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第212話 『孤児院はラーケルを救えるか?! その1』

え~、今回もちょっとイラつきモードかな……(-_-;)

すいません、なんかこんなのが描きたくなって。


「どうせ育てられないならあそこへ預けるより、最低限の生活を保証された方がいいでしょう。

 孤児院にタダで渡すより金も入りますからね」

 黒っぽい髭が冷たい事を淡々と話す。


「……最終的には金のためなんですか?」

 やはり捨てる者は、自分の子もモノ扱いなのか……?

 なんだか胸の奥に冷たい風が吹いてくる気がした。


「失礼ながら、ソーヤさんは孤児院の厳しさを御存知ないようですな」

 エッガー副長が両手をテーブルの上で組むと、少し体を傾けて俺の顔を見てきた。


「え? 私、以前も言いましたけど、孤児として孤児院で育ったんですよ。

 あんまり良い環境とは言えませんでしたが、そんな強制労働されるよりとは……」

 やはりこちらの孤児院は環境が違うのか?


「でも、その感じだと、そこは食事や衣食住は不足無くあったんじゃないんですか?

 こちらの孤児院は雨風が避けれる程度の建物ですよ。

 服は一枚きりのところがほとんどだし、食事は寄付があればいい方で、ほとんどが野山から採ってきた野草か、近所の店から貰える残飯です。

 だからそんな所よりは、少しでも衣食住が良い働き先に親は出すんですよ」


 俺はただ絶句するしかなかった。

 日本と同じとは思わなかったが、そこまで酷いのか。

 チラッとフィラー渓谷の事件の時に訊いた、救貧院を思い出した。あそこは、絶望を育てる場所がほとんどだと云ってなかったか。

 孤児院も同じなのか。


「お前のところと違って、孤児院は国や町が運営してるわけじゃないからだ」

 奴がグラスを揺らしながら割って話しに入ってきた。

 キリコは黙っている。


「こちらではまず慈善事業の一環なんだよ。

 生きているうちに慈善をおこなった分だけ、死後天国に近づけるというアレだな。

 ただやってることははせいぜい、居場所を作っただけであとはほっぽりぱなしだ。

 奴隷制撤廃だって何十年か前にやっと整ったくらいだ。それまでその労働力に依存して社会をまわしていたんだからな。

 他にも国内の犯罪抑止や外国との貿易、隣国との小競り合い、問題はいろいろ山積みなんだよ。

 そんな小さな問題には手がまわらないんだ」


「小さくなんかないぞっ」

 子供が売りさばかれてるっていう事のどこが小さな問題なんだ。


「国家クラスの視点から見たら、先にやるべき問題じゃないって事だよ。

 庶民の問題より、まず国の維持だろ」

 奴が組んだ足をブラブラさせた。

 つまり国家予算を下々の者には使ってられないって事かよ。

 上王だったが、王様は奴隷解放に尽力を惜しまなかったんじゃなかったのか。

 だったらもっと、こういったところにも目を配ってくれればいいのに。


「ソーヤ、奴隷制度を無くしたのは、上王の個人的意思だったんですよ」

 横からキリコがそっと教えてくれた。


 上王様がまだ幼かった頃、大人ばかりの彼のまわりに唯一いた子供が奴隷の子だった。

 それでどうやら彼は奴隷の子と隠れて遊んでいたようだが、結局バレて、子供は遠くへ売られていった。

 ある日突然、友達が売られて消えていったのが、当時の彼にとてもショックだったのがキッカケだった。

 他にも彼の心を揺さぶる事件などがあり、王位を継承する前から独り、孤独な闘いを始めたそうだ。


