第214話 『渡る世間は金ばかり』
ちょっと更新が遅くなりましたが(;^_^A
宜しくお願いします。
「ど、ど、どぅ、どういう、つもりでぇ?!」
男の青ざめた顔から、どっと汗が吹き出してくるのがわかった。
「そのままの意味だ。
第三者に判断してもらうのが一番いいだろ?」
「……で、でも、知り合いと言うと……」
「そこら辺の役人に言っても、どうせすぐには駆け付けて来ねえだろう」
そう飄々と返したマフィアが、テーブルから足をどかすと4の字に足を組んだ。
本当はすぐに来れるどころか、かなり遠い町にいるのだが、そこは黙っていよう。
「別に他意はねぇよ」
云ってる言葉とは反比例した含みのある顔つき。
態度もさっきよりふんぞり返りが15度アップだ。
ソファごとひっくり返す気じゃないだろうなあ。
「言っとくが、オレは公平を期したいだけだ。
だから前もって情報を与えておいてやるが、その刑吏が慕っている女が以前、奴隷商に誘拐されて売り飛ばされそうになったことがあってな」
情報提供と言う名の脅しが始まった。
男が瘧に罹ったように震えだす。
「無事に阻止したんだが、その時にエキサイトしすぎて相手を皆殺しにするとこだった。
まあ辛うじてその場は生かしておいたが、その後拘置所で――」
「わっ、わかりました!」
「何がだ?」
「……その、……件は ……にぃさせて、くださぃ……」
「あ”っ? 声が小せぇなあっ もっとハッキリ言えよっ!」
ドンっと奴が机の脚を軽く蹴った。
「ガキの所有権を放棄しやすからっ それで勘弁してくだせぇっ!」
ガバッと前につんのめるような勢いで、頭を足の間に入れるように下げた。
「それはつまり傷害を認めて、それを金で解決したいってことだな?」
「はっ、はい! その通りで。どうかそれでご勘弁をっ」
ギシッとソファを軋ませて、奴が今度は体を突き出すように前屈みになった。
「それだけじゃ足りねぇなぁ」
凄みの増した顔を、ワザと下からねめつけるようにする。
「まずオレ達への迷惑料と、これからアイツらの面倒を見るための――」
「もういいっ! これぐらいでいいよっ、チャラになるならっ」
もう役場がヤクザの事務所に変ってしまった。
大体こんな事してたら、この男と同じ穴のムジナになりそうだ。
隣で、もっとふんだくってやってもいいのにと、ブツブツ言ってる奴は無視して俺は男に向き直った。
「もう一切、あの子たちに関わらないと誓えるかっ?」
俺もこんな奴に言葉遣いなんか気にしなくなった。
「もちろん、神に誓う。だから刑吏に引き渡さないでくんな……」
男の気が変わらないうちに、急いで所有権の譲渡手続きをする。
契約書の一番下か、裏面に『前契約者 ⇒ 現契約者』の順で名前を書いていく。
5人はまだ初めてだから、まだ書類の下に記入できる余裕があった。
俺が5枚目の書類にサインを終えると同時に、ヴァリアスがドアに向かって声をかけた。
「ジジイ、もう入っていいぞ。
ついでにこの契約の証人としてジジイもサインしろよ」
ちょっと間を置いて、ノックと共にドアが開いた。
「おう、つい留守が長くなっちまった。それで話し合いは無事に済んだのかい?」
素知らぬ顔をして村長が戻ってきた。
馬にハーネスをつけて荷馬車に繋ぐと、人買いの男はそそくさと役場から離れていった。
もうこの村の近くを通る事は、絶対にしなくなるだろう。
俺は契約書を握りしめると、すぐに知らせたくてまた教会に戻った。
5人の子供たちはシスター達と一緒に食事をしているところだった。
ちょうどお昼か。それは失礼。
しかしちょっとテンション上がっていた俺は、構わずにみんなに書類を見せた。
「みんなっ、見てくれっ! この通り、契約書を取り戻したぞぉ!
