第203話 『家を借りる その4』(風の家)
それはまさしくサイロのように背の高い、建物だった。
「あれって、家だったんですか。てっきり倉庫だと思ってました」
この村をウロウロしている時に、何度か前を通ったことがあるが、俺は勝手に何かの倉庫だと思っていた。
「確かにそう見えるじゃろなあ。本来はあの屋根には大きな4枚の羽がついとったんじゃ。風車小屋だったんじゃよ」
「風車……」
なんだかその言葉が引っかかった。
それは頭の中で、ジワリと染みが広がるように、徐々に大きくなってくる。
何かをとても大事なことがあったような……。でもなんだか思い出すのが恐いような……。
【ソゥヤ、お前の棲み処なら、別に主の手をわずらわせなくてもいいだろぉ。主を巻き込むなよぉ】
ジェンマの焦れた唸り声で、その染みがパッと消えた。
「巻き込んでねぇよっ! こいつが勝手に付いて来てるだけだ」
全く、俺が頼んで手伝ってもらってるとでも思ってるのか。
「俺だって家探しくらい1人で出来るし、別に要らないからとっとと連れてけよ」
「誰が要らねぇんだっ!」
サメがまた吠える。
「も~、ヴァリ―、あんまり怒ると血圧あがるよ~」
ナジャ様が手をヒラヒラさせる。
「上がるかっ! オレはジジイじゃねぇぞっ」
それからジェンマの方を見て
「……ったく、しょうがねぇな。行ってやるか」
それからまた俺のほうにムスッとした顔を向けた。
「もうサッサと行って来いよ。ジェンマが焦れて、うるさくて落ち着かないからさ」
「その前にジェンマ、またここの畑に肥料撒いとけ。それが終わったらすぐに行ってやる」
それを聞いてジェンマの体がビクンと動いたのがわかった。
図体がデカいので、ビクつく動作もいちいち大きい。
「……まさかお前、ヒトにモノ頼みに来るのに何も持ってこなかったんじゃねぇだろうなぁ?」
下からまさしく睨み上げるように、奴がジェンマを見た。
ドラゴンをこんな風に見上げる者は他にいない。
【ど、ど、どうもすみませんっ! 来る途中で海にしてしまいましたぁっ!!】
ドドンッ! と地震のような揺れを生じさせながら、ドラゴンがまた平服した。
「てめぇは自分の事しか考えてねぇのかっ」
一番初めに、鱗だけ取ろうとしたあんたに言われたくないと思うぞ。
「まあまあ、旦那。肥料はまだ要らんよ。あげ過ぎもよくないしの」
片方の会話とドラゴンの様子で、察した村長がすかさず助け船を出した。
「そうですよ、副長。今やると成長過剰になりかねませんよ」
植物に一家言あるキリコも意見する。
「……それもそうか。じゃあ代わりに鱗の10枚くらいで勘弁してやる。どうせもう、あちこちハゲ散らかしてるんだし、そんなに変わらねぇだろ」
「待て待てっ! どうして対価を強要するんだっ。あんたの従魔なんだから、もっと優しくしてやれよっ」
またジェンマの鱗が毛羽立っている。
初めて会った時のデジャヴが甦る。
【あっ、待ってください。代わりのモノならっ、こ、ごれがぁ――】
そう言いながら、ジェンマが口を開けて指を突っ込んだ。
するとボタボタと、口から青緑の液体が地面に滴り落ちた。
彼らドラゴンの血は、体の部位によって色が変わるのだ。
「あ~あ、勿体ない」
ナジャ様が、俺とヴァリアスの間から顔を出して眉をしかめた。
「えっ、ジェンマ、お前何やってんだよ?!」
慌てる俺の前に、ジェンマは口から手を離すと指に掴んでいるモノを見せてきた。
それは根元が三日月型に折れた牙だった。
こちらに来る前にメスの奪い合いで、折れて取れかかっていたらしい。
「ん、まあそれなら良いんじゃないか? 傷だらけだが、肥料代ぐらいにはなるだろ。
なあ、ジジイ」
奴が村長の方に急に振った。
「なんじゃと?」
「だからコイツが村に度々来る迷惑料だよ。これくらいなら邪魔にならねぇだろ?