 法律を根底から変えるには国のトップ(国王)になるしかない実情で、彼は王位継承順位の上にはいなかった。

 彼がやっと国王の座につけたのは、実に213歳の時だった。

 反対派や叔父などから命を狙われながら、なかば意地でやってのけたようでもある。


 うう~っ、国の事業って、その国の頭のハートを揺さぶらないと駄目なのか。

 さすがにそんな真似は俺にはできん、というか思いつかない……。


「ソーヤさんは本当にお優しいんですなあ。そんな他人の子供にまで気を配られるとは」

 副長がさも感心したように言うのに、キリコが自慢げに頷いて見せる。

 普通これが当たりまえじゃないか。

他人の子だって、目の前で売り飛ばされそうな事案があったら気に病むだろうに。


 いや、少し頭を冷やせば、この社会じゃ珍しくないことなのかもしれない。

 ここは民主主義国家じゃないし、そうでなくても日本とは文化も思考基準も違うんだ。

 異質なのは俺の方なんだ。 


 ……だけどせめて知ってしまった、手の届くところにいる子供だけでもなんとかしたい。


「とにかく、その契約が正しい物と立証されれば、その『人売り』に子供を渡すしかないでしょうなあ」

 副長も腕を組むと小さくため息をついた。


「じゃ、じゃあ、そのお金を返金すれば、その奴隷商――じゃなかった、人売りにお金を返せば契約は解約できるんですよね?」

「もちろんそうですが、それには普通、渡した前金の他に違約金が何%か必ず発生すると、規約されてるはずですよ。

 まず親はそんな金払えんでしょう」

 うん、そりゃわかってるよ、そんなの百も承知だよ。


「それは私がお金を出してもいいんですよね? 親じゃなくても」

「ハアッ?!」

 副長が目を丸くした。


「言っとくが、()()()は手を貸さないぞ」

 奴が何杯めかのグラスを空けながら言うと同時に、テレパシーを送って寄こしてきた。

『(オレ達が金を出したら、アイツらの運命を直接変えることになるからな)』

「わかってるよ。俺の金なら自由に使ってもいいだろ?」


 救助依頼で稼ぐどころかマイナスなのだが、気持ちが落ち着かない。

 もう人助けをすることが、しなくてはいけない使命として、俺の頭の中で強迫観念のように締め付けていた。


「それはもちろん出来ますが、そんなことをしても無駄になると思いますよ」

 少し申し訳なさそうに副長が言う。

「何故っ ――ですか??」


「もし親元に帰しても、金が無くなったら、また売られます。

 もうすぐ本格的な冬になる。

 秋が一番、子売りが多くなるんですよ。

 次に来る冬に向けて口減らしをするために」


 俺は一気に体が重くなった気がして、体が前に傾いた。

 

 なんとなく感じてはいたが、やはり問題は単純じゃなかった。

 金を出しても一時しのぎにしかならない。

 いや、その一時もないかもしれないのだ。

 味をしめた親が、もしかするとすぐに別の人売りに子供を差し出すかもしれない。

 一度済んだからと言って、二度とやらないとは限らないのだ。


 あのペローの童話『親指小僧』だって、森に捨てた子供たちが戻ってきたら、またもっと奥に連れて行ったじゃないか。

 あれは昔実際にあったであろう、子捨ての逸話なのだ。 


「ソーヤ、大丈夫ですか?」

 横からキリコが心配そうに覗き込んできた。

「蒼也、そんなに気にやんでもしょうがないぞ。こんな事は世界中のどこでも起こってる事だ。

 それにあのガキどもだって、家で凍えて冬を越せないより、生き延びるチャンスがあるんだ。

 考えようによってはそれが今、アイツらが選択出来る一番いい道かもしれないんだぞ」

 