君たちはもう買われた身じゃないっ、自由人なんだよ」
他の子にも念のために見せたが、自分の名前かは分からなかった。
モリーは辛うじて、自分の名前だけは読めるようだったが。
「いいかい、これはもう誰の手にも渡さないようにするからね」
と、みんなの目の前でボッと契約書に火をつけてみせた。
シスター達やモリー、その他4人の子供たちが目を丸くしながら見つめてくる。
俺はちょっと気分高々、得意になっていた。
「蒼也、お前、コイツらの出身地とかちゃんと控えてるのか?」
ふいに奴が出し抜けに言ってきた。
「えっ?」
「この一番大きいガキは覚えてるかもしれんが、他の奴らはよく覚えてないんじゃないのか?
みんなバラバラの出身だったぞ」
「エーッ!!?」
俺は慌てて火を消したが、後の祭り。
もう羊皮紙はほぼ炭になって穴も開き、文字なんか読める状態ではなかった。
あ~~~っ 失敗したぁ!
「なんでそういう事、もっと早くに言ってくんないんだよぉ!」
「フン、ちょっとは考えて行動しろよ。大体、一時の激情に流されるお前が悪い」
ううっ 言い返せねぇ……。というか、確かに俺が悪い。
だって、早くこの子たちを、物扱いから解放してやりたかったんだもん。
目の前で契約書を燃やさないと、ヨエルのようにその存在にいつまでも脅かされることになるから。
ただ、助かったことに、村長がちゃんと控えを取っといてくれていた。
上に照会した時の書類を捨てずに残しておいてくれたのだ。
ああ、良かった。
これでこの子たちをいつか、ちゃんと家に帰すことが出来る。
もっとも『解析』を使えば、どこの出身地かすぐにわかったのだが。
奴も俺に思いつかせたかったようで、ワザと教えてくれなかった。
くそぉ~っ なんか朝からまた色々あり過ぎだよ。
それにもう昼なんだよな。俺も腹が減った。
ひとまず子供たちが売られるずに済んだことに満足して、俺は帰路についた。
「ソーヤァー!」
家に戻るとキリコが喜んで出迎えてきた。
「聞きましたよぉっ!
しっかりツルっとむけたんですねぇ~っ!
もう嬉しくてお赤飯炊いちゃいましたよぉ」
モデル顔の男がスゴク嬉しそうに、釜一杯に焚いた湯気の立った赤いご飯を見せてきた。
こっちの世界じゃ、成長することを皮が剥けるって言うのが通常なのか?!
「お前は俺のお袋か。
恥ずかしいから、あんまり『剥けた、むけた』って言うなよ。
なんかお前が言うと妙にイヤらしく聞こえるんだよ」
それとも俺の考え過ぎか?
「え~~、そうですかぁ?」
素直に喜んでくれてるのに申し訳なかったが、日本ではあまり言わないでくれ。
俺が誤解されるから。
でも赤飯は旨かったよ、キリコ。
そういや教会で見た食事風景は、硬そうなパンの欠片と、スープ皿が一つだけだった。
他に出されていたらしい皿もなかった。
そのスープにしても、先に食べたのかもしれないが、野菜の欠片がさも薄そうな色の液体に浮いているだけだった。
始めから肉なんか入ってなかったのかもしれない。
司祭様たちのいつもの食事かもしれないが、育ち盛りの子供にはあまりにも栄養が乏しすぎる。
飲み物だってオーツ麦湯じゃなくて、せめてミルクとか飲ませたほうがいいんじゃないのか?
「とりあえずあの子たちの養育費として、毎月の寄付金を決めとかないとな」
食事が終わった後、テーブルの上にメモ帳を出した。
「大体、子供5人の生活費って幾らぐらいなんだろう?
前に平均的な4人家族なら12~15万って云ってたよな」
「あれは家賃込みの金額だ。それにここなら町より物価も安いだろ。
1人あたり1万もあれば十分だ」
食後のウォッカを飲みながら、マフィアが答える。
我が家じゃテーブルに両足置きだ。
いつも思うが、こいつは姿勢正しく座ることが出来ないんじゃないのだろうか?
