヤと笑っていた。
ここまで読んで頂き有難うございます!
噂の部分をほんのちょっと付け加えました。