貰っとけよ」
「――なんだってっ?!」
村長が驚いて、奴とドラゴンを交互に見た。
「もう抜いちまったんだから、戻せねえだろ。そこら辺に落としといたら、それこそ邪魔で誰かが怪我するかもしれねえぞ。ジジイがしっかり管理しろよ」
そう、奴がジェンマに顎でしゃくると、ジェンマがそっと村長の方に牙を差し出した。
「お、おおおい、全く今日は何て日だっ」
村長が両手を頭にやった。
「じゃあキリコ、後は任せたぞ」
「かしこまりました!」
キリコが頭を下げると同時に、トンと軽くジャンプすると、奴がジェンマの頭に乗った。
ジェンマの顔が嬉しそうに明るくなる。
あれ、なんか俺、爬虫類の表情が読めて来てる。なんだか複雑な気分……。
「ケケケー、任せときなー。あたいがちゃんと見といてやるから」
何故かナジャ様も乗り気だ。
そして何処からか、パッと白いフリル付きの赤い日傘を取り出すと、フワァッとメリーポピンズ宜しく上に舞い上がった。スカートは本屋のとき同様に蕾のように窄んでいた。
「あたいが一番乗りだよー」
「ナジャさんっ、抜け駆けはダメですよぉ」
キリコが慌てて地面を走るように、岩壁の面を90度のまま上がっていく。
それを見ていた村長もハッとすると
「おいおい、鍵を開けなくちゃ入れんぞ」
貰った牙を腰のタオルであたふたと包むと、壁に1人分の足場が出現させた。
村長が乗ると、その足場がそのままエスカレーターのように、上に動いていく。
ああ、そうか。そういうやり方もあるのか。
俺はてっきり、地面の土を盛り上がらせるのかと思っていたが、壁の一部だけなら力も少なくて済む。
「ジジイが見えなくなったから、治してやる。オレが一緒に行くのに見栄えも悪いからな」
ヴァリアスがそう言うや、ジェンマの全身がフワッと柔らかい光りに包まれた。
光が消えると、剥がれた鱗や口の中の折れた歯も元通りになっていた。
【あ、ありがとうございますっ!】
ジェンマが尻尾をブンブン振って風を起こす。俺は近くの樹に当たらないかヒヤヒヤした。
「ソウヤ~~っ、登れないのか~?」
ナジャ様の声が壁越しに聞こえてきた。
あっ出遅れたっ。
村長と同じように足場を作ろうとしたら、後ろからジェンマに掴まれた。
「何すんだよっ」
【手伝ってやるよ】
ジェンマが後ろ足で体を起こすと、俺の体がすーっと空中に持ち上がる。
そのままヒョイッと塀を乗り越えて、内側に降ろされた。
まるでドールハウスの人形扱いだ。
あいつの得意げな鼻息が面白くねぇ~、と思うのは俺のひがみか?
なんだかんだで、こいつに悪気はないのかもしれない。
【じゃあな、ソゥヤー、良い巣を作れよー】
塀の上に突き出していた顔を引っ込めると、ヴァサァーッと大きな羽を広げる。
「巣じゃねぇって。お前もしっかりキメてこいよぉー」
俺も負けじと言い返した。
するとブワァサッと大風を立てて、宙に舞いながら、ドラゴンが俺に向かってビッと2本指をクロスさせて見せた。
あれはこちらの人間界での『彼女、女』を指すサイン(小指を立てるのと同じ)だが、いつの間に覚えたんだ。
使い方が微妙に間違ってるんだが……。そこはサムズアップだろ。
そんな俺の疑問をよそに、ドラゴンはそのまま凄い勢いで上空に舞い上がり、やがて見えなくなった。
「はぁ~、今度彼が来るときのために、裏手に専用の場所を設けんとなあ」
村長が空を見上げながら呟いた。
その声に振り返りながら、あらためて家を見上げた。
それは円筒形をしたレンガ造りで、窓の位置からして4階建てのように見えた。。
赤茶、焦げ茶、黄土色の3色ぐらいのレンガが交互に組み合わさった壁に、ところどころ青緑の苔がついているのがなかなか風情がある。トンガリ屋根は深緑の波打つようなS型瓦屋根だった。
屋根裏部屋があるのか、その緑色の屋根にも、横から見ると逆三角形に見える突き出し窓がある。
「さっきも言ったようにここは元、風車小屋だったんじゃ。だからここで麦を挽いとった」
村長が鍵を開けながら言った。
「もちろん1階の製粉機を取り払ってはあるが、その時の名残りがあっての。ちょっと変わってるんじゃ」
中に入ってその意味がわかった。
「何ですか、コレ?」
入るといきなり目に飛び込んできたのは、床中央から天井に伸びる一本の柱だった。大黒柱というには建物の大きさに比べてかなり細いようだし、天井を支える他の柱の方がハッキリと太い。
なによりおかしいのは、それが接する天井部分に穴が開き、そのまま柱が上に突き抜けていることだ。
「製粉機の回転軸じゃよ。本来は上にあった羽と繋がる横軸の動きを受けて、回転してた代物じゃ。今や上下に木を継ぎ足し、太さも均一にして固定しとる」
そう言われると、下半分の柱の色が少し違う。
でもなんで天井に穴まで?