 現実的にはそうなのかもしれないが、感情が納得できない。

 何も出来ない悔しさというよりも、何故か罪悪感が込み上げてくる。

 そんな俺のオーラが視えてるのか、奴の忌々しそうなテレパシーが流れてきた。


『(まったく厄介な……とんだ副作用だ。

 また別の神経症を発症させやがって。

 もう記憶を消すわけにもいかないし……)』

『(なんだ、副作用って? 俺に何かしてたのかっ?!)』


 当時、何故こんなに人助けに固執するのか、理由が分からなかったせいで、確かに軽い強迫性障害を起こし始めていた。

 それが俺の()()()()()()()のせいだと、教えられない奴も、かなり苛立たしかったと思う。


「じゃあこうしたらどうでしょう?」

 急にキリコが提案してきた。


「孤児院を作って、そこであの子たちを保護するというのは」

「「ハアッ!??」」

 俺とエッガー副長の声がハモってしまった。

 奴が凄く不味いモノを食ったような、苦そうな顔をした。


「いっそのこと、ラーケルに作れば過疎問題も解決しますよ」

 ニコニコしながら天使顔の男が話す。

 その天使のリングのように光る金髪を見ていたら、俺の頭にもみるみる潤いが甦って来るように、その案がスゴく魅力的に思えてきた。


「おおっ そうだよなっ! キリコ。

 うん、それ凄く良いよっ、ホントにっ! さっすがキリコッ! いいアイディアありがとうっ!!」

 俺はこの時、深く考えずに、とにかく喜んで礼を言った。

 解決案が見つかって、一気に心が軽くなったからだ。


「チッ! オレだってそれくらい、とっくに考えついてたぞ。

 だが、お前(蒼也)自身に思いつかせたかったんだよ」


 俺を挟んでマフィアが押し殺したような低音を発しながら、俺の右隣の天使男(キリコ)を睨みつけた。

「大体、オレ達がソレを()()()()()()()()()()()()()だろうがっ」

 マジ怒りなのか、久々に白目が黒くなっている。 


「あ……そうでした……。

 ただソーヤが辛そうで…………。すいませんでした……」

 咎められたキリコは震えながら、ガバッと頭を下げた。


「おい、キリコは悪くないだろ! せっかく俺のために案を出してくれたのに。

 それにあんたも大人げないぞ、先を越されたからって。

 ――本当に思いついてたのかぁ?」


「バカ野郎っ! オレがこんなチンケな嘘つくとでも思ってるのかっ!?」

「痛いっ 痛いっ! バカッザメッ! 手ぇ離せっ!」

 この馬鹿はすぐに人の頭を掴みやがるっ。


「副長、 落ち着いてく――」

「お前が言うなっ!」

「ギィアッ!!」

 俺越しに手を伸ばして、奴がキリコにまでアイアンクローの洗礼を浴びせた。

 そっちは間違いなく、俺みたいに手加減していない。メキメキ嫌な音がする。


「ヴァリアスどの、ひとまず手を外してくださいっ!!」

 思わずエッガー副長も腰を上げた。

 


  **************



「……以前あの教会では、孤児を引き取って育てていたことがあるそうなんですよ」

 キリコがこめかみを擦りながら話した。

 

 エッガー副長が治療師を呼ぼうとしたのを、本人どころか俺まで断ったのに目を丸くしていた。

 だってキリコも人外だってバレるかもと、反射的に断ってしまったのだ。

 加害者の奴も、いつも以上に凶悪な面構えしてるし。


 もっともキリコならそれくらい偽装出来るし、ヤられ慣れている彼はすぐに回復した。

 打たれ強い、ある意味()()()()()()()()なのだ。


「ただ今はもう、子供もいないので自然と止めてしまったそうです」


「なんだ、2人ともそれを知ってたのか。

 あー、だからすんなりと孤児院の件が出てきたんだな」


 分かってしまえば何のことない。以前実際やっていたということだ。

 だけど悪くないどころか良いんじゃないのか? 