「それ少なくないか? 飢えを凌げればいいってもんじゃないぞ」
大体ミルクも――ここら辺では主にヤギ乳が飲まれるようだが、結構値がはる――安物のエールより高いくらいだ。
「それに食費だけじゃなく、服も買ってやらないと。
来月はもう冬季になるんだろ?」
とりあえず着替え用もかねて3枚くらい?
あれくらいの子供はすぐに大きくなるからなあ。
下着も必要だし、いっそのこと、ユニ〇ロでフリースでも買ってきてやった方がいいだろうか。
あと何か、読み聞かせ用の絵本とかも欲しい。
教会じゃ聖書くらいしかないだろうし。
俺が持ってるのは子供用とはいえ、モンスターの話ばっかだからなあ。
どうせなら文字とかも学ばせてやりたい。
サウロのように、文字が読めなくて騙されたりしないように。
……なんか考えることが山積みだな。
自分の子供でもないのに、急に沢山の子持ちになった気分だ。
人の面倒を見るというのはこういう事か。仕方ない……。
金に物を言わせるのは好かないが、ここは人を雇って頼ろう。
それに絵里子さんとの未来も、当然いつも頭にある。
もう寿命問題のことは考えないことにした。
セオドアみたいに寿命で相手を選ぶなんて俺には無理だ。
彼は始めから心にフィルターをかけて、好ましい相手でも恋愛感情を持たないようにしていたのだ。
後で自分が傷つかないように。
俺にはそんな鉄の意思はないし、どだい無理だよ。
だって恋愛って、急に意識しだす――インフルエンザの発熱みたいなものなんだから。
そんな計算ずくで上手くいくもんじゃない。
まったくハーレムを作れる奴が羨ましい……いや、そんな甲斐性もないし。
とにかくここは、上手くゴールイン出来た方向で考えよう。
となると、まず一カ月いくら渡せばいいんだろう?
普段の生活費はもちろんのこと、礼夢君のこれからの学費もかかってくるだろうし。
20万? 25万? マイホームとか考えたらもっとか?
日本橋の天使銀行口座とこっちのギルド口座を合わせても、これじゃ全然足りない。
あれ? 俺、これから月平均どれだけ稼がないといけないんだ??
「なあ、今度ジェンマが来る時に、あっちで落ちた牙とか鱗とか持ってきてくんないかな?
もちろん他のドラゴンのでもいいからさ」
「ダメだ。そんなホイホイと簡単に人間共に渡して良いものじゃない。
それにあまり沢山でまわると、価値も下がるだろ。
お前が直接取りにいくなら話は別だが」
ううん……、まだリアル・ジェラシックパークに行く度胸はないな……。
「金がいるなら、依頼を沢山こなしていけばいいだろ。
危険度が高くなればそれなりに報酬金も高くなるぞ」
奴が薄笑いを浮かべた。
うぬぉ~~、どうしても奴の思うツボにハマってる気がするが、仕方ない……。
仕事しなくちゃ。
だが、出費はこれだけにとどまらなかった。
次の日、朝早くにポルクルがやってきた。
早くも保母さん候補がやってきたというのだ。
そうだった。
昨日役場を後にするときに、村長に子供たちの世話をみてくれる人を探したいと、頼んでおいたのだ。
早速役場前の中央広場の掲示板に、『子守り』募集の張り紙がされた。
勤務は子供たちが起きる朝6時から終刻の21時までの間。
時間は分割可、要相談。
出来る限りシスター達の負担にならないように、長い範囲で世話をしてもらいたいと思ったからだ。
「3人来てくれてますよ。うち1人はアメリさんです」
「アメリ? あの娘が?」
レッカの妹アメリは以前、豪族の屋敷で2年間ほどメイドを務めていた。
あの事件のせいで、しばらく住み込みで働くのは考えていないようだが、かと言ってこの小さな村ではそうそう仕事がない。
今は刈り入れの手伝いとかをしているようだが、これから農閑期に入るのでそれも無くなってしまう。
もし隣町のギトニャまで通うにしても、閉門前には帰って来なければならないだろう。
冬になれば日没も早くなるから、毎日1人で通うのはちょっと心許ないだろう。
だけど穏やかな性格の娘だし、若いから子供のパワーにも負けないかもしれない。