「ここの前の住人がちょいと変わってての。彼がこういう風に改造したんじゃよ」
村長が感慨深く、柱を擦りながら前の住人のことを話してくれた。
ここには1人の男が住んでいた。
彼は鳥人だった。
獣型ではなく珍しい鳥型の獣人のことで、彼はヒュームとのミックスでもあった。
彼の肩甲骨の上にはもう1組の『飛肩甲骨』というのがあり、それが背中の翼に繋がっていた。その翼さえなければ、彼の姿は普通のベーシスと変わらなかったという。
背中に翼をもった人型、と聞くと若く中世的な天使を思い出すが、彼の翼は猛禽類のように黒混じりの焦げ茶色で、白髪、白ひげの老人だった。
夏でもその翼を隠すように、麻の青いマントを羽織っていた。
彼がこの村にやって来た時にこの風車小屋は、すでにその役割を終えて久しかった。その頃から人が減り始めて、風車小屋で粉を挽かずとも、残りの水車小屋で十分になっていたからだ。
人手と経費のせいで、高い所に位置する羽などを修理するのが困難になってきたこともある。
この村に住み着いた彼は、この村一番の背の高い建物に目をつけて我が家とした。
屋根大工だった彼は、内部を改造し、回転軸を柱に作り直した。元はただの平坦な板だった屋根を、この緑の瓦屋根に替えたのも彼だった。
もともと一階が粉挽きの石臼やら機械があったせいで、天井は高く出来ていた。そこも彼が気に入った点らしい。
背丈に関係なく、鳥人は天が高いのを好むのだ。
一階の部屋には左手に竃、中央に鉄の棒が上部に渡った暖炉があった。この横棒に鍋などを引っかけて、暖炉の火で一緒に調理もできたりするのだ。
その暖炉の前には4人掛けくらいのテーブルと椅子があるので、居間としても使われていたのかもしれない。
しかし気になるのは、この中央に残された支柱である。何のために残したんだ?