 昔といえども、そういう実例があったと無いとじゃ大違いだ。

 それにあの村だったら、そこまで悪い待遇はしてなかったんじゃないのか。


 そう考えると居ても立っても居られなくなった俺は、すぐにラーケルに戻ることにした。


「ソーヤさん、差し出がましいとは思いますが、その、村長ともよく話されてからお決めになったほうが良いですよ」

 嬉々とした俺を心配するかのように、エッガー副長が声をかけてきた。

「ええ、もちろんそうしますよ。なんたって村に作るんですから、村長に言わないと」

 そう返事した俺に、副長は何だか危ういモノを見るような顔をした。


「まったくお前は、いつもは引っ込み思案のへっぴり腰のくせに、ちょっとハイになるとすぐ思考が停止するんだなっ」

 奴が後ろ向きに階段を降りながらボヤいてきた。


「何だよ、へっぴりって。慎重派って言えよ。

 それにオレだってたまには思い切ったことをするさ。人をなんかジャンキーみたいに言うなよ」

「お前はいま気分がいきなり高揚してるから、正常な判断が出来ないんだ。

 まったく、少しずつ慣らしながら進ませるハズだったのに、いきなり情報を与えやがって」

 またサメがキリコを睨む。

 キリコは頭を垂らして縮こまっている。


「だからっ、キリコは悪くないぞ」

 この時確かに俺は、いつもより思考力が鈍っていた。

 というか、落ち込みから気分が急浮上したおかげで、軽い躁状態になっていたようだ。

 よく分かっていないのは俺のほうだった。


 まわりに人気が消えたのを確認して、踊り場で転移した。

 戻ったのはラーケルの役場裏だった。


 馬小屋のところに2頭の足の太い馬がいた。

 そしてその柵の隣に、古びた幌をつけた荷馬車が置いてある。

 これが例の人売りの奴の馬車か。


 そんな風に思うとただの使い古された味のある荷車が、なにか犯罪臭を漂わせてくる気がした。

 その手先に使われたとは夢にも思っていないだろう馬たちは、桶に入った飼葉をモソモソ食べている。


「さて、言われた通りに先に村長に相談しないと。

 なんたってこの村の責任者なんだから、相談・報告は当たり前だからな」

 俺はこの時やる気満々だった。

 人助けが出来るという高揚感に、少し酔っていたのかもしれない。


「キリコ、お前は家に戻れ。メシと酒の支度でもして待ってろ」

 奴がぶっきらぼうに言った。

「……わかりました。失礼します」

 スッとキリコは頭を下げると、しょんぼりと通りを歩いていった。

 なんだか厄介払いしたような感じだ。


 キリコが見えなくなると、ギロッと今度はその銀目を俺のほうに向けてきた。

「再三言うが、この件に関してはオレ達は手伝えないぞ。

 その上あのフィラーの男のように、お前に人の運命を背負うのはまだ重過ぎる。

 しかも今回5人もいる」

「今回は事情が違うだろ。彼らは病気でもないし、これからまだまだ未来のある子供たちなんだし、教会とか他の人たちの助けがあれば何とかなるよ。

 オレは出資者としてお金を出せばいいわけだし」

 要は金で解決するなんて、我ながらちょっと鼻持ちならない感じがするが仕方ない。


 あれ、そういやまず5人分の契約金って、一体いくらになるんだろう? 違約金も発生するんだよな。

 今いくら持ってたっけ?


 前回のグラウンドドラゴンの皮とかの金は、すでに円に変えていた。

 もし手持ちで足りなかったら、円からエルに換金し直さなくちゃいけないのか。

 そうすると、エル高なんだからもしや損する……?!

 なんか一気に余計なことまで考えて、頭がグルグルしてくる。


「ったく、孤児院の件より先に考えなくちゃならねぇことがあるだろ?」

「わかってるよ、契約の解約だろ。今、有り金をチェックするよ」


「……まあ、しょうがねぇ。一度お前の思う通りにやってみろ」

 奴が思い切り大きなため息をついた。



  **************



「……また思い切ったことを考えたなあ」

 村長が首をゴキゴキ慣らしながら、目を大きくした。


 俺たちは今度は2階の応接室に来ていた。

 下だと、どうしてもオバちゃん達の妨害が入りそうだったからだ。

 奴はまたどうせビールを飲んだくれるんだろうと思っていたら、目の前のジョッキに全く手付かずでいた。

 いつも通り乱暴に足を組みながら、ソファの背もたれに両腕をまわすように乗せて、すごく面白くなさそうな顔をしている。


「すみません、朝と同じ物しかなくて……。

 すぐに別のを用意してきますが、何かご希望ありますか?」 

 ポルクルが恐る恐るジョッキを回収しようとした。


「これでいいっ! オレはオレのタイミングで飲むから構うなっ」

「は、ハイッ!」

 ポルクルがビクンと背を正すように伸びあがった。

「おい、八つ当たりするなよ!

 すいません、こいつ、今イラついてて……」

 代わりにまた謝る事になったが、そういやこいつが酒を前にしながらすぐに手を出さないなんて、ちょっと変だな。


「ふむ、確かに以前、教会で孤児を世話してたのは確かじゃよ。

 ただ、流行り病(黒死病)のあとで、親が亡くなっちまった子を預かったんじゃ。

 あの時はどこもかしこも孤児だらけだった。それで他所の町の子供たちをウチに連れてきたんじゃよ」

 昔を思い出すように、村長は少し上に視線を向けた。


「だけどほとんど成人したら村から出ていっちまったしなあ……。

 やっぱりこんな小さな村じゃあ、若い者にはつまらなかったんじゃろなあ」


 なんだそうか。意図して作ったんじゃなくて、緊急的処置でやったのか。

 それに、どこの世界も若者は都会に行きたがるんだなあ。

 手間かけて育てたのに、それじゃやりがいが……。


 ん、それじゃ、過疎化対策にならなくないか?


「ただ、また戻ってきた者もおるがの。

 ほら、フランおるじゃろ。あいつはここの孤児院の出なんじゃよ。

 外を見てくるって言って急に出ていったと思ったら、また2年ほどで急に戻ってきてのお」

「あ、あいつ、いや、彼も孤児だったんですか?!」

 そんなふうには、全然見えなかったが。


「まあ、(やっこ)さん、昔からドリーに気があったようだから。

 他所の娘っ子に惚れなくて良かったよ」

 フッと村長が口元を緩めた。

「なるほど……」

 だけど毎回その手は使えないだろうなあ。

 いや、それじゃなんだか女の子をエサにするようなもんだし……。


「で、本当に兄ちゃんがあの子たちの解約金を出す気なのかい?」

 その言葉に現在の件に思考を戻した。

 そうだ。先の人の流出より、目先の問題を解決しなくちゃ。


「ええ、ですので、とりあえず幾らかかるんでしょう?」

「うう~む、ちょっと待ってくれ」

 村長は立ち上がると、部屋の伝声管でポルクルに書類を持ってくるように連絡した。

 隣で奴がイライラと組んだ足を動かすのが鬱陶しい。

 まさかこれ、貧乏ゆすりじゃないだろうな。


「これじゃよ」

 目の前に5枚の紙が置かれた。

 