何しろ小さい子の世話は、まず体力勝負だからなあ。
もう俺の中では、アメリにほぼ決まったようなモノだったが、せっかく他の2人も役場に来ているというので、形だけでも面接しておくか。
「オレは行かんぞ」
奴が相変わらず、テーブルに足を乗せて椅子を軋ませた。
「別にいいよ。俺だって子供じゃないんだし」
もう村の中でなら、奴から離れて歩き回ることが多くなってきた。
ここなら安心という認識もあるのだろうが、その他にも実は理由がある。
この間からそうなのだが、奴らはネット動画にハマっていた。
俺のスマホは護符を付けてもらっているが、この惑星間でもネット通信が出来るという、NASA垂涎の技術仕様になっている。
これはヴァリアスが作ったのではなく、父さん、創造神クレィアーレ様自ら作ってくれた逸品だ。
なのでさすがの奴も、俺との通信機能のみのスマホしか複製出来なかった。
もっともそれしか必要なかったせいもある。
だが、俺の家に来るようになって、まずテレビに興味を持った。
始めはニュースなどだったが、そのうち映画やドラマも見るようになってきた。
おかげでDVDを借りる頻度が各段に増えた。
奴とレンタルショップに行くと、通路をわざわざ遠回りする客が多くて、なんだか営業妨害をしてるような気がするし、借りられていて見られない場合もある。
それでとうとう俺名義で、動画配信サービスを契約させられたのだ。
そう、それならこちらでもこのスマホがあれば、動画が楽しめるというわけだ。
小さな画面は光魔法で、プロジェクターのように壁か空中に大きく映し出す事が出来る。
もう場所を選ばずだ。
ただ難を言えば、スマホと俺の護符が合体してることだったが……。
お父さんっ、ご存じですか?
あいつ、スマホと護符を分離させたんですよっ!?
どうも俺が寝てる時に暇なのか、あんなに肌身離さず付けていろとしつこく言っていたにもかかわらず、勝手にスマホを外してイジっていたようなのだ。
もちろんすぐそばに自分がいるからなのだが、そのうち護符が実はスマホのカバー部分になっていることに気がついたらしい。
護符自体が魔石で作られていて、バッテリーとしても使われているので、外してしまうとスマホが使えなくなるのだが、そんなエネルギー問題だけなら奴には外すより簡単なことだ。
おかげで今、俺の手首についているのは純粋に護符のみである。
もちろん俺と一緒の時は、元通りに合体させているが、俺が寝ている時やこのように一緒にいない時は勝手に外すようになった。
いつ絵里子さんとかからラインが来るかもしれないのに。
もっとも来たら奴がすぐに連絡するだろうし、時差があるから相手には待たされる感じは全くないだろうが。
いや、それはまだ良いとして、気になるのは俺へのDMが酒一色になってきたことだ。
あの野郎、俺が寝てる間に、通販サイトで酒を検索していたらしいのだ。
おかげでネットを開くと、表示される広告が全て世界のアルコールオンリーと化してしまった。
まさかと思って通販サイトを確認して見たら、『マイリスト』から出るわ出るわ、びっしり各国のアルコール飲料がリストアップされていた。
おかげで俺自身のリストが、どこにいったか分からなかったほどだ。
そりゃあ全国から酒を勧めて来るわけだよ。
俺が問い詰めたら、あっさり認めた上に、平気で通販頼んできやがって。
もう直接買いに行って来いと言いそうになったが、そこは小市民の俺。
この通販サイトで購入すると、しっかりポイントが貯まるのだ。
日によって倍や3倍にもなるし。
結局ポイント欲しさに、Cookieの情報を裏付けてしまった自分の弱さが悔しい。
とにかく家に残った奴らは動画三昧しているに違いない。
だが今回、奴がついて来なかったのには別の理由があった。
それは役場に行ってわかった。
2階の応接室には、縮こまるアメリを挟むように、2人の存在感のあるオバちゃんがソファに座っていた。
「あたいは4人の子供を育てた事があるからね、子育てなら任しときな」
ドンと小柄ながら恰幅の良い、右隣のドワーフ系オバちゃんが胸を張る。