右側に湾曲した壁に沿うように階段が上に続いていた。
その階段の手前と下にそれぞれドアがあった。覗いてみると、手前が食料貯蔵庫に使っていたらしい物置っぽい部屋で、階段下のはトイレだった。両方とも後から建物外に増築したらしい。レンガではなく木製の小屋になっていた。
2階に上がっていくと左側奥が平らな壁で仕切られていて、別に小部屋があるようだ。そして真ん中寄りに例の棒が1階から伸びていて、更にまた上階の吹き抜け穴へ続いている。
ちょっと違うのは2階にはこの穴のまわりを囲むように、腰高の防護柵がまわりをグルリと囲んでいた。一部が手前に開くようになっている。
「面白いじゃろ? 奴さん、これを使って3階から一気に滑り降りてたんだ。階段より早いとか言とってな」
あ、あれか、滑り棒! 消防士がよく出動時に滑って降りてくるやつ。粉挽き装置の回転軸を使って、こんなモノを家に作っちゃったのか。
なかなか遊び心のある老人のようだ。
「やぁー、ソウヤー、これ面白いぞぉー」
いつの間にか先に3階まで上がっていたナジャ様が、上から棒に巻き付くようにクルクル回転しながら目の前を滑り降りていった。
「ナジャさん、1人で先に狡いですよ」
続いてキリコがストレートに滑っていく。
子供かっ! なに勝手に遊んでんだよ。まだ人ん家なんだぞ。俺だってやりたいのに。
「ふぉっふぉっ、気に入ってくれたようだの」
村長、そんな子供を見守るような暖かい目で見てますけど、あいつらそこら辺のドラゴンより強くて長生きしてるんですよ。
3階はまた仕切られずに、広々とした空間になっていた。残っている家具らしきものがほとんどなかったが、天井に伸びる柱のそば、中央寄りにポツンと大きな木製の箱があった。
どうやらマットや藁は残っていないが、箱型ベッドのようだ。
ここに藁を敷き詰めて、元の住人は翼を上にして寝たのだろうか。
屋根裏部屋があるのかと思っていたが、天井は吹き抜けで、太い梁や桟が縦横無尽に走っているのが見えた。
昔、風車の羽や、それに繋がる粉挽き機の棒や歯車を支えるために、しっかりした作りになっている。
これは大人一人が登っても、ビクともしなさそうだ。
その梁が何本も渡る円錐形の屋根には、先ほどの突き出し窓が明り取りとして4つあった。
柔らかい陽射しが差し込んで、部屋の中を明るく照らして出している。
俺は梁に登って、あの窓から外を眺める鳥人を思い浮かべた。飛べる者なら自然と出来そうだ。
その想像はほぼ当たっていた。
窓の外に風車の名残りである羽を支えていた軸が、1m弱ほど飛び出していて、彼はよくそこに座って煙草をくゆらせていたそうだ。
「ところで、その、前の住人の人はどうしたんです?」
そう、そこが肝心なところだ。
老人が住んでいたというし、また事故物件なんじゃないだろうな。
こんなに心地よい風と光が入ってくるのに、その1点だけでどうも心地悪くなってしまうのだ。
こんな人外に囲まれながらも、俺は幽霊が恐い臆病者だ。
「それがな、ある日突然、生まれ故郷に帰ると言い出してな。出ていっちまったんだよ。
旅費もいる筈なのに、後片付けの費用にと金も少なからず置いて行ってな。それっきり音沙汰無しじゃ」
首をゴキゴキ動かしながら村長が言った。
それが9年前のことだったそうだ。
「彼は病気だったんじゃないでしょうか」
何度目かの滑りを終えたナジャ様が、いつの間にか階段から顔を出していた。
「お、わかるのかい、お嬢さん?
その通り。奴さんその頃、とても具合が悪そうじゃった。だから尚更、そんな体で行くのかと皆で止めたんだが、どうしてもっと聞かなくてなあ」
「知ってる――いや、わかるんですか?」
情報通の使徒ならお見通しなのだろう。
「ケケケ、あたいは占い師だよ。物の記憶を視るのは得意なのさー」
ナジャ様、さっきから気になってるのですが、いくら話し方を使い分けていても、意味がありませんよ。
だが村長はそんな事気にせずに、感心するように顎を擦った。
「なるほど、流石じゃなあ」
自然に受け流している村長もさすがです。
「彼は死期が迫っていたのですよ。だからこそ故郷に帰りたくなったのです。柱や壁、至る所から彼の郷愁の思念が感じられます」
少女が大仰に手を上げて天井を仰ぎ見た。
「そうじゃったのか。しかし奴さんの故郷は遥か遠い土地だったはずなんだが……。無事につけたのかのぉ……」
「ええ、なんとか間に合いました。彼は安らかに悔いなく逝きましたよ」
自信ありげにキッパリと少女は言った。