 ヨエルの時に見た、奴隷売買契約書に似てる。

 奉公人とされた者の名前の横に、小さな手形がサイン代わりに押してある。

 そしてその下に、保証人として2つの名前があった。

 おそらく両親のだろう。

 

 両親の代わりに人売りが代筆したのだろう、名前の筆跡はみんな同じだった。

 その名前の横に『≠』という記号によく似た3本線のサインがしてある。

 こちらの文字が書けない人が使う、略式のサインだ。

 ヨーロッパでも『×』印が使われていたのを映画で見たことがある。

 なんだかこういうのを見ると生々しい。


 パラパラと見ていくと、1人8~22万エルとバラバラだった。

 どうも小さな4歳の男の子が安く、逆に一番年上の6歳の女の子が一番高かった。

 これはもう、どこに売られるのか予想がつく。

 絶対に止めないと。


 しかし、これぐらいなら5人合わせても100万以下。なんとかなる金額じゃないか。

 ついこの間までなら、100万円だって自分に使うのも躊躇(ためら)ったろうに、そんな風に思える自分がちょっと可笑しかった。

(実質、こちらの100万と日本の100万円の価値は倍近く違うが)


 そういや、これに対する違約金は何%なんだろう。

 あらためて契約内容を読む。


 なんだ、この元値の2カケって。2掛けか、2割も取るのか。


「ああ……そいつは違うよ」

 俺がそこのところを訊くと、村長が口を少し歪ませながら答えた。

「2掛けじゃなくて、2()()()、2倍ってことじゃよ」

「はあっ?!」


「普通、契約を解約しようなんて気を起こす者はおらんじゃろ。後でそんな気を起こすような者は、ハナから契約せんしな。

 だから適当に掛け率を設定されちまっとるんだ。

 後から本人自身が足抜けしたくても、ちょっとやそっとじゃ出来ないようになあ」


「うぬぬぅ……、それって法的にまかり通るんですか? 違法なんじゃ」

「これでもまだ低いほうじゃよ。

 それに何倍だろうと、契約しちまったら認めたって事だから、通っちまうのさ」


 それじゃ契約金プラス違約金だから、元の3倍か。

 なんだか人売りの奴を儲けさすのは、業腹なんだがそれしかないのか。

 オレも頭にきそうなのに、隣の奴のイライラがなおさら五月蠅い。


「だけど兄ちゃん、それを払う前に、まずあの子たちにちゃんと会っておいた方がいいんじゃないのかい?」

「え、それは契約を解消した後でも良くないですか?

 あの子たちを解放したあとに、どうせ時間が出来ますし」


「よく言った、ジジイっ!」

 急に奴が声を上げた。

 それからジョッキを掴んだと思ったら、本当に一気に空けやがった。


「よし、じゃあガキのとこに行くぞ、蒼也」

 空にしたジョッキを置くと同時に、奴が勢いよく立ち上がった。

 もう、何なんだよ。


 俺は本当に考え足らずだった。

 奴は俺のガーディアンだ。

 だから俺を身を一番の基準として考える。

 いつも無茶ぶりさせられるので全然わからないが、奴はそうしながらも俺のことをちゃんと守っていたのだ。

 肉体よりも壊れやすい俺のメンタルが、なるべくダメージを受けないように。 

 

 とはいえ、いつまでも大人しく出来ないのも奴だったのだが。


ここまでお読み頂きありがとうございます!

最近、ちょっとサブスクでネット動画を見たり、

カクヨム版別ストーリー『ダンジョン編』が

忙しかったりで更新が遅れ気味ですみません(汗)

カクヨム版が思ったより長引いてしまって……。

でもやっぱりダンジョン話は色々語りたいっ!

(第3章が終われば落ち着きます……)


遅くなっても必ず続けますので、どうか今後ともよろしくお願いします。


次回:第213話『孤児院はラーケルを救えるか?! その2』


結局 奴が出しゃばってしまいます( ̄▽ ̄;)

そうして蒼也はこの問題を越えられるのか、一皮むけて成長できるのか

宜しければまた見守ってやってください。

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