「おらだってさ、若い頃は乳母を何人も務めただぁよ。子守りさ、こんな小さい頃からやってたっしなあ」
左側の草食系獣人のオバちゃんが、フワフワした緑色の巻き毛を揺らす。
「……わたしは子供を産んだことも育てた事もないけど、子供たちの相手をすることぐらいはできると思います。
あと、お掃除や洗濯もやらせてもらって――」
アメリが意を決して話すが、如何せん、両側の2人に押し負けている。
「そんな事くらい当たり前だろ、あんた」
右のオバちゃんが被せるように言ってくる。
「子守りもしたことないのけ? そりゃ、どうなんさね(どうなんだろね)」
左のオバちゃんも軽く肩をすくめる。
マズイ。
ここでただアメリを選んだら、見かけで選んだとか、談合の出来レースとか思われかねない。
そんな事になったら、このオバちゃん達に何言われるか。
村に居づらくなりそうだ。
「ええと、アメリは確か、読み書きは出来たよね? 子供たちに文字は教えられる?」
「ええっ、あんまり専門用語とかじゃなければ出来ますっ!」
アメリが顔を明るくする。
「あらら、子供の教育だったら司祭様たちに任せればいいんじゃない?
それに重要なのは、日常の子守りでしょうに」
「そだ。それに教育ってのは、文字書きばかりじゃね。
手に職さ、つけさせなくちゃなあ」
「大体、教会には下男もいないんだろ。こんなか弱そうな娘に、壁の修理とか出来るのかい?
あたいならそこら辺の男衆より上手いよ。
これでも大工の女房だからね」
と、俺より太い腕を見せて来る。
「えっ? あそこにはそういう人がいないんですか?」
知らなかった。
教会なら当然、そういう雑用する男がいると思っていたから。
「そうなんじゃよ。あそこは実質シスターたち3人でやっとるんだ。
もちろん力仕事や、男手が必要な時には、儂や近所の連中が代わる代わる手伝っとるんじゃがな」
隣に座っている村長が教えてくれた。
薪などは始めから割ったモノを、樵たちがお金の代わりに現物寄付しているそうだ。
「おら裁縫が得意さね。女の子っさ刺繍も教えてやれんど」
「あたいなら2人同時に振り回して遊んでやるよ。男の子は腕白だからね。
ついでに畑仕事もやってもいいよ」
「あの、わたし……」
アメリはモジモジするだけだ。
ハウスメイドは農家のオバちゃんには勝てないのか。
奴がなんで来ないのか分かった気がした。
あいつはこういう押しの強いオバちゃんが苦手なんだ。
「どうじゃろ、朝から晩までだし、時間で分けるというのは?」
村長が折衷案を出してくれた。
「農閑期にはまだちょいと間があるし、まだみんな、ずっと来れるわけじゃないじゃろ。
ここは交代ということで」
「そうですね、そうしましょうっ!」
良かった。みんな雇えば丸く収まる。
時間分けしてもらえれば、常時誰か見ててくれるわけだし。
「え~と、じゃあ時給ということでいいですか」
3人はちょっと首を傾げたが、一応納得してくれた。
こちらじゃ日給が当たり前で、時間で割るなんて細かいやり方はあまりなかったようだ。
「とりあえず1時間1,000エルでどうでしょう?」
保母さんの時給が分からないので、一応一般的パートの平均で言ってみた。
「「「「 エッ!?」 」」」
4人が異口同音に声を上げた。
何? 安かった? もちろん出来る範囲でこちらに合わすよ。急に頼んでる訳だし。
「それはみんなまとめて?」と右のオバちゃん。
「まとめてというか、1人あたりですよ?」
「だぁさ(だったら)、何時間でもけ? 始めの一時間だけじゃなく?」
左のオバちゃんも、柔毛に包まれた耳をパタパタ動かす。
「ええ、1時間単位1,000だから、もちろん4時間なら4,000、5時間なら5,000――」
「やるっ やるわっ!」
「やんだっ! 兄さ、ホンにどこのお金持ちだがねぇっ」
「あ、お願いしますっ!」
オバちゃん達が一斉に立ち上がり、アメリは頭を下げた。
俺が固まっていると、隣で村長がちょっと目をしばつかせて
「兄ちゃん、大丈夫かい?