そうか、そうか、それは良かったと、村長がそっと目に手をやった時に、俺の腕をナジャ様がそっと触れた。
途端に、ある情景が俺の頭の中に入ってきた。
天空の頂きのように、眼下に白い雲海が広がっている。
その白い波を見下ろしながら、突き出た細い岩山の天辺に、焦げ茶色をした頭の白い鳥がとまっていた。
それは遠くから見たら、アメリカの国鳥 白頭鷲の後ろ姿かと思うだろう。
それは人だった。
毛羽立った老いた羽を背に畳んだ、白髪の老人だ。皺深い彼の顔は青白く、時折乾いた咳をしていた。
それは空気が薄いせいだけではないようだった。
ただその目は何か懐かしいような、期待に満ちたように、終幕前の最後の輝きを宿していた。
おもむろに彼は立ち上がると、空気を思い切り吸うように両腕を広げた。それに合わせて風が吹き上げてくる。
彼は風使いだった。
自分で作った風と吹いてきた風が合流し、大きなうねりになると、彼はバサリと翼を大きく広げて宙に身を投げた。
ツツーッと まさしく滑るように風に乗り、白い運河の上に影を落としながら、彼は滑空していく。
どこまでもどこまでも飛んで、飛び続け、あの地平線の向こうに行けるのではないかと思えるほど長く長く……。
『(故郷に帰ったんじゃなくて、空に還ったのさ。最後に思い切り高く長く飛びたかったんだよ。もう自力で飛ぶ力も落ちていたから)』
手が離れた。
そうなのか。
でも彼は凄く幸せそうだった。
束の間見えた、飛んでいる男の横顔は、夢見る少年のようだった。
そんな満たされた終焉を迎えた老人の家だからなのか、それとも同じく風使いとして共鳴するところがあるのか、窓から吹いてくる風がなんとも心地良く感じられた。
「相性は悪くないよ」
横で少女がニッと笑った。
確かに変わってるけど、今まで見た中では一番良いかもしれない。
家を選ぶ時は相性も大切だし。
でももう少し良く見てから……。振り返るともうヤンチャ少女はいなかった。
「キリコーッ、どっちが早く滑れるか競争しようよ~~~」
「もう、ナジャさん、まだ借りてないんですから、少しは謹んでくださいよぉ」
そう言いながら、何故お前も嬉しそうに滑っていくんだっ?
俺は村長がいるから我慢してるのに。
「兄ちゃんもちょっと滑ってきてはどうじゃ? どの道、家の中の物は確かめなくちゃならんじゃろ」
どうも俺が滑り棒が気になってるのを見透かされていたらしい。
「儂のことは気にせんでいいぞ。どうせ暇を持て余した老人だからの。
それに久しぶりに彼を思い出せて……懐かしいわい」
そうして床や壁を、ゆっくりと追想するように見まわした。
「すいません、じゃあちょっと行ってきます」
棒を掴みながら穴を覗いて、誰も下にいないことを確認すると、足を巻きつけて滑り降りた。
「ひょうっ!」
一瞬落下感が怖かったが、しっかり掴んだせいか、ちょっと力を入れるだけで簡単に止まった。
棒は木製だが表面は使いこまれて、とてもスベスベして握り具合もちょうどいい。
今度は手と足を緩めてゆっくり降りてみる。
2階の変形したかまぼこ型の部屋を通り、1階の天井を抜けると、下で2人が待っていた。
「どうだー、ソウヤ? 面白いだろー。それとも怖いかー?」
「無理しないでくださいね」
最後は軽く一回転して俺は床に降り立った。
「ナジャ様、キリコ。これ―― なんか楽しいですねっ!」
なんだか子供の頃遊んだ公園の遊具を思い出した。
「だろーっ! 今度はもっと早く降りてみろよ。何回回転出来るか競おうよー」
「いや、まだ回転は――出来るかな?」
風魔法が使えるようになったり、転移を頻繁にするようになって、以前より落下時の内蔵が浮く感覚に慣れてきていた。あとはスピードかな。
「よし、あたいが教えてやるよ。いっくよー」
ナジャ様に袖を引っ張られて、壁に大きく螺旋を描く階段を走り上がる。
「もうっ、ソーヤ、私も支えますからね~~~っ」
キリコが慌てて追いかけてくる。
「ま、まだ、内見中なんですから――」
言いながら、なんだか楽しくなった俺は、村長を置いたまま5回も滑り降りてしまった。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
前世を忘れて、子供心を思い出す蒼也。確実に精神が若返り始めてます(^_^)
でももちろん、贖罪に行動が繋がるようにヴァリアスが指導していくことでしょう。そのうち……。
最近、更新間延びしてますが、今後ともどうかよろしくお願いいたします。