そりゃあ兄ちゃん達なら大した事ない額かもしれんが、ここらじゃかなりの高給じゃぞ」
あ~~~っ!
そうか。地域価格ってのがあった。
大体、1,000エルって円じゃないし。日本価格で言ってしまったっ!!
しかし目の前でやる気満々になってくれている3人を見たら、今さら撤回も訂正も出来ないし。
……まあいいか。村にお金を回すんだし。
3人は同じ村に住むこともあり、朝と晩も交代で余さず来てくれることになった。
子守りだけでなく、シスター達の手が回らない、教会の掃除や簡単な修理もやってくれることになる。
早速みんなで教会に行って、司祭様たちに3人を紹介する。
と、言ってもうち2人は、元からの住民。みんな気心知れている。
今まで善意に頼るしかなく、仕事の合間などに修繕を頼むのもどこか申し訳なく思っていたらしい。
司祭様が俺の前で膝をついた。
そんな風に感謝されると、すごく照れくさいので止めてもらった。
だけど良かった。
これならお勤めに影響も少なくなるだろうし、子供たちを預かってもらうお返しにもなる。
こっちも気兼ねがなくなるというものだ。
こちらは最高でも1日1万5千払えばいいって事だな。
――アレ?
地球のお手伝いさんに比べれば、時給的にかなりの割安なのだが、これ俺が出すんだよな――。
えっ? 一カ月いくら??!
奴のおかげで200万近くの金を出さずに済んだが、それも何カ月持つんだ?
おおいっ!! 俺、本当にいくら稼げばいいんだ~~~~っ?!!
大体今まで一発でドカンと大金を得たのだって、偶然の賜物だったり、奴が手助けしてくれてなんとかなった獲物を売った件ばかりだった。
俺自身の力だけで稼げたのは、兎やオーク、沼の泥などそれなりのしかない。
それなり価格のカマキリは本当に命懸けだった。
村長は『まあ、兄ちゃんなら稼げるから』などと、微笑んでる。
俺はただのDランクの男ですよっ!
アレと一緒にしないで下さい。
一緒にいるけど、その家計簿が実は別なんですっ。
( ったく、ほんとにバカだなぁ―――――― )
どこかでそんなこと、奴が言ってそうな気がする。
いや、きっと言ってやがるっ!
クソッ! 負けるもんかっ。
ここで踏ん張らないと、もうハンターどころか、本当のローン・レンジャーになっちまう。
「村長っ」
役場に戻ってきて、俺はすがるように村長に頼んだ。
「なんかもう、『救助』だけとか贅沢言わないんで、何か依頼をまわしてくださいっ
出来れば稼げるヤツ!」
俺の方針や精神論はこうして簡単に崩れさった。
いやもう、これも人生。しょうがない。
今はとにかく稼ぐことだ。四の五の言ってられねぇ。
臨機応変にいこう。
「ああ、そういえば兄ちゃんに見せようと思っとったのが、一件あるんじゃよ」
そう言うと村長が、カウンター越しにポルクルから書類を受け取った。
「『調査依頼』なんじゃが、もしかすると『救助』になるやもしれんでな」
それは後に、『ザザビックの変事』と言われる事件の始まりだった。
ここまでお付き合いくださり有難うございます!
次回は仮タイトル『消えた村』です。
宜しくお願いいたします。